校長室
蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
リアクション公開中!
SCENE 16 この日、飛び込み台は様々な伝説を作ったが、ここにもう一つ、新たな伝説が加わろうとしていた。 飛び込み台のさらに上……遙か上! 具体的に言えば天蓋を支える梁! そこに安芸宮 和輝(あきみや・かずき)の姿があった。そこからプールまでの高さはもう、現実とは思えないほどである。目が眩むというよりは、もう空撮写真でも見ているような感覚があった。もちろん足はすくむし心臓は高鳴るが、それ以上に、ぞくぞくするような興奮があった。 「よーし、これが本日の締めくくりです!」 そう、和輝はここから飛び込みをしようというのである! 無断でこんな無謀に及ぶのではない。人が減る夕方なら、という条件でプールの管理者に許可は取ってある。今日はプールで一日たっぷり遊んだ和輝だったが、それもすべて、このクライマックスのための準備体操だった気がする。 「相変わらず……無茶しますわね」 呆れ顔ながら、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が五十メートル高飛び込み台のある水面に雷球を浮かべている。これが誘導灯の代わりだ。何度か点灯させて具合を確かめていた。 和輝は「限界へのチャレンジです」などと断じていたが、クレアにはわかっていた。本当は小型飛空挺で戦ったとき学んだことを活かそうというのだろう。すなわちこれは、落下に対処するための演習なのだ。 「ですから……まあ、止めはしませんけど……心配ですわ」 いくら見上げても、梁のどこに和輝がいるのかよくわからない。 「稔さん、準備はよろしいですか……?」 クレアは安芸宮 稔(あきみや・みのる)に呼びかけた。 「ええ。今日は演習だからいいですが、彼の無茶には、いつだって対処できる心積もりでいたいものですね」 結局……私が和輝の奴のしりぬぐいですか……と苦笑気味の稔だが、クレアに負けず和輝の身を案じているのだ。じっと天井を見つめたまま動かない。 「どうやらあれがそうみたいですね、見えますか?」 稔が指さした小さな点が、梁の上を移動している。和輝に違いない。 再度、和輝に焦点を当てよう。 「高さは200メートル少々、ってところか。計算通りですね。さて……」 ちかちか明滅する雷光を確認する。クレアも稔も準備は終わったようだ。 こういうとき、ためらうと恐怖に包まれることを和輝は知っている。迷うほどに怖くなるのだ。 「だから、迷いません!」 梁を蹴って、和輝は跳んだ。光条兵器をサーフボードの様に使ってバランスを取る。 そして、閃光の如く青い水面を目指す! 空気摩擦で息が詰まる。物凄い重力と加速がのしかかってきた。髪は逆立つ。 「うっ……く」 目を開けているのが辛いが、しっかりと体勢を維持しなければ命に関わる。やがて過半を過ぎた頃、 「これで!」 彼は光条兵器を外して小脇に抱え、代わりに背のパラシュートを開いた。 「目標、捕捉!」 融解する周囲の光景を見ず、和輝はただ、輝く光源だけを見つめる。 スピードは多少落ちたがやはり、体にかかるGは強力だ。ボードを抱える腕以外の脚と手を広げ速度を殺すべく懸命に身を捩った。 着水の寸前、 「よし!」 稔がディフェンスシフトを展開し、和輝の飛び込み衝撃を和らげる。 この日この場所で見られた中でも、最大級の水柱が立った。 「何!」 「すごい!」 「ちょ……無茶するヤツがいるな!?」 この展開に驚いた学生達が戻ってくる。レロシャン・カプティアティとネノノ・ケルキックの顔があった。ガートルード・ハーレックが水面を覗き込んでいるし、ルカルカ・ルーと鷹村真一郎も、固唾を呑んで見守っている。 なぜって、水に沈んだまま、和輝がなかなか浮かび上がってこないからだ。 「でも、大丈夫みたいね」 崩城亜璃珠が指さした。水面に泡がぶくぶくと現れたのだ。 「彼が浮いてきた模様!」 如月正悟がマイクを手に宣言する。 その通りだった。直後、ぷはっ、と水面に顔を出し、和輝はクレアと稔に手を振ったのである。 「パラシュートを外すのに手間取って……」 待ち受けているのが二人だけだと思っていただけに、和輝は驚いたはずだ。なぜならプールの周囲を、多数の生徒が囲んで拍手喝采していたからである。 「あれ? あはは……どうも、ありがとうございます」 和輝は両手を挙げて歓声に応えた。
▼担当マスター
桂木京介
▼マスターコメント
ご参加ありがとうございました。マスターの桂木京介です。 今回も個性的なプレイングをたくさん、ありがとうございました。一つ一つ楽しく読み、できるだけリアクションに反映させたつもりです。楽しんでいただけたでしょうか? それでは、今回はこの辺で。 また次のシナリオでお会いできる日を楽しみにしています。桂木京介でした。