校長室
学生たちの休日4
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★ ★ ★ 「それでは、反省会を始めるのだよ」 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、カフェテラスのテーブルに集まったパートナーたちを前にして切り出した。彼女たちの目の前には、水の入ったコップだけがおかれている。 「今回の依頼というか、海賊相手に一山あてよう作戦は……」 「みごとな赤字だったのじゃな」 ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)が、歯に衣着せぬ物言いで答えた。 「もともと報酬が不確実だったからな。いっそすがすがしくあるか」 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)が達観したように続ける。 「うー、このままじゃ、我が探偵事務所倒産の危機なのだよ」 リリ・スノーウォーカーが頭をかかえた。 「最大の敗因は、鍵を手に入れることができなかったことにあるのだよ。はい、誰か、あのときどうしたらよかった分かる者は?」 「はい」 ララ・サーズデイが元気よく手を挙げる。 「奈落の鉄鎖を使って、鍵か小人の鞄を引き寄せればよかったと思います」 「そんな手があるんなら、なぜ、それを海賊島の牢屋でやらなかったのだっ! その技で装備を引き寄せていれば……」 「いや、あのときは思いつかなかったんだ」 声を荒げるリリ・スノーウォーカーに、ララ・サーズデイがすまなそうに答えた。 「とりあえず、実験してみればいいでおじゃる」 ロゼ・『薔薇の封印書』断章が、テーブルの端に小人の鞄をおいた。 「ではやってみるぞ。冥府のイバラよ、来いっ!」(V) 少し離れた所に立ったララ・サーズデイが、小人の鞄に対して奈落の鉄鎖をかけた。テーブルの端におかれた小人の鞄が、ゆらりとゆれたかと思うとぽとりと下に落ちた。だが、そこまでだった。 「どうした、早く引き寄せるのだよ」 リリ・スノーウォーカーに急かされて、ララ・サーズデイが顔を真っ赤にさせて力を集中させた。だが、テーブルから落とすところまではできたのだが、それ以上はなす術がない。 「無理みたいですね。奈落の鉄鎖は下方にむけて力を加えるもののようですから、落ちた物を横へ移動させることは不可能なのでしょう」 「早く言ってくれ」 ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)の言葉に、ララ・サーズデイが肩で息しながら言った。 「結局、捕まった時点で、何をしても無駄だったということでおじゃる」 はあと、溜め息混じりにロゼ・『薔薇の封印書』断章が言った。もしあのとき、メイコ・雷動が牢を抜け出してくれなかったら、どうなっていたことか。きっと、パンティー番長の餌食になっていたことだろう。 「それはそうと、なんでわらわたちは水だけでおじゃるのに、そなたはケーキを食べておるのじゃ?」 あらためて、ロゼ・『薔薇の封印書』断章がユリ・アンジートレイニーに訊ねた。 「だってほら、ワタシはお給料制ですから」 あっけらかんとユリ・アンジートレイニーが答えた。 「しばらくは、我らはここで石化パンとか、きつねワインとか、パラミタもろこしサラダとかを食べるしかないのであるよ」 テーブルに突っ伏してリリ・スノーウォーカーが言った。くぎゅう〜っとお腹が鳴る。 「うちのお店は、そんな変な物はおいていません!」 耳聡くそれを聞きつけたミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が、カウンターの中から思いっきり否定した。 「食べ物が欲しいのでしたら、あちらでシニョンの女の子が豪華料理をただで配っていましたよ」 「なんだってー!」 ユリ・アンジートレイニーの言葉に、リリ・スノーウォーカーたちが勢いよく立ちあがった。 「我の料理が食べたいと? 今日は、ゴチメイたちの歓迎会なのだよ。遠慮なく食べるのだ」 そう言って、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が豪華フルコースをリリ・スノーウォーカーたちに勧めた。 クラゲの塩焼き、クラゲサラダ、クラゲの刺身、クラゲの炒め物、クラゲの和え物、クラゲ春巻き、クラゲジュース、クラゲアイスクリーム、クラゲゼリー……。そこには、ジュレール・リーヴェンディが作ったクラゲ満干全席が所狭しと並べられていた。 「美味しい、美味しいのだよ」 「うまいぜ」 「美味しいでおじゃるのー」 リリ・スノーウォーカーたちは、涙を流しながらクラゲ料理にぱくついた。 「よく食べられるよねえ」 リン・ダージ(りん・だーじ)が、感心したように言う。 もうお分かりであろうが、このクラゲは海賊島でゴチメイたちが戦った巨大クラゲである。リリ・スノーウォーカーたちは牢の中にいたために巨大クラゲとは戦っていないので抵抗はないのだが、ここに集まってゴチメイの歓迎会兼慰労会をしている者たちにとっては、なかなか手を出しにくい料理でもあったのだ。 「一応ちゃんと調理されているとはいえ、よく、巨大クラゲを食べられるものだよ。逞しいというか、なんというか……」 手にした本から顔をあげて、イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)がちょっと呆れたように言った。 「あまり気にしないでください。いつものことですから」 あっけらかんと、ユリ・アンジートレイニーが言う。彼女の方は、秋月 葵(あきづき・あおい)が持ってきたケーキのお代わりをもらいに来たのだ。 「はいどうぞ。まだまだたくさんあるんだもん。エレンディラちゃん、追加をおねがーい」 「はーい、今取りに行きます」 秋月葵に言われて、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が追加のケーキを飛空艇まで取りに行った。 「それにしても、シェリルったら、どこで油売ってるんだ? せっかくみんなが、新しいゴチメイの誕生を祝ってくれているのに」 ケーキをつつきながら、ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)がぼやいた。 「あれ? これってそういう会だったっけか?」 「まあまあ、楽しければいいではありませんか」 小首をかしげるマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)に、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が紅茶を飲み干して答えた。 「お代わりをどうぞ」 すかさず、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)がバトラー然とした態度で熱い紅茶を空のカップに注いだ。 「ごめんなさい。なんだか、いろいろなところで捕まっちゃって……」 遅ればせに、やっとアルディミアク・ミトゥナがノア・セイブレムの手を引いて現れた。 「遅い! もう始めちゃってるよ」 ココ・カンパーニュが、自分の隣の席を示して言った。 「お茶はありますが、ただいまケーキは切らしておりますので、少々お待ちください」 道明寺玲が、アルディミアク・ミトゥナとノア・セイブレムにお茶をサーブしながら言った。瞬間的にノア・セイブレムの微妙な顔色を見てとった道明寺玲が、用意は調っているとばかりに彼女にはハイビスカスティーをサーブする。 「美味しい」 赤味の強い酸味のあるお茶に、ノア・セイブレムが気持ちよさそうに言った。 その様子を密かに厳しくチェックしていたイングリッド・スウィーニーは、何ごともなかったかのように本に視線を戻した。今のところ、道明寺玲は及第点のようだ。 「大丈夫。こんなこともあろうかと、ちゃんとした料理も用意してるんだぜ。みんな揃うのを待っていたんだ。さてと、始めますか」(V) エプロン姿の本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、満を持してワゴンを運んできた。 ワゴンの上には、クレープの皿が載せられている。オレンジソースのかかったクレープに、さっと本郷涼介が火を近づけた。ぱっと青い炎が燃えあがり、ブランデーの甘い香りが広がる。 「まあ、綺麗ですわあ」 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、束の間燃えあがり、スーッと消えていく炎に、面白そうに目を細めた。