校長室
学生たちの休日4
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ちょうどそのころ、キネコ・マネー(きねこ・まねー)は七不思議関連の本を集めている最中であった。そこで、ばったり雪国ベアと出会う。 バチバチとライバルの視線がぶつかり合った。 「ふっ、後片づけなど、下僕ですらね」 「ふん、パシリか」 再び視線が火花を散らす。 「しかも、見ればファッション雑誌ばかり。ああ、そこは棚が違うですら」 「ふん、棚に入れてしまえば、ちゃんと司書さんが整理してくれるんだ。時代はスピードよ」 キネコ・マネーの言葉を無視して、雪国ベアが適当に本を書架に突っ込んでいく。まさかその中に、間違って持ってきてしまった『空中庭園』ソラの本体があるとも知らずに……。 「やれやれ、話しても熊頭では無駄のようですら。とにかく、御主人に言われた本を集めてと」 「ふん、オカルト本ばかり集めるとは、さすが不幸の招き猫」 「なんだとですら。あんたとはもうやってられませんですら」 雪国ベアの言葉に怒ったキネコ・マネーは、『空中庭園』ソラの本体を含む本を適当に持っていた籠に突っ込むと、そそくさとその場を後にしていった。 「集めてきましたですら」 どどどと、籠の中の本をキネコ・マネーがテーブルの上に乱雑に広げた。 「これ、もっとちゃんと扱わないと、本がかわいそうです」 散らかった本を整えながら、大神御嶽が言った。 「それに、関係ない本も混じっているようですし……。まあ、せっかくですから、後で部屋に帰ってから読むとしましょう」 そう言うと、大神御嶽は『空中庭園』を含むいくつかの本を横に避けた。 「さて、七不思議ですが、紫の湖の謎は、この間のスライム事件で判明していますね」 大神御嶽は、『七不思議 怪奇、這い寄る紫の湖』という本を開いて、メイベル・ポーターたちに見せた。 「その他ですと、ゆる族が死ぬときに集まる谷があると噂されているものですとか……」 今度開かれた本は、『七不思議 戦慄、ゆる族の墓場』という本だ。 「後は、茨に覆われた人の入れない森があって、その中に絶世の美少女が眠っているとされるものですね」 今度の本には、『七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫』と書いてある。 「最近では、世界樹の葉の中に、たった一枚だけ黄金に輝く葉っぱがあって、それを見つけた者はなんでも願いが叶うだとか……」 今度は『七不思議 絶美、黄金葉の願い』という本だ。 「後は、これは怖いですよ、道行く旅人を襲って殴り倒す化け物の出る森とか」 『七不思議 恐怖、撲殺する森』と、その真新しい本には書いてあった。 「他にもたくさんありすぎますが、とりあえずはこんなところですかねえ」 「最後の本は、なんだか親近感が湧くですぅ」 そばにおいた野球のバットにチラリと視線を走らせながら、メイベル・ポーターが言った。瞬間、近くにいた者たちが腰を浮かせていつでも逃げだせるように身構えた。 「騒がしいなあ」 離れたテーブルで、資料をひっくり返していた高月 芳樹(たかつき・よしき)がぼやいた。 「計算ですが、やっぱり無理ですねえ。金額が膨大すぎて。それに、古城の一件とかは、どこまでがゴチメイの破壊した物かはっきりしませんし……」 ずっと電卓を叩いていたマリル・システルース(まりる・しすてるーす)が、ついに諦めて電卓を放り出した。今までゴチメイが破壊した物の被害額を試しに算定していたのだ。はばたき広場の石畳に、錦鯉、生け簀、海賊船、遺跡、廃墟の町、大浴場の一部、古城、湿地帯、ジャタの森、海賊島……。すべてがゴチメイの破壊した物ではないが、ゴチメイのせいではあるとは言える。よく、損害を請求されないものだ。 「結局、一連の事件はなんだったんだろうな」 高月芳樹がぼそりとつぶやいた。 「海賊たちが本当は何を考えていたのかも、はっきりとは分からなかったですじゃ」 伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)も、うーんと考え込んだ。 「多分、一つの見方ではだめなんだと思いますわ。それぞれの人の思惑で考えないと」 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の言葉が、結局は一番的を射ていると思う。 ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナは、シンプルすぎるほどシンプルだろう。アルディミアク・ミトゥナのことを心配しすぎたココ・カンパーニュが、彼女をわざと地球に残してきてしまったのがそもそもの発端だ。残されたアルディミアク・ミトゥナは、ココ・カンパーニュを心配して勝手に追いかけてきて海賊に捕まってしまったわけだが。結局、思いは同じだったのに、手段を二人とも間違ったと言える。 他のゴチメイたちは、単純にココ・カンパーニュに無償の協力をしているわけなだけなのだが、その理由がどういうものであるのかはちょっと気になることだ。 「みんなパラ実送りになる前には、イルミンや百合園や蒼空にいたわけだから、そのへんから調べられるかなあ」 「それですけれど、古城でみんなが見た幻が本当のことなのかも確かめたいですね」 高月芳樹の言葉に、マリル・システルースが続けた。 ゴチメイたちの単純さとくらべると、海賊たちや十二星華たちの方は、あまりにも複雑に見える。 結局、シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)はエリュシオンからマ・メール・ロアに乗って、復活させた十二星華を連れてきたようだが。そのわりには、放任がたたって、洗脳したはずの十二星華の多くが勝手な行動をして戦力不足に陥っている。アルディミアク・ミトゥナに関しては、海賊に再洗脳されるという始末だ。これでは、まるで生まれたての子供のようではないか。そういえば、十三人目の十二星華という矛盾もあるが、垣間見えた過去の情報にはシャムシエル・サビクの姿は一切ない。古王国にいた十二星華ではないと見るのが正しいのだろうか。 いずれにしろ、シャムシエル・サビクの活躍とはまったく別の所で、エリュシオンは漁夫の利をさらっていったことになるわけだ。とはいえ、東シャンバラとなった各都市としても、このままおとなしくしているとは思えないのだが。特に、学生たちや、アムリアナ女王を慕う者たちの中には、エリュシオン帝国の獅子身中の虫として機会をうかがっている者も少なくはないだろう。 それとは別に、海賊たちは、海賊たちだけの世界を夢見ていたようだ。シャンバラ内部での、支配階層と蛮族と呼ばれる者たちの確執は、あまり表だっては論じられないものの、無視していいことではないことが浮き彫りにされたと思っていいのだろうか。海賊たちの目的も、最初は単なる自治権の確立だったかもしれない。けれども、それが、十二星華と光条砲という力を手に入れてしまったがために、自分たちが支配する立場になろうという野望に毒されてしまったのかもしれない。きっかけとしては充分な力だったかもしれないが、維持するためにはあまりにも役にたたない力だ。そこに気づけなかったのが、彼らの敗れる理由にもなったのだろう。慢心は、人を狂わす。 ただ、彼らにアドバイスをしたと思われる者たちの動向はまったくの謎だ。いったい何を考えているのやら……。 十二星華という存在自体も、まだはっきりとはしていない。おそらくは、ロイヤルガードのような存在であったのだろうが、歴史にはまったく記録が残されていない。女王の血を使って星剣と共に作られた剣の花嫁であるらしく、女王の警護や影武者を務めていたらしい。それと、女王に何かあったときは女王となれるというのは本当のようだが、それはあくまでも他に手段がないときのためらしい。それゆえに十二人もの数を揃えていたのかもしれないが、すべては憶測だ。重い彼女たちの口が開かれるのを待つしかないだろう。 「そうだ、そういえば、この学校には、女王と十二星華を描いたイコンがあったはずだ。記録が残っているじゃないか。あれを詳しく調べれば、何か分かるかもしれない」 唐突に思い出して、高月芳樹が言った。 「私は、ゴチメイと一緒に戦った人たちの話をもっと聞いてみたいわ。多分、大浴場あたりに集まっていると思うんだけど」 「なら、わらわも一緒に。わらわは、海賊たちと接触のあった者たちの話を聞いてみたいですじゃ」 アリア・セレスティの言葉に、伯道上人著『金烏玉兎集』が乗っかった。 「では、私は直接ゴチメイたちに会ってきます。どうも、カフェテラスにいるようですから」 マリル・システルースも席を立つ。 「よし、じゃあ、移動しようぜ」 高月芳樹はパートナーたちをうながすと、図書室から出ていった。