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空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−

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第4章 I Love You More Today Than Yesterday(1/3)


 カシウナの大通り沿いにある紳士服店。
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)を店に連れ込んで、アレコレと似合う衣装を吟味している。「うーん、やっぱこういう時はスーツがベストかな……」
 牙竜は感謝半分、照れくささ半分で世話を焼く友に苦笑いを浮かべている。
「しかし、ちょっと大げさじゃないか……、告白しに行くだけだぞ?」
「おいおい、告白を甘く見るなよ。いつも通りでいいとか、ありのままでいいとか、ちょっと甘い考えだぞ。おまえにとっちゃ大舞台だろ。気合いが入ってる事を相手に見せるためにちゃんとしていかないとな」
 今日、牙竜はセイニィに告白する。
 相も変わらず今日も日差しの強い真夏日、いつもなら気が滅入るこんな日も、牙竜には晴れ渡る青い空がいつも以上に輝いて見えた。ドキドキと高鳴る胸とは裏腹に、心はどこか爽やかで迷いのない気持ちだった。
「……で、どこに呼び出したって言ってたっけ?」
「ああ……、ええと、町外れにある教会だよ」
 はにかみながら答えると、恭司はポンと手を叩いた。
「じゃあ、スーツじゃないな。タキシードだ」
 そう言って、純白のタキシードを牙竜の身体に当て、うんうんと頷いた。
「は、派手だな……」
「何言ってんだ、ケンリュウガーの衣装のが派手だろ。衣装を着るってのも、一種の変身なんだ。いつもみたいに気合い入れていけよ、牙竜。既に指輪を送ったんだ、ここで尻込みしてたら後々後悔するかもしれないぞ?」
「あ、ああ、わかってるよ」


 ◇◇◇


 牙竜が衣装の調達をしている頃、告白相手であるセイニィも衣装選びをしているところだった。
 もっとも、本人はそんなつもりはなく。友人の買い物に付き合わされてるという感じだったが。
 カシウナの大通り沿いにある婦人服店に、彼女を連れ込んだのは、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)である。
「セイニィさん、セイニィさん。このドレスなんてどうですか? 似合ってますか?」
 水色のドレスを身体に当てる彼女に、セイニィは苦笑いした。
「さぁ、似合ってんじゃないの?」
「もう、ちゃんと見てくださいよ〜!」
「見てるって。それにしても、パーティーにでも出るわけ? ドレス探しなんてさぁ」
「……まぁ、パーティと言えばパーティー、になるかもですね」
 リースは妖しく微笑んだ。
 実は彼女は恭司と同様に、牙竜の恋を応援する『獅子と田中のフラグ立て』の一員である。今回、偶然を装ってセイニィを買い物に誘ったのも、セイニィを告白に相応しい衣装に着替えさせるためなのだ。
「あ! でも、このドレス……、セイニィさんのほうが似合うかも!」
「はぁ!?」
 急に振られて、セイニィは戸惑った。
「着てみてくださいよー」
 むんずと腕を掴むと無理矢理試着室に連れ込んだ。
「ちょ、ちょっと……!?」
 そして、数分後、ドレスを纏ったセイニィが恥ずかしそうに鏡の前に立っていた。
「……着たけど、なんなのよ。あたし、関係ないじゃん」
「気にしない気にしない。でも、思った通りです。やっぱり似合ってますよ」
 リースは嬉しそうに、セイニィの肩を抱いた。
「……そうだ! 折角なので、そのドレスセイニィさんにプレゼントします〜!」
「え? いいの?」
「セイニィさんの喜ぶ顔が見れるなら全然オッケーです。このあと待ち合わせって言ってましたよね。どうせだから、その格好で行って、相手をビックリさせちゃいましょう〜! きっと面白い事になりますよ〜!」


 ◇◇◇


 その頃、風森 巽(かぜもり・たつみ)は本日のメインステージとなる町外れの教会にいた。
 彼もまた『獅子座と田中のフラグ立て』のひとり。告白の舞台を、それに相応しい場所にするべくやってきたのだ。
「思ったより、奇麗な場所だけど、なんとかそれっぽく飾り付けたいところだね……」
 ううむ、と巽は唸った。
 教会は空賊の襲撃でも荒らされる事なくそこに建っていた。管理している人間はいなくなってしまったが、自らの居場所を守るようにひっそりと佇んでいる。周囲に民家が少ない所為か、日中なのに教会の空気は穏やかだ。
「場所が教会だし、結婚式をイメージしてロマンチックな雰囲気が出るように……、そうだ、百合とか薔薇の花を飾り付けよう。そう言えば、セイニィの誕生日は10月31日……だっけ? というと、誕生花の『マユミ』も飾ってみるかな? 流石にセイニィがこれの花言葉を知ってるとは思わないけど、まぁ、雰囲気だよね」
 ちなみに花言葉は『貴女の魅力を心に刻む』である。
 それから、巽は二人のため、ちょっとした仕掛けも用意した。


 ◇◇◇


 そして、再びカシウナ市街。
 暗躍する『獅子座と田中のフラグ立て』の最後のメンバー、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は広場に続く道を足早に歩いていた。パートナーの小早川 真由美(こばやかわ・まゆみ)も歩みを早めながら、正悟を急かしている。
「正悟、急がないと約束の時間に遅れるわよ。大事な相手を待たせてるんでしょ」
「わかってるよ。ところで、頼んでたアレは出来たか?」
「まぁ、一応はね」
 そう言って、真由美はソートグラフィ―によって念写した写真を渡した。
「なんだか結婚式っぽい写真になっちゃったけど、大丈夫よね……?」
 写真の中の牙竜とセイニィは正装に身を包み、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……ははっ、いや、調度いい写真になったと思うよ」
 そうこうしてる内に、待ち合わせ場所であるレストラン『クコの実』に着いた。
 店内の奥にいた【ヴィンターリオ・シュヴァルツ】は二人の顔を見ると手を挙げた。そう、待ち合わせの相手は、空峡の情報屋である彼だ。ある目的のため、空峡で軍事会社を経営する友人から紹介してもらったのだ。
「3分の遅刻だぜ、おまえら。あいつの紹介じゃきゃ帰ってるところだ」
「遅れてすまない。これ、お菓子なんだけど、良かったら……」
 お茶菓子の箱をテーブルに置いた。パラミタに来ても、こういう日本人的感覚は抜けきらないようだ。
 ヴィンターリオはジロジロとお菓子を物色し、それから正悟をジロリと見た。
「仕事はとっとと終わらせるのが、俺の流儀だ。この情報化社会、それでなきゃ生き残れねぇ。用件を聞かせてくれ。どこぞの企業の極秘データだろうが、裏社会の要人の連絡先だろうが、揃えられねぇもんはないぜ」
「まずはこれを見て欲しい……」
 そう言って、先ほど念写した写真を見せた。
「今日、この武神氏が彼女に告白するんだ」
「……はぁ?」
 ヴェンターリオは眉を寄せた。
「ノニエル不戦協定の立役者でだともいえる田中……、じゃなかった武神氏のために協力したいんだ。告白場所の教会に教会に、暇な空賊や民間人が集まるように全体放送を流してもらえないか。彼の告白をみんなで祝福してあげたい」
「……まさかそれだけじゃねぇだろうな?」
「それだけじゃ……、なんかマズイのか?」
「だっておまえ、こんな事のためにシュヴァルツ団を動かせってのか? ちょっとモチベーションがさぁ……」
「失礼な奴だな! 彼にとっては一世一代の大勝負なんだぞ!」
 ドンとテーブルを叩くと、ヴィンターリオはため息を吐いた。
「わかったよ、金さえ貰えりゃ仕事に文句は言わねぇよ。ただ、空賊を呼ぶのはやめとけ。なんだかんだ言っても、あいつらと町の連中は折り合わねぇ。折角、戦争が終わったのに、住民を刺激しかねないぜ」
「そ……、そうか。じゃあ、空賊はナシでよろしく頼む」
「ああ」
 そう言うと、ヴィンターリオはノートパソコンを取り出し、カチャカチャと作業を始めた。
「……さて、俺もやれる事をするか。たしか沙幸さんがユーフォリアさんのところに行くって言ってたな」
 携帯を取り出した正悟に、真由美は首を傾げた。
「今度は何を始めるつもり?」
「祝福要員の確保だよ、どうせならロスヴァイセ家も巻き込んだほうが面白くなりそうだ」