天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−

リアクション公開中!

空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−
空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー− 空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー− 空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−

リアクション


第2章 Yesterday was Dramatic - Today is OK(3/4)



「ひっさしぶりだねぇー♪」
 乙女の所用を済ませたセイニィの前に、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が立ちはだかった。
 彼はずっと彼女がひとりになる機会を待っていた。場所は路地裏にある小さな公園、人気もない。
「……あんた、あの裏切り者の傍にいるチビっ子じゃない」
 セイニィは両手に『星双剣・グレートキャッツ』を発言させ、ゆっくりとマッシュに近付いた。
「ちょっと待っておくれよ。今日は戦いに来たわけじゃないんだ、シャノンさんの手紙を届けにきたんだ」
 そう言って、辺りをきょろきょろと見回す。クィーン・ヴァンガードや生徒を警戒しているようだ。マ・メール・ロアの決戦でシャムシエルの側についた彼である、こんなところで見つかったらお咎めなしで済むわけがない。
「裏切り者の手紙……?」
「そう、ちゃんと読んでね。じゃあ、俺はもう行くよ」
 シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)の手紙を渡し、マッシュは軽やかに公園をあとにした。
 セイニィは愛想のない羊皮紙に書かれた手紙を開く。
『君が背徳行為を繰り返すティセラに従っていた、だから私は今まで協力していた。
 白虎牙を手に入れてティセラの気持ちをシャムシエルから自分に向けたいと言ったその思いを応援もしていた。
 そのままでいてくれたらよかった。
 でも、君はティセラの過ちに気付いて、ミルザムと共にシャムシエルを倒しに来てしまった。
 だから私は君に杖を向けた。背徳者としてのティセラとその元凶たるシャムシエルを守る為に。
 何も言わずに裏切ってすまなかった。
 だが、私は私の中の魔族の道理に従い行動した、後悔はしていない。
 それは君がティセラの為に沢山の人を敵に回してまで白虎牙を求めたのと同じだと思う。
 裏切った後に伝えるのも何だが、君と共に行動できて楽しかった。
 君が今後もシャンバラ王国側に付くなら、残念ながら次に会う時もまた敵同士。
 だが、その時は曲げられぬ思いがある者同士、再び互いを血に染めよう』

「……ふん」
 寂しそうな目で、セイニィは手紙を閉じる。
「いいわよ、次に会ったらもう容赦しないんだから……」
 出会いがあれば別れがある。血にまみれなければ友と呼べない関係もある。思えば、これは彼女にとって初めての友との決別なのだ。夕暮れの空を見上げる瞳は強く、どこかにいるかつての友に想いを馳せた。


 ◇◇◇


 その頃、フリューネは大通りから奥に入ったところを歩いていた。
 パパの会社が近くにある通りだった。パパと出くわしませんように……、そう祈りながら歩く彼女だったが、その願いは天には届かなかったようだ。目の前のオープンカフェにパパの姿を見つけてしまった。
 病院からの帰りらしく腕に包帯を巻いたパパは、秘書らしき女性にかいがいしく世話をされている。
 その女性にフリューネは見覚えがあった。ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)だ。
「え……、どういう関係なの?」
 フリューネは物陰に隠れて様子を見守った。
 しかし、気のせいだろうか、ガートルードが一瞬ちらりとこちらを見たのは。
「社長、はい、あ〜んして」
「は、恥ずかしいよ」
「何言ってるんですか、そんな手じゃ大好きなパフェも食べられないでしょう」
 彼女はパパの膝の上に座って、大胆に足を組んだ。ひと目もはばからないバカップルぶりである。
「なんでよりによってあの女と……」
 フリューネとガートルードには確執がある、空賊の大号令の時に明らかになった確執だ。
 苛立ちを抑え立ち去ろうとした瞬間、物陰から飛び出した黒い影が襲いかかってきた。咄嗟の攻撃を、歴戦の勘でフリューネはかわす。影は見覚えのない少女だった。その名は王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)と言う。
「ふ、フリューネ!!」
 騒ぎに気付き、パパは飛び出してきた。
「……役者は揃ったみたいね。あのフリューネを血祭りにあげられるなんて……、あはぁ、気分が上がって来たわぁ」
「何者なの……? 目的はなに?」
「さぁ、何かしらね」
 目をギラギラと輝かせ、綾瀬はサイコキネシスを繰り出した。地面に転がっていた石が浮遊し、フリューネ目がけて飛んできた。しかし、フリューネとて黙ってやられはしない、ハルバードを振り回して応戦する。
 そして、間合いを詰めた綾瀬に、フリューネはハルバードを一閃。二人は近距離で相見えた。
「……骨が折れて拳が砕けても、おまえの綺麗な顔を殴り続けてあげるわ!」
 流星の如く振り注ぐ綾瀬の拳を、フリューネは受ける。
「サイコさん……、完全にサイコさんだわ、この人」
「動くな、フリューネ!」
 はっとしてフリューネは振り返った。
 見ればパパが仮面をつけた男に捕まっている。男の正体はトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。隠形の術で忍び寄ってパパを羽交い締めにすると、雷術で稲妻を纏わせた掌を向けてフリューネを脅迫し始めた。
「おまえの親父なんだろう、こいつがどうなってもいいのか……?」
「……ていうか、パパを人質にとってどうするつもりなのよ?」
「なにが?」
「なにがじゃないでしょ! 目的よ、目的! 何がしたいのよ!」
 そう言えば何一つ考えていない……、トライブは焦った。
 そもそもこの二人は何か悪さをしたくて襲ってきたわけではない。こうして二人を追い込んだら、互いを気遣うような言葉を引き出せるのではないかと、あえて悪役を演じているのだ。それが和解に切っ掛けになるかもしれない。
 まあ、トライブに関してはお人好しなのだが、綾瀬は血の気が多いのでマジバトルする気まんまんである。
「ええと……」
「まさか私にやられた空賊に雇われて、復讐に……?」
「そ、そうだ! 概ねそんな感じだ!」
「なるほどね……、でも、このフリューネ・ロスヴァイセ、脅しには屈しないわ! パパは好きにしなさい!」
「ぅえ……!?」
 予想と違うフリューネの一言にトライブは言葉を失い、代わってパパが叫んだ。
「酷いじゃないか、フリューネ! 大好きなパパを助けておくれよ!」
「この程度のピンチを切り抜けられないような人は、私のパパじゃないわ! すこしは頑張ってよ!」
「そんなぁ……、だって、怖いんだもん!」
 涙目のパパにそっとトライブは耳打ちした。
「……おい、おっさん。フリューネっていつもこうなのか?」
「え、まぁ大体においては……」
「……そいつは良く出来た娘さんだな、ホレボレするぜ」
 仮面の下でトライブはため息を吐いた。
 そこに騒ぎを聞きつけ、クィーン・ヴァンガードがなだれ込んで来た。
 先頭に立つのは空峡方面特設分隊隊長、【鷹塚正史郎(たかつか・せいしろう)】である。フリューネと対峙する綾瀬、パパを人質に取るトライブ。状況から大体の事情を察すると、高らかに言い放った。
「我らが剣は命を奪うものにあらず、平穏を守るためのもの……、何者かは知らないが仮面を取って投降しろ!」
「くそ……、面倒くさそうな奴が出て来たな」
 トライブはどんとパパを突き飛ばし、綾瀬に目配せをして逃げ出した。
 多勢に無勢、ここは退くしかない。二人が駆け出すあとをヴァンガード隊員が追う。
 だがその時、激しい爆発音と共に付近の建物から火の手が上がり、隊員はそちらに注意を取られた。
「なんだか知らんが、チャンス! 急げ、綾瀬!」
「うるさいわね、あんたのお人好しに付き合ってやったんだから、気遣いなさいよ! この偽善者!」


 ◇◇◇


「……って、会社燃えとるやん!」
 黒煙の上がるむすめカンパニー社屋に、パパはパニックのあまり関西弁で絶叫した。
 そして、この騒動の元凶、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は壁を破壊して飛び出してきた。
「蒼空の騎士パラミティール・ネクサー! 公序良俗を乱す悪の企業に鉄槌を下す!」
 改造パワードスーツに身を包んだ彼は、フリューネファッションの社会問題化を嘆く若者のひとりだ。まだ娘グッズで金儲けする事は理解出来たが、破廉恥なファッションが巷を騒がせるのだけは許せなかった。
 例え、今現在巷を騒がせているのが己だとしても。
「コラ、貴様ーっ! なんの真似だ!!」
「パパゲーノ氏……、巷で流行るフリューネファッション、まさかこれを広めたのはあなたの仕業ではあるまいな!?」
「な、なに……?」
「ロスヴァイセさん自身はもう、アレが普段着だからどーしようもないにしろ、その……」
 エヴァルトは人の目を気にしつつ、小声で「見せパン……」と言った。
「とかを広めるなど言語道断! スケベオヤジめ、このパラミティール・ネクサーが、性根を叩きなおしてやる!」
 豪速で繰り出された鉄拳を、パパはすんでのところで避けた。
「あ、危ないじゃないか! こちとら怪我人だぞ!」
「悪が滅するその時まで……、ネクサーは戦い続ける!」
 ビシィとパパに指を突きつける。
「パパは悪じゃないっ!」
 その時、空から大量のハルバードが飛来した。ネクサーの周囲にドスドスと突き刺さり囲い込む。
「な、なんだ……!?」
 そう言って見上げた瞬間、ハルバードを掲げたヴァルキリーの集団が襲いかかってきた。
 彼らはむすめカンパニーの社員の皆さんである。ロスヴァイセ家を勘当になったのはパパだけではない、パパに手を貸した一族の人間は勘当され、パパと共に会社を動かしているのだ。皆さん、騎士上がりの屈強なビジネスマンである。
「そこの貴様ーっ! よくも弊社に火を放ったな!」
「この場で成敗する! むすめカンパニーの名にかけて!」
「う、うわぁ! や、やめろ!!」
 肉に群がる禿鷹のような一団に蹂躙され、ネクサーはボッコボコにされた。
 その上、クィーン・ヴァンガードも襲いかかってきた。鷹塚は携帯で本部に指令を出している。
「こちら鷹塚だ。市街で火災発生。今ならまだボヤで収まる、消防車を手配してくれ。それから第二部隊から応援を回して欲しい、被害が大きくなる前に放火犯を逮捕したい」
「た、逮捕……、うわぁ!?」
 ガツンと脳天に一撃を食らい、ネクサー……いやエヴァルトは逃げ出した。
「正義が理解されないなんて……、いや、ここでへこたれてはいられない。例えひとりでも、俺はこの身が燃え尽きるまで戦い続ける。さらばだ、むすめカンパニー。だが、次に会った時はこうはいかないぞ!」
「逃がすな、追え! あいつを高く吊るせ!」
 興奮した様子でパパは叫んだ。
 パパの殺すリストにネクサーの名が刻まれたのは言うまでもない。
 月の出る夜はパパに気をつける、そんな夜にエヴァルトはさいなまれるのだが、それは自業自得である。