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【ろくりんピック】駆け抜けろ、2人3脚トライアスロン!

リアクション公開中!

【ろくりんピック】駆け抜けろ、2人3脚トライアスロン!
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リアクション

(方向は大丈夫ですね、一気に泳ぎきらなければ……)

 刀真は、前方の目印の位置を逐一確認していました。
 解禁した必殺技の効果として、燃費のよい高速クロールで波を切ります。
 もちろん、陽太との動きも完全にシンクロさせずみです。

(皆さん、なかなか早いですね……もう少しペースを上げないと)

 必殺サポート『神的計算術』で他組の行動を演算した陽太。
 勝利するためにはもっと速く泳ぐことが必要だと判断し、刀真へ目配せをしました。
 水のなかで首を縦に振る両者、【西シャンバラ】は先を急ぎます。


「エリュシオンや地球を敵に回す行動をとれる人は少ないはずだけど……」

 小さく言葉を発するのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)です。
 リカインは、ろくりんピックそのものを破壊しようとする者がいないか、沿道にて眼を光らせています。

(問題なのはわかっているけれど……)

 ただしその格好は、蒼空学園理事長以下略に似ています。
 大きくて黒いサングラス、セミロングの金髪、ファーの付いた純白のジャンパー、そして携帯。

(あんまり考えたくはないけれど、万が一そいつらと校長に関わりがあればそれなりの反応はあるだろうし。
 ないならないで『ニセカンナ』の噂が抑止力になってくれれば)
「ついに始まったっスね、ろくりんピック!」

 リカインは、自身の姿で犯罪を抑えようと考えていたのです。
 さて、眉をひそめるリカインの横に、はしゃいでいる少年がいます。

「残念ながら応援団にはなれなかったスけど、気持ちは負けてないっスよ。
 もちろん、選手の皆さんにも!」

 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は、えっへんという表情でリカインを見ました。
 リカインのボディーガード、と思いきや。

(真面目に応援してるアレックスには悪いけれど、私達の目的はろくりんピックを邪魔する……ううん。
 これに乗じて東西の対立をあおろうなんて奴がいないか眼を光らせること。
 そしてもしいたら、徹底的に潰すこと)

 アレックスは、リカインに連れられて『小型飛空艇アルバトロス』に乗り込みました。
 すでに競技を開始している選手達を追い、海上へと飛び上がります。

「メガホンの準備もバッチリ、というわけで張り切って応援いくっス!
 フレー、フレー、彩華さん、彩羽さん!!
 がんばれ、がんばれ、弥十郎さん、樹さん!!」

 正式な応援団員ではないこともあり、両チームの選手を名前で応援するアレックス。
 選手達やリカインとともに、まずは折り返し地点を目指します。


(彩華、まだ大丈夫よね?)
(は〜い、彩華におまかせですぅ〜)

 少し腕に疲れを感じた彩羽が、スキル『精神感応』で彩華の状態を確認しました。
 彩華はまだまだ平気なようで、彩羽を支えてひっぱっていきます。
 【UPW】の必殺技は、名付けて『ジェットスイム』。
 手からスキル『サイコキンシス』を発して、勢いよく前進するというものです。
 クロールときどき平泳ぎときどきひっぱりで、体力の限界を少しでも遅らせようとがんばります。


「ぐふふふふふ」
(普段は他人を応援なんて、絶対にしなさそうだよね……寒極院ハツネちゃん)

 波止に座り、独りほくそ笑むブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
 見上げているのは、意外にもチアガール姿の寒極院 ハツネ(かんごくいん・はつね)です。

(くっ……あんな挑発に乗ってしまうとは、私もまだまだザマス)

 助っ人に呼ばれたハツネでしたが、東シャンバラチーム応援団員、主に男性からの挑発に負けて着用してしまったのでした。
 せっかくですので、挑発を1つだけ紹介しておきましょう。

「もう三十路だし、チアガール姿はさすがに無理だよね」

 以上、ブルタがハツネの対抗心に火を注いだ一言でした。
 ブルタはさらに、『ハツネファンを集める』をいう必殺技を解禁していたのです。
 『かの寒極院ハツネのチアガール姿が見られる』と言う噂をネットで流し、知り合いのカメラ小僧を集めていました。

「あの制服の下に隠された神秘のベールがいま、目の前にあるんだよ!
 ボクはいま歴史的な瞬間に立ち会っているんだよ!!!」

 ブルタは立ち上がると、両手を横に大きく振ります。
 情報発信源という特権を活かし、カメラ小僧達を統率しているのです。
 どんどんと長くなる行列に、顔だけで振り返ったハツネは内心でびっくりしていました。

「ブルタの感激、ここに極まれり!」

 ハツネの視界から泳者の姿が見えなくなった頃を見計らい、撮影会が開催されます。
 その最後を飾ったのが、ブルタでした。
 あまりにも急なことでしたが、チアガールとしてポーズをとるハツネもなかなかのもの。
 ブルタの統率力に、ちょっと感心している節も見受けられます。

(カンナ校長などとは違って、知名度もさほど高くないハツネちゃんのファンにはコアでディープなファンが多そうだよね。
 彼らを1つにまとめられればある意味すごい応援になると思う。
 本当に狂ったように応援してくれるかも?)
「ハツネ様の声援をいただいて、彼らも光栄でしょうね」
「うむ、そうでないとわざわざ私が来た意味ないザマス!」

 ブルタの冗談めいた考えが、いままさに現実となりました。
 カメラ小僧達も、ブルタとハツネに負けじと応援の声を出し始めたのです。
 東シャンバラチーム、陸地からの応援は異様な熱気に包まれています。


(集中集中!)

 弥十郎と樹は、バタフライで水泳に挑みました。
 バタフライを選んだのは弥十郎で、2人3脚状態では最も効率よく泳げると判断したからです。

(いつもは冷静な私ですが、負けるのは嫌ですから……本気でがんばります!
 そして、絶対に彼のことは私が守ります!)

 恋人と一緒ということで、いつもよりも気合い充分な樹。
 ばっちり息の合ったタイミングで水をかき、【東】の2人も確実に前へと進んでいきます。


「がんばってる選手に『光る箒』に乗って空から応援です!
 泳げないので応援団員として一生懸命応援を盛り上げるですよ〜!」

 上空から、選手達を応援するヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)
 折り返し地点を過ぎた東シャンバラチームの選手達へ、声援を届けます。

「フレっ、フレっ、イ〜シャン!」
 ゴールまであと2.5キロなんです、がんばです〜!」

 残りの距離を正確に伝えると、しゅ〜んと箒でひとっとび。
 ヴァーナーは、選手の進行方向へと回りこみました。

「美央ちゃん、もうすこしです〜!
 唯乃ちゃん、ごーごーです〜!
 樹ちゃん、がんばってくださいです〜!
 弥十郎おにいちゃん、ふぁいとですぅ〜!
 みんながおうえんしてるです〜!」

 メガホンを口にあて、【イーシャン】と【東】の選手の名を叫ぶヴァーナー。
 今日の応援ために、東シャンバラチームの選手の名前を覚えてきていたのです。
 ちなみに本日の衣装は、公式ユニフォームにチアガール風のミニスカートをはいています。


(ぉ?)
(あ、美央ちゃん!?)

 繋いでいた美央の手から一瞬、力が抜けました。
 驚き、唯乃は手を握り締めます。
 スキル『グレーターヒール』を発動させた美央、実は意識を失くしそうになったのです。
 なんとか持ち直した【イーシャン】の2人は、諦めずにゴールを目指します。


「ろくりんく……じゃねぇ、西シャンバラチームがんばれー!」
(……しまった、うっかり願望混ぜちまったぁぁぁ!)
「……何で応援内容にろくりんくんが混ざるんですか、りゅーきのばかー!」
 ちゃんと西シャンバラの応援してくださいー!」

 さぁ、水泳勝負も大詰めです。
 トップは、中継所まで残り30メートルといったところでしょうか。
 瑠樹ったら、ヒートアップしすぎて思わず。。。
 すかさず、マティエの鋭いつっこみが入ります。

「西シャンバラチーム、がんばってー!」

 改めて応援するマティエの手には、西シャンバラチームマークの入った旗が握られていました。
 瑠樹も同じく、小さな旗を振りつつ精一杯の応援を展開します。


「セレン、しかけるわよ!」
「分かったわっ、ローザ!」

 自転車の選手達が手を振っているのが、もうはっきりと見てとれる位置。
 【WWW】のローザマリアとシルヴィアは、残る力を一気に総動員してラストスパートです。


「ローザ!
 セレン!
 ともに征くのではなかったのか!
 我らとともに、未来(あす)を掴むのであろ?!
 妾が名、グロリアーナの名の下に命ず、勝て!」

 声の届く辺りまで戻ってきたローザとセレンを、グロリアーナが叱咤激励しました。
 そのまま選手達を追い越し、ゴールへと先回りします。


「カイ、ラストスパートだ!」
「了解だ、チームのために絶対優勝するぜ!」

 スキル『超感覚』発動、ここが決めどきだと考えた峯景はラッシュをかけました。
 カイも、残る力を振り絞って手足を動かします。


『さぁ、1着で『たすき』を渡したのは【イーシャン】です!
 その後ろから、僅差で【ウエスト】がスタートしました!
 3位以下は【西シャンバラ】、【WWW】、【こりいとさ】、【UPW】、【東】の順にバトンタッチです!」


「小次郎、お前ならいけるぜ、がんばれよ!」
「あぁ、聡も……頼みます」

 【こりいとさ】の泳者として5キロを泳ぎきった小次郎ですが、自転車種目にも出場することになっています。
 ちなみに、聡は【ウエスト】のマラソン走者でもあったり。
 ともに完泳したことで信頼が生まれた小次郎と聡、互いの健闘を祈ります。


「ようやった、まずまずの結果である!」

 倒れこみそうになる身体を支えると、グロリアーナはシルヴィアとローザマリアを褒めました。
 さすがにぐったりしていますが、3人して安堵の笑みを浮かべています。


「みんな〜、かっこよかったです〜!!!」
「どっちも精一杯がんばったよなぁ……観戦側としても楽しめたし、いい競技だったねぇ」
「いい勝負、いい競技でした!」

 ヴァーナー、瑠樹、マティエをはじめとして、各チームの応援団が双方の選手を称えました。
 みんなで拍手を送り、祝福したのです。
 一応順位はついたものの、どの最初と最後の組に大差はありません。
 どの組も、まだまだ余裕で優勝圏内に入っている状況です。


「ところで、他の2種目は生で観られるでしょうか……」
「移動は……できるかねぇ、どうかねぇ」

 選手達を休養スペースへ運び、砂浜の熱気はひと段落。
 マティエと瑠樹は、自転車戦を観るために人を縫い歩いていってしまいました。


「すごい試合だったね!」
「えぇ、そうね」
(水泳の場に怪しい者はいなかったみたいね、各チームも障害を設置しなかったようだし。
 あとの競技も、何事もなければいいけれど)

 小型飛空挺から降りるも、アレックスは興奮の冷めない様子。
 にっこり微笑むリカインは、虚空を見上げて競技中のことを整理します。
 パートナー達からのよい報告を期待して、肩の力を抜いたのでした。