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【ろくりんピック】駆け抜けろ、2人3脚トライアスロン!

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リアクション


第4章 マラソン戦!


 な〜んとなく、葦原島を一周するかたちの2人3脚トライアスロン。
 いよいよ、最終種目の選手達が走り始めました。


「よっし、このまま優勝だ!」
「峯景、疲れは残っていないか?」
「心配ご無用、ぴんぴんしてるぜ!
 聡こそ、大丈夫か?」
「あぁ、俺も自転車種目のあいだに回復したよ!」
「そいつは頼もしい!」

 【ウエスト】のマラソン走者は、峯景と聡です。
 2人とも、一緒の組でではありませんが、今朝の水泳種目に出場していました。
 ゴールから結構な時間が経ち、体力、気力ともに良好。
 50キロ先の優勝を目指して、ひた走ります。


「垂さん、私達の順位がいま4位で残り時間が3時間30分……トップになるには少々ハイペース気味になりますが……やりますか?」
「当たり前だ……どんな順位でまわってきても、最終結果は俺達で決まる。
 やるからにはトップを狙うぞ、朔!」
「ですよね。
 さぁ、がんばりましょう!」

 夜霧 朔(よぎり・さく)の呼びかけに、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は首を縦に振りました。
 すでに、トップから3位の選手はスタートを切っています。
 しかしながら自分達で逆転してみせると、瞳を輝かせました。
 漕者によって、『たすき』を結ばれます。

「いいか、1歩目の足は結んでいる『内側の足』だぜ!」
(……これは、これから長い距離を2人で走り抜こうと考えて、2人で決めたことだ)
「もちろん、いきますよ……せ〜のっ!」

 今度は垂の声に、朔が応えました。
 勝利への1歩を踏み出した【WWW】、初めはゆっくり、徐々にスピードを上げていきます。

「この『たすき』を繋いできたメンバーのためにも、絶対に途中で諦めたりはしない。
 最後まで走り続けて、トップでゴールテープを切ってみせる!」
「えぇ。
 気を抜かずに、いつものペースでいきましょう」

 スキル『トラッパー』と『殺気看破』で障害の有無を探し、『超感覚』で勘を向上。
 路面や周囲に気を配りながらも、垂は気持ちを奮い立たせます。
 朔も、必殺防御『罠看破』および必殺サポート『ペース配分』を発動させました。
 ちなみに、必殺技『不屈の魂』は、疲労が限界にくるまで封印です。


「さて、どうなるでしょうね」
(私と西シャンバランチームの仲間達の傑作ですもの、きっと上手くいきます)

 砂浜にて中継を聞きながら、クロス・クロノス(くろす・くろのす)はつぶやきます。
 想うは、自分のしかけた障害のこと。

『障害設置・はじまり』

「このあたりに掘りましょうか、明日の朝までに掘り終わるとよいですね」

 ときは、競技前日の夕暮れ。
 クロスは、マラソンコースのスタートから7キロの地点を訪れました。
 道の中央に堂々と、実に巨大な落とし穴を掘る計画を実行しようとしていたのです。

「敵チームなので、悪いけど妨害させてもらいます」

 シャベルの刃に片足を、力いっぱい土をすくいます。
 幸いにも今夜は満月、照明の心配も不要です。
 ひたすら地を穿ち続けていると、いつのまにか空が白み始めてきました。
 すでに、深さはクロスの身長に追いつきそうです。
 多少のでこぼこはありますが、直径もおそらく1.5メートル以上あるでしょう。

「それでは、上にビニールシートを……そっちお願いします」

 颯爽と穴から出ると、大きなシートをかぶせてます。
 掘り出した土でシートをおおい、さらに土の上から砂や小石をまきました。
 どうしても周囲の土の色とは差が出てしまいますが、少しでも違いを目立たなくしようと考えた結果です。

「こんなものですかね。東の選手が落ちるといいんですが」

 使用した道具や証拠になりそうなものが残っていないことを確認して、クロス一行はその場をあとにしました。
 西シャンバラチームの選手達にも落とし穴の位置を伝え、競技当日の朝を迎えたのです。

『障害設置・おわり』

「ふふ……楽しみです」

 眠い眼をこすりこすり、休養所に入っていくクロス。
 椅子に座り、水でもいただきながら障害の効果を待つことにしたのでした。


「やるんだったら目指すは1位!
 チームに貢献をするぜ!」
「てやんでぇ!
 スポーツなんてのはなぁ気合いってぇんでぇ!!」

 走りながら叫ぶのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)です。
 自転車種目で落とした順位をとり戻すため、スタートからとばしていました。

「オラオラオラ!
 もっとスピードあげるぜぃ!
 ラルクだったらついてきてくれると信じてるぜぃ!」
「うっし、日頃の修行の成果を今こそ見せるときだな!!」

 全力全開、『闘神の書』はますます足の回転速度を上げます。
 転ばぬように注意を払いつつ、ラルクもスピードを速めました。
 そのとき。。。

「お!?」
「っあ!?」

 どし〜ん!!
 なんと【イーシャン】の2人、まんまと落とし穴にはまってしまったのです。

「ってぇ……ラルク、無事か!?」
「おぅ、入念に準備運動をしておいてよかったぜ!
 しっかりと全身を伸ばしておかねぇと、こういうときにひねったりしちまうんだよな」

 とりあえず怪我はなかったようで、立ち上がり一呼吸。
 ラルクも『闘神の書』も身長が高いため、胸から上は完全に地表に出ています。
 ひょいっと跳び出し、マラソンを再開しますがっ。

「よくも〜許さん!」
「我も怒ったぜ、西チームには何が何でも勝つ!」

 2人の闘争心に、これ以上ないほどの炎がともった模様。
 身長を活かした大またで、なりふり構わぬ走りを見せます。


「いつも裏方を選ぶお前が、今回はどうして選手として参加したんだ?」
「コレと言った理由はない。
 ただ自分がどこまでできるか確かめてみたいんだ」
 それに、争い以外のこのろくりんピックで東と西、互いに全力でぶつかり合って、お互いのことを知って絆を深めていけたらいいなと思ってな」

 2番手の位置を維持しながら、神代 聖夜(かみしろ・せいや)が訊ねました。
 相手は、契約者の神崎 優(かんざき・ゆう)です。

(相変わらず優は優しいんだな。
 でもこいつとなら俺はどこまでもゆける。
 俺の背中を預けられる)
「そうか」
(聖夜には常に背中を預けているから、何も言わなくてもこちらの想いに応えてくれるだろう)
「手を抜かず、正々堂々と持てる力を振り絞って挑むぜ。
 必ず時間内にゴールしてみせる!」

 優の返答を聞き、聖夜は満足そうに言葉を落としました。
 安堵したような一言に、優も微笑みます。
 自分の眼に、そして感じた運命にくるいはなかったのだと、改めて思い……そして。

(頼りにしてるぜ、聖夜!)
(優の想いに応えるべく、俺も全力で競技に挑むことを誓うぜ!)

 口に出さないことが信頼の証と、心のなかで決意をあらたにするのでした。
 【西シャンバラ】も、ただ前を視て……後方から轟音が。
 刹那、巨漢2人に追い抜かれてしまったのです。

「んなっ、こうしちゃいられないぜ!」
「やってくれるっ!」

 すでに遥か先を行く【イーシャン】の2人に、優と聖夜も気持ちを切り替えました。
 いままでよりももっともっと力を出して、大地を蹴り進みます。


「派手なしかけがあったほうが、盛り上がるとぞんじますー♪」

 沿道の応援団に混ざって、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が声を上げました。
 にっこにこの笑顔は、場の誰よりも輝いています。
 スタート地点から20キロ、トップは【ウエスト】です……あ。

「祝!
 ろくりんピック開催っ♪
 もう、楽しみにしておりましたのですよー♪」

 どっか〜んっ!
 いやいや、マラソンコースには派手な障害物が多いこと。
 この一帯には、優梨子が『地雷原』を設置していたのです。
 スキル『用意は整っております』を用いて入手してきた資材を、『破壊工作』と『トラッパー』で工作。
 加えて『博識』を駆使して殺傷能力をほぼゼロに抑え、見た目や音の派手さを優先したもの。

(うん、うまくいったみたいです)

 対象の区別なく、とにかく埋めちゃった障害物。
 1種類は、音響手榴弾と閃光手榴弾の要領で、視覚・聴覚を経由して眼を回させるもの。
 もう1種類は、煙幕手榴弾を応用したもの、色つきの煙幕を噴出させて相手を驚かせます。

「みなさん、がんばってー♪」

 次々はまっていくさまが面白くて、優梨子の声援もヒートアップ。
 どの組も大幅に時間をロスしてしまいましたが、後半戦突入です。