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リアクション
第1章 開幕!
午前7時、快晴。
競技開始1時間前から、すでに現場では準備が始まっていました。
「おはようございま〜す、空京放送局リポーターの小鳥遊美羽です。
今日はここ、葦原島より、2人3脚トライアスロンの模様をお伝えします!」
「カメラマンはコハク・ソーロッドだぜ!」
テレビカメラの前で、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が元気に手を振ります。
今回、コントラクター部門のみ、コントラクターからリポーターが募られました。
この募集に果敢に挑み、見事、美羽とコハクはリポーターの座を射止めたのです。
世界中に感動を届けるべく、細身のマイクを握り締めます。
「早速スタート前の選手達に、競技にかける意気込みや、現在の心境などをインタビューしていきましょう!」
現場には、各組の水泳種目の選手達が勢ぞろい。
準備運動をしたり、ストレッチをしたり、チームメイトからの声援に応えたり……と思い思いに過ごしています。
美羽とコハクは、そんな選手1人ひとりに、とびきりの笑顔でマイクとカメラを向けていきました。
(……フッ、悪いがこの戦い、負けるわけにはいかんのでな。
少々汚いやり方だが……悪く思うなよ……)
「愛情たっぷりのお弁当とドリンクの差し入れです!」
インタビューの終わった西シャンバラチームの選手達へ、鬼崎 朔(きざき・さく)が近附きます。
手には、大きなお弁当とペットボトル入りのお茶が入った袋を提げていました。
だがしかし。
なんと、朔が東シャンバラチームのサポーターであることを知っている選手がいたのです。
当然ながら、何らかの罠ではないかと疑われます。
「私だって、本来は蒼空学園の一員です!
西チームへ応援にくる理由なんてそれで充分じゃないですか!」
少しだけ感情的になり、早口にまくし立てる朔。
さらに、お弁当の卵焼きを食して見せました……いわゆる毒見です。
朔に異常が出ないことを確認して、西シャンバラチームの選手達は差し入れを受け取りました。
ですが。。。
(フフフ……上手くいったみたいね、朔v)
朔と選手達のやりとりを遠くの木陰から眺めているのは、アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)。
実はお弁当とお茶には、毒がしこんであったのでした。
しかも足がつかないためにと、お茶は数本のみ毒入りとなっているようです。
お弁当にいたっては、すべて毒入りですが、毒の量を微量にする徹底ぶり。
(フフフ……どいつらか知らないけど、朔に狙われるから悪いんだわ。
まあ、朔が差し入れを配り終えるまで待ってましょう。
そして一緒に帰るの……フフフ)
毒そのものは、朔のスキル『毒使い』と『しびれ粉』で調合したものです。
効果は、軽度で体のしびれと脱力感、重度で麻痺と体力低下の毒状態。
ちなみに、重度になるとドクターストップがかかります。
あれ、でも朔は平気そうでしたね。
(でもあたしってさすがよねぇ、朔の毒を遅行性に調整し直しちゃうんだもの。
数十分後、せいぜい苦しむがいいわ)
あぁ、そういうことでしたか。
どうやら使用された毒は、朔とアテフェフの共同作業によって生まれた特別なもののようです。
ここで朔が、東シャンバラチームの選手達にも差し入れ、もちろん毒の入っていないもの、をして戻ってきました。
武装『幻槍モノケロス』とスキル『ナーシング』の効果を利用し、自身の身体を解毒します。
「お帰りなさい、朔。上手くいきましたね」
「自軍が勝つためなら何でもするわ、それが私の本気ですから」
早足で戻ってきた朔を、優しく受け止めるアテフェフ……どさくさにまぎれて抱き締めてみたり。
にっと口端を上げ、朔は親指を立てました。
あぁ、怖い怖い。
「さ、帰りましょう。朔」
(……ああ、でも朔が他の子のために……ウフ、フフフフ……いつかその子たちに『天罰』を食らわさないとね……)
背中に手を回し、アテフェフは朔を促します。
ですがこのヤンデレ、笑顔の裏でとんでもないことを考えているようで。
アテフェフの言う『いつか』が現実にならないことを、ただ祈るばかりです。
「……応援ついでに『ろくりんくん』見れないかねぇ……ろくりんくーん、ろくりんくーん……」
「あのですね、りゅーき……ろくりんくんはここにはいませんって……」
先のやりとりなど露知らず。
曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が、水泳の選手達を激励に訪れました。
ゆる族大好きな瑠樹、選手達に声をかけつつも、周囲をきょろきょろしています。
むなしくも小声で呼んでみますが、公式マスコット『ろくりんくん』の姿は見えません。
「……そっか、ろくりんくんはいないのかぁ……まぁ、本命はトライアスロンと西チームの応援だから。
精一杯ろくり……じゃない、応援してみようかねぇ」
マティエの言葉に、残念そうに肩を落とした……そのとき!
まるっこいものが、瑠樹の前を横切りました。
「いた、『ろくりんくん』だぁ!」
「ん、誰かミーを呼んだかネ?」
「へぇ〜りゅーき、よかったですね」
現われたのは、『ろくりんくん』の1人であるキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)です。
きっちりと正装で決め込み、マスコットキャラクターの貫禄を感じる外見。
感動のあまり瑠樹は、駆け寄って握手を求めます。
パートナーの満足そうな様子に、マティエも何だか嬉しくなりました。
「この喜びをみんなにもぉ〜」
「眠気覚ましにナーシングです〜」
テンションも上がり、大判振る舞いの瑠樹とマティエ。
西シャンバラチームの面々へ、スキル『ヒール』と『ナーシング』を贈りました。
本競技に参加するのは、東シャンバラチームから2組、西シャンバラチームから5組の計7組。
勝敗は、競技開始の合図から12時間後に決します。
午後8時の時点でゴールから最短距離に位置していた組が優勝、優勝組の所属チームの勝利となるのです。
ちなみに、勝利したチームには、30点が加算されます。
「みんな楽しそうね、がんばって欲しいものだわ」
こちらは百合園女学院でも、トライアスロンを見守る女性。
茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は、女学院の敷地から出たくないため競技には参加していません。
しかしながら、ろくりんピックを応援したいという気持ちは、現場にいる者達と一緒です。
「では私も『小型飛空艇ヴォルケーノ』に乗って選手達と並走したいと思います。
東シャンバラチームと西シャンバラチームの熱い戦いを、ゴールまで実況生中継していきますよ!」
「カメラも『小型飛空艇オイレ』に乗って、選手達と並走しながら中継するぜ!」
「「皆さん、チャンネルはそのままで!」」
「ミーも一緒に行くのネ、競技解説させて欲しいヨ!
正式競技のルールならすべて網羅してるし、出場選手に関するプロフィールも暗記しているネ」
「え〜っと……それでは『ろくりんくん』であるキャンディスさんをゲストに、参りましょう!」
選手達へのインタビューも終わり、開始時刻まで10分を切りました。
さぁ、いよいよ『2人3脚トライアスロン』の開幕です!
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