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KICK THE CAN2! ~In Summer~

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KICK THE CAN2! ~In Summer~
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第二章


・前半戦 ――開幕は爆音とともに

 
 北エリア。
『これからちょっと攻撃を誘い出すから』
 守備側の一人、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はそうとだけ北エリアに連絡した。攻め込まれたと勘違いされることを防ぐために。
 今、彼女達は小型飛空挺ヴォルケーノに乗っている。乗り物については、現時点では「まだ」使用可能なようだった。
「じゃ、いっくよー!」
 集積場には廃材も多く、木箱やダンボールも多く存在している。そこへ向かってヴォルケーノのミサイルポッドが火を吹いた。
 瞬く間に燃え上がり、火柱が出来る。これは遠目にも目立つことだろう。
「ルカ、この規模だと爆撃テロに見えんか?」
 彼女のパートナー、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が呟く。
「そっかな」
 きょとんと首を傾げるルカルカ。
「さっきの天沼矛の稲妻も大概だが……こういう機会じゃなかったら間違いなくテロリスト扱いだろう」
 ゲーム中に張られている結界は特別なものなので、これはまだ許容範囲だ。
「このくらいなら大丈夫よ。さ、行こ」
 飛空挺から下り、行動を開始するルカルカ一行。彼女達は全員教導団の公式水着(男性用)だ。大抵の小物なら収納には困らない、らしい。
 海京は都市の構造上、陽の当たり難い場所は多い。都市の面積以上に建造物が密集しているせいだ。陰に隠れるようにして、彼女達は進んでいく。
「確か、今の場所以外に北エリアに入れるのは西との境界付近だったよな?」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が確認する。要塞化したエリアの唯一の侵入ルートがそこである。
 もちろん、そこは北の守備陣営が張り込んでいる。そうなると、先刻彼女が爆破した箇所に向かってなだれ込む者達もいるはずだ。
「そうよ。多分、そろそろ釣られて誰か出てくるはず」
「まさか守備側が自分で壊すとは思わぬよな?」
 夏侯 淵(かこう・えん)が声を漏らす。これをチャンスと思い、飛び込んでくるか、それとも警戒するか……
 ルカルカと淵が前衛、ダリルとカルキノスが後衛を務め、気配を消しながらエリアを駆けていった。

            * * *

「と、いうわけで今回もマスクを使いたい人は言って下さい。持ってきてありますから」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)は前と同様に、仮面ツァンダーソークー1のマスクを配布した。
 開始前、守備側が罠を張ったりして準備をしている間に、彼もまた準備を進めていたのだ。
 西シャンバラユニフォームにマスクというのは少々不思議な姿ではあるが、海パンにマスクという出で立ちに比べればまだ変態度は低い。
 そんな人がいるのかはまだ分からないが。
「しかし、これはどうしたものか……」
 缶を蹴るために北に来たものの、コンテナが通路を塞いでおり、しかもアシッドミストのせいで霧がかっている。
 その時、同じエリアからいきなり轟音が響き、火柱が上がる。
「……始まったようですね」
 攻撃があった、ということはその近くに缶があるかもしれない。
『タツミー、これ、中を進まないと缶まで辿り着けないみたい』
 偵察をしに先行しようとしたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)からのメールを受け取る。
「公園の時と同じ、でも単純に氷だけじゃないから厄介だ……」
 少しばかり思案する巽。よく見ると、滑らせるためなのか地面が凍っている。三十分というわずかな時間でここまでの迷宮を作るのはそう簡単ではない。
 ふと、目の前にコンテナが複数固まっているのが見てとれた。その上段の方に飛び乗り、ピッキングでコンテナを開けると、中は空だった。
「これなら使える!」
 缶の位置は正確に分からない。ただ、コンテナの反対側も開けて隙間から要塞内部を除き見た限りでは、倉庫の屋根の上という事はなさそうだった。
 しかし、現状で攻めるのはまだリスクが大きい。
 そこで、ティアを呼び戻している間はエリア内の様子見をすることにした。

 このエリア全体を使った守りを崩すには、誰かがあえておとりになる必要がある。守備を撹乱させることで、隙を何とか作り出すしかない。
「こりゃまた骨が折れそうだねぇ」
 僅かに口の端を吊り上げ、東條 カガチ(とうじょう・かがち)が呟いた。
 空京中央公園は缶の半径百メートル以内が要塞化されていたが、今回はエリアの物資を巧みに利用して、エリアのほぼ全域にまで及んでいる。
「いいかい、みーちゃん。今回も前と同じだ。缶は全部で四つ、それを誰よりも先に蹴る。狙ってるのが倒されたら、次のへ。このエリアには一つだけど、他のところに残り三つがあるから」
「わかった。にぼし、今度こそ……」
 柳尾 みわ(やなお・みわ)に何をするのかをよく言い聞かせる。
「あ、ブォオオオ! という大きい音がしても危険ではないから、気にしないで大丈夫」
 一言付け加えておく。カガチの話を理解するとすぐに獣化、猫の姿となってエリア内に侵入していった。獣人のなせる業である。
 コンテナの上であれ、猫の跳躍力で軽く飛び乗り、そのまま隠れ身を駆使しながら缶を探しに行く。
「さて、俺もいっちょやるとするかねぇ」
 カガチは携帯電話を操作し、同じエリアにいるであろう椎名 真(しいな・まこと)と連絡を取る。
 お互いの状況を確認しながら、自分達以外の者が攻撃しやすい状況を作るために、一歩ずつ慎重に進んでいく。
 火柱の上がった方向はおそらく、攻撃側の誰かが突破口を開いたのだと判断する。守備側はそっちに向かうことだろう。
 そのため、彼はあえてそちらには行かず、反対側から攻め込むことにした。

 一方の真も北エリアに侵入を試みようとしていた。
「どうしたものかな……」
 足下は凍っている。移動するにも慎重に行かねば滑ってしまう。そこを守備に囲まれたら逃げようがない。
「撹乱するにも、敵の懐に入るまでが厄介だ」
 顔を歪めるのは原田 左之助(はらだ・さのすけ)である。
 他の攻撃陣がどう動いているのかは今のところ分からない。が、どこから攻め込んでも何かしらのトラップに引っ掛かりそうな予感がした
「俺達は見つかっても大丈夫だよ。注意が向いている間に、他の人が缶を蹴りに行ってくれれば」
 問題は北エリアにいる攻撃勢がどれだけいるのか、守備勢がどれだけいるのかということだ。
 超感覚で警戒しているとはいえ、レビテートのようにわずかに浮いた状態であれば足音はしない。
 戦いはもう始まっている。物陰から不意を突かれたって不思議ではないのだ。
「もう少し入り込んでからの方がよさそうだな」
「他の人の姿が見えてから……じゃ、遅いかもしれないけど、他の人がどう動いているかは知りたいね」
 カガチ達と連携するためにも、もう少し周囲の状況を掴む必要があった。
 
            * * *

 その頃、上空から北エリアを観察している者がいた。もっとも、その姿は光学迷彩に加え、太陽を背にすることでほとんど視認出来なくなっているが。
(氷に加え、上空にブリザードですか……このままだと上から攻めるのは難しいですね)
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)だ。
 開始早々光る箒で飛翔し、上空で待機していた。
 コンテナや倉庫の屋根が氷術で繋がっている以上、缶のあると思しき要塞(迷宮)の中までは把握出来ない。
 一角から火柱が上がったところまでは見えた。攻撃側が攻め込んだらしいが、その瞬間を目撃することは出来なかった。
 もし、これが攻撃側の誰かによるものだったら、今頃守備側との攻防が繰り広げられていることだろう。
(まずは、守りが崩れてくるのを待つとしますか)
 眺めているうちに、攻撃側らしき者の姿を彼は捉えた。北エリアを周囲から取り囲むように、ほとんどの者がまだ様子見といったところだ。数もそれほど多くはない。
 そのような中、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が缶へ向かって――それがある、コンテナや倉庫で囲まれた中へ駆け出して行こうとしていた。
 目標はどうやら火柱が上がった辺りらしい。そこからなら中へ入れるだろうし、誰かが攻めなければ他の人がなかなか行動を起こせない。
 彼女がそのようなことを考えて飛び込んでいったのかは分からないが、少なくとも玉砕覚悟、先手必勝といった感じだ。
(あそこからなら、入れるはずだもん)
 おそらく、ミーナはそのようなことを考えているだろう。それに一ヶ所崩されたならそこで守りの人は攻撃を捕まえようと対峙していることも想像出来る。
 その隙をつけば、自分は捕まらずに缶まで辿り着けるかもしれない。あくまで可能性の一つではあるが。
(消え……ました?)
 上空からギリギリ彼女の姿を視認していたザカコは突然、視界から彼女の姿が消え、戸惑う。が、それが意味することは二つに一つだ。
(どこかに隠れるところがあったかそれとも捕まったか、ですね)
 
 地上を走っていたミーナは、何が起こったかを認識することが出来なかった。
「まずは一人だな」
「この調子で捕まえていきましょ」
 ちょうど北から西へ向かって索敵を行いながら移動していたルカルカ達と遭遇したのが運の尽きだった。
 ミーナはアボミネーションに怯み、その間に淵のヒプノシスをまともに受け、深い眠りに堕ちたのだ。
 そのまま捕縛され、後衛のダリルが北エリアの缶付近にまで搬送する。
「次は西だったな?」
 四人は反時計回りで攻撃側の人を捕まえていこうとしていた。
 北エリアの外周を駆けるように、ルカルカ達は西エリアへと移動していった。