天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション公開中!

KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション


・今回、ネタは結構少なめです


 東エリア。
(どこだ? 本物の缶は?)
 葉月 ショウ(はづき・しょう)は切羽詰っていた。
 今彼は東エリアにいる。始まってからそう時間が経っているわけではないが、彼には早く缶を蹴らねばならない理由があった。
 電話が鳴る。缶蹴り中は気付かれたら元も子もないのでサイレントモードにしている。着信の相手の名前を見るが、彼は出なかった。
(どうしてこうなった!?)
 
 発端は缶蹴り開始前に遡る。
「なに、そんなに見つめられると照れるじゃない」
 ショウは如月 玲奈(きさらぎ・れいな)と向かい合っていた。開始前、何か話すことがあったらしい。
「……やっぱり怒ってる?」
「別に怒ってない」
 ジト目で玲奈を見つめるショウ。
 少し前に彼女と共にあることをしようとしたのだが、玲奈がそれに間に合わなかったため、そのことをショウが気にしているのだと感じていたようだ。
 が、決してそういうわけではなかった。
 とってもシンプルな言葉がショウの口から放たれる。
「ぺったんこ」
 今の玲奈の服装は、イルミンスール女子の公式水着である。ボディラインは丸分かりだ。そのため、つい彼は言ってしまったのである。
「……ッ!!!!」
 玲奈から尋常ならざる殺気が放たれる。命の危険を感じたショウはそのままバーストダッシュで一目散に離脱した。
 そして、安全圏で玲奈から送られてきたメールを見る。
『ショウが缶を蹴り、さらに最後まで生き残ったら今回は許してやる。缶の倒れたエリアで逃げ回るのは無しね』
 しばらく無言、そののち声を漏らす。
「……勝利条件、厳しくね?」
 だが、やらなければやられるだけだ。彼の敵は守備陣営だけではない。
 そしてショウは缶を蹴るために移動を開始した。

 ……と、いう顛末があったが、彼にとっての誤算はこの東エリアだった。
(本物の缶はどれだ?)
 眼前の至る所に缶が並んでいる。
 本物は確かドクターヒャッハーの限定缶とのことだが、遠目からでは普通のドクターヒャッハーとそれほど区別がつかない。
 そうこうしているうちに、殺気が近付いていてくる。玲奈のものがあまりにも強すぎて、近くにいるということ以外はまるで分からない。
(く、どっちにしてもヤバイんなら……やるしかない!)

            * * *

(……身体を動かすのは得意じゃないけど……やっぱりいい暇潰しになりそう)
 美鷺 潮(みさぎ・うしお)は日陰に隠れながら、東エリアを移動していた。
 直射日光が苦手な彼女は、日傘も携帯している。太陽に晒されるようなことがあれば、すぐに開くつもりだ。
 彼女の現在地はどこかの企業の社宅の裏手の辺りだ。本物の缶がある学生寮まではまだ距離がある。
 が、彼女の前には早速缶があった。
 その中に本物があるかはまだ分からない。とはいえ、確かめる術はありそうだった。
(……ものは試し、といこうかな)
 体力がなければ魔力を使えばいい。単純な話だ。まずは様子見のために、使い魔のカラスとネコを放つ。
 しかし、付近に罠の気配はない。
(あとは……本物の缶はどれか)
 とりあえず近くに見えた缶を蹴りに行く。ところが、金属のカーン、という気持ちのいい音はしない。
(ダミー……ですか)
 ふと、近くのダンボールが動いたのが見て取れた。
 そこから、ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)が飛び出してくる。
「まずは一人!」
 と、きたものの、潮は光術で目晦ましをした。明るくなってきているとはいえ、至近距離で光が目に入れば十分に効果はある。
 続いて、雷術で磁場制御による移動を図る。だが、雷術の精度ではそこまでのことは出来ない。
 そのため、アシッドミストで視界をぼやかしている隙に、ヴェッセルから離れていく。
 だが、彼もそれだけで諦めるわけではなく追いかける。
 それでも、途中で追って来なくなったのを潮は確認すると、缶までのルートをもう一度考え直した。
 その頃、ヴェッセルが再びダンボールを被り、索敵を再開し始める。東エリアで缶から離れて攻撃側を捕まえに行っているのは、彼以外にもいるのだろうか。

「本物の缶はどこにあるんだろうねぇ」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は光学迷彩で姿を隠しながら、本物の缶の場所を目指していた。
「これだけあると、一苦労ですよね」
 缶、というだけならその辺に大量に転がっている。だが、そこに本物はない。姿が見えないのをいいことに、ギリギリまでダミー缶に接近してラベルを確かめる。
「もしかしたら、地上にはないのかも。例えば、建物の上とか」
 撹乱するにも、敵が篭城作戦に出ていれば勝手は違ってくる。缶を蹴りに攻めてくるのを待って一網打尽にすればいいのだから。
 とはいえ、多勢に無勢。攻撃側の方が数は多いのだから、ずっと缶の近くに張っている人は少ないはずである。
 それは彼が前に参加した空京の缶蹴りで感じたことだった。今回はルールも勝手も違うが、缶を守るという一点においてはそれほどの差はないだろう。
「まだ時間はありますし、本物を探しに行きましょう」

            * * *

 同じ頃、ルイ・フリード(るい・ふりーど)もまた東エリアにいた。
 色黒の巨漢が褌姿で居住区域を歩いているのは、異様といえばそうだが、パラミタでは常識に囚われ(以下略)である。
 もっとも、彼は歩いているわけではないのだが。
(まずは高いところから缶を捜索ですね)
 学院関係者専用マンションをイーグルフェイクと軽身功を利用して上っていく。しかも壁に密着し、陰に隠れたようになっているため、以外と見つからない。
 屋上に到達すると、空京で手に入れた観光ガイドを褌から取り出し、海京の欄を開く。海京の正式な地図はまだ一般には出回っていないため、このような形で手に入れるほかなかったのである。
(しかし、考えても缶がどこにあるかは検討がつきませんね。その辺に散らばってるのはどうやら違うみたいですし)
 ここに来るまでに見かけたのは、全てダミー缶だった。
(ん、あれは……)
 ふと、学生寮の屋上の一角が光ったような気がした。
 じっくり目を凝らしてよく見てみると、缶のようだ。
(他のダミーとは違ってあんなところに一つだけぽつんと……あれが本物でしょうか?)
 周りに守備の人間は見えない。
 光学迷彩や隠れ身を使われたら肉眼で確認するのは難しいが、おそらく近くで誰かが守っているのは確実だろう。
 だが、空から来ることは予測出来ても、今自分がこのマンションから特攻することを予想出来るだろうか。
(やってみますか!)

            * * *

「く……これもハズレか!」
 ダミー缶を消滅させるかの如きパワーで蹴り飛ばしながら突き進み行くのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)である。
 彼は逃げも隠れもせず、軽身功と神速でエリアを駆け巡っていた。むしろその勢いだけでダミー缶は倒れてしまうほどに。
(守りが薄い。これも作戦か?)
 実際、このエリアの守りは缶の近く――学生寮付近に集中している。
 そして彼はその近くの街路樹が立ち並ぶ遊歩道に差し掛かった。目の前には、またもや缶がある。
「――ッ!!」
 パァン、という銃声と共に、缶が勢いよくラルクの顔に向かって飛んできた。
「どこだ!?」
 狙撃位置が特定出来ない。銃声のした位置的には、そう遠くはないはずだ。怪しいのは学生寮の上だが……
(あれは、缶か?)
 ちょうど建物の屋上の端に、缶が見えた。狙撃してまで足止めをするということは、おそらくあれが本物だからだろう。
 ここから先は一筋縄ではいかなさそうだ。
 さらに連続して銃声が響く。
(この射撃精度、まさか……葱か!?)
 だが、姿は見えない。ここを通り缶を蹴るための第一関門は、姿なき翡翠を突破することのようだ。
「くそ、見つかったてたのか……捕まってたまるかよ!」
 駆け出そうとするが、付近にあるダミー缶のどれが飛んでくるか分からない。かといって缶に気を取られている隙にタッチされないとも限らない。
 咄嗟にダミー缶の一つを拾い上げるラルク。どうやら砂が詰まっているらしい。
「!」
 そこである閃きが訪れた。
「よし、葱、勝負だ!」