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怪人奇獣面相侵入事件!

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怪人奇獣面相侵入事件!

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【File3・戦う生徒たち・2】

P.M. 12:35

 校舎の外で数々の戦闘が行なわれている一方、
 中でも大変な事態が数々起こっている。特に三階のコンピューター室は、既に相当な数のツタに絡めとられていた。
「まずいな。完全にツタに部屋を占領された」
 そこに閉じ込められているのは湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)と、そのパートナーたち。
「それにしてもこのあからさまに怪しいメールは一体……てかこいつが犯人なんじゃ?」
 凶司はパソコンの前でメールについても考えながら、部屋に脱出ルートが残されていないかどうかも検索していた。
 その隣で、中に侵入してきたツタを薙ぎ払いながら部屋を進んでいるディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)
「なにをぼさっとしてるの凶司!? あなたも手伝いなさ……えっ……や、槍が!」
 彼女は先頭に立って、忘却の槍を手に内部を必死に切り開いて奮闘していたものの。
 やはり狭い室内という悪条件に加えて多勢に無勢、やがて槍の先端がツタにひっかかり、そこへ別のツタが横からからめとってしまった。
「放しなさい、この……いやぁぁぁぁぁー!?」
 しかも武器に意識を向けてしまった隙をつかれ、他よりも細めのツタがしゅるしゅるとまるで蛇のような動きで巻きついてきた。
「あ、う……っ! く……離しな…………痛っ!」
 腕にもツタが巻きついて、更にギリリとディミーアの身体を締め付ける。
 その無情な圧迫に、着ていたヴァルキリードレスに限界が来て右肩から腹の部分にかけて縦に大きく亀裂が入った。凶司からは死角になっていたが、正面に回れば隙間から下着が見えたことだろう。
 現に、星輝銃で援護をしていたセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)からはしっかり見えていた。
 彼女は姉の色んな意味での危機に焦りを見せ、
「凶司ちゃん、脱出ルートはまだわからないのぉ?」
 戦闘中でありながら、敵ではない方へ視線を向けてしまった。
 ツタ達はそこを見逃さず、背後から一気に襲い掛かり。ものの数秒でセラフをがんじがらめにしてしまった。
「むぐっ……わ、ど、どうしよう。あたしまで捕まっちゃったよぉ!」
 今更のように銃を放って追い払おうと試みるも、手首にツタが巻きついたことで指に力を込められなくなり、ついに手も足も出なくなってしまった。文字通りに。
 それを見て、凶司は表情を変えぬまま、ディミーアは余計に顔色を曇らせた。
「ひゃぁっ! ちょ、ちょっと、どこに……きゃ!」
 最初は思ったほど締め付けられることもなかったので割と余裕を見せていたセラフだが、足元から自分のヴァルキリードレスの中へとツタがのぼってきたことで、一気に顔色が変わった。
「あぁん、は、はやく助けに……ひぃんっ!」
 しゅるしゅると、太腿のあたりにまでツタが巻きついていく。
 身体を絡めとられる感触に思わず艶かしい声が漏れ、荒く息を吐くセラフ。
「…………」
 そうしたふたりのあられもない姿を目の当たりにして、凶司は。
(脱出は一時中止だ。この状況を堪能させてもらうか)
 という邪な思いにとらわれ、ハンドコンピュータを取り出して弄ばれる様子を撮影し始める。
「ちょ、ちょっと凶司! なに撮って……あ、やっ!」
「おいしいシチュとかヘンな事考えてると、あたしも怒……て、ちょっとぉ!?」
「心配するな! 俺は三次元の女にやらしい気持ちは抱かない! これは、ただの普段のウサ晴らしだ!」
「気合い入れて叫べばなんでもカッコよくなるとでも思ってんの!? や……んんっ!」
「あ、いやっ……覚えてなさいよぉ……」
 怒りで目を血走らせているディミーアと、うらめしげに睨んでいるセラフ。
 しかし非難は涼しい顔で右から左に聞き流して、撮影を続ける凶司。
 この行為は世の女性を敵に回すこと確実と言えた。
 既にディミーアもセラフも着ていた服は、破れている箇所のほうが少ないほどになり、肌もかなりの部分が露出されてしまっている。ツタに巻きつかれていることもあって、更に卑猥さをかもし出していた。
 唯一の救いとしては、ツタたちは絡めとっただけですぐにとって食うわけではないらしいことだった。だが連中も獲物をいよいよ捕食するつもりなのか、ズルズルと後退し始めていく。
 凶司の視認ではどこにこのツタの大元がいるのかは不明ではあったが、さすがにこれ以上はマズイかと判断し、ダンと地面を強く踏んでバーストダッシュで跳躍する。
 彼はもとより、ふたりに命の危機が迫ろうものなら助けに入るつもりでいたのだ。
 勢いを利用したままツタへとぶつかり、壁へと衝突させた。
 そのスピードを殺さぬまま、衝突で束縛が緩んだディミーアとセラフを背負うように抱え、もう一度のバーストダッシュで既にガラスが失われた窓から外へと飛び出した。
「ちょっ、凶司! ここ三階……!」
 あまりの暴挙にディミーアは驚愕しかけたが、浮遊感は一瞬だけですぐにまた固いコンクリートの感触が足に届いた。
 わけがわからず下を確認してみれば、三人は二階から伸びた渡り廊下の屋根部分に着地する形になっていた。どうやら凶司はとっくの昔に、脱出ルートを調べ終えていたらしい。
「よーし、これでもう安心だな。ふたりとも僕に感謝しぶべあ!」
 凶司は余裕の表情で笑みを浮かべたが、そのコンマ0.1秒後にディミーアの忘却の槍の石突でブン殴られていた。ちなみに槍を持ってないほうの手は胸元を押さえている。
 肉体的にも精神的にも疲弊させられたセラフは、殴る気力も無いのか深く息を吐きながら仰向けに倒れ伏した。
 そのとき、ガガガガ、とスピーカーから雑音が流れてきた。
『あー。あー』
 かと思うと鉄心の声が聞こえてくる。どうやら無事放送室に辿り着いたらしい。
『よし聞こえてるな。蒼空学園の諸君、俺はシャンバラ教導団の源鉄心だ。今から安全なルートの指示を行なうから聞いてくれ。っと、その前に動けない人の為に救援要請の電話番号を教えておく』
 そうして番号を伝えた後、ルートを出来うる限りわかりやすく解説していく。
 やがてあらかたの説明が終わって、
『ティー、せっかくだから何か面白いこと言ってみろよ』
『えぇ!? な、なんですかそれ!』
 鉄心の唐突な無茶振りに、ティーは大いにうろたえる。
『あー、えーと。大変なことになりましたけど……お昼ごはんはサラダが食べ放題? ですね。……皆さん、頑張ってください』
『んー、あんまり面白くはなかったね』
『無理やりやらせておいてそんな辛口評価ですか!?』

 悠介はその放送に思わず苦笑しながら、伸びてくるツタを綾刀でなぎ払っていた。
 数が数だけに纏わりつかれないよう気をつけながら、走り回り生徒を探している。
 そして二階の職員室の中へと飛び込んだところで、ツタに軽々と持ち上げられている女子生徒の姿が飛び込んできた。
 確認して理解が追いつくか追いつかないかの時間で、悠介は転がっていた誰かの机を蹴飛ばしながら、もう斬りかかっていた。
 女子生徒をからめとっている為に、素早い対応ができなかったツタは綾刀にあっさりばっさりと一閃される。
 そのまま悠介は特に表情を変えることもなく、落ちそうになった女子生徒を寸前で抱きとめる。もっとも片方の手に刀を持っているため、お姫様だっこでなく肩に背負うような格好になったが。
 女子生徒は涙目になってしがみついてきたので、すぐに職員室を後にしてユーニス達のおかげで安全圏となった階段近くまで引き返した。
 その女子生徒もモンスターからだいぶ離れられたのを悟ると、感謝の言葉を述べて自分の足で立ち、走り去っていった。
「ふぅ……今の生徒で何人目だ? せめて放課後になってれば、もう少し生徒の数も少なかっただろうに。あと何人残ってることやら」
 残された悠介はぼやきつつ、あることに気づいていた。
 ツタはあちこちの地面から生えているため、出所がどこかは判別しにくい。
 けれど伸びていく先は、ほとんどが同じ方向なのである。
(例のメールによると、花が植物を引き寄せるってことらしいけど。ならばその先に花があるはずだよな)
 悠介としては、犯人なら普通安全な場所でのんびり見物でもしているものだが。
 しかし、相手が相手なので。
 この危機的状況を楽しんでもっとも危険な場所にいる可能性が高いのではと考えていた。
「いっそ元凶を捕縛してしまえば、ことは早く済みそうなものだけど」
 と呟く悠介の耳に、また誰か生徒の悲鳴が届いてきて。
「今は、生徒の救出が優先だな」
 彼は疲れた足を自覚しながらも、再び走り出した。

 ある教室で芦原 郁乃(あはら・いくの)は、縄で縛られていた。
(何が? どうして? こうなった?)
 郁乃の目の前には迫る男達の姿がいる。制服からしてどうやら、蒼空の生徒達らしい。
「アニキ。間違いないんですかい?」
「ああ、すれ違ったとき蜂蜜に似た匂いがした」
「だとしたらビンゴ……あのメールの情報通り……」
 男達は少し笑って眺めながら、どうするかを思案している風だった。
(確かいつもと変わらない朝だったよね? いやちょっと違ってたかも珍しく朝ごはんをパン食にしようと思い立ったからところが普段しないことをしたからだろうか棚の上に乗っていたマーマレードのビンを掴み損なって頭の上に落としちゃったんだよねで結果として珍しいことに朝シャンすることになって)
 郁乃の頭の中ではぐるぐるとここに至るまでの出来事が駆け巡る。
 しかしそんなことをやっている場合でなく、三人の中でもリーダー格っぽい強面の男がぐっと顔を近づけてきた。獣人らしくかなり毛深い顔をしている。
「それで、アンキラの花はどうしたんだ。持ってんだろ!?」
「え? アン……なに? その花がどうかしたの?」
「とぼけるな! 蜂蜜に似た甘い匂いがするのはアンキラの花を持っていた証拠だろ」
 問い詰められても、本当に事態を理解していない彼女は首をかしげるだけで。
「アニキ。こうなったら、この女ひんむいて探してしまいましょうよ」
「チッ。しゃあねぇか、無理やりってのはオレの趣味じゃねぇんだが」
 平然とトンデモナイことを言ってくる男達に、さすがに郁乃は身に迫る危機に顔色を青色に変える。
「ちょ、ちょっと。私はほんとになにも知らないんだってば! 信じてよ!」
「信じるかどうかは、花を確認すりゃわかることだ」
「……待って」
 リーダー男の手が郁乃の服に触れようとしたそのとき。
 ブツブツと篭るようなしゃべり方をする男が、窓を眺めながら呟いた。
「今気づいたんだけど……植物モンスター……ここにあんまりちかよってない」
「あ? どういうことだ」
「おそらくこのひと……アンキラの花、持ってない……蜂蜜の匂いは香水か何か……別の要因があるんじゃないかと推測……」
「そ、そうよ! 朝にマーマレードの頭から被っちゃったから、そのせいだよ!」
 必死に弁明する郁乃に、リーダー男は今一度彼女の頭からの香りを嗅いでみる。
 すると確かに、ただの蜂蜜でなくマーマレードっぽいにおいがした。
 男は念のため身体にも鼻を近づけて探ってみるが、やがてシロだと理解したのか軽く舌打ちして、
「チッ、紛らわしいんだよ!」
「アニキ。だとしたら、こうしてる時間惜しいですよ!」
「……正解……一刻も早く本当の犯人を見つけるべき……」
 そして、三人はそのまま去っていってしまった。
「え? ちょ、ちょっと待って! 縄といていってよぉ! ああもう! なんで? どうして? こうなったのよぉ〜〜!!」
 ちなみに郁乃は、数分後に現れた悠介によって助けられた。

 食堂にいる霧雨 透乃(きりさめ・とうの)と、パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)月美 芽美(つきみ・めいみ)達は、すっかり参っていた。
 原因は、ぐー、と景気良く鳴る腹の虫である。
 騒動が起こったのは昼の十二時。それから学園は大混乱になって。それは食堂も例外ではなく。食堂のおばさん達もとっくに避難しており。
 以上の事象より導き出される解は、ここでいくら待っていても何も食べられないということだった。
 そんななか透乃は、窓の外でうねるツタを眺めながら、あることを思いついていた。
「……このツタはアンキラの花に呼び寄せられたものらしいね。ということは、多分野生のモンスターだよね? ってことは、食べれるはずだよね!? お昼ご飯もろくに食べられなかったし、このツタを料理しちゃおう!」
 なんだか空腹が極限に達して壊れているのではと思われそうな勢いだったが、透乃は真面目だった。
「透乃ちゃんは本当に食べることが好きね〜。植物といっても蔦だから、あまり美味しそうには見えないけど……それを美味しくするのが料理人ってことかしらね〜」
 芽美はそんな彼女に呆れ半分で、適当に同調しておいた。
「植物のモンスター……動く蔦ですよね? 食べる、という発想をする人はあまりいないと思いますが、利用して遊ぶ人は結構いそうですね。縛ったり拘束したり……べ、別に私は蔦に絡まれて自由を奪われた状態で透乃ちゃんに罵られながら少し痛いことをされたりいけないところを弄ってもらいたいなんて考えて……はぁ、想像しただけで……」
 妄想に浸ってトリップしている陽子は放置し、
 思い立ったが吉日とばかりに透乃は急いで購買で調味料をあらかた購入して(購買の兄ちゃんは、騒ぎはいつものことだとして避難していなかった。なかなかに肝の据わった人らしい)、その足で調理室へと向かった。
「さぁて、早速準備だよ。器具を勝手に使っちゃうけど……ま、いいよね」
 いそいそと準備を始める透乃に、平静を取り戻した陽子もそれを手伝っていく。
 そして。ひとり調理室前で控えている芽美はというと。
「それじゃ、ま。私は食材確保に勤しむとしようかな」
 ついに食堂にまで入り込んできたツタを一瞥しながら、むしろ好都合とばかりに口元を嬉しそうに歪めた。
 ス……と、右手を軽く上げると。
 闇黒ギロチンが虚空より次々出現し、芽美は特に大きな動作をすることもなくスパスパと近寄ってくる連中を斬り裂いていく。
「やっぱり植物だから、痛がったり苦痛に悲鳴をあげたりはしないのね? そういうリアクションのあるほうが殺り甲斐があるのだけれど」
 斬ったツタは手早くぽんぽんと陽子へと渡し、
 受け取った陽子は念の為ナーシングできれいにしてから透乃へ渡し、
 それを受け取った透乃は用意しておいた、とき卵をかけて更に衣をまぶし油の中へ。
 そうした工程が行なわれている外で、芽美は次の獲物を斬らんとするが。
 そのとき、怯えたようになって近づいてこないツタの様子に気がついた。
「ん? まさか怖がってるの? ふぅん、植物にも生存本能があったりするのかな?」
 気がついて、しかし芽美はそれで手をゆるめるどころか、より笑みを深くして。
「ふふ。恐怖に怯えて何も言えない相手を斬るっていうのも、それはそれで楽しめるかな」
 邪悪な一言で、更にツタ達を怯えさせていた。
 何本かのツタは芽美の足元をすり抜けて、透乃や陽子を先に仕留めようとも試みるが、
「はいはいっ、調理の邪魔しないでねーっ」
「ごめんなさい。私たちだって別に弱くないんです」
 気づいた透乃が、中華鍋を振る際の勢いを利用し、肘に爆炎波を纏わせての肘鉄でツタを弾き飛ばして。
 壁に激突し、ぴくぴくとしぶとく動くそのツタを、陽子が火術でトドメをさしていた。