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怪人奇獣面相侵入事件!

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怪人奇獣面相侵入事件!

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【File5・彼女達は】

P.M. 12:39

 影野 陽太(かげの・ようた)は屋上で携帯電話の液晶画面を眺めていた。
 彼はユビキタスを用いて、アンキラの花についてのより詳しい情報を集めようとしているのだ。が、
「あまり有益な情報はありませんね……」
 メールに送られていた以上の情報といえば、夏から秋にかけて咲く花だとか、その香りは約千メートル以内の植物モンスターを誘うという程度だった。
 一応記憶術で頭には留めているものの、あまり役に立たないだろうなと気落ちする陽太。
 そのうえ生徒にも聞き込みをしてみたものの、逃げるのに必死な者が大半で、話を聞いてくれてもメール以上の知識を持った者はおらず。益々落胆に拍車がかかる。
「でも、へこたれてばかりいられません」
 環菜の留守中に学園の平和を乱すわけにはいかない、として陽太は写真入りロケットを見つめ、気合を入れなおした。
 気持ち的にもそのままの意味でも前を向きなおした陽太。
 そんな彼の視線に、小型飛空艇に乗って空から花を捜索中の天城 一輝(あまぎ・いっき)と、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が映った。
 実は一輝たちは上空からデジタルビデオカメラでツタモンスターを撮影し、それをHCを経由させて皆へと送っており。その情報を受け取っていた陽太は、細かいやり取りは省いて彼らに向かって叫んだ。
「さっき、俺の銃型HCにも映像来ましたよ。あれから進展とかありましたか?」
 陽太の呼びかけに、一輝たちは降下して話し始めた。
「実は、さっき管理棟に足を運んだ際に、エレベーターに閉じ込められている植物学者の人から指示を受けたんだ」

 そのときの会話内容は、
「つまり、俺は例の花がフェロモンとかを風に流しているのかも知れないと考えたんだ。もしそうなら、風下にいるツタが何らかの反応を示している筈だと思うんだけど」
『ああ。アンキラの花には確かにそんな性質がある。大元を辿るにはツタのほうから逆算したほうがわかりやすいだろうな。ただ……』
「ただ?」
『ツタの種類が俺の考えるとおりなら、人間を捕食する性質も持ってる筈だ。だからイレギュラーな動きをするツタも混じってるから注意したほうがいい』
「なるほど。わかった、気をつける」
 主にそういったことだったのだという。

「それで俺たち、今もツタモンスターの動きを上から観察していたんだけどな」
「方向感覚も使って、ツタの反応を注意深く見ていて気がついたんですわ。ツタたちは多方向から、特定のある一点に向かい続けていることに」
 一輝達のもたらした有力な情報に、陽太は思わずふたりに詰め寄って、
「そ、それで? アンキラの花は一体どこに」
「それは……」

P.M. 12:50

 ルルナ&幻影少女コンビのふたりは、今は氷室 カイ(ひむろ・かい)レオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)。更に杵島 一哉(きしま・かずや)アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)と行動を共にしていた。
 さきほどの大教室を抜ける際の乱戦で、護衛が彼らに受け継がれたらしい。
「よし、目の前のツタはあらかた仕留めた。このまま一気に駆け抜けろ!」
「わかりました。皆様、いきましょう!」
 カイが処刑人の剣で群がるツタを切り裂き、レオナはトミーガンで援護射撃をして通路を開いていく。その後にルルナ達が続いて、しんがりは一哉たちがおさえる形で走る六人。
 さすがに走りっぱなしで、ルルナも幻影少女も苦しそうに胸に手を当てている。
 しかしどうにかツタの包囲網を抜け、ようやく避難ルートの出入り口まで到着していた。
 出入り口付近には、互いの安否を心配しあう蒼空生徒たちが十数名まだ残っている。
「ここまでくれば、大丈夫でしょうか」
 その喧騒にアリヤはスナイパーライフルの銃口を下げ、膝をついて苦しそうにしているルルナの背中をさすってあげる。
 一哉も肩の力を抜きつつ、ルルナが床に落とした花束を手に取る。
「すまない。この花束、ちょっと見せて貰ってもいいかな」
「あ、はい……でもこれ、もう花が……」
 ルルナが悲しげに示すとおり、それはもうほとんど花が無くなってしまっていた。
 なにせあちこち走り回り、時に転倒し、時に攻撃されそうになったものだから。大半は途中で落としてしまい、残ったものも花びらがほとんど散ってしまっていたのだ。
 それでも念の為に一哉は花束を調べてみた。
「どうですか? なにか怪しいところはありましたか?」
 調査中に邪魔が入らないよう、念のためアリヤは周囲へ警戒しながら問いかける。
 一哉としても別の花に偽装している可能性も考えて念入りに見てみるが、
「残念だけど、この中にはないみたいだ」
 早々にそれらしいものがないことを調べ終えた一哉は、改めてふたりに視線を送る。
 涙目のルルナと、それを慰める幻影少女の表情から判断して、彼女らが偽者とはとても思えなかった。が、やはりそれすら演技と疑う必要があるのも事実だった。
 同行中のカイとレオナも、実のところふたりが偽者でないかと疑っていた節はあった。
 なので護衛しながらも、怪しい動きをしないかと目を光らせておいたのだが。
「特に目立った動きはしてなかったな」
「そうですね。やはりおふたりは今回の事件の主犯ではなかったのでしょうか?」
「かもしれない。でもそうだとしたら、本当の犯人は一体……ん? なんだ?」
 そのとき。
 一哉やカイ達の銃型HCに、ある情報が受信された。
 発信者は、影野陽太と天城一輝の連名。
 その内容は、ツタが集まろうとしているのは、エレベーター近辺だという情報だった。