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リアクション
●詰め所にて2
「じゃぁ、これをお願いするわね」
「了解しました」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は借りたファイルをハールインに返すと、貴賓が到着する表門の方へと向かう。
着いた時には、エリザベートが神代 明日香(かみしろ・あすか)と百千万億・真綾(つもい・まあや)を伴ってやってきたところだった。
三人とも王子様のような可愛らしい姿だった。
小さい子がタキシードを着ると、とても可愛らしい。
「いくせんまんちゃんは、うるさいですぅ!」
明日香は棒付きキャンディーを振り回して言った。渦巻き型のやつである。
「ちーがーうーですぉ。ひゃくせんまんおく って書いて、つ・も・いって読むですぉ」
「いくせんも、ひゃくせんも、同じですぅ〜。どっちにしろ、桁が多いんですぅ」
「ぬぬぅ…学校に帰ったら、勝負ですぉ!」
「魔法なら、負けないですぅ。でも、なんで勝負なんですかぁ〜」
「簡単、明快、やって楽しいからですぉ」
「え〜、むちゃくちゃなんですぅ」
「二人とも、他の招待客の前ですぅー、静かにするですぅ」
「「はぁーい♪」」
三人は黒塗りの車、リンカーンから降りた。
車から降りたエリザベートにルカルカは挨拶する。
ルカルカは女性貴賓の案内兼SPをする予定になっていたが、ミーミルの名付け親であり、エリザベートと仲の良いルカルカは彼女にピッタリのSPであるということで期待されていた。
「いらっしゃいませ、エリザベート様」
ルカルカは悪戯っぽく笑って言った。
普段とは違う口調に、エリザベートは物珍しそうにルカルカを見て笑う。
「そんな言い方はぁ、なんか、変ですぅ〜」
「折角、正装までしてるんだから、言葉まで正さないと…他のお客様にも失礼だわ」
「確かにそうですぅ。でも、私にそんな気遣いは無用なんですぅ〜」
普段通りに接して欲しいとエリザベートは言いたいらしい。
ルカルカは笑って頷いた。
「さぁ、こっちよ」
ルカルカは楽しげに歩き始めた。
エスコートするのが楽しい相手だ。
可愛いし、友達だし、なにより楽しい催しに招待するとあってワクワクする。
「そうそう、前から言おうと思ってたことがあるの。私の国にはね、【名は体を現す】って…【言魂】って考えがあるのよ」
「何の話ですかぁー」
「イルミンの樹のことよ。簡単に言うと、名は存在を定義づけし、言葉には力があるって事。魔術の基本と同じね」
「ふむふむですぅ〜」
「あの樹はこの前一気に育ったし、もっと強く大きく成れる。だから【ちび】じゃなく【成長期】って胸張っちゃえばいいわ♪」
「そうですぅ! まだまだなんですぅ! …ずっと、言おうと思ってたですかぁ?」
エリザベートには、ルカルカが色々と気を使ってるのがわかった。
「覚えておくですぅ〜。もっと大きくなってやればいいのですぅ〜!」
エリザベートは両手で拳を握り、グッと挙げて言った。
そんな様子に、ルカルカは楽しげな笑みを浮かべ、妹のような友人を見つめた。
ルカルカより多少離れ、入口・遠方・全体に視線を飛ばし警戒していたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、警備担当者専用の受付にて起きた騒動を連絡してきた。
クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)のパートナーたちが着替えないでやってきたのである。
少し前のこと。
クライスは受付の人間が休憩に入るので、代わりを努めることにした。
普段の授業で身に付けた通りに優雅に応対し、他校生徒の…たぶん、男装してきているであろう参加者は、クライスの姿に頬を染めていた。
もちろん、そのことには触れず、笑顔で対応する。
記帳をお願いし、クライスは相手が武器等を持っていないことを確認すると中へと誘導する。
そして、今度は貴賓のお付きの方々であろう吸血鬼たちを別のテーブルに誘導して記帳をお願いした。
貴賓の方々は、別の生徒が誘導していった。
「本日は薔薇の学舎へようこそ。ここより先は耽美なる世界、世俗の事など忘れ存分にお楽しみ下さいませ」
そして、そのお供の人に避難経路等を記した見取り図とプログラムも一緒に渡す。
「ようこそクラリス様…って、あれ?」
クライスが気が付いた時には男装していず、逆に女の子らしいドレスでめかし込んだクラリス・クリンプト(くらりす・くりんぷと)とサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)がクライスの方へと走ってくるところだった。
遠くからお兄様と慕うクライスの姿を見ていたクラリスは嬉しくなって弾けるような笑顔で駆けて来る。
学校にいるクライス会うことって殆どない。目に焼き付けようと瞳を輝かせていた。
「お兄様ー! エヘヘ、来ちゃった」
男装していない相手に、クライスは目を瞬かせている。自分の身内がそうしていることに驚いていた。
だが、「お兄様もやってるんだから、わたしもレディーらしくふるまわないと!!」と、健気に考えているクラリスにはその焦りが届いていなかった。
「あ、そだそだ……ほんじつは…えっと、お招き頂きまして、マコトにありがとうございます?」
裾持ってちょこんと、可愛らしく挨拶する。
「ごきげんよう、クライス様。ご壮健のようで何よりですわ」
こちらもまったくもってわかっていない、サフィだった。
そして、丁度やってきたダリルがその場を発見し、御用となったのであった。
ルカルカの声が携帯から聞こえた。「じゃぁ、受付の横に着替え室あるから…そこで着替えてもらってね」と、ルカルカは指示してきたのだった。
クラリスとサフィを回収し、ダリルは見えないように衝立を置いた着替え室の前でルカルカに連絡していた。
「じゃあ、着替えさせたら受け付けさせるからな」
『お願いねー♪ …ん?
(一緒に来るといいんですぅ〜)
…はぁ?
(三人も四人も同じですぅ)
…呼んじゃっていいのかしら?
(ちーっとも平気ですぅ
…だって…』
「なるほど…」
ダリルはそれだけ言うと、サフィとクラリスの方を見た。
小さい子は小さい子同士で観覧と相成ったのであった。
一方、詰め所付近では、
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)たちが休憩していた。何かがあれば休憩は出来ないということで早めの休憩だった。
ヴィナの隣にはルドルフ、そして、かつて獅子小隊のメンバーと一緒に行動を共にし、【鋼鉄の獅子】入りを希望しているらしい教導団員の大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)、天御柱学院の御剣 紫音(みつるぎ・しおん)、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)がいた。
御剣はその容姿から、通りかかる生徒の注目を集めていた。
ヒルダは駐屯所から出てこない。
「花の乙女が男装なんて!」
と怒っているのだ。
ヴィナはタシガンが情勢的には安定してないことを憂い、ルドルフと話し合っていた。
「この状態ですからね…なにか手伝えればいいんですけど」
ヴィナは言った。
ルドルフは遠くを見るような表情をした後、ゆっくりと頷いた。
「君も真剣にイエニチェリを目指したらいい。…あぁ、でも君がいつでも真剣なのは知っているよ」
「えぇ、そうですね。イエニチェリにはなりたいけど、俺は固執はしませんよ。大切なのは、その地位の為に動くことではなく、自身の想いの為に動くことですから」
「そうだね…その通りだよ」
ルドルフは頷いた。
「君はどうだい?」
休憩中であるほかの警備担当の人間にも言って見た。
相手は大熊である。
「獅子小隊に配属されるよう、粉骨砕身努力する所存であります!」
そう言い切る大熊の口調は、どこか棒読みっぽい。後ろ手に漫画を持っている。
その事に気付いていたルドルフは溜息を吐いた。
そして、休憩していると、詰め所近くにある受付で女性客らしい人間が来たと連絡があり、ルドルフと御剣はそちらに向かった。
薔薇学生徒の友人がいると言っているのは教導団のクロス・クロノス(くろす・くろのす)だった。
「今回オペラとパーティーですけど、この格好で浮きませんよね?」
白のブラウスと黒でパンツタイプのパーティースーツを着て、胸に白系のコサージュを付けてやってきていた。
やはり女性に見えるので、着替えてもらうしかない。
「申し訳ないですけど、本校は女性の立ち入りは禁止です」
御剣はいつもの口調を変えて、丁寧に言った。
相手は少し驚きつつも、こちらの要求には全面的に協力するつもりらしい。
「申し訳ありませんが、こちらで着替えをお願いします」
御剣が緊張しつつ言った。
申し訳ないことをしたかなという顔をしてから、クロスはゆっくりと頷いた。
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