天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

リアクション公開中!

【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン 【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

リアクション

 
 
 
 庭でのもてなし
 
 
 
 外はもう肌寒い季節だけれど、庭には暖かな日の光がさしていた。
 その庭には普段は置かれていないテーブルと椅子がセットされ、飲食が可能なスペースが作られている。
「貰ったお菓子食べる子は、こっちへどうぞ〜♪」
 ミミちゃんもね、とモリーは子供と一緒にミミを庭へと案内してきた。
 図書館の中ではお菓子を食べてはいけない、ということは知っていても、子供にとってそれを我慢することは結構たいへんだ。ダメ、と禁止してしまうよりも、食べられるところに行こうと連れてきたのだ。
「ようこそいらっしゃいました〜。こちらでもハロウィンにまつわるカボチャのお菓子をたくさん用意してありますので、遠慮なく召し上がって下さいねぇ」
 メイベルは皆で作ったお菓子をふるまって、ミルムを訪れた人々を大人子供の別なくもてなした。
 お茶とお菓子を楽しむ人の邪魔にならぬよう、少し離れた所で宮本 武蔵(みやもと・むさし)が組み立て式のテーブルを設置し、その上に携帯式のガスコンロをセットしている。
「さて、と。次は水か」
 水のタンクを運んだり風除けを立てたり、と武蔵が力仕事を主にしている間に、坂崎 今宵(さかざき・こよい)は手際よく材料の下ごしらえをしていった。
 白菜やネギ等の野菜、きのこ類はきれいに洗って食べやすい大きさにカット。皿の上に盛る。
 人参はカボチャや星の形の型で抜いて、他の野菜の上に散らしてゆく。
 肉には特製のピリ辛タレで下味をつけて。
 九条 風天(くじょう・ふうてん)は大人用と子供用、味付けを変えて2つの鍋のだし汁の用意。
「風天、私にも料理を手伝わせろっ」
 自分もやってみたくなり、白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)もそう言い出したけれど、今宵にいけませんと止められた。
「姉さまは雑にやるからダメです。大きさを揃えて切るのは見た目ばかりでなく、煮え具合や食感にも関わる重要な行程なのでございますから」
 そう言われれば、今宵の言うことに一理ある。
「し、しょうがないな」
 適材適所という言葉もあるからと、セレナは諦めて自分に出来そうな手伝いを考えることにした。
「大将、鍋が温まってきたようだぜ」
 風除けの向きを調整し、武蔵が風天を呼ぶ。
「ありがとうございます。と言っても、今宵がやる気満々で下ごしらえしてくれたのだ、材料を鍋に入れて見守るぐらいしかする事がないですね」
「そうだな。なら後は大将に任せて俺は休憩にしようか」
 さっそくさぼろうとした武蔵に、今宵の厳しい声が飛ぶ。
「武蔵さん、さぼってると鋭い蹴りをお見舞いしますよ!」
「ああ、はいはい」
 武蔵はそそくさとまた動き始めた。
「まったく……どうして殿と違って武蔵さんはこうもだらなく適当でずぼらなのでしょうか」
 はぁ、とため息をつくと、今宵は魔法使いの衣装のマントを翻し、追加分の野菜の準備に取りかかった。
 そしてほどなく。
「魔女の大鍋が煮えましたよ」
 ブラックコートにパンプキンヘッド。カボチャの執事の仮装をした風天が湯気のたつ鍋をかき回して来館者を呼んだ。
 結構頭の部分が重くてぐらぐらするけれど、これもハロウィンの気分を出す為と我慢我慢。
 真っ赤な汁の鍋はラテルの人から見たらまさしく魔女の食べ物だけれど、実は身体の温まるキムチ鍋だ。
「最近はずいぶんと冷え込むからな。鍋料理は温まるぞ」
 フランケンシュタインの格好をした武蔵も、緑色の顔で呼び込みながら真っ赤な料理をぱくりと口に。
「武蔵さん、つまみ食いはいけませんよ」
「見慣れぬ食べ物なんだから、食べてみせた方が警戒されないだろう? うん、うまい!」
 今宵の注意にも負けず、武蔵はキムチ鍋に舌鼓。
「よし。私が人を集めてやろう」
 やっと自分の出番だと、セレナは火術を操って、鮮やかなイルミネーションを見せた。踊る炎の彩りに、何かこちらでもイベントをやっているようだと、人が集まってくる。
「この器をお使い下さい。箸が苦手な方用にフォークも用意してありますから。ああ、そっちは辛いですから子供さんはこちらの鍋にした方がいいですよ」
 集まってきた人々に風天は使い捨ての紙容器を配っては、魔女の赤くて辛い鍋をすすめるのだった。
 
 
 
 さっくり焼き上げたクッキー生地の中に、カボチャのフィリングをたっぷり流し込んで、それを熱くした薪オーブンの中に入れ、待つことしばし。
 お菓子はできあがるまで何が起きるか解らないもの。ましてや普段使い慣れない薪オーブンともなれば、焼き上がるまではずっと不安だ。
 ちゃんと焼けたかと神代 明日香(かみしろ・あすか)が頃合いを見てオーブンを開けると、パンプキンタルトにはおいしそうな焼き色がついていた。
「これでできあがりですの?」
 明日香がお菓子を作る様子をじっと見ていたエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が、甘いカボチャの香り漂うタルトを興味津々で眺めた。
 突飛なことをしでかしたりしないよう、ミルムにいる間はずっと傍にいるようにと明日香に言われ、キッチンにも同行していたのだけれどエイムにはお菓子作りのことはさっぱり解らない。明日香がやるのを見ては、何をしているのか、どうしてそうするのか、とずっと尋ね続けている。
「はい〜、大成功ですぅ〜」
 こんがりと焼き上がったらしっかり冷まして切り分けて。
 とろーりとゆるく泡立てた生クリームを垂らせば、美味しいパンプキンタルトのできあがり。
「カボチャのお菓子といえば、やっぱりこれですよねぇ」
「そういうものなんですの?」
 よく解らない様子で聞き返したエイムに、タルトの出来映えに満足している明日香は機嫌良く答えた。
「そういうものなんですよ〜」
 
 タルトは美味しいけれど、持ち帰ってもらうにはこの形では難しい。だから、できあがったタルトは飲食OKになっている庭で提供することにした。
 飲み物はタルトの味を邪魔しないように、シンプルな紅茶を選んだ。ブランデーを垂らしたりして凝ってみたくはあるのだけれど、子供にはそういうのは不向きだろうから。
「ノルンちゃんとエイムちゃんも食べますかぁ?」
 味見をどうぞと椅子を引きかけて、その前に、と明日香は荷物を開いた。
「はい、ノルンちゃん〜。ハロウィンの仮装ですよぉ〜」
 荷物から楽しそうに魔女の衣装を取り出した明日香に、そうだったのかとノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は納得する。
 タルトの材料が入っているにしても荷物がちょっと大きすぎるのではないかと思っていたら、こういうことだったのか。
 『運命の書』ノルンは実際に地球のハロウィンを体験したことはないけれど、どんな行事なのかは知っている。子供に限らず、皆が思い思いに仮装して家々を回ってお菓子をもらうのだ。
 子供だけのイベントではないからと納得して、ノルンは明日香の持ってきた衣装に着替えた。
「この格好でいろいろな家を回るんですね」
「そうですよぉ。ノルンちゃんみたいな可愛い魔女が来たら、きっと家の人も大喜びですぅ」
 街の人の反応が楽しみだけれど、その前にまずはタルトをと明日香は2人に完成したばかりのタルトを出した。
「上手に焼けていますね」
 行儀良く椅子に座ってタルトを食べるノルンは、ちび魔女衣装も相まって可愛い。
 明日香より先にエイムが我慢できなくなって、ノルンの後ろに回り込むと突然抱き上げた。
「ノルン様、可愛いですの♪」
「あっ……」
 不意に抱き上げられたノルンは、手にしていたフォークからタルトを落としそうになって慌てる。
「エイムさん、タルトがこぼれます。下ろして下さい」
 注意されたエイムは素直にノルンを下ろした。けれど、ノルンがフォークのタルトを食べ終えて手が空いたのを見計らい、また抱き上げようとする。タルトは食べたのだからこぼれる心配はない。だったら抱き上げてはいけない理由はないはずだ。
「あの……エイムさん」
「はい、何ですの?」
 邪気のないエイムの声に、どう言おうかと考えたノルンの目に、エイムがまだ手を付けていないタルトが映った。
「明日香さんが作ってくれたタルト、お茶が温かいうちに食べた方がおいしくいただけると思います」
 エイムの気をお菓子に逸らそうとそう言ってみると、エイムはノルンへの興味に意識から抜けかけていたタルトのことを思い出し、急いで席に戻り。
 タルトを食べてにっこりした。
「美味しいですの♪」
 タルトに夢中になるエイムに、ノルンも微笑む。
 口の中に甘い幸せを広げるタルト。それは美味しく食べてくれる人がいるからこそ、ハロウィンのトリートになるのだろう。
 ――トリック・オア・トリート?
 お菓子をもらう人もお菓子をあげる人も、そしてその様子を見る人も。
 ――ハッピーハロウィン!