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はじめてのひと

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●ずっと一緒に、幸せでいような……

 携帯の機種交換をすませた帰り道、家まで待てなくて鬼崎 朔(きざき・さく)は、その最愛の人椎堂 紗月(しどう・さつき)にメールを送った。

「紗月へ。

 ……朔です。
 携帯を新しくしたので……初めてのメールを送ってみました。

 ………何て書くべきか……迷ったけど……あなたが私に告白してくれたあの企画から、もうすぐ一年になることを思い出しました。
 ……そう、もうすぐ一年になるんです。
 ……あの頃、ただ復讐しか頭になくて……こんな「自分」を愛してくれる人なんていない!……なんて勝手に思ってたけど……あなたが私を選んでくれて……驚きと嬉しさとともに……どこか冷めていた自分がいたんだ。

 ――この人も本当の自分を知ったら離れていくんじゃないか――

 ……ってね。

 ……でも、あなたは離れて行かなかった。
 ……それどころか、今もこうして恋人として、一番にメールを送ることができる。
 ……そんな事が嬉しくて。

 ………私は……普通の女の子らしくないし、茨の道しか歩む事が出来ない……こんな彼女だけど……あなたを……椎堂紗月を一番愛しています♪」


 こんなメールを書いてしまうなんて、これは『はじめて』がもたらす魔法なのだろうか。
 だけど朔は後悔したりしない。普段、あまり感情を表に出さない性格だけに、偽りない気持ちを吐露できるのは気分が良かった。
(「あとは返事を待つばかり……って、えっ!?」)
 目を丸くしてしまう。数秒前に送信したばかりなのに、もうメールの返信が来ているのだ。他ならぬ紗月から。

「朔へ

 なんて書き出しにすると、なんか改まっちゃって恥ずかしいな(苦笑)
 たいした用じゃねーんだけどさ……ケータイ、こっち来て初めて買い替えたんだ。で、最初のメールは朔に送りたいなって。

 ……朔と会ってから、告白して、付き合い始めて、色々あったよな。俺達のこと以外でも、もちろん俺達自身のことでも、お互い辛いこともあったし楽しいことだってたくさんあった。けど、いつもパートナーや友達が一緒だから全部いい思い出にできてるし、もちろん、そこには朔の存在もあったからこそだと思ってる。
 ……いつも傍にいてくれて、ありがとな。

 これ、タイムカプセルみたいな機能もあるらしいんだけどさ、あえて普通にメール送ったぜ。……そんな先に設定しなくたって、ずっと一緒にいるんだ。その時に送ればいいだろ?

 ずっと一緒に、幸せでいような……朔。

 あー、はずかし……」


 照れ隠しの文末が、彼らしくて嬉しくて、朔の頬は弛んでしまった。
「この文面、一瞬でレスを書いたとは思えないよね……つまり」
 いくらか離れた場所で、朔からのメールを読み、紗月も相好を崩している。
「つまり、運命的な偶然で、互いに『はじめて』のメールを交換してた、ってわけか」
 確かに今日は、携帯の新機種が一斉に発売される日だった。とはいえ、時間帯までぴたりと一致するというのは偶然にしてもできすぎだ。大仰かもしれないが、運命、と呼んでいいだろう。
「紗月ったら……」
「朔のやつ……」
 もういてもたってもいられなくなり、二人はまた同時に、相手に電話しようとした。そしてまた、離れた場所で同時に笑っている。電話同士がぶつかって、話し中になってしまったのだ。
 あと何度かコールすれば、きっとつながることだろう。
 このひとと出逢えた運命を、感謝したい朔と紗月なのである。