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第13章 夜明け

 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん
 小鳥のさえずりの音で、生徒たちは目を覚ました。
 恐怖の夜が明け、新しい一日が始まろうとしていた。
 天気は、夕べの騒ぎが嘘に思えるくらいの快晴で、まぶしい朝日が、瓦礫の山と化した屋敷と、その周囲のお堀とを照らしだしている。
「はあー、一時は死ぬかと思ったけど、何とか助かったもん☆ これも、海人のおかげなんだもん!」
 騎沙良詩穂は、生徒たちから離れた場所にいる、車椅子に乗った一人の男を指していう。
「……」
 男は無言のまま、虚ろな瞳を太陽に向けていた。
「そうか。あのとき海人が、俺たちをテレポートさせてくれたんだな。そうしてもらわなきゃ、俺たちが死んでいたのは事実だな」
 和泉直哉が、ものいわぬ海人に対し、複雑な感情が渦巻くのを感じた。
 認めなければならないのは、海人に助けてもらったことだけではない。
 海人の力が、依然よりも増しているということだ。
 今回のテレポートによる救出をみても、コリマ校長に匹敵しつつあるとさえ感じられる。
 だが、その力を闘いに使わない海人の姿勢に、共感できない部分があるのも事実だった。
「お兄ちゃん!」
 和泉結奈が、森の中から現れて、兄・直哉に駆け寄り、その胸に顔をうずめる。
「結奈! きたのか」
 直哉は、結奈が無事なのを知って、深い安堵に胸が満たされるのを感じた。
 結奈は、先に館を脱出した後、分庁舎で一泊して、直哉たちの様子をみにきたのだ。
 もうじき、役人たちが事件の痕跡を確認しにくるという。
 役人たちは、いまごろきてどうするというのか。
 だが、確かにあの邪神は、恐れるべきものであった!
「海人さん、あんたには、予知能力もあるのかねぇ? 俺がああなることを知っていて、事前に俺の中の力を呼びさますようなことをしてくれたのかな? 別にそんなこと、頼んでなかったんだけどねえ」
 月谷要が、海人をぎょろっと睨みつけながら尋ねるが、相手からの返事はない。
 海人にみせられた深い海の底の光景が、月谷の力を一時的に高める結果をもたらしたのは事実だ。
 だが、一時的とはいっても、その後も自分の中に影響が残り、未知の力が覚醒しつつあるのを、月谷は感じていた。
 もちろん、闘いが終わったせいか、その力も活発な活動をみせていないが、自分の中で確実にくすぶり続けている。
 各種の知覚についても、以前より高められたように月谷は感じた。
 耳を澄ませば、大気の中の精霊の声が聞こえてきそうである。
 もちろん気のせいかもしれないが、海人と出会ったことが、何らかの影響を及ぼしたのは事実である。
「まっ、同じ学院に所属してるんだし、今後もあんたと話す機会があれば、いろいろ聞かせてもらうとしましょうか」
 月谷は、そう述べるにとどめた。
「それにしても騎沙良さん、あんた、邪神に気に入られたんじゃないの? 生け贄をとるタイプかどうかはわからなかったけど、少なくともあの贈り物には満足していたようだよ」
 月谷は、騎沙良にニヤッと笑ってみせる。
「え? 邪神? 何、それ? ってゆうか、その話、しないで! 本気でトラウマなんだもん!」
 邪神の直近にいた騎沙良は、あまりにも強い恐怖を覚えたために、もうそのことを思い出したくないようだった。
 だが、かたちとしては、騎沙良が邪神に生け贄を捧げたようにもみえるため、邪神の何らかの加護がつく可能性もあるのも事実である。
 たとえそれが、生け贄というより、調教プレイの一環だったとしても。
 邪神にのみこまれたサッドのその後については、考えるだけでもぞっとするが、もし生きていたとしても、この宇宙にはもう2度と現れないのではないかという気がした。
 というより、この宇宙に普通に存在していられないようなかたちにつくり変えられた可能性がある、というべきだろう。
 もちろん、邪神にとりこまれてその力の一部となり、消滅してしまった可能性もあるが、真相は永遠に不明である。
 とにかく、あの邪神には2度と出会いたくなかった。
 人間が、知ってはいけない存在なのだ。
「何とか身体が再生しましたが、危うく完全な混沌に還るところでした。サッドは、誠に不遜な行いに手を染めたというべきでしょう」
 エッツェル・アザトースは、サッドの運命についてある程度の推測がついているようだったが、騎沙良たちには何も語らず、アーマード・レッドとともに帰還してゆく。

「ううー」
 坂上来栖も、意識を回復させ、ゆっくりと身を起こした。
 全身に激痛がはしり、衣服は血まみれである。
 魔鎧であるナナ・シエルスは、まだ寝ているようだった。
 瓦礫の下敷きになったにも関わらず、どうして助かったのか、坂上にはわからなかった。
 もちろん、海人のことなど、坂上は知らない。
 坂上の中にあるのは、宿敵を倒す使命からまだ解放されていないという感覚だけだ。
「朝日がまぶしい! メニエス、殺す。メニエス!」
 坂上は、よろめきながらも歩いて、森の中に消えてゆく。

「ふあー。あら? ここは?」
 泉美緒は、ぱちくりと目を開ける。
 何も身につけていない身体に、誰かがかけてくれたタオルが被せてあった。
「おかしな夢をみましたわ。吸血鬼の館で、美緒が犬にされて、散歩させられてるんですの。楽しかったけど、疲れましたわね。うんー」
 美緒は、立ち上がって、伸びをする。
「ああ、タオルが落ちちゃうよ。気をつけて。これを着なよ」
 桐生円が、美緒に衣服を差し出す。
「美緒、助かってよかったわね。桐生さんも、美緒の救出にかなり骨折ってくれたわね」
 崩城亜璃珠が、美緒に深い愛情のこもった視線を注ぎながらいう。
「あれ? これは? 夢の中で私がつけていたのと、同じですわ」
 衣に袖を通していた美緒は、自分の首輪に気がついた。
「うふ。似合ってるわよ。ずっとつけておいたら?」
 亜璃珠は笑ってそういったが、美緒は、首輪をあれこれいじって、取り外してしまう。
「これのせいでしょうか。肩が凝ってしまいましたわ」
 美緒は、ニッコリと微笑む。
「外しちゃったのね。あらあら」
 美緒が投げ捨てた首輪を、亜璃珠はどこか残念そうにみつめていた。
「さあ、美緒。帰るわよ」
 亜璃珠は、美緒の肩に腕をまわしていう。
「はい。早くヴァイシャリーに帰って、いろんなお友達とお話したいですわ」
 美緒は、ニッコリ笑って、亜璃珠の肩にもたれる。
 そのまま、美緒と周囲の生徒たちは、百合園女学院への帰還の途についた。
「けど、おかしいわね。美緒が助かったのに、落ち着かない気分だわ。もしかして、また、美緒は不幸な目にあうんじゃないかしら? 相変わらず、無防備なままだから、また何かに巻き込まれそうなのよね」
 亜璃珠は、内心に不安を感じたが、そのことを表に出したりはしなかった。
 ヴァイシャリーに、学院に帰還する泉美緒。
 果たして、彼女にはその後、どんな苦難が待ち受けているのだろうか?

「よかったね。美緒ちゃん、助かって」
 小鳥遊美羽は、コハク・ソーロッド、城紅月、レオン・ラーセレナとともに、泉美緒たちの帰還を見送っていた。
「さっ、帰ろう!」
 小鳥遊も、うきうきとステップを踏みながら、友たちとともに帰還していった。

「あたしも助かったんだね。炎に襲われ、煙にまかれて、生きた心地がしなかったよ」
 弁天屋菊もまた、意識を回復させ、帰還し始める。
「卑弥呼は、もう1度、あたしを信じてくれるのかい? わからないけど、まずは卑弥呼に会わなきゃ!」
 今後、親魏倭王卑弥呼との絆を、どう取り戻すか。
 それが、弁天屋の課題だった。

「ふう。お前たちは、殺されなかったな。幸運なことだ」
 瓦礫の山と化した館を囲むお堀の中では、調教が成功し、ワニたちのカリスマとなったロイ・グラードが、尻尾を振って顎をすりよせるワニたちの頭を撫で、息をついていた。
 徹夜で調教した甲斐があったというものである。
 魔鎧である「常闇の外套」は、すっかり疲れて眠っているようだった。
「ここで、野生動物として生きろ。腹が減ったら何か食ってもいいが、もう悪人の奴隷にはなるなよ」
 ロイは、特になついている数匹のワニを連れて、お堀を出る。
「さて、こいつら、団長の私室にでも放り込もうか?」

「海人。詩穂たちも、もう帰るもん☆」
 騎沙良は、車椅子に乗ったまま無言でいる海人を促す。
「う……ああ……」
 海人は、声にならない声をもらすのみだった。
「ああ。コリマ校長に報告しなきゃな。」
 直哉も、脇にぴったりくっついている結奈とともに歩み出す。
 そのとき、精神感応により、生徒たちの心の中に、はっきりとした口調の声が鳴り響いた。
(その必要はない。奴は、既に把握している。君たちが「課題」をクリアしたことに)
「海人か? 課題って、どういうことだよ」
 直哉が尋ねる。
(君たち自身に尋ねるといい。特に月谷要は、高い評価を受けるだろう)
 海人は、そう答えるのみだった。
「オレが? あっ、そう。けど、あの校長は、学院に侵入したサッドから多くの生徒を守ったようだけど、他の生徒を守れて、何で一部の生徒だけさらわれたのかねえ。設楽カノン(したら・かのん)のような、本当に触れて欲しくない機密はしっかり守って、一般生徒の一部については誘拐を黙認した、ってことかな?」
 月谷要が、皮肉な口調でいう。
「本当か、それ? 今回の闘い自体が課外授業だったとでも?」
 直哉が眉をひそめる。
「いやいや、憶測かもしれないし、気にしないでおいてね」
 月谷は、ニヤッと笑った。
「海人、詩穂を始め、みんなを助けてくれて、ありがとうだもん☆ 館の崩壊に飲み込まれそうな人を全員助けるのは大変だし、相当疲れたんじゃんじゃん? ちょっと危惧かもだもん」
 騎沙良は、海人に尋ねた。
(特に問題ないし、僕は大丈夫だ。それに、全員を連れてきたわけじゃない。自らとどまることを望んだ生徒は、そうしておいた)
 海人お答えに、騎沙良は目を丸くする。
「へ? 自らとどまった生徒なんて、いたのかだもん? 館はもうないのに?」
 だが、海人からの精神感応は、そこで終わってしまった。
 騎沙良たちは、帰還を始める。
 海人は、どうやってかはわからないが、自力で帰るつもりのようだ。

 騎沙良たちが去った後も、昨晩まで館であった瓦礫の山に、変化はなく、何かが活動する気配もない。
 だが、その地下は別だった。
 地下にはまだ、あの牢獄が存在し、生き残りの骸骨戦士や、ライオンソルジャーたちが闊歩したのである。
 そして。
 牢獄の中には、鎖で宙づりにされた秋葉つかさと、天津のどかが、ムチを持った骸骨戦士たちに打たれて、いつ果てるともない喘ぎ声をあげ続けていた。
「ああ、もっと打って下さい。満足ゆくまで私を、ああ!」
 秋葉は、ムチに打たれるたびにはしる激痛に、自分の生き甲斐を感じざるをえないようだ。
「はあ。できれば、そこを、突いて下さい。ん! んん!」
 天津も、いつ果てるともなく続く調教に自ら注文をつけながら、歪んだ快楽の海に溺れてゆく。
 2人は、帰りたくなったら帰るのだろうが、そのときがくるまでは長くかかりそうであった。
 地元の人々は、地下から聞こえる不気味な喘ぎ声を耳にして、「地獄の底にMの館がオープンした」と囁きあい、恐怖に身をふるわせたとのことである。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 このシナリオは、グランドシナリオやキャンペーンシナリオが次々に発表される中、私の方で、他と違うジャンルの内容で息抜き(?)になればと思い、考案したものです。

 ホラーとお色気のスペシャル企画ということでしたが、実際に提出されたアクションには、お色気志向だけでなく、真面目に女子生徒を救出したいという人や、熱いバトルをしたいという人も多く、「蒼空のフロンティア」には多種多様なPLが参加しているのだと実感させられました。

 ホラー色を強めるため、シビトやグルルといった小物を除いて、サッドたち悪役の強さはかなり高めに設定しましたが、その結果、邪神の作用もあって、異様な強さに圧倒された生徒が多くなったように感じます。
 リアクションを読めばわかるように、サッドに味方するPCも登場していて、戦闘がさらに激化しています。
 強化人間・海人を助っ人として登場させましたが、その性格から防衛に専念することになり、サッドたちとの闘いはPCのみで行っています。

 泉美緒は、運営部のオススメで登場させることになりましたが、けしからん巨乳と、どこまでも天然で無防備なキャラが非常に魅力的だと感じました。
 なお、このシナリオを発表してから、他マスターのシナリオで美緒が石になっているのを知って驚きましたが(笑)、そのシナリオはこの「Sの館」の後のお話としてご理解下さい。

 今後の予定は不明ですが、また、天御柱学院を舞台に、超能力関係のシナリオをやろうかと考えています。いつのまにか「超能力シリーズ」が私の中で定着しているので(笑)。
 実は1月から4月辺りまでシナリオ作成をお休みする予定なので、お休みの前に何かお祭り的なことをできればと考えています。

 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。