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救助隊出動! ~子供達を救え~

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救助隊出動! ~子供達を救え~

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第6章「ひと時の安らぎ」
 
 
「ほら皆、これをお食べ」
 篁花梨達が避難している洞窟の中で、五月葉 終夏(さつきば・おりが)アドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)が子供達にチョコを配っていた。子供達は目を輝かせてそれを食べ始める。
「ありがとー、お姉ちゃん」
「あっ、これ空京で売ってたー」
「うん、おいしかったよねー」
 子供たちの顔に笑顔が戻るのを見て、アドルフィーネもつられて微笑を浮かべる。
「ふふっ、やはり子供達は笑っているのが一番いいわね」
「そうだね。子供達はまだ『遠足』の途中なんだ。だったら最後まで笑顔で帰してあげないとね」
 終夏の言葉にアドルフィーネも頷く。そこに花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)がパンを抱えてやって来た。彼女は花梨の姿を見つけて走り寄る。
「はぁ〜い♪ あなたが花梨さんよね? 私の名前も花琳って言うの! よろしくね♪」
「こちらこそよろしくです。ふふっ、同じ名前って、何だか不思議な感じがしますね」
「そうだよねぇ。あ、実は外にももう一人『かりん』ちゃんがいるんだよ」
「そうなんですか?」
「まぁブラッドさんの場合は苗字だけどねー。良かったら後で会ってみてよ」
「えぇ、楽しみにしてますね」
 花梨がにこりと笑う。それを見てから花琳は子供達へと向き直った。そして手に持ったパンを渡していく。
「はいっ。チョコだけじゃ足りないっていう子もいるでしょ? メロンパンとアンパンしか無いけど、良かったら食べてちょうだい」
 何人かの男の子がパンの袋を開け、かぶりつく。それを見計らって、花琳が付け加えた。
「そうそう、その代わり食べた人は私の言う事をちゃ〜んと聞くようにね」
「えー!?」
 途端にパンを食べる手が止まる。既に食べ終えてしまった男の子から不満があがるが、花琳はデッキブラシを取り出すと威嚇するように顔の前で拭く仕草を見せた。
「ん〜? 私の言う事が聞けないのかな〜?」
「うう〜」
 弱ったとばかりに口をつぐむ男の子。その時、花琳の後ろから飄々とした声が聞こえた。
「はっはっは、この子の言ってる事は冗談みたいなものだから安心したまえー」
 見ると、犬耳を模したと思われる突起のついたフードを被った女の子が立っていた。
「やあやあ皆、初めましてだねー。ボクは白麻 戌子(しろま・いぬこ)、敬意をこめて戌先生と呼んでくれたまえー。」
「戌先生?」
「うむ、そうなのだよー」
「その戌先生はどうして私が冗談を言ってるって思ったのかしら?」
 花琳が疑問を口にする。
「まぁ冗談というか、言い様だねぇ。言う事を聞かせるといっても、多分外で見張りをしている人達の邪魔になる事はしないようにとか、そんな事を言うんじゃないかと思ったのだよー」
「うっ」
 図星を突かれ、花琳が言葉に詰まる。その姿を見て、四谷 七乃(しや・ななの)が感心した声をあげた。
「ふやー。ワンコさん、さすがです」
「ふふん、そうだろう? 皆が助けに来てくれるまではこのボクが先生として子供達に色々教えてあげるのだよー」
「ワンコさんはせんせいもできるですか? すごいです!」
 尊敬の眼差しで戌子を見る七乃。隣にいたアレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)も同じような瞳をしていた。
「戌先生! アレクサンダーにも色々教えてー」
「うむ、良かろう。ささ、戌先生の話を聞きたい子達はこっちに集まるのだよー」
「はーい」
 
 
 戌先生による授業が行われてしばし、洞窟の一部を陣取っていた騎沙良詩穂が美味しそうなお菓子の載ったトレーを持って現れた。
「出来ましたー。詩穂特製、とっても甘い虹色スイーツです☆」
 チョコやバナナなど様々な食材を使って作られたそのお菓子は、傍目にも既存の物とは比べ物にならないほど美味しそうに見えた。子供達だけではなく、花梨やアレクサンダー達も感心したようにお菓子を見る。
「これは……凄いですねぇ」
「美味しそう……これ、食べてもいいの?」
「はい、もちろんです! あ、でも一個だけ残しておいて下さいね」
 そう言って詩穂は置いたトレーから一個だけお菓子を取り、それを洞窟入り口の岩の上に置いた。
「詩穂さん、それはどうするんですか?」
「はい、こうやって置いておいて、超感覚で捜してくれているお仲間さんの嗅覚に訴えるのです♪」
 自信満々に花梨の疑問に答える。どうやらただ子供達を喜ばせる為だけに作った訳では無いらしかった。その匂いに惹かれてという訳では無いだろうが、沢渡真言の所に行っていたティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が洞窟へと戻ってきた。
「あら、いい匂い。美味しそうなお菓子ですわね」
「奥に沢山ありますので、良かったら召し上がって下さい☆」
「ありがとう。頂きますわ」
 詩穂へと笑みを返し、奥へ向かう。そしてお菓子を楽しんだ後、ティティナは子供達を喜ばせる為にアイテムを使い、光の精霊や小人を呼び出した。それを見て終夏も光術を使って光の蝶を作り、周囲を飛び回らせる。
「わー!」
「すごい、小人さんだー」
「ちょうちょ、きれい……」
 子供達は精霊や小人の可愛らしさに顔を綻ばせ、光の蝶にうっとりと見入る。いつしかその空間に、小さな歌声が聞こえてきた。見ると、ティティナが小さな声で歌を歌っている。
「あら、その歌はあたしも聞いたことがあるわね。それじゃ――」
 同じミンストレルであるアドルフィーネがティティナに合わせるように歌いだす。更に終夏が自分の持ち物からヴァイオリンを取り出し、演奏を始めた。
 いつしか洞窟の中はちょっとした音楽会になっていた。歌を知っている者は共に歌い、知らない者も演奏に合わせて手拍子をする。小さな小さな音楽会だったが、子供達の間には笑顔が溢れていた。
 
 
「うーん、ここは一体どこなんでしょうねぇ」
 その頃、近くをエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がさまよっていた。彼はツァンダに向けて歩いていたのだが、自身の方向音痴の為にいつの間にか街道を大きく逸れ、ここまで来てしまったのである。もっとも、道に迷うのは日常茶飯事な為に表情に悲観的なものは無く、むしろどこか楽しそうであった。そうして歩いているうちに、どこからか音楽と歌声が聞こえてくる。
「おや、何やら楽しそうですね。何かあるのでしょうか」
 その正体に興味を持ったエッツェルは声のする方へと歩き、その発生源である洞窟を見つけた。洞窟の入り口を守るように立っていた無限大吾がエッツェルの姿を確認し、目を丸くする。
「エッツェルさん、どうしてこんな所に?」
「おや、誰かと思えば大吾さんじゃありませんか。いやぁ、ツァンダに行こうとしたら道に迷ってしまいましてね。楽しそうな声が聞こえたから寄ってみたんですよ」
「そういう事でしたか……。実は今、こんな事になってまして――」
 思わぬ所で再会した友人に、大吾が状況を説明していく。
「なるほど、それは大変な事です。よろしい、私も力をお貸ししましょう」
「いいんですか?」
「ふふ、私は可愛い者の味方。未来ある子供達を、愛の伝道者である私が護りましょう」
「あ、愛ですか……」
 大吾は苦笑するしかなかったが、それでもこの友人が手を貸してくれる事は非常に心強かった。
 
 
「……こいつは一体何なんだ?」
 小型飛空艇に積んだ食料や毛布を洞窟に運び込みに来た氷室カイは、洞窟の中の状態を見て疑問符を浮かべていた。それに気付いた花梨が入り口へとやって来る。
「あ、カイさん。ありがとうございます」
 カイが抱えている荷物から食料を受け取り、奥へと運び込む。
「皆さん、子供達を元気付ける為に色々して下さって……。本当に助かります」
「そうか……。護るべき者が笑顔でいられるというのは、いいものだな」
「……えぇ」
 護るべき者の為に刀を振るう。それを戦う為の意義と見出しているカイにとって、この光景は今回の戦いに赴く理由とするに十分な物だった。
「ところで、入ってくる時に気になったんだが、入り口に置いてある菓子は何なんだ?」
「あれは詩穂さんが置いたやつです。透矢さんと一緒に行動してる人達が超感覚で見つけやすいようにって事らしいですよ」
「超感覚? という事は匂いか……。マズいな……」
 カイが表情を曇らせる。
「どうかしたんですか?」
「確かに嗅覚を強化したやつがいれば見つけてもらいやすくなるだろう。だが、その前に要らない奴を呼び寄せてしまうかもしれん」
「要らない奴? ……それってもしかして――」
 花梨が答えを言うより早く、カイのパートナーであるサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が洞窟に入ってきた。
「カイ、襲撃です」
「分かった。すぐ行く」
 それだけのやり取りをすると、すぐにサーが洞窟を出て行く。カイは持っていた毛布を奥に放り投げると、刀へと手をやった。
「襲撃って、やっぱり……」
「ああ……狼だ」