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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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リアクション


第2章 恐怖の絶叫と嬉しい絶叫との狭間

「いろんなアトラクションがありますね!どれから乗ろうか迷ってしまいますよ」
 1泊2日のデートをしようとミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)に誘われた朱宮 満夜(あけみや・まよ)は、モーントナハト・タウンの園内をキョロキョロと見回し、どのアトラクションに行こうかと迷う。
 メルヘンチックな氷雪の建物からミスマッチな何やら怪しげな雰囲気の小屋などがあるようだ。
 園内は空から深々と降りしきる白い粉雪で美しく雪化粧されている。
「(それにしてもいつもケンカばかりのに私を誘ってくれるなんて珍しいこともありますね。このシチュエーションだと、なんだか学友として・・・でしょうか?何だか違うような気が・・・)」
 入り口でもらったマップを見ているミハエルの方をちらりと見て嬉しそうに微笑む。
「(我輩としては町で過ごしたかったのだが。満夜はまだまだ子供だからな、こっちの方がいいだろう)」
 実は、彼の方は雪景色の町を楽しんでもらおうと考えいた。
 だけどまだ遊びたい年頃の彼女は、遊園地の方でめいっぱい楽しみたいだろうと思い、ここへ決めたのだ。
「どこから行きますか?」
「そうだな、ゴンドラとか・・・どうだ?ここは最後に行こう」
「―・・・最後ですか?」
「その・・・、なんだ。ごほっ・・・。他のところへ行った後に、ゆっくり過ごすのもいいだろう?」
 照れ隠しなのか彼はわざとらしく咳払いをして言う。
「分かりました、ミハエルがそう言うならそうしましょう」
「他に行きたいアトラクションはあるか?」
「えーっと・・・そっちの方は何があるんですか」
「どこだ?」
「ミハエルの手で見えないんですけど」
 彼の手の下に覆われているマップの部分を指差す。
「そっ、そうだったか?何もなかったと思うが」
 見られまいと慌ててぱたむと閉じる。
「あぁっ!閉じてしまったら行きたい場所を探せないじゃないですか。貸してください」
「いや、そこには何もなかったぞ。だから見る必要は・・・」
「―・・・そこって、どの辺りのことですか・・・。私はただマップを見たいだけなんですけど」
 必死に何かを隠そうとするミハエルを訝しげに見つめ、取られるものかとそれを持ち上げる彼の手から、うさぎのようにぴょんぴょん跳ねて奪おうとする。
「(し、しまった。まずい・・・あれを見られてしまっては。苦手というか周りの黄色い悲鳴がっ)」
「もういいです、探して歩くのも1つの醍醐味ですから!」
 頬をぷぅっと膨らませた彼女は眉を潜めてくるりと背を向ける。
「そ、そうだな。歩いて面白そうな場所を探すのもいいからな」
 ようやく諦めてくれたかと、ミハエルはほっと安堵の息をつく。
 と・・・見せかけて・・・―。
「油断しましたね、ミハエル」
 マップを持つ手を下ろした隙に、ぱっとあっさり満夜に奪われてしまう。
「はっ!?ま、待て満夜」
「ただのマップじゃないですか、どうして見せてくれないんです?」
「それだけはーっ、ぁあ!」
 奪い返そうとしたその瞬間、彼女に見せてはいけないものを見られてしまった。
「―・・・えーっと。面白そうなところは・・・あ!ここへ行きましょう♪」
「・・・・・・って、謎のアドベンチャー!?」
 見るからに危なそうなそのアトラクション名にミハエルはずりっと1歩退く。
「イヤですか?」
「別に絶叫系は苦手じゃないのだが・・・」
「だったら行ってみましょう!」
 満夜は大はしゃぎでアトラクションへ走る。
「すぐ乗れるみたいですよ、5分待ちくらいみたいです」
「ふむ・・・。―・・・な、何だこの悲鳴はー!?くぅっ、耳が・・・耳がぁあー!!」
 “ひきゃぁああぁあーーっ♪”
 女の甲高い声が響き、頭の中を貫くような声音にたまらずミハエルは耳を塞ぐ。
「あっ、順番が来ましたね、入りましょうか♪」
「我輩たちは1番前か。(まぁ黄色い悲鳴さえ耐えられば、なんとかなるか)」
 しかしその時彼はまだ、このアトラクションの・・・本当の恐怖を知らなかった。
 ゴンドラを降りた客たちが口々に“あんな過激だとは思わなかったよ。本当にもうっ、エス アンツィーウンク リヒティク!”と騒いでいる。
「今降りた人たち、なんだか“ヤバイ”みたいに言ってましたね。電動じゃなくて人間が漕ぐのに・・・」
「乗ってみれば分かることだろう」
 ミハエルは余裕そうな態度でゴンドラに乗ると満夜の隣に座り、体験してみれば分かるというふうに言う。
「安全装置があるみたいだがどれだ?―・・・て、この縄を掴むだけなのか!?」
 乗り場の壁にかけられているプレートを見ると、“落下防止に、ゴンドラに備え付けられている縄を掴んでください”と書かれている。
「本日は謎のアドベンチャーへおこしいただき、ありがとうございます。いったいどのような冒険が待ち構えているのかは、まだヒミツです♪それでは出発いたします!」
 そう言うと漕ぎ手はオールを握り、ゆっくりと漕ぎ始める。
「何だか密林の中の川を流れている感じですね」
 満夜はボートから身を乗り出し、氷で作られた森を見回す。
「左手に見えますのが、ヨーロッパコマドリです。冒険にやってくる人々が写真を取りまくるほど、とっても可愛らし〜い小鳥です」
「こっちに飛んでくるぞ、ソリットビジョンの演出か?―・・・満夜の手に止まったな」
「触れた感覚がありますよ?何だか不思議です」
 手の平に止まったコマドリを満夜がつんと突っつく。
「小さな小さな小鳥〜、森の中でぴぃちくぱーちく〜、ツヴィッチャーン〜ツヴィッチャーン♪皆様もよろしければご一緒に歌ってください〜」
「楽しそうですね、私たちも歌いましょうミハエル」
「歌うのか!?―・・・何だか恥ずかしい気もするが」
「いいじゃないですか♪」
「うっ。満夜がそう言うなら、歌わんでもない」
 気恥ずかしそうに咳払いをし、彼女と一緒に歌う。
「可愛いですね、小鳥。ぴぃちくぱーちく〜♪ツヴィッチャ・・・・・・!?」
 満夜の手に乗っているコマドリの顔がピリッと亀裂が入り、その裂け目から獲物を狙うような双眸が見えた。
「お嬢さん、早くそれから離れてください!それは・・・このゴンドラに乗る者を狙う氷の化け物なのですっ」
「えぇええーっ!?そんな、小鳥があぁ〜・・・っ」
 外側を引き破り出てきた巨大な怪鳥は、もはや愛らしいあの姿は見る影もない。
「も、もしかして。触れた感覚があるってことは、もしかするんですかぁあ!?」
「フフッ、どうでしょうね♪」
「触れてみないと分からないってことですか。何だかいい感じの展開になってきましたね。フッ・・・フフフ」
 黒い笑みを浮かべる漕ぎ手の気に当てられたのか、満夜がニヤリと笑みを浮かべる。
「(分からないもなにも、触れた感じがあるというのにぃい!?)」
 ミハエルは顔から冷や汗を流し、宙を飛び回る恐怖を見上げる。
「さぁ〜皆さん。あの怪鳥から逃げるには、この先を進み続けなければいけませんっ。ここからは激流ですから落ちないように気をつけてくださいねー!!」
 ズゴォオオオッ。
 ゆったりと流れていた川が一瞬にして激流となり、人々を乗せたゴンドラは猛スピードで流れていく。
「うっ、うわぁあぁあ!ふぉあぁぁああーっ!?」
 女たちよりも先に顔面を蒼白させたミハエルが大声を上げてしまう。
 ズバシャア、ドバシャァアーッ。
「いったい時速何kmで進んでいるんだ!ボートの激流川くだりよりも早いんじゃないか!?だいたいこんなのが、安全装置と呼べるのかぁああーーっ!!」
 落とされるものかと必死な形相で縄にしがみついている。
 そんな彼に構わずゴンドラは水しぶきを被り奥へと流れ突き進む。
「そぉお〜らそらそらぁあっ、どんどんいくぜぇえ。フリーセ、フリーーーーセッ!!」
 テンションを上げ始めた漕ぎ手が叫ぶように声を上げる。
「さあぁああっ、流れまくりましょう〜♪」
 満夜もテンションMAXできゃっきゃと喜ぶ。
 氷山の空洞に入るとエンジンを全開にしたジェットスキーの如く、迫り来るつららと“キェエエイィイッ”と奇声を上げながら追ってくる怪鳥の牙から逃れる。
「うぁああーー、噛まれたらただではすまないぞっ」
 触れる感覚があるなら頭を牙で貫かれでもすると、とんでもない激痛があるだろうとミハエルはゴンドラの中に伏せる。
「危険地帯に突入ですかー!きゃぁああ〜♪」
 そんな彼を他所に満夜は手放しで楽しげに騒いでいる。
「もうすぐ出口だぜぇえ。さぁそこのカップルの2人、どっちの道に行くか選ぶんだ。片方はちょっとマシだが、もう片方は・・・クククッ」
「カッカップルですか!?そんな、私たちそんなんじゃ・・・っ」
「照れてないで早くどっちか選ぶんだ。さもないとあの鳥の餌食にされてしまうぞ!」
「どっちがいいんでしょうか。ミハエルはどう思います?」
 彼に聞いてみるが、すでにパニック状態になっていて答えることが出来ない。
「決めないんでしたら私が選んじゃいますよ。えーっと・・・左側にしますっ」
「どちらか選べと・・・?あ、待て満夜!う、うわぁああーーっ!!」
 はっと我に返ったミハエルだったかすでに遅く、“マシじゃない方”を選択され、ストーンッと直角の滝へ滑り落ちていく。
 ドバシャァアンッ!!
 人々を乗せたゴンドラが水面へ落ち終着点へ戻る。
「はーい、皆様お疲れ様でした!」
「楽しかったですっ。ありがとうございました♪」
 大満足した満夜はドンゴラからゆっくりと降りる。
 一方、放心状態のミハエルは従業員に支えられて降ろしてもらっている。
「面白かったですね、また乗りたいです」
「な、何だと!?―・・・べっ、別に怖くはなかったぞ。また・・・機会があれば、乗らないでもない。それはそうと・・・どうして我輩だけびしょ濡れなんだ?」
「あれ?乗る前にレインコートを着るかどうか聞かれませんでしたか?」
「そんなものがあったのか!?」
 従業員の話を聞いていなかったミハエルだけびしょ濡れ状態になっていまった。
「そこの個室の中に、乾燥機とドライアーがありますから乾かしてきたらどうですか」
「うむ、そうしよう・・・このままでは風邪を引いてしまう。ふ、ふぇえっくしょん!ぅう、寒い・・・」
 ぶるぶると震えながら個室に飛び込んだミハエルは髪と服を乾かす。
「待たせたな、満夜。(ふぅ・・・とんでもない目に遭ったな)」
「じゃあそろそろ・・・もう1つのゴンドラへ乗りに行きましょうか」
「あぁそうだな。確かこっちの方だったか」
 ミハエルはパサッとマップを開いて場所を確認し、彼女と共に乗り場へ向かう。
「ここから園内が見えるんですね」
 2人用のゴンドラに乗り、ゆっくりと流れる。
「(私を誘ったのってやっぱり学友として?でもこれは違います・・・ここに私を誘った理由って・・・)」
「―・・・満夜」
「は、はい!」
 突然ミハエルに名前を呼ばれ、ぼーっと考え込んでいた満夜はビクッとして思わず声を上げてしまう。
「何ですか・・・?ミ、ミハエル!?」
 振り返り様に抱きしめられた彼女は驚きのあまり動けなくなってしまった。
 Deceive Gameで突然腕を掴まれた時とは違う、この感覚はいったい何なのか・・・。
「これからもずっと、お前と2人でいたい・・・・・・」
「ミハエル・・・それって、私を・・・。(私・・・私の気持ちは・・・)」
 彼のこの言葉で学友として求められているのではないと、はっきりと確信した彼女はその赤色の双眸から逃れられなくなってしまう。
 心中で揺れる自分の気持ちの言葉を考え込む。
「(あなたと共にありたい・・・・・・それは、私の願いでもあります・・・・・・)」
 差し出したのは赤々とした血が流れる首筋でなく、彼に差し出すのはとろけるように甘く・・・艶やかな・・・。
 ライトアップされたアトラクションの華やかな光を浴び、2つの影が近づきそっと、顔の影を重ね合った。