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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第4章 甘い夜の言葉

「うーん、どれから乗ろうかな」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はマップを広げて、傍にいるクナイ・アヤシ(くない・あやし)にどこから行こうか相談する。
「クナイはどこがいいと思う?」
「北都が行きたいところでいいですよ」
「じゃあ・・・コーヒーカップに乗りたいな」
 親子連れやカップルが並ぶ行列をちらりと見て、ねだるように彼へ視線を移し、黒色の瞳で見上げる。
「ではそれから乗りましょうか。人がいっぱいいますから逸れないように手をつなぎましょう」
「う、うん・・・」
 差し出された彼の手を照れくさそうに掴む。
「わぁ〜・・・いっぱい並んでるねぇ」
「50分待ちみたいですね。やっぱりクリスマスイブですし、定番でもこういう場所はかなり混んでますよ」
「そうだよね・・・」
「―・・・他のところにしますか?」
 寒そうにふるっと震える北都に、待ち時間が短そうなところを探そうかというふうに言う。
「ううん!せっかく遊園地に来たんだし、ちょっとくらい待ってるよ。それに・・・クナイと乗ってカップを回してみたいから」
「フフッ、そうですか。では待っていましょう」
 最後の言葉を恥ずかしそうに小さな声音で呟く可愛らしい彼の姿に、クナイは思わずクスリと笑ってしまう。
 50分後、ようやく順番が回り、どれに乗ろうか選び始める。
「花の形をしたコーヒーカップなんだね。どれにしようかな・・・」
「あっちにクリスマスローズがありますよ」
 悩む北都にクナイが選んであげようと白い花型のコーヒーカップを指差す。
「うん、じゃあそれに・・・。あっ、待って!僕、こっちの方がいいな。せっかく選んでくれたのにごめんね・・・」
「いえ、いいですよ。北都が選んだものならどれでも」
「アザレアの花ですか。ではそれにしましょうか」
 彼が選んだ鮮やかなピンク色の花のコーヒーカップに決め、葉の形をした椅子に座る。
 カップの取っ手はグリーンカラーの葉と茎で表現されている。
 サウンドが流れ、くるくるとカップが回転し始める。
「どっちが先に回す?」
「そうですね・・・北都が先でいいですよ」
「うーんでも、行きたい場所を最初に決めちゃったの僕だし。クナイが先でいいよ」
「では・・・2人で一緒に回すというのはどうですか?」
「そうだね、せっかく来たんだから2人で回したいな」
 北都とクナイは花の蜜色のテーブルに手をかけて、一緒にくるくると回す。
「わぁ〜回る、回る〜。楽しいね、クナイ」
「えぇ、とっても。(この様子からすると、無意識にこの花を選んだみたいですね)」
 楽しそうにはしゃぎ、選んだ理由を分かっていない北都の顔をじっと見つめる。
「あ、止まっちゃった・・・」
 数分後、曲と共にカップも止まり、もっと乗りたかったのにと北都はちょっと残念そうな顔をする。
「待つのは長いのに、乗っている時間はあっとゆう間だよね。もうちょっと回したかったよ」
「楽しい時間はすぐに過ぎてしまいますからね。さぁ降りましょう」
 クナイは彼の手を取り、カップから降ろす。
「もうお昼の時間だね。寒いから暖かい料理にしようよ」
 コートの端を掴んだ北都が、ふるふると震える。
「氷雪のレストランがありますよ」
「ガイドブックに書いてあったけど、中は寒くないんだよね?そこに行ってみよう」
 マップを開いて指でなぞるように場所を探し、彼らはそこへ行ってみることにした。
 木目の模様で木造の雰囲気を表現したレストランに入ると、中にある丸いテーブルや椅子、観葉植物など全部氷で出来ている。
「この椅子とか冷たくないよ。溶けて濡れないし不思議だね!」
 北都は黒色の双眸を輝かせてぺたぺたと触れる。
「そんなに楽しいですか?クスッ」
「わっ笑わないでよクナイ!えーっと、どれにしようかなー」
 可笑しそうに笑う彼に子ども扱いされたと思った北都はぷぅっと頬を膨らまし、テーブルのメニューを引っ掴みムッとした表情で選ぶ。
「そんなに怒らないでくださいよ。私にも見せてください」
「むー・・・しょうがないな。次、子ども扱いしたら本当に怒っちゃうからね」
 謝るクナイを許してやり、彼の傍に寄ってメニューを見せる。
「サーモングリルにしようかな。後、暖かいハーブティーも!」
「あ、私もそれにします。私は味覚がちょっと・・・・・・っですからね」
 店の人の視線もあるため、クナイは言葉をごにょっと濁す。
 数分後、2人のテーブルに料理が運ばれ、ナイフとフォークを手にしてさっそく食べ始める。
「うん、いい香り♪グリルだけど結構さっぱりめの味だね」
 レモンをかけると爽やかな香りが広り、ナイフで切ったサーモンを食べてみる。
「この上のサーモンと一緒に食べると凄く美味しいよ」
 サーモンの下の方にあるボイルしてあるお米とほうれん草のピューレを一緒に口へ運ぶ。
「香りを楽しみながら食べられますね」
「そうだね、ハーブティーも暖かくって美味しい・・・。ふぅ、ごちそうさま」
「次はどこへ行きますか?」
「―・・・うーん、お土産を見に行った後、ゴンドラに乗ってみたいね。最後は・・・観覧車かな」
「それではパスを使ってゴンドラと観覧車に乗る予約を取った後、乗りに行きましょうか」
「待ち時間が流そうだからね、そうしよう」
 レストランを出た2人は1日使えるパスを使い、2人の乗り物の予約を取った後、ショップへ向かう。
「ねぇ、こんな帽子どうかな?」
「両側に妖精の羽がついているんですね」
 ニット帽子を見るとペールピンクの羽がグリーンブルーの丸い金具で止めてある。
「よく似合ってますよ、私にも何か選んでくれませんか?」
「じゃあね、ブレスレットなんかどうかな」
 透き通るような氷の棚に並べられているお土産を見て、雪の結晶のような模様をあしらいラズーァシュタインで飾りつけた、シルバーのブレスレットを選ぶ。
「まさに冬カラーですね、ではそれにしますか。これください」
「僕はこの帽子ね。―・・・そろそろ時間だから、ゴンドラ乗りに行こう」
 クナイたちはレジで会計を済ませ、お土産をカバンにしまうとショップを出て行く。
 日が沈み始め、園内はぽつぽつとライトアップされ始める。
「氷の建物が夕日の色に染まっていく・・・。夜になったらどんなふうに見えるのかな」
 ゴンドラから見える夕暮れの景色を眺め、北都は寒さを忘れて感嘆の声を上げる。
「昼の景色とはだいぶ変わって見えますね」
 クナイも夜の色へ変わっていく様子を見て呟く。
 風に揺られてゆっくりと流れる時間を楽しむ。
「もう終点についちゃった・・・」
「そうがっかりしなくても次は観覧車ですよ」
 北都の手を引いて降ろしてやると、観覧車へ連れて行く。
「いっぱい並んでるね!先に時間予約取っていてよかったよ」
 長蛇の列を目にした北都は驚きの声を上げる。
「凄いね園内全体がイルミネーションみたい。これも夜になるとライトアップされるんだね」
 観覧車に乗るとカタンカタと登り始め、夜の闇を彩るアトラクションを見下ろす。
 彼らが乗っているそれは淡いクリーム色に輝いてる。
「ここから見える町の景色もいいですね」
 クナイも外を覗くと街灯の灯りを受け、ゴシック建築の教会がライトグリーンに光り輝いているように見える。
「そういえば、先日辞書を借りようと北都の部屋に行ったのですが・・・」
 窓からちらりと北都の方へ視線を移して言う。
「棚に風変りな本がありましたが、あれは北都が買ったものですか?」
 さらに言葉をつなげるが、彼は黙ったままだ。
「―・・・そうなんですね?」
「本は秋葉原に行った時に買ったんだよ」
 何も判らないからと為すがままになるのは嫌で、子供だと馬鹿にされるのも癪なのだ。
 だから初心者向けBL本を買って理解しようとしたのだ。
 自分がまだ子供なのは分かっているものの、それを口には出さないが、彼の情で負けず嫌いオーラが現れてしまっている。
「(内容はキスまでか朝チュン程度でしたけどね。それなら本に因んで・・・)」
「な、何?僕の顔をじっと見て・・・むっ」
 クナイが傍に寄り顔を近づけたかと思うと突然キスされる。
「嫌いでなければもっとしましょう」
「う、うん・・・」
「(この夜にもっとへんになってくれればいんですけどね、フフッ)」
 素直に返事をする北都に意味深そうな笑みを浮かべ、もう1度キスをする。
「(“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”)」
 その微笑に対して彼は悔しそうな顔をし、心の中でそう呟いた。
「(コーヒーカップのこと、北都は気づいていないようですけど。あなたに愛される幸せ、愛の楽しみ、恋の喜びなんですよ )」
 観覧車が下に着くまで・・・そっと唇を重ねる・・・。