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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第17章 仲直りとお疲れ様


 ルカルカが勝負と配達の終了を宣言したあと、続けて皆に言った。
「それじゃ、仲直りに皆でケーキ食べよ! 用意するからちょっと待ってて!」
 ルカルカは、駅の周辺に放置されてた空木箱を集めて組み合わせ、テーブルクロスをかけてテーブルを用意する。そこにパートナーのニケが駅の陰に用意しておいたシャンパンやソフトドリンク、温かい飲み物に、クリスマスケーキを運んできた。
 ルカルカは簡易パーティー会場の真ん中を開けるよう皆を下がらせると、フレデリカとスネグーラチカを呼び寄せ、こほんと咳払いした。
「メリークリスマス。ルカ達から2人へのクリスマスプレゼントよ♪」
 そう言うと、『物質化・非物質化』のスキルで、消していた『2020クリスマスツリー』を物質化させた。突然現れた全長10メートルのツリーの迫力とあたりを照らすイルミネーションに、周りが歓声を上げる。
 2人のサンタ少女も思わず見とれ、喜んでいた。

「きゃー、やっぱりもう配達終わってるー!!」
 『サンタのトナカイ』に乗ったシャンバラ教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)が慌ただしく現れた。教導団の仕事がなかなか終わらず、準備にも手間どったらしい。
 ソリを降りた鳳明は、フレデリカに駆け寄った。
「聞いたよ、フレデリカさん! サンタさんが二人、いがみ合ってるなんて何だか哀しいよ…。だってサンタさんからのプレゼントって、欲しくていい子にして過ごすくらい子供達みんなが楽しみにしてる物だよ? そのプレゼント配りを勝負の引き合いに出して、あまつさえサンタさん同士の優劣をそれで決めようだなんて…。ねぇ、思い出してみてよ。憧れたサンタさんってどんな人だったかな? みんなに優しくて、温かい笑顔でプレゼントをくれる素敵な人だよね? ほら、二人とも手を取って仲直りして! 別にサンタさんが二人いたっていいじゃない。キミ達のおじいちゃんだって別にケンカしてる訳じゃないよねっ。うんうん、それで良しっ!」
 一方的にまくしたて、きょとんとしているフレデリカとスネグーラチカを敵意が消えたと判断した鳳明は、満足そうに頷いた。
「じゃあ仲直りした2人とプレゼント配り頑張った皆に、鳳明サンタからケーキとあったかい紅茶のプレゼントだよ〜……ってもう用意されてるーっ!?」
 動揺する鳳明を、先に準備していたニケが一緒に用意しようと誘う。
 鳳明のパートナーで剣の花嫁のセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)がフレデリカにこそりと耳打ちした。
「あの、もしかして、もう仲直りした後でしたか…?」
 フレデリカが苦笑する。
「うん、まぁね」
 やっぱりとセラフィーナが溜息をついた。
「プレゼントを配るお手伝いはできませんでしたが、せめて皆さんの労をねぎらわせて下さい」
 セラフィーナの言葉に、フレデリカが笑顔で頷いた。
「お腹ペコペコ! ご馳走になるね!」

 同じ教導団のよしみで鳳明に頼まれたクレアが『火術』を使い、何箇所かに点在する薪に火をつけた。炎が雪に反射してまわりが明るくなる。
 キラキラと光るツリーの下、戦い終えたサンタ達がルカルカや鳳明の用意したご馳走にありつく。
 やがて、女の子の母親を教会に送って行った朔達と和輝達も戻ってきて合流する。
 クレアが、瞳を潤ませながら報告した。
「おかげさまで、女の子とお母さんは無事に再会する事が出来ましたわ。皆さん、ご協力、ありがとうございます!」
 それを聞いて、パーティはさらに盛り上がっていく。

 ツリーの下、アリアは用意しておいたプレゼントを取り出した。
「今年もお疲れ様。今年も虹七ちゃんが良い子にしていてくれたから、お姉ちゃんからプレゼント」
 フェリアも綺麗にラッピングされた小さな箱を虹七に差し出す。
「私からもありますのよ〜」
 目をキラキラと輝かせて2人からのプレゼントを受け取った虹七も、隠していたプレゼントをアリアとフェリアに渡した。
「メリークリスマス! なの!」
 今年はファリアも一緒なので、去年よりも楽しさもプレゼントも倍だと虹七が喜んでいる。
 アリアとフェリアもお互いにプレゼントを交換する。フェリアはアリアと虹七に出会えた奇跡を神に感謝した。
「メリークリスマス! ですわ〜♪」
 アリアも2人に心から言った。
「メリークリスマス!」
 アリアは、もう1匹の功労者も忘れてはいなかった。
「スズちゃんも、今年はたくさん頑張ってくれたよね。ありがとう」
 アリアはトナカイのスズちゃんの首筋を優しく撫でた。クリスマスの日どころか空賊退治や乗り物レースなど、色々と大活躍してくれた事が思い出される。
「十二星華に闇龍、影龍、みんなで一緒に戦って、みんな強くなったんだよね」
 しかし、何があってもいつだってかけがえのない存在がアリアの傍にはいた。アリアは虹七とフェリアを愛おしげに見つめる。
「ケーキ、食べに行こうか」
 アリア達はそれぞれの想いの詰まったプレゼントを大事に抱え、皆の輪の中へ入って行った。

 ティアは、配り終えて空のはずのプレゼント袋を漁る巽にしびれを切らした。
「タツミ、早くしてよー。外でじっと待ってるのって結構寒かったんだからー。早くあったまりたいよー」
「あったあった、ほい、これで今年のサンタは終わりだ」
 タツミはそう言ってティアの手にプレゼントを乗せた。
「え?」
「中の確認は帰ってからな」
「え? え?」
「あー、腹減った。早くしないと食いっぱぐれそうだな。行くぞ!」
「ちょっと待ってよー、タツミってばー!!」
 嬉しいサプライズに、詳しく話を聞こうとするティアを巽はのらりくらりと交わしながら、ご馳走の元へ歩いていく。

 ツリーの近くでは、ニケが黎とじゃわに深々と頭を下げていた。
「この度はルカがお世話になりました」
 黎とじゃわもいっしょになって頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
「なのです」
 ニケは、黎とじゃわにほほ笑む。
「ふつつかなルカですが、今後とも宜しくお願いしますね」
「もう、ニケってば、ルカ、子供じゃないもん!」
 ぷうと頬を膨らませるルカルカに、ニケや黎達が笑う。
「あ、そういえば、ニケにとってはパラミタでの初聖夜だよね。お祝いしなくちゃ♪」
 先ほどまですねていた事も忘れ、ルカルカはニケにグラスを渡した。
「ようこそ、パラミタへ! これからもよろしくね!」
 黎とじゃわも祝ってくれる。
「こちらこそ、よろしくね」
 ニケの初めてのクリスマスは、いつまでも暖かい想い出になることだろう。

「お? あそこにおるのはレンさんやないかい?」
 社がレンの元へ駆け寄る。
「レンさん! レンさんもサンタしとったん?」
「まあな」
「相変わらずサングラスもバッチリ決まっとるね! サングラスなサンタでグラサンタやな! こら一本取られたわ!」
 はしゃぐ社は微笑ましいが、同時に自分の年齢の重みを感じさせる。
「若者は元気だな」
「なにジジむさいこと言ってるん! レンさんもまだまだ現役やろ!!」
 社が笑いながらレンの背中をばしばしと叩く。
「レンさんも早よ食べな、なくなるで!」
 社はそう言い残して、食事のテーブルへと走って行った。
 メティスが小さく笑う。
「それで、どうしますか、お年寄りのレンさん。胃もたれになる前に帰りますか?」
「馬鹿言え、俺はそこまで年寄りじゃない」
 証拠を見せるべく、レンもご馳走の並べられたテーブルへと向かった。

 エヴァルトはテーブルに伏して、まだ落ち込んでいた。
「うぅ…俺のロボ…俺の強化パーツ……」
 通りがかりの未沙が、ドンっとテーブルを叩いた。
「見てれば、さっきからずっとそれじゃない! あたしだって機晶ロボがどんなものか気になってたんだからね。分解して解析してサンプルにしようと思ってたのに……」
 せめて残骸でも手にいれようと思ったのに、雪娘達が呼んだ回収業者がさっさと片付けて行ってしまった。
「こうなったら、やっぱりもう一つの目的を達成すべきよね!」
 未沙は、その場を去る前に、もう一度、エヴァルトに苦言を呈した。
「いい加減浮上しなさいよ、あんな可愛いパートナー達に心配かけないで!」
 未沙の言葉にエヴァルトははっと顔を上げた。ミュリエルが不安そうにエヴァルトを見ている。アドルフィーネも彼女なりに心配しているようだ。
「すまん、心配かけた」
 エヴァルトの言葉に、ミュリエルがようやく笑顔を浮かべる。
「お兄ちゃん、ケーキ食べませんか?」
 エヴァルトは反省しながら頷いた。
「皆で一緒に食べるか」
 ミュリエルは元気よく返事をして、ケーキをとりに行く。エヴァルトは、これ以降は手に入れられなかったものより、いま側にいるものの事を考えようと心を切り替えた。

 フレデリカの近くにいたリュースが、気になっていた事を彼女に尋ねる。
「そういえば、前にフレデリカさんに契約を申し込んだ方がいましたけど、どうなったんです?」
 フレデリカが思わず正悟を見る。正悟は赤面しながらフレデリカの代わりに応えた。
「一度断られて、再アタック中。でも、今回はやめておくよ。空気の読める男ってところもアピールしときたいからな」
 正悟が茶化すように言うのに、リュースはそうかと頷いた。応援したいようなそうでもないような、妹に彼氏が出来たら、こんな気持ちになるのだろうか。
 そこへ未沙がやってきて、フレデリカの両手を握った。正悟の気配がピリリと緊張する。
「フレデリカさん、あたしね、プレゼントにフレデリカさんが欲しいの。今夜、あたしと一緒に過ごさない?」
 正悟が思わず飲んでいたジュースを勢いよく噴き出した。
「正悟さん!?」
 慌てるフレデリカの手を未沙ががっちり握って離さず、なおも言い寄る。
「フレデリカさんとはめったに会えないから、もっと一緒にいたいなって思って。ほら、フレデリカさんも疲れてるだろうし、一緒に泊ってくれたら、あたしがすごーく気持ちいいマッサージしてア・ゲ・ル☆ ね? いいでしょう? それともあたしの事、嫌い?」
 ぐいぐいと距離を狭める未沙の迫力に、フレデリカの腰も引ける。
「え、ええと、嫌いじゃないけど、ウチ、生き物はプレゼントしてなくて……」
 なおも顔を近づける未沙から、涼子と翡翠がフレデリカを奪った。
「だめーっ!」「だめですっ!!」
 翡翠がフレデリカを背に庇う。
「サンタさんは皆のものです。独り占めはダメです!」
 涼子がフレデリカの腕に腕を絡ませ、未沙から遠ざけた。
「そうよ、私だってフレデリカさんとお泊りしたいのに!」
 涼子の言葉に、未沙の頬が緩む。
「えー、3人で? あたし、そこまで経験者ってわけじゃ…でも、何事にも最初ってあるもんね。じゃ、みんなで頑張っちゃう? あ、そっちの子も女の子みたいな顔だし、ちょっと考えちゃうなぁ。でもそしたら4人かぁ。未知の世界だね」
 何の事だかわからない涼子とフレデリカと翡翠を、正悟が慌てて未沙から守る。正悟は怖いくらい真剣な表情で、未沙のお願いを断るようフレデリカに約束させた。
「未沙さん、ごめんね」
 フレデリカが申し訳なさそうに言う。未沙は、フレデリカ達に見られないよう正悟を睨み、舌打ちした。
 フレデリカは代わりにと、未沙と家で待つパートナー達にプレゼントを持たせてくれた。

 それを見たイングリットはフレデリカにさっそくプレゼントをおねだりにいった。
「イングリットお手伝い頑張ったにゃ! プレゼントは、大きいクリスマスケーキがほし……大きいクリスマスケーキにゃーっ!!」
 言ってる側から、理想のケーキがテーブルの上に並べられ、イングリットは一直線に駆けて行った。
 葵はスネグーラチカがどんなに態度が悪かったかフレデリカにいいつけ、友達はやめておいた方がいいと忠告する。だいたいの状況を把握したエレンディラは、これ以上波風を立てないよう、葵の声がスネグーラチカに届かないよう小声で話してほしいと葵にお願いする。
 フレデリカは葵をなだめ、ケーキにがぶりつくイングリットの分とあわせてプレゼントを渡した。エレンディラにもプレゼントが渡される。機嫌の直った葵は、エレンディラとケーキを食べに行った。

 ミュリエルは遠慮がちに希望を伝える。
「あ、あのっ、できたら、ポータラカドリンクLを100個か、お料理の本がほしいです……」
 どちらも無茶をしがちなエヴァルトの為にほしい品だった。
 ダメだったかと思いながら言うミュリエルに、フレデリカは1冊の本を渡した。『地域の100倍美味しい精進料理』という本の中には、ミュリエルがまだ見た事もない食材があった。
「これからどんどん新しい物に出会うよ。その時に、キミが大切な人を美味しい料理で助けてあげられるように」
 フレデリカの言葉に、ミュリエルは本をぎゅっと胸に抱きしめ、頷いた。

 サンタが二人いるので、プレゼントも2つ貰えると思っていたフェルは、がっかりしながら、フレデリカのもとにきた。
「フェル、プレゼントはミルクと魚が欲しいにゃ。セレスとディアの分も欲しいにゃ。悲しいけど、フレデリカからだけで我慢するにゃ」
 アクアがフェルの非礼を詫びる。フレデリカは笑って、見た事もない大袋の小魚セットと、可愛い絵柄のガラスの大瓶に入った美味しいミルクを2つ貰った。セレスとディアの分も一緒にしておいたというフレデリカの言葉に、フェルは大喜びだ。
 フレデリカはショウとアクアにもプレゼントを渡し、クリスマスを楽しむよう言った。

 その後、子供達にはフレデリカからきちんとプレゼントが配られた。子供とは言えない人達もフレデリカからプレゼントを渡されたが、その箱には小さく『粗品』と書かれていた。大人になるとはこういうことかと残念に思った者も少なくない。

 クリスマスの雰囲気にすっかり浮かれた寺美が、周りの皆に呼び掛ける。
「せっかくのクリスマスなんですから、『幸せの歌』を歌える人はクリスマスソングを歌って下さい〜☆」
 寺美のお願いに応えて、終夏がやって来た。愛用のヴァイオリンを持って来なかったのが悔やまれる。
 サンタ戦隊☆イルミネーデのイエローことディオネアもエレキギターとともに名乗りを上げた。
 鳳明も、皆が楽しんでくれるならと参加する。
 クロは面白そうだとパートナーのラムズをけしかけた。
「おまえも行ってこいよw 期待してるぜwww」
 ラムズは仕方なしに歌の輪に加わる。
 メイベル、セシリア、フィリッパの3人も仲良く参加だ。ヘリシャは前の方に座り、クリスマスソングという馴染みのない音楽を楽しみにしている。
 その後ろの方には、ディオネアのパートナーの春美と、他のサンタ戦隊☆イルミネーデのメンバー、司とロキ、シオンが陣取る。
 ミュリエルも、アドルフィーネにすすめられて、隅の方に混ざった。
 寺美は、千尋の寝顔に癒されている社を追いたてた。
「ほら、社も歌ってくるですぅ〜☆」
 至福の時間を邪魔された社はぶつぶつと文句を言っていたが、言いだしっぺの身内が出ないのもバツが悪い気がして立ち上がった。
「おっと、忘れとったわ」
 社はそう言うと、眠る千尋のポケットにプレゼントを忍ばせた。
「メリークリスマス、千尋」
 社はその頭を優しく撫で、歌のメンバーに入っていく。

 大きなクリスマスツリーの下、即席の合唱団が『幸せの歌』を雪原に響かせる。

 司を真ん中に、セアトと八雲もケーキを食べながら歌声に聞き惚れる。今ばかりは休戦だ。ただし、八雲がこのまま大人しくしていてくれればの話だが。
 アキラはそれをBGMに、本物のサンタに貰ったプレゼントを嬉しそうに眺めている。
 歩は皆の楽しそうな笑顔を見て、自分も皆を笑顔にする魔法少女になりたいと決意を新たにした。
 緋雨は、山盛りのケーキを食べる麻羅に、もう少しバランスよく食べるよう言い聞かせている。
 クレアは、普段、教導団では味わえない雰囲気を楽しんでいた。
 陣は、いつものように給仕してくれる真奈に、休むよう勧めていた。今日ぐらいは、一緒にクリスマスを楽しみたい。
 サンタの孫のじゃないフレデリカとパートナーのルイーザは、合唱団にまたイタズラを仕掛けようとしていたクロを見つけ、捕まえた。
 ラルクは音楽を聴きながら、シャンパンを片手に人のいない場所を探して座ると、煙草に火をつけた。
「やっぱ仕事のあとの一服はうめーな……」

 曲に耳を傾けながら、和葉は今日の出来事を振り返っていた。
(そう言えば、あのもやもやはなんだったんだろう。あれかな…兄様をとられたみたいで嫌だった…とか?)
「うーん」
「どうしました、和葉?」
 パートナーの緋翠が心配そうに聞いてくる。
「えっと、よくわからないや。あ、そういえば…ボクへのプレゼントは?」
 和葉が緋翠に向かって手を出すのに、緋翠が言う。
「さっき、本物のサンタさんから貰っていたでしょう?」
「まあね! で、緋翠からは? もちろん、あるんでしょう」
 手の平をひらひらと動かしてプレゼントをせがむ和葉に、緋翠が苦笑する。
「それじゃ、来年もいい子で頑張るんですよ?」
 緋翠が子供たちに言ったのと同じセリフを和葉に言い、その手にシャラリと冷たい感触を落とした。
「水晶の…ペンダント?」
「ええ、まあ。迷子にならないおまじないみたいなものです……」
 本当は、迷子になっても居場所が分かるようにGPSを仕込みたかったのだが、道具と技術が揃わず挫折したのだ。その後、携帯のGPS機能を使えばいいと道具屋の親父にアドバイスされ、先ほど和葉が迷子になった時にはそれを使って会うことが出来た。なので、プレゼントはただの水晶のペンダントになってしまった。
「俺の持っている飾りと対になっているんです」
 緋翠の言葉に、和葉は、自分の中のもやもやが消えていくのを感じる。
「やっぱりよくわからないけれど、でも、これで、迷子卒業なんだね…やった!!」
「いえ、そうではなく、ただの気休めというか、俺の願望みたいなもので、お守りになってくれたらいいなと……」
 緋翠の話を最後まで気づかず、迷子が治ったお祝いだとケーキをとりに行ったはずの和葉の姿が見当たらない。さっそく迷ったようだ。
「やっぱり……」
 来年も緋翠の苦労は絶えないようだ。緋翠は慌てて和葉を捜しに向かった。

 うっとりと曲に聞き入る寺美に、カメラを持った里也が話し掛けてきた。
「可愛らしい寝顔のサンタさんですな。撮ってもよろしいかな?」
 里也の言葉に、寺美が頷く。
「そのかわり、私達にも写真くださいねぇ」
 里也は笑顔で承諾し、眠る千尋を写真に収める。
 2、3枚撮るのだろうと思っていた寺美は、一向に撮り止まない里也に次第に不安を募らせる。
(この人、ちょっと危ない人かもしれないですぅ。そんな人に千尋ちゃんを撮らせたなんて知られたら、……社に殺されますぅ)
 青褪める寺美に気付かず、里也はなおも可愛い可愛いと言いながら千尋を撮り続けた。
「里也、いいかげんにしとけ!」
 カリンが怒鳴り、里也は未練がましく寺美に礼を行って千尋から離れた。
 みればスカサハは、また色んな人に自前のサンタ服を見せびらかしている。可愛いお洋服大好きの明日香と話が合うようだ。迷惑をかけてないならいいと、カリンは近くの木に背を預けた。
「……本当、今年も疲れたぜ」
 カリンはそう言って、満足そうにほほ笑んだ。

 朔は、フレデリカに翼を模った髪飾りをプレゼントをしていた。左が金色、右が銀色。しかも禁猟区付きだ。
 フレデリカはさっそく栗色の髪に、それをつけてみた。
「似合うかな?」
 フレデリカが聞くと、朔が嬉しそうに頷いた。
「ああ」
 パシャリと音がして、里也がフレデリカの姿をばっちり写真に収めた。
「可愛いですぞ、フレデリカ!」

 今年も寄せ書きを贈りたかった黎とじゃわだったが、言い出す時間がなく、結局自分達だけからのメッセージカードになってしまった。
 申し訳なさそうにそう言ってフレデリカにカードを差し出そうとするのを、朔が取り上げた。朔はポケットを探ってペンを探しだすと、フレデリカへのメッセージを書いて、カードをじゃわに返す。2人だが立派な寄せ書きだ。
 じゃわは、笑顔でそれを受け取って、フレデリカに差し出した。

 ――今年もたくさん、ありがとうなのですよ。お友達とは大切にしなきゃ、めーなのですよー じゃわ
 ――今年も配達お疲れ様。何かあればまた呼んでくれ、すぐに駆けつけるから。では、メリークリスマス!フレデリカ♪ 朔

 2人の暖かいメッセージに、フレデリカが礼を言う。
「今年もありがとう。大事にするね」
 じゃわは、ぺこりとフレデリカと朔にあいさつすると、ケーキを取り分けて待っていてくれる黎の元へ駆け戻った。

 給仕の合間をぬって、鳳明が、フレデリカにケーキの箱を渡す。
「これ、フレデリカさんへのプレゼントだよ。私が作ったの!」
「手作りなんてすごいね。ありがとう、家で皆と食べるね!」
 鳳明とフレデリカの会話を聞いたセラフィーナは、
(出来は食べてからのお楽しみ…ですけどね)
 と、胸の内で不穏な言葉を呟いた。

 エースも、フレデリカにだってクリスマスプレゼントは必要と、用意してきた『極上の花束』を贈った。
 明るいフレデリカの雰囲気をイメージしたオレンジをテーマカラーに、百合と薔薇とガーベラをクリスマスっぽいダークグリーンのセロファンでまとめ、持ち手には、パールカラーの赤いリボンが花の形に結ばれている。
「ありがとう、すごく綺麗……」
 花の香りと色が、フレデリカの疲れを癒す。
「貴重な体験をさせてもらったよ、今日は色々とありがとう。お疲れ様」
「こちらこそ、手伝ってくれてありがとう!」
 フレデリカと会話するエースに、しびれをきらしたパートナーのクマラが話しかける。
「ね、もうケーキ食べていいんだよネ?」
 エースの許可をもらったクマラは、自慢の手作りのケーキ持参で、お菓子の山へ突撃していった。

「今年もまた、皆にしてもらうばっかりだなぁ……」
 でも、いつか必ず立派なサンタクロースになって、皆に恩返しをするのだと、フレデリカは誓う。

 そんなフレデリカのもてもてぶりをぼんやり見ていたスネグーラチカに、円が素朴な疑問をぶつける。
「マロースさんの所は正月に活動するんじゃなかったっけ?」
 返事を待たず、会話に和輝が加わった。
「あなたがロシア正教の人なら、キリスト教徒同士はお世辞にも仲がいいとは言えないので、妨害に来るのはむしろ必然と思っていたんですよ」
 隣のクレアが真剣な顔で頷く。
「地上のキリスト教徒のショバ争いが泥沼化していて、それがサンタクロース同士の「仁義なき戦い」の原因なんですわよね。和輝に聞かされていますから存じてますわ。でも、スネグーラチカさんとフレデリカさんが手打ちをしたということは、しばらくは大きな戦争がないという事かしら」
 和輝の教育のせいで、ところどころ単語がおかしい。
 質問攻めにあい、スネグーラチカが溜息をつく。
「日程はその土地に合わせてますの。人間同士の御託なんてサンタクロースに関係ありませんわ。大事なのは、心の在り方ですもの。逆も同じですわ。サンタクロース同士の関係なんて、人間にはわからないものでしょう」
 スネグーラチカはさらに質問をしてくる者達に、退屈そうな顔をしながらひとつひとつ答えていった。
 そんなスネグーラチカに稔が飲み物を差し入れる。
 そこへ美羽が突進して来た。
「青サンタちゃーんっ!」
 慌てて稔が飲み物を非難させる。美羽はフレデリカにそうしたように、スネグーラチカにも抱きついた。
「ちょっと、何事ですの!?」
 驚くスネグーラチカを無視して、美羽は言いたかった事を口にする。
「青サンタちゃん、機晶ロボ、壊しちゃってごめんね。でも、自分の手で配った時の嬉しいって気持ちをわかってほしかったんだ。配ったー!って気分も一緒に味わってほしかったの!……怒ってる?」
 美羽のまっすぐな瞳から、スネグーラチカはふいと顔を背けた。
「別に、怒ってませんわ」
 機晶ロボを無くし、勝負にこだわりがなくなって、ようやく見えてきたものがあるのだから。
「でも、気安く抱きつかないでいただける?」
 スネグーラチカの言葉に、美羽は慌てて離れた。しかし、スネグーラチカの表情は怒っているというより、照れているに近かった。

 明は、最初にあった時より穏やかな表情のスネグーラチカと、相変わらず皆に囲まれて笑顔を見せるフレデリカを見て、微笑んだ。
 カレンとジュレールも、勝負をやめたサンタ少女達に安心して、クリスマスを楽しんだ。

 刹那は懐にしまったフレデリカからのプレゼントを、もう一度確認して食事にありついた。普段の仕事に比べれば、ささやかすぎる報酬だったが、たまになら悪くない気がした。
 隣のアルミナが嬉しそうにケーキを頬張っているのもそう思える原因のひとつかもしれない。

 刀真は、月夜と玉藻と白花にそれぞれケーキを乗せたスプーンを差し出され誰のを一番に食べるのかと迫られていた。
(どうしてこうなった)
 刀真の受難は終わりそうにない。

 料理が得意な涼介とアリアクルスイドが、パートナーへのお土産にケーキを持ち帰りたい人を手伝って取り分けてくれていた。
 リュースも手土産を頼む。今年はパートナーに気付かれないよう家を出てきたが、もうとっくに気付かれているだろう。土産のひとつもなければ、許してもらえそうにないのは分かっている。
 近くにいる郁乃は、パートナー達の顔を思い浮かべながら、どのケーキをお土産にしようか悩んでいる。隣で同じように悩む沙幸と一緒になって真剣にどのケーキが美味しいのか議論を交わした。

 一番過酷な配り方を経験したレティシアとミスティは、スネグーラチカに文句を言う気力すら起きず、ぐったりと体を休めていた。
 その近くでは、悠希が友情をはぐくんだ仔トナカイと一緒に眠っている。
 明日香が心配して毛布を探して持ってきた。それを見た博季は、3人を起こして無理せず帰るよう促している。冬にこんなところで寝ていては、風邪をひくよりひどい目にあいかねない。

「皆で、記念撮影しませんか?」
 ロザリンドがカメラを構え、皆を誘った。クリスマスツリーを背に、フレデリカと嫌がるスネグーラチカを真ん中にして皆が集まる。
「それじゃ、撮りますよー」
 フラッシュが瞬き、ロザリンドが出来上がりの画面を見て首をかしげる。
 機械に詳しい未沙が、カメラのトラブルかと心配してやって来た。
「どうしたの?」
「いえ、なにか、ツリーに妙なものが……」
 そこへ、どこからともなく高笑いが聞こえた。
「スネグーラチカよ、ライバルとはいえその動機たるやよしっ! 最後に美しくライトアップされた俺様の美をプレゼントしよう!」
 声のする方を捜しあてれば、案の定、変熊がツリーの上でピカピカと光っていた。小さな悲鳴を上げて、男子の裸体に免疫のない女子が視線をそらす。
 スネグーラチカが眉間に皺を寄せて、フレデリカに尋ねる。
「なんですの、アレ?」
「うーん、それは…答えにくい質問だね」
 変熊は、眼下に青い髪のサンタを見つけ、大きく手を振った。
「スネグーラチカちゃ〜ん! 見てる〜? 俺様、美しい〜?」
 スネグーラチカは変熊を無視して背を向けた。後ろの方で、悲鳴と落下音が聞こえたのはきっと気のせいだろう。
「帰りますわ」
 スネグーラチカがそっけなく言うのに、フレデリカは頷いた。
「うん。気をつけて。お祖父ちゃんによろしくね」
 会場を後にするスネグーラチカを見送り、フレデリカは肩の荷が下りた気がした。同時に、少し淋しい気もする。
「あ!」
 ロザリンドは慌てて写真を確認した。唯一撮れた想い出の写真には、とても学友に見せられない存在がしっかりと映っている。
 その尋常ならざる残念感に、ロザリンドはその場にへたり込んでしまった。
「撮り直したい……」
 残念ながら、思い出の記念写真は封印せざるを得ないようだ。

 雪娘達と帰ろうとするスネグーラチカを美羽が追ってきた。
「青サンタちゃん! 来年は、一緒にプレゼント配ろうね!」
 追いついたトライブもスネグーラチカに声を掛ける。
「みんなで配るのも悪くなかったろ? 来年もまたプレゼント配りに来いよ!」
 じゃわと黎、ルカルカも見送りに来た。じゃわは、用意していたメッセージカードを急いでフレデリカに渡す。
「じゃわ、来年も2人のサンタさんを待ってるですよ!」
 メッセージカードには、
 ――サンタさん、たくさん笑顔をありがとうなのですよ。お友達とまた来年も来て下さいなのですよ じゃわ
 と書かれていた。スネグーラチカが思わず微笑む。
「来年も勝負するなら、立会いは任せてくれ」
 冗談混じりに黎が言う。仲良きことは美しいが、競う相手がいるというのは本当に素晴らしく心強いものなのだと、黎は己のライバルを想う。まだ若くて仕事への情熱にあふれる2人のサンタクロースの輝きが失われないよう祈るばかりだ。別に、競い合う二人が、妙にウマが合っていて面白かったから…という訳ではない…多分。
「2人が、いい意味の仲良しライバルになれるといいな」
 ルカルカの言葉に黎が頷いた。

 スネグーラチカを見送った者たちはパーティに戻り、あと少し、お開きになるまで存分にクリスマスを楽しんだ。



第18章 夜明け


 キマクの教会で朝を迎えた茉莉とダミアンは、昨夜、奇跡的な再会を果たした親子を見送った。
 ダミアンが聞き込みをしたり、ビラを配ったりして夜中まで努力しても見つける事ができずにいたのだが、3人でお祈りをしていたところ、突然母親が現れたのだ。
 母親が約束通り、娘を迎えに来ようと1年も捜し続けていてくれた事に安堵し、感謝の祈りを奉げた事を思い出した茉莉の瞳が潤む。
「神様っているもんね」
 そう呟いた茉莉に、ダミアンがからかうように聞いた。
「泣いてるのか?」
 茉莉は、むっとしてそっぽを向く。
「泣いてるわけないだろ!」
 茉莉は怒ったふりをしてさっさと教会に戻る。その時にこっそりと、目元を拭った。

 偶然の重なりを奇跡と呼ぶなら、それはまさしくクリスマスの奇跡だと言えるだろう。





END.   



担当マスターより

▼担当マスター

玉野 晴

▼マスターコメント

 
 この度は大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。
 また皆様にご迷惑をおかけしないよう、執筆状況改善のため、春まで活動を控えさせていただきます。
 本当に申し訳ありませんでした。

 なお、全員に個別コメントと称号をお贈りしています。称号は同じものはありません。
 シナリオにちなんで「聖夜」がついていますが、一部例外もあります。ご確認ください。

【更新履歴】
 2011/1/20
 一人称の間違いを修正。大変申し訳ありませんでした。
 他の方も、間違いがありましたらお知らせくださいませ。