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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第9章 サンタクロースの原点


 和輝は、フレデリカにプレゼントした残りのカイロで指先を温めながら、パートナー達とキマクでプレゼントを配っていた。騒ぎがあったようだが、その場に居合わせなかったので詳しくはわからない。だが、スネグーラチカが妨害してくるとは聞いていたので、パートナーの英霊、安芸宮 稔(あきみや・みのる)が周囲の警戒にあたる。見張りを稔に任せた和輝はプレゼント袋を抱えて屋根に上り、剣の花嫁のクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)と共に煙突から家の中に忍び込み、プレゼントを置く。
 クレアは孤児院や修道院にプレゼントを配る時は、特に心を込めていた。今日、24日はクレアの誕生日という事になっているが、クレアにとっては「修道院の人に拾われた日」だ。親も本当の名前も知らない。司祭に名づけられ、修道院で育てられた。その感謝の気持ちと、もしかすると無意識に幼かった自分を子供達に重ね合わせていた事もあるかもしれない。
 建物の影で忘れられたようなとある小さな教会の窓を覗いたクレアは、女の子の泣き声に気がついた。
 様子を伺うと、天御柱学院の茅野 茉莉(ちの・まつり)が、ママに会いたいと泣きじゃくる女の子を慰めていた。
 茉莉はパートナーと共に、海京の教会の依頼で、何度か訪れた事のあるこの教会のクリスマスの手伝いにやって来ていた。捨て子として教会に保護されていた女の子は、各地の騒動で孤児院や教会を転々としていたらしく、最初は心を閉ざしていたが、ようやく打ち解けてくれるようになったばかりだ。しかし、手持ちの小物で女の子へのクリスマスプレゼントを用意し渡そうとした所、女の子は「それより、ママに会いたい」と泣き出してしまったのだ。教会の人の話によると、クリスマスには迎えに来ると母親が約束したそうだ。
 夜中を過ぎても泣き止まない女の子に、茉莉はサンタクロースのお話をする事を思いついた。
「あのさ、サンタクロースって言われてる『聖ニコラウス』って地球人だった時のお話したげよっか?」
 女の子は茉莉の言葉に泣くのを忘れ、顔をあげた。気を逸らす事に成功した茉莉はそのまま彼女に話し続ける。
「サンタさんが地球人だった頃、何をしていたか知ってる?」
 女の子が首を横に振る。
「サンタさんてのはさ、」
 茉莉は、聖ニコラウスが貧しい人に施しをして救ったり、無実の罪に問われた人を救ったりした偉大な聖人だという話を、シャンバラ人の少女にもわかりやすく話してやる。聞き終えた女の子は、難しい顔で茉莉に聞いた。
「じゃあ、サンタさんは、あたしをママに会わせてくれる?」
「それは……」
 言葉に詰まる茉莉に、女の子の瞳に再び涙が溢れた。
「すごい人なら、ママに会わせてよ。ママに会いたいよ!」
 女の子は再び泣き出し、茉莉はそっと小さな背をあやした。
 茉莉の元へ戻ってきたパートナーの悪魔、ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は茉莉に首を横に振って見せた。
「さすがにこの時間では起きている人間は少なくてな。なかなか手がかりがつかめん」
 ダミアンは、茉莉にすがって泣き続ける女の子を見て苦笑する。
「ひと息ついたら、もう一度捜してこよう」

 その様子を窓の外で見ていたクレアは、和輝と稔を振り返った。
 クレアが何も言わないうちから、稔は笑って頷く。
「わかってます。女の子のお母さんを捜したいんでしょう?」
 隣の和輝も同じ意見だとほほ笑む。
「なんといっても今夜の私達は、サンタクロースなんですから。子供の期待には応えなくてはね」
 和輝は窓越しに携帯で女の子の写真を撮り、メッセージを添えてルカルカへと送信する。
「皆に協力を求めてくれるよう頼みました。あの少女がどこから来たのかわからない以上、捜す範囲も人数も多いに越したことはないでしょう」
 クレアは思わず2人に抱きついた。
「ありがとうございます」
 和輝は少し照れながら、クレアを促す。
「それじゃ、私達も配りながら捜してみましょう」
「はい!」
 3人は、急いでその場を後にした。

 和輝達のSOSは、ルカルカと黎を通じて、全員に届いた。
 配達途中の明日香は、『空飛ぶ魔法↑↑』で飛びながら、携帯に届いた写真とメッセージを確認する。
「ええとぉ、教会や孤児院の近くにいるこの子のお母さんくらいの年齢の方や、関係者の方に聞いて回ればいいのかしらぁ?」
 そう呟く明日香の両腕を、同じように飛んでいた2人の雪娘が左右から掴んで近くの壁へと押しつける。左手にはプレゼント、右手には携帯があるため、明日香は存分に抵抗が出来ない。
「放して下さい〜っ!」
 抵抗する明日香に、雪娘達は申し訳なさそうな顔をして、近くでプレゼントを配るスネグーラチカに視線をやる。明日香はスネグーラチカに向かって叫んだ。
「スネグーラチカちゃん、雪娘さん達に私を解放するように言って下さい〜!」
 明日香の呼び掛けに気付いたスネグーラチカが、意地悪く笑う。
「離してもよろしいですわよ。わたくしがこのあたりを配り終えたら、ですけれど」
 そんなスネグーラチカに、明日香が言いたかった想いをぶつける。
「スネグーラチカちゃん、プレゼントを楽しみにしている子供達への配達を妨害をしてまでなりたいサンタクロースっていったいなんなのですか? スネグーラチカちゃんは、サンタクロースの肩書きだけがほしいんですか? 私は、ライバルとは足を引っ張り合うものではなく、競い合って高みを目指すものだと思いますぅ!」
 明日香の言葉に、スネグーラチカの瞳が一瞬、迷いに揺らぐ。しかし、それは一瞬で、また元通りのスネグーラチカに戻ってしまった。
「もう、説教は聞き飽きましたわっ!!」
 そう言い捨て、スネグーラチカは明日香から離れた。
 残されたのは、明日香と明日香を拘束している2人の雪娘。スネグーラチカの命令通り、しばらくは明日香を解放してくれる様子はない。
「困りましたねぇ。どうしましょう」
 その時、突然投げつけられた『リターニングタガー』が、明日香の右側を拘束する雪娘の頬をかすめる。タガーが投げられた方角を見ると、アルミナの運転する小型飛空艇があった。タガーを投げつけた刹那の姿はない。
 2人の雪娘が殺気を感じて明日香から飛び離れると、それまで明日香の左側を拘束していた雪娘のいた場所に、 鍛えられた打刀『雅刀』が振り下ろされた。獲物を逃がした刹那が上空の雪娘達を『鬼眼』で睨む。
 その迫力に押された雪娘達は、命令を放棄する事にためらいながらも去って行った。
 明日香は、刹那とアルミナにぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございますぅ。助かりましたぁ」
「任務のついでじゃ」
 刹那は表情を変える事無く、再びアルミナの小型飛空艇に乗り込んだ。
 走り去る2人を見送り、明日香はプレゼントを抱え直した。
「あんな小さい子が頑張っているんですから、私も頑張らなくちゃですねぇ」