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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第5章 サンタクロースのやり方


「フラメル、デジャヴって知ってる?」
 イルミンスール魔法学校の五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、クリスマスの飾りで彩られた街を見ながら隣にいるパートナーの英霊ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)に話しかけた。
「常識だろう。既視感という奴だな。前に一度同じことがあったような…と感じる事だ。なんだ、そんな事も知らないのか?」
 偉そうに言うニコラを無視して終夏は話を続ける。
「確か前にも一度こんな事があったような気がするんだよね。クリスマスで賑わう街、プレゼントの入った大きな袋。そして、体から仄かに漂う墨汁の香り……。君、また去年と同じように借り物の服を勝手に改造したでしょう!」
 終夏はくるりとニコラを振り返り、着ている黒いサンタ服を指差した。
「確かに服を借りてきてとは言ったけど、去年みたいなことするんじゃないって言ったよね!?」
「何をいうか、去年とはまるで違うではないか! よく見てみろ、確かに同じ黒ではあるが、去年よりも布が多い上に、なんと!」
「なんと?」
「豊胸パットは控えめに3枚にしておいた」
「……ほぉ?」
 ニコラは怒りの滲む終夏の声に気がつかず、得意げに話を続ける。
「去年はパットの数で機嫌を悪くしていたからな、多少見栄えは悪くなるが、元がしょせん終夏ならばこの辺で妥協するべきだろう」
「フラメル、そういうのなんていうか知ってる?」
「なんだ?」
「余計なお世話」
 終夏が、ソリの代わりにと連れてきた『ヒポグリフ』のヒポの首筋を撫でると、大きな羽根がばさりと動いて風圧を起こし、近くのニコラがよろめいて背後の木に背中を打ちつけた。ニコラは終夏に抗議しようとしたが、ドサリと落ちてきた雪に埋もれてしまい叶わなかった。
「ほら、子供たちが待ってるんだから、早く行くよ!」
「人の好意を仇で返すとは、サンタとしてけしからんのでは……」
 急いで雪から這い出たニコラは、ぶつぶつと不服をもらしながら、『光る箒』にまたがり、ヒポグリフに乗る終夏の後を追った。

 イルミンスール魔法学校生の本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は去年と同じように聖ニコラウス風のローブを纏い、パートナーで地祇のヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)はズボンタイプの自前のサンタ服姿で、使い慣れた『空飛ぶ箒』に乗り、地元の利を活かしてザンスカールでプレゼントを配っていた。
 配達の担当区画には、去年と同じ地域も含まれている為、勝手が分かっているので時間も大幅に節約される。
 また、起きて待っている子供達には、窓から直接手渡ししているので更に早いのだ。
「メリークリスマス。今年もいい子にしていたかな?」
 涼介が窓越しに声を掛けると、先ほどまで眠そうにしていた男の子が顔を輝かせて駆け寄り、窓を開けた。
「サンタさん!?」
 男の子の問いかけに、アリアクルスイドが頷く。
「メリークリスマス。はい、プレゼントだよ」
 プレゼントを受け取った男の子の嬉しそうな顔が、涼介とアリアクルスイドの心にぬくもりをくれる。
 アリアクルスイドが男の子の頭を撫でた。
「来年も会おうね」
 涼介は男の子にきちんと窓を閉めて鍵を掛ける事と、サンタを見た事は他の人には言わない事を約束させると、アリアクルスイドとともに窓を離れた。
「いい子にしているんだよ」
「うん! ボク、がんばるから、サンタさん、またきてね!」
 男の子は2人の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
 アリアクルスイドは男の子の笑顔を思い出しながら、涼介に話しかけた。
「ねえ、涼介兄ぃ、サンタさんって姿見られたらダメなんじゃないの?」
「本当はな。でも、サンタさんから直接プレゼントを貰った方がいい思い出になると思わないか? 少なくとも、私が子供なら、一生忘れないな」
 アリアクルスイドは、涼介の言葉に頷いた。
「ボクも直接貰う方が嬉しいな。サンタさんの手伝いなんて初めてだけど、子供達が大人になって思い出しても幸せな気持ちになれるようなクリスマスに出来るといいよね!」
「そうだな」
 涼介は、パートナーがそう思ってくれる事が、嬉しくもあり誇らしくもあった。

 イルミンスール魔法学校のラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)は、パートナーで猫の獣人クロ・ト・シロ(くろと・しろ)と共に、ザンスカールでサンタクロースをしていた。もっとも『パラミタ虎』に乗ったサンタ姿には多少違和感がある。
「サンタをやりたいなんて突然言うので、何事かと思いましたが、来てよかったです。子供達の寝顔を見ると癒されますね」
 ラムズの言葉に、クロがそうだろうと大きく頷いた。
「せっかくクリスマスにサンタになれるチャンスだ、楽しまねーとな(オレが)www」
 クロの言葉に含まれた( )部分に気づいていないラムズは、クロが『ピッキング』で開けた扉から、のほほんと目当ての家に忍び込んだ。
「さて、この子には……これかな?」
 大きな白い袋から、指定されたプレゼントを探し出し、すやすやと眠る子供の枕元にプレゼントを置こうとしたラムズは、大きな手作りの靴下を見つけ、微笑みながらプレゼントをその中に入れてやった。
 その隙に、クロは目覚まし時計のタイマーをいじったり、机の椅子をガムテープで固定してみたり、子供のぬいぐるみコレクションでシュールな光景を作ってみたりと地味ないたずらに大忙しだ。
「う…ん…?」
 子供がもぞもぞと動き、起きそうになったのを見て、クロは素早く『ヒプノシス』を使い、子供を再び眠りの世界へ連れ戻した。
「オレらみたいなサンタを見た日にゃ、夢、壊れんだろw オレ、そこまで外道じゃねーしwww」
 ラムズは子供が起きなかった事にほっとしながらも、長居は無用とクロを急き立てた。
「早く、次の子のところに行きましょう」
「おうよw」
 ラムズの言葉に返事をしながら、クロは子供に寄り添うぬいぐるみに部屋の隅に転がっていたパーティ用の怪物のお面をかぶせ、仕上げに『サンタ・フレデリカ参上』とやけに達筆な文字で書かれたビラを、目に付く場所に置いて家を出た。
(おっしwwwwwww これでおkwwwwwwwwwwwwww これで、フレっちの知名度も鰻上りだぜwwwwwwwwww)
 楽しそうな様子のクロに、ラムズも嬉しくなる。
「明日の朝が楽しみですね」
 プレゼントを見つけて喜ぶ子供の顔を想像しただけで、なんだか温かい気持ちになる。もっとも、それを自分が覚えていられるかは疑問ではあるが。ラムズは忘れないうちに書き留めておこうと常に持ち歩いている分厚い日記に目をやった。
「ほんと、明日の朝が楽しみだよなwwwwwwwwww」
 子供たちが驚き慌てる様子を想像しただけで、クロは楽しくて仕方がなかった。


「夜に『光る箒』に乗って飛んでる姿って、流れ星みたいできれいだよね」
 『光る箒』に乗ってプレゼントを配っていたサンタの孫じゃないフレデリカが、窓に映る自分達を見てそんな事を言ったその時、
「きゃっ!」
 突然飛んできた紙がフレデリカの視界を邪魔して危うく落下しそうになった。慌ててバランスをとるフレデリカに、パートナーのルイーザが驚いて『光る箒』を寄せた。
「フリッカ! 大丈夫!?」
 心配するルイーザに大丈夫だと笑って見せたフレデリカは、飛んできた紙を改めて見て、――固まった。
「………っっっ!!!?」
 その様子にルイーザがさらに『光る箒』を寄せて、フレデリカの手元の紙を覗き込む。
「これって………」
 ルイーザも思わず絶句した紙には、『サンタ・フレデリカ参上』の文字がどーんと書かれていた。サンタの孫のフレデリカは、今は別の場所に行っている。ということは、今、ここにいる「サンタのフレデリカ」は自分なわけで……。そこまで考えてフレデリカは絶叫した。
「なによこれーっ! まるで私が書いたみたいじゃないっ!!」
 見渡せば、怪しげな虎にのったサンタがうろついている。フレデリカとルイーザは、彼らの後をつけ、彼らが出て行ったあとの子供部屋に例のビラが残されているのを確認した。なんとかそれを回収し、彼らの後を追う。
「待ちなさいっ!!」
 フレデリカの声に、ラムズとクロが止まる。フレデリカは彼らの前にビラをつきだした。
「これは、どういうこと!?」
 ビラを見たラムズは首をかしげ、クロは目をそらした。犯人にピンと来たフレデリカはラムズを指差し有無を言わせず命じる。
「そこの人、隣の子をくすぐって!!」
「え?」
 つい命じられるまま、ラムズはクロのわきをこちょこちょとくすぐった。
「ちょwww やめwww てめw ざけんなwwwwwwwwww」
 猫の柔軟性が仇となり、くすぐったさに身悶えるクロの懐から、例のビラがどさりと落ちた。
「あwww」
「やっぱりこっちが犯人ね。一体、何考えてるの! スネグーラチカさんの手先なの? それともただの愉快犯!? 人の名前を勝手にビラにして配るなんてどういうつもりよ!!」
 フレデリカがクロに詰め寄る。
「てか、マジになりすぎwww ちょっとフレっちの名声に貢献してやっただけじゃんwwwww」
「貢献になってなーいっ!!」
 そこへ、どこからともなく機晶ロボが現れた。スネグーラチカはじろりとフレデリカ達を見る。
「なんだか、わたくしの名前が聞こえた様な気がしましたけど、気のせいかしら?」
「どんだけw 地獄み…」
 喋ろうとするクロの口をフレデリカが手で塞いだ。
 代わって、スネグーラチカの問いにラムズがのんきに答えた。
「親のスネを齧っているグータラをラチか?というお話を少々」
「そう、なら………」
 いいわと続けようとしたスネグーラチカの目に、クロの足元に落ちていた『サンタ・フレデリカ参上』のビラが目に止まった。
 瞬間、機晶ロボの腕が上がり、機晶レーザーがそのビラを焼き尽くす。
 クロが口を塞いでいたフレデリカごと後ずさった。
「マジかよwww シャレにならんてwwwwwwwww」
 スネグーラチカはビラの燃えカスを忌々しげに睨みつけた。
「こんな人気取りを思いつくなんて、あの子らしいですわね。あなた達、ビラを回収して、全部捨ててしまいなさい!」
 スネグーラチカにビラの始末を命じられた雪娘が飛び去る。フレデリカはほっと胸を撫で下ろした。
 しかし、機晶ロボの腕は、予想に反して少し上にあがり、ビラから彼女達へと照準を変えた。
「まだ他にアレがあるなら、大人しく出した方が身のためですわよ」
「やw もうないってwww マジでマジでwwwww」
 降参というようにクロは両手を上げるが、ふざけた口調がいまいちスネグーラチカの信用を得られないでいる。
「こういう喋りなんだからしかたねーしwwwwwwwwww」
 緊張感が高まる中、ようやくスネグーラチカに追いついた立会人の黎が彼女に声を掛けた。
「スネグーラチカ殿、遊んでいる間にフレデリカ殿にまた追い抜かれたようだぞ」
 スネグーラチカは舌打ちして、再びプレゼント配りに戻って行った。
 安堵にほっと息をついたクロが、さっそく口を開いた。
「あの女、マジパネェしwwwww 絶対ヤバイってwwwwwwwwww」
 騒ぐクロをフレデリカがじろりと睨んだ。
「元はといえば、あんなビラつくるからでしょうが! これに懲りたら真面目に配ってよね。さもないと、来年からあの人がシャンバラ地方のサンタになっちゃうわよ!」
「そりゃサンタ終わったなwww」
 その後、少しだけ、クロがイタズラを仕掛ける時間が短くなった気がした。

 ラムズやクロと別れ、プレゼント配りに戻ろうとした時、フレデリカは手に例のビラを握ったままだった事に気がづいた。
「やだ、早く処分しなくちゃ」
 そこへ、空中散歩を楽しんでいた葦原明倫館のアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が慌てて降りてきた。
「なあ、もしかして、本物のサンタクロースなのか!?」
 そう声をかけられ、フレデリカは複雑な顔をする。
「うーん。そうともいえるし、違うともいえるし……」
「だってそれに書いてるじゃないか、『サンタ・フレデリカ参上』って!」
 どこまでもやっかいなビラである。
「いや、これは事情があって……」
 アキラに詰め寄られ、答えに詰まるフレデリカに、ルイーザが助け船を出した。
「本物の聖ニコラウスの孫のフレデリカさんなら、キマクで配られているはずです。私のパートナーは、確かに同じ名前ですが、1日だけサンタクロースのお手伝いを頼まれた地球人ですよ。1日サンタクロースのでいいならお話を伺いますが、聖ニコラウスの孫のフレデリカさんをお探しなら、人違いです」
 きっぱりというルイーザに、アキラはうーんと悩むと、キマクを目指す事にした。
「やっぱ、せっかくならバイトじゃなくて本業の人からもらいたいもんな。情報、サンキュ!」
 アキラは礼を言うと、愛用の『空飛ぶ箒』でキマクを目指した。
 フレデリカは『火術』で火を呼び出し、ビラに火をつけた。
「今年のクリスマスって、なんか妙に疲れるわね」
「そうですね」
 フレデリカの言葉に、ルイーザは同情して頷いた。

 なんだか外が騒がしい気がしたが、終夏は気にせず去年配った家の兄弟達と再開を果たしていた。
「あのね、ブラックサンタのおねーちゃんに会いたくて、がんばっておきてたんだよ!」
 末っ子の言葉に、終夏の頬が緩む。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな」
 去年、子供達にお供のおじちゃん扱いされたニコラは、成り行き上、お供からブラックサンタクロースに昇進した事になり、ようやく子供達に「ブラックサンタのおにーちゃん」と呼んでもらえるようになった。
 ニコラがあれからしばらく気にしていたのを知っている終夏は、今年はニコラがサンタに見えるようにしてあげようかなんて事を考えていただけに、ほっとする。
 そんな中、兄弟の真ん中の子がぼそりと呟いた。
「どうして来たの?」
 それにニコラが答える。
「また来ると約束したであろう。サンタは約束を守るのだ」
 約束したから、どうしても去年と同じ地区で配りたいと言い張った事は子供達には内緒だ。ちょっぴり照れた様子のニコラに、真ん中の子は後ろ手に隠していたおもちゃの車を恐る恐る差し出した。
「僕、去年貰ったプレゼント、ケンカした時に落っことして壊しちゃったんだ。だから、僕、いい子じゃないから……こわいサンタになるの?」
 彼は去年、ニコラが言い残していった『悪い子にはこわ〜いサンタに変身する』という言葉を覚えていたようで、泣きそうな顔になっている。
 だが、サンタクロースのリストにはきちんと彼の名前が載っていた。きっとその後、それを上回る程いい子でいたのだろう。
 ニコラはその子の手からおもちゃの車を受け取って状態を調べた。椅子に座り、予備として持ってきていたおもちゃの車を分解し、いくつか部品を入れ換えて組み立てなおした。
 多少時間は掛ったが、おもちゃの車はまた動くようになった。
「反省しているようだし、今回は特別にこわ〜いサンタはなしにしてやろう。だが、世の中には直せるものと直せないものがある。次は気をつけるのだぞ?」
 男の子は、おもちゃの車を壊さないようにそっと受け取り、ニコラに力強く頷いた。
「僕、今度こそちゃんと大事にするからね。ありがとう、ブラックサンタのお兄ちゃん!」
 そのまっすぐな笑顔と言葉に照れて動揺するニコラを見て、終夏は微笑んだ。
(この時間のロスは、きっちりフラメルに働いてもらおうか)
 今ならきっと、子供たちの為にどんな激務もこなしてくれそうだ。
(だって「ブラックサンタクロースのお兄ちゃん」だもんね)
 そして、フラメル達は、黒いサンタ服を翻し、子供達の家を後にした。
「ではな、子供達! 悪い子の前では、こわ〜いサンタに変身する、このブラックサンタを忘れるでないぞ! 来年もまた良い子のまま会おう。さらばだ! ふはははは!!」
「ブラックサンタのお姉ちゃーん、ブラックサンタのお兄ちゃーん、ばいばーい! また来てねーっ!!」
 笑顔で手を振る子供達に終夏は、光術で小さな光をたくさん作ると、雪のように子供達の窓に降らせた。
「メリークリスマス、来年も良い子でね!」
 それは降り始めの雪程度のものだったが、その美しさは十分に子供達を魅了したようだ。彼らがそれに気を取られている間に、2人は次の家へと向かった。