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ライバル登場!? もうひとりのサンタ少女!!

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第6章 スネグーラチカの言い分、フレデリカの想い


 スネグーラチカ一行は、ザンスカールからキマクへと向かっていた。
 街の中心から離れ、少し落ち着いた様子のスネグーラチカに、サンタのトナカイに乗った翡翠が思い切って声を掛けた。
「あのっ、スネグーラチカ様とフレデリカ様は、どうして仲が悪いんですか?」
 どんな気まぐれか、スネグーラチカがその問いに答える。
「そうですわね……。あの子が初めてニコラウスお祖父さまとウチに遊びに来た日の事ですわ。わたくしは、自慢のトナカイを特別にあの子に見せて差し上げたんですの。そうしたら、こともあろうに、わたくしのトナカイが……っ」
「なにがあったんですか?」
「わたくしよりも、あの子になついたんですわっ!!」
「………………」
 絶句する翡翠に構わず、スネグーラチカは続ける。
「それだけではありませんわ、子供たちに好かれるのはいつもあの子の方! ソリ職人達もあの子だけには甘いんですのよ! しかも、あの厳しいわたくしのお祖父さままで、あの子のことを褒めたんですの!!」
 スネグーラチカの告白に、サンタクロースに夢と希望を抱く翡翠は混乱する。
(どうしよう、どう聞いても逆恨みに聞こえます!……いやでもまさかそんなサンタさんが……)
「わたくしの方が先にソリを乗りこなしましたのに! わたくしの方が技術だって上ですのに! どうしてっ!……どうして、あの子が先にサンタクロースになれますの?」
 泣きそうな顔をするスネグーラチカに、翡翠はなんといって声を掛けていいかわからなかった。
 そこへ、スネグーラチカを待ち伏せていた百合園女学院の桐生 円(きりゅう・まどか)が、タイミングを見計らって機晶ロボに飛び乗ってきた。
 殺気立つスネグーラチカと雪娘に、円は「どうも」と挨拶をした。
「通りすがりの者だけど、邪魔するつもりもないし、ただ話を聞きたいだけなんで、お構いなく」
「何の御用ですの?」
 スネグーラチカの問いに、円が話し出す。
「キミって、ジェド・マロースの孫なんだって? あれかな? 御爺様の仕事ぶりを見ながら育ったのかな?」
 スネグーラチカが頷く。
「なら、教えてくれないかな。どっちが先に配り終えるってそんなに重要なことなのかな? サンタクロースは、どれだけ先に配り終えるって事をステータスにしてるのかい?」
 円の言葉に、いつも自信満々のスネグーラチカの瞳が不安げに揺らぐ。
「それは……お祖父さまは……」
「ボクが思うに、どちらが先にサンタクロースになるかなんて事は大して重要じゃないと思うんだ。それより、自分の仕事に如何に誇りをもって如何に楽しむかの方が大事だと思うけど。大体、速さを競うって考えてる時点で、方向を間違え始めてる気がするなぁ。こういうお仕事ってやっぱり勝ち負けじゃないと思うんだよね。スネグーラチカくんは、配達した子供の顔とかちゃんと見てる? まずはそれをよく見てご覧よ。子供相手のお仕事だし、自分も楽しまないと損だよ。まあ、これはボクはがなりたいサンタって視点での話だけどね。スネグーラチカくんはどう思う?」
「あなたに言われなくても、サンタクロースの役割ぐらいわかってますわ。わたくしは、ずっと、サンタクロースになろうと……」
「スネグーラチカくんは、どんなサンタクロースになりたいの?」
「どんなって、……わ、わたくしは、誰よりも立派なサンタクロースになろうと……」
「じゃあ、なんでサンタクロースになろうと思ったの? 」
「なんでって、それは……わたくしが、生まれながらのサンタクロースだからですわ! わたくしは、フレデリカに勝って、それを証明しなくてはなりませんのよ!!」
 道なりに走行していた機晶ロボは、スネグーラチカの命令に応じ、目的地に向かって道なき道へ突入した。悪路の衝撃でバランスを崩した円が、機晶ロボからすべり落ちるが、器用に機晶ロボのパーツを伝い、最小限の衝撃で地面に転がった。
「思ったより根が深そうだな」
 スカートの泥を払って立ち上がった円は、後は任せたとばかり、枯れ木の森を突き進むスネグーラチカ一行に向かって手を振り、見送った。

 一方、フレデリカは、先にキマクで協力者たちとプレゼントを配っていた。
 サンタクロースの衣装を自作してきたというシャンバラ教導団の朝野 未沙(あさの・みさ)が、火山の名を持つ『小型飛空艇ヴォルケーノ』を、フレデリカのソリに寄せて話し掛けた。
「フレデリカさんは、あたしが身体で守るからね!」
 未沙の言葉に、フレデリカが驚く。
「だめだよ! 危ない時はちゃんと逃げてね? 大丈夫! 私、足には自信があるから!」
 自信満々に答えるフレデリカの、ミニスカートからすらりと伸びた脚を見て、未沙はうふふとほほ笑んだ。
「うん、そうみたいだね」
 フレデリカは足の速さのつもりで言ったのだろうが、未沙は違う意味で同意していると思われる。
「ね、フレデリカさん、プレゼント配りのお手伝いも一生懸命するから、終わったらご褒美くれる?」
 未沙のおねだりに、いいよ、と答えようとしたフレデリカをレッサーワイバーンに乗った正悟が慌てて止めに入った。
「フレデリカさん、答えは慎重にした方がいいと思うよ。絶対に!」
 ただならぬ迫力の正悟の助言に、フレデリカは何度もうなずき、ぎこちなく未沙に返事をした。
「え、ええと。……考えとくね」
 正悟は、フレデリカとのハイキングの時に未沙がしでかした悪夢を忘れてはいなかった。フレデリカには聞こえなかったようだが、小さな舌打ちが正悟の耳には届いていた。

 久しぶりにフレデリカとの再会を喜びあった自前のサンタ服姿の百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナー達は、移動の間は護衛を兼ねて、フレデリカの周囲を固めている。
 乳白金の髪と白い色の瞳のメイベルに対し、赤い髪と青い瞳を持つ精霊のヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)は、メイベルにそっくりな顔で楽しそうに言った。
「私、クリスマスってあまりよく知らないのですけど、なんだか面白いですぅ。去年もこんな感じだったんですかぁ?」
 ヘリシャの問いに、トナカイのイラスト付き小型飛空艇に乗った英霊のフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が答える。
「そうですわね。スカートが相変わらず短くて寒いのも去年と同じですわね」
 ヘリシャが、いいなぁと大型騎狼の上で呟いた。
「私が小さい頃にもクリスマスがあれば、楽しい思い出になったのでしょうねぇ。これからの子供たちには、ぜひ、楽しい思い出をたくさん作ってもらいたいですぅ。そして、それがまた次の子供たちに受け継がれていったら、とても素敵ですよねぇ。そんな素敵な伝統作りのためにも、頑張りましょう」
 同じ顔をしたヘリシャのはしゃぐ様子を『サンタのトナカイ』に乗ったメイベルは微笑ましく見ていた。
「その上、今年は配達競争でもありますものねぇ、皆で頑張りましょうねぇ」
 メイベルの言葉を聞いて、ヘリシャがフレデリカに尋ねる。
「その相手のスネグーラチカさんという方も、サンタさんなのですから、そういう素敵な伝統を守るため頑張っているのでしょう?」
 フレデリカは複雑な顔で頷いた。
「そうだよ。ものすごく頑張ってるよ。頑張りすぎて、周りが見えないくらいね。……問題は、そこだと思うんだけどなぁ。サンタクロースだから頑張るのか、子供たちの為に頑張るからサンタクロースなのか。それが重要だって、気づいてくれるといいけど」
 フレデリカは、同じ空の下、どこかできっとがむしゃらに頑張っている幼馴染みを想い、空を見上げた。
「スネグーラチカさんて、どんな方なんですかぁ?」
 メイベルの質問に、フレデリカがうーんと唸った。
「悪い子じゃないんだけどね、ちょっと思い込みが激しくて、私をものすごく敵視してるの。たとえば、雲ひとつない晴天の時に、私がいい天気だねって言っても認めないっていうか。それでもって、細かい事にまで絡んでくるんだよね。朝食の食べ方とか、バターの産地とか、紅茶の栽培方法とかに文句つけられても、どう答えていいかわかんないし。でも、じゃあキミの勝ちでいいよって言ったらバカにするなって怒ってくるし。正直、ちょっと面倒……あ、でも悪い子じゃないんだよ」
 取り繕ろうフレデリカに、メイベル達が笑った。
「わかりましたぁ。悪い方ではないんですねぇ」
「うん。だからって、この地区のサンタは譲れないけどね!」
 フレデリカの笑顔に、『サンタのトナカイ』に乗った剣の花嫁のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が力強く頷く。
「ライバルとか勝負とかって、俄然、燃えるよね! 皆で協力して頑張ろーっ!!」
 セシリアが鬨の声を上げると、つられてフレデリカや周りの皆も「おーっ!」と拳を突き上げ、それに合わせてた。