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第一章 大奥恒例。年末大掃除! 2
「はあ……大奥に入って数ヶ月。大変な年でございました」
樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は自分の部屋を見渡しながらつぶやいた。
彼女のため息には実感がこもっている。
大奥に上がり、御花見となり、マホロバ将軍鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)の寵愛を受け、男児を出産。
新将軍鬼城 白継(きじょう・しろつぐ)の母となる。
なんという激動の人生。
年末時代劇スペシャルで……いや、来年の犬河ドラマの女主人公も狙えるのではないか。
「でも、ここで気を抜く事は許されません。今後も大奥のため、マホロバのため。将軍白継様のためにも、心を尽くす所存です。そのためにも、行く年の汚れを落とし、清浄な気持ちで年を迎えませんと……えいっ!」
そういって割烹着と三角頭巾を携え、箒を両手に掃除に取り掛かる。
女官たちが慌てて止めに入った。
「なりません、白姫様! 大台所様がそのようなこと! お掃除はわたくしたちが致しますゆえ!!」
「でも、これから住まわれる御花実のお部屋も綺麗にしたいと思って」
「将軍様のお母上となられたお方に、そのようなことをさせたら、わたくしたちが御糸(おいと)様にしかられてしまいますぅ!」
半べその女官たちに白姫は問いかけた。
「え、御糸様は、大奥取締役を辞されたのでは……」
「そうなんですが、なぜか今回は特別だとおっしゃって、姑のように大奥を監視してるんです。ついさっきも、壁にあいた穴を見つけて大層なお怒りようでした!」
きくと、大奥内のアラを探してはクドクドと言い、ネチネチと若い女官を注意して回っている、被害者多数とのことだ。
「御糸様は一線を退かれてからは、ワイドショーや女性週刊誌を多く見るようになったとかで、そんなネタも振ってくるんです。熟女同士の不倫とかAV蔵とか知ったこっちゃないですよ。困ってるんです。まるで鬼女ですよ!鬼姑(オニババ)です!」
「……誰が鬼姑だと?」
どこからともなく現れたのは今噂のその人だった。
御糸の姿を見て震え上がる女官たち。
御糸は彼女たちを一瞥してから、白姫にうやうやしく頭を下げた。
「これは樹龍院様。白継様の将軍の就任、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。御糸様もお元気そうで何よりでございます」
「ええ、おかげ様で。ところで白継様はどちらに? ぜひともご挨拶しませんと」
「白継様は……まだ遊びたいお年頃ですし、土雲 葉莉(つちくも・はり)を護衛につけて他の兄弟たちと一緒に遊びに行かせましたが……」
「ぬわんですって!?」
突然、クワァッと御糸の目が見開かれた。
「白継様にもしものことがあったらどうされるおつもりですか? 乳母は? 私がマホロバ中を探してもっと優秀なのを付けさせますが?!」
「あ、あの。これから兄弟仲良く、マホロバを守っていけるようにと思って。大丈夫ですから……たぶん」
「たぶんなんて、当てになりますか! そもそも樹龍院様、大台所様としてのお心積もりが……(くどくど)」
御糸の説教が続き、白姫は掃除どころではなくなってしまった。
しかし、本気で心配してくれていることに感謝したいと思った。
日も暮れてようやく御糸に解放されたころ、白姫は部屋の押入れの中から古びた書物を見つけた。
大奥に入った女官の誰かが持ち込んだのだろうか。
「『大奥紀ぷれいにっき』……?」
白姫が小首を傾げて項をめくると『げえむ雑誌で歴史的評価』という記述あった。
どうやら日本で十数年前に発売された家庭用ゲームソフトで、あまり芳しくない評判だったようだ。
にっきの主は大奥の為にこのゲームで予習をしたと書いてある。
また、ところどころに『くそげ』と酷評が落書きされている。
最後にこれだけ書かれていた。
『しかし、大奥は底知れぬ伏魔殿的魅力がある。そこに生きる人々もまた同じ』
白姫はしばらく考え込んでいたが、ふっと優しく微笑むと書物を抱きしめた。
「白姫もこの大奥に生きる人たちが好きでございます。これからも皆で遊べるよう、真面目に頑張るでございます……」
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