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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第2章「動き出す狩人達」
 
 
「皆さん、この度はお集まりいただき、ありがとうございます」
 朝倉 千歳達が行動を開始した少し後、シンクに集まったハンター達に村長が依頼金を渡していた。
「依頼の時に説明されてるとは思いますが、現在我が村の南にある山に住む動物達が凶暴化し、村に被害が出ています。皆さんにはこの動物達の捕獲、あるいは駆除をお願いします」
 そこに集まっているのは歳も風貌も様々な者達。ある者は純粋に村を護るため、またある者は報酬目当てに参加していた。
「動物達の中には鳥型の巨獣の子供もいます。それから、今回の件が発生する前に村の者が怪しい男達を見ています。不測の事態が起こらないとも限りませんので、皆さんくれぐれも気をつけて下さい」
 念を押す村長。だが、そこはハンターとして集まった者達。多少リスクがある程度でしり込みをする者は誰もいなかった。
 村長に見送られ、ハンター達は行動を開始する。いち早く動き出したのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だった。
「皆さん、俺としてはまずは村の近くの護りを優先したいと思うのですが、どうでしょうか」
 常日頃から戦術や戦略の事を考えている鉄心は今回の事件でのポイントをいくつか抑えていた。それを実行できるよう、他のハンター達にも呼びかける。
「村民の安全、日常生活に支障が出ない事。これがまず第一でしょう。また、異常行動……凶暴化の原因がわからない以上、病原菌などによる人への二次感染の可能性も考えなくては。まずサンプルとして近くの小動物を生け捕って隔離観察し、対処法を調べてからでも遅くはないと思います」
 呼びかけられた者達が鉄心の方針に乗るかどうか話し始める。最初に無限 大吾(むげん・だいご)九条 風天(くじょう・ふうてん)が賛成の意を示した。
「俺はそれで構わないよ。今回の事はおかしい所が多いから、原因を探るのは悪くないと思う」
「そうですね。解決する見込みがあれば無駄な殺戮をする必要もなくなります。ボクも手伝いましょう」
 続いて神代 明日香(かみしろ・あすか)が歩み出た。だが、二人とは違い、あくまで条件付での賛成だった。
「私もお手伝いします。でも、時間をかけ過ぎると村の皆さんが山に入れなくて困ってしまいます。ですから動物さん達を何とかできそうにない時は駆除しちゃいますからね」
「わかりました。そうならないように努力しましょう」
 一方、鉄心の方針を受け付けない者達もいた。霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は山へと続く道を歩き出す。
「悪いけど私はパス。せっかくスリルのある戦いが楽しめそうだもん。おまけに報酬をもらえて村を護る事にもなる。一石三鳥な美味しい話を逃すつもりはないね」
「ふふ、倒した動物を後で頂けば四鳥ですね。どちらにしろ、私達は報酬のために時間を割いてここまで来ているのです。あなた達が代わりに戦闘の高揚を楽しませてくれるのでない限り、私達は好きにさせて頂きます」
「ですが、原因を特定しなければ、根本的解決にならずに事態が悪化する恐れもある。さすがに山の獣達を皆殺しにはできないでしょう」
 先へと行こうとする二人を引き止める。だが、鉄心の言葉にも、透乃は笑みを浮かべるだけだった。
「それならそれで倒し続けるだけだよ。私は一向に構わないから。……ま、安心して。一応村を護るって名目で来てるから、向こうから襲ってこない限りは手を出さないであげる。それじゃ、お先にっと」
 背を向けたまま手を振り、二人は山へと入っていった。それに続くように鉄心の方針に賛同しないハンター達が先に進んで行く。その中にウォーレン・マクガイア(うぉーれん・まくがいあ)の姿もあった。通り過ぎざまに鉄心を睨んで行く。
「フン、地球人が……てめぇらはそこで大人しくしていろ」
 その言葉に反応したのは鉄心ではなかった。その場に残ろうとしていたハンター達の中から小柄な少女が飛び出してくる。
「ちょっと! 今のは聞き捨てならないわね!」
「……あん? 何だてめぇは」
「あたしは寿 司(ことぶき・つかさ)。あなた、ウォーレン・マクガイアでしょ。ハンターとして有名みたいだけど、あたし達を見下さないで欲しいわね!」
 司と名乗った少女が頭一つ分は差のある男を見上げる。ウォーレンはそんな司には興味ないとばかりに山に向けて歩き出した。
「何度も言わせるんじゃねぇ。てめぇらは大人しく消えりゃいいんだよ……ここからも、パラミタからもな。ったく、役立たずの地球人どもが」
 そのまま先へと向かい、木々に遮られて見えなくなった。司はしばらく固まっていたが、やがて気を取り戻すと肩を震わせる。
「……あ、あったまきた! こうなったら絶対にあたしを認めさせてやるんだから! 待ちなさいー!!」
 ウォーレンを追って走り出す。そんな彼女を見て、鉄心はパートナーであるティー・ティー(てぃー・てぃー)に振り返った。
「うーん……仕方ない。ティー、悪いけど二人について行ってあげてくれないかな。どうも彼は地球人が嫌いみたいだからね」
「わかりました鉄心。お二人が無事に帰ってこられるよう、お手伝いしてきます」
「うん、よろしく頼むよ。何かあったらこっちに」
「えぇ。では行ってきますね」
 ティーを見送り、残ったハンター達へと向き直る。村を護るための戦い、その第一歩だ。
「では皆さん、凶暴化した動物を捕まえたら俺の所に連れてきて下さい。よろしくお願いしますよ」
 
 
「ほら獣達! いるならとっとと出てきな!」
 血煙爪を振り回しながらマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が叫んだ。周囲の木は血煙爪によって削り取られ、中には切り倒された物もある。
 その足元には一匹の動物が倒れていた。既に事切れ、首からは血がしたたり落ちている。
 血煙爪の被害を受けない位置にいるリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)がそんなパートナーを見ながらため息をついた。
「もう、マリィったら。動物を見つけたら捕まえるようにと鉄心さんがおっしゃっていたではありませんか」
「そんなもんは他の奴に任せときゃいいんだ。あたいはあんたみたいに甘くはないのさ。真剣さが足りないのはあんたの方よ」
 言いながら足元の動物を足蹴にする。こうする事で動物達に『人間は恐ろしい』という意識を植え付け、村まで近づかせないようにする狙いだった。
 次の瞬間、近くの草むらがうごめきだした。マリィが血煙爪の狙いをそちらに向けて振りかぶる。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 草むらから飛び出してきたのは風天だった。間一髪、血煙爪の刃をかわして転がる。その手には暴れるウサギの姿があった。
「も、申し訳ありません! お怪我はありませんか?」
「えぇ、何とか。大きな音がするから来てみたのですが、あなた達が動いていたのですね。どうりで近くに動物達があまりいない訳です」
 駆け寄ってきたリリィに答えながら立ち上がる。どういう状況だったのかもマリィの足元を見て大体は理解したようだ。
「とりあえずボクはこの子を鉄心さんの所に連れて行きます。上手く正気に戻す事ができたら教えに来ますので」
「はい、健闘をお祈りしますわ」
 再び風天の姿が見えなくなる。動物達と、マリィの進む先の木の運命は彼らにかかっていた。
 
 
「ふむ、どうやら空気感染の線はなさそうだ。とりあえずは一安心といった所だが……」
 明日香が捕まえてきたキツネを調べながら九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がつぶやく。ローズは医学部に所属している学生だが、生物学にも通じているために動物の診断も行う事ができた。
「これは、神経系に直接作用している? となると……。鉄心、試しに『清浄化』を使ってみてくれないか」
「わかった。やってみよう」
 鉄心がキツネの額に手をかざし、清浄化を使用する。光に包まれたキツネの眼がだんだんと穏やかな物へと変わっていった。光が収まった時にはすっかり正気を取り戻し、大人しくその場にたたずむ。
「凄いです! キツネさんが元に戻っちゃいましたぁ!」
「さすがはローズ、見事な診断だ。明日香さん、これなら動物達を殺さなくて済みそうだ。同じように捕まえてきてもらっていいかな?」
「はい、わかりましたぁ!」
 動物達を救う手段が見つかった事で意気揚々と駆け出して行く明日香。それと入れ違うようにして大吾が戻って来た。
「ただいま。ちらっと見えたけど、正気に戻す事ができたのかい?」
「ああ。俺が清浄化で治していくから、どんどん動物達を捕まえてきてくれると助かる」
「わかった。それじゃあまずはこいつを――おっと」
 大吾の携帯電話が着信を告げる。捕まえた動物を先に鉄心に手渡し、急いで胸ポケットからを取り出した。ディスプレイにはこのシンクに居を構えている篁家の次女、篁 花梨(たかむら・かりん)の名前が表示されている。
「もしもし。……やあ、花梨さん」
『大吾さんですか? よかった、やっとつながりました』
 花梨が電話をかけてきたのは自身が村を離れているので今回の事件への協力を頼むためだった。昨日は話し中で連絡が取れなかったのだが、その相手が既にシンクにいるというのは幸運と言えた。
 大吾達の現状を聞き、有効な対処法が見つかった事に安堵する。だが、既に一部のハンター達が山へと入っているのを聞いて心配そうな声を出した。
『実は今、うちの雪乃ちゃん達が動物達を慰霊碑の所へ連れて行こうとしてるんです。問題を起こさないといいんですけど……』
「慰霊碑? そういえばあの辺の動物達は特に大人しいって話を聞いた事があるな。……わかった。俺達も他のハンターと妹さん達にトラブルが起きないよう気をつけてみるよ」
『すみません、よろしくお願いしますね』
 大吾が電話を切る。それと時をあわせるように風天が戻って来た。その手には捕まえたウサギ、そして携帯電話が握られている。
「戻りました。何か有効な手は見つかりましたか?」
「ああ。清浄化を使う事で元に戻るみたいだよ。そのウサギも貸してみてくれ」
 鉄心がウサギを受け取り、清浄化を使用する。先ほどのキツネと同じように落ち着きを取り戻し、周囲を元気に跳ねだした。
「なるほど、確かに元に戻ってます。今後は動物達を捕まえたら鉄心さんにお任せする形でよさそうですね」
 ウサギを見ながら風天が微笑む。活動がひと段落した所で大吾が周囲のメンバーを集め、先ほどの電話の内容を伝えた。
「――って訳で、俺達以外の人が山に入ってるらしいんだ。だからもし他のハンターと会う事があったら、この事を伝えておいてもらえないかな」
「ボクもここに戻る途中で透矢さんから同じ内容の連絡を受けました。どうやら前の事件で一緒になった人達が何人か向こうに協力してるみたいですね」
 風天の言う前の事件とは、先日近くの森で起きたならず者達による馬車の襲撃の事だった。その際、篁家長男の篁 透矢(たかむら・とうや)に手を貸し、彼らの襲撃を退けたのが大吾や風天、明日香、そしてローズだった。
「妹さん達は動物達の駆除をさせないように行動してるみたいだからね。もしかしたら先に行った人達と戦う事になるかもしれない。俺はとりあえず村長の所に行って依頼を捕獲のみに絞ってもらえるように交渉してくるよ。――千結」
 大吾がパートナーの廿日 千結(はつか・ちゆ)を呼ぶ。呼ばれた本人はのんびりと近づいてきた。
「ん〜? 何かな?」
「千結は先に行った人達を追いかけて事情を説明してくれないか。報酬のために駆除を続けようとする人達がいるかもしれないけど、その時は俺の分の依頼金を回してもらっても構わないから」
「お人よしだねぇ、大吾は。まぁ頑張って止めてくるよ〜」
「俺も村長に会ってくる。動物の捕獲はみんなに任せたよ」
 千結が箒で山の奥へと飛んで行き、大吾は逆に村へと戻る。それを合図にして他の者達も行動を再開した。
「これは、できるだけ早く解決する必要があるかな。そのためにも清浄化を急がないと……」
 鉄心が暴れる動物を抱え、精神を集中させる。だが、その途中で力が抜けるようによろけ、動物を取り落とした。倒れこむ鉄心を冬月 学人(ふゆつき・がくと)が支える。
「おっと、大丈夫か? 清浄化の使いすぎで疲れが出たんだろう。少し休んだ方がいい」
「そうだな。今は鉄心が頼りなんだから無理はしないでおこう」
 逃げようとした動物を捕まえながらローズが歩み寄る。幸い学人の言う通り一時的な疲労だったため、ある程度の休養を挟む事でまた清浄化を使う事ができた。
「思ったよりも大変だね、これは……」
 再び清浄化を使い続け、疲労で横になった鉄心がつぶやく。だが何度疲れようとも、依頼を果たすために手を抜く気は全くないのだった。