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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第3章「動物回収作戦」
 
 
 山の中で篁 雪乃(たかむら・ゆきの)達は凶暴化した動物達を捕まえるために奔走していた。
 そのうちの一人である夜月 鴉(やづき・からす)が雪乃に自分達の作戦を告げる。
「大きい動物を?」
「ああ、向こうでそのために罠を仕掛けてきた。だから大型のやつらは俺達に任せてくれ」
 鴉が仕掛けた罠は巧妙に隠され、一見してそこに罠があるとは気付きにくいほどの出来だった。
「一応網とか縄とかケガしにくい物で作ってあるけど、でかい奴はそれだけじゃ大人しくなるかわからないからな。場合によっちゃケガさせちまうかもしれないけど――」
「きゃーー!!」
 鴉の説明を遮るように悲鳴が響き渡った。その声が聞こえたのは鴉の後方、今しがた罠を仕掛けたという場所からだった。
 二人が見に行くと、そこにはユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)が逆さづりになっていた。片手で必死にスカートを押さえながら何とか脱出しようともがいている。
「……何やってんだ?」
「うっさい! 何でこんな所にこんな物があるのよ!」
「さっき説明しただろ……」
「知らないわよ! とにかく早く降ろしてー!」
「わかったわかった。いいから動くな、動くと――」
「きゃぁぁ! バカ! エッチ! 見るなー!!」
 さらに暴れる事でブラブラと揺れるトゥーナ。そんな彼女を見ながら鴉はため息をついた。近くにいたアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)が声をかけてくる。
「主、トゥーナを助け出しましょうか?」
「頼む。俺がやるとまたやかましくなりそうだ」
「了解です。では」
 アルティナが大剣を構える。だが、跳躍する前に横から現れた熊が鋭い爪で襲い掛かってきた。その攻撃を大剣で受け止める。
「ティナ、大丈夫か?」
「問題ありません、主。迎撃を優先しますが、よろしいですか?」
「ああ。そういう訳でトゥーナ、助けるのは後でな」
「ちょっ!? 待ちなさいよ、あたしだって戦って――あたっ!」
 脱出するために光条兵器で縄を切ったのはよかったが、そのまま落っこちてしまう。
「あたたた……。もうっ! 鴉、後で覚えてなさいよ!」
「なんで俺なんだよ……」
「うっさい!」
 怪我はなかったらしく、そのまま立ち上がると武器を構えた。そのまま雪乃を含めた四人で熊を取り囲む。
 鴉の指示で連携をとりながら熊を罠のある方向に誘導し、熊を網で捕獲する。網を食い破ろうとする熊に対し、トゥーナが石突きを突き当てた。合わせるようにアルティナも大剣を振り下ろす。
「暴れるんじゃないの! 大人しくしてなさいっ!」
「斬りはしません。が、殴らせてもらいます」
 二人の攻撃を喰らい、熊が気絶する。大人しくなった熊を見て雪乃が安堵した。
「早速罠が役にたったね〜。でもどうしよう、これだけ大きいと連れて行くのが大変だよ〜」
「ああ、それは大丈夫だろ。ティナ」
「了解です、主」
 アルティナが熊へと近づき、自分よりも図体のでかい相手を持ち上げる。見た目からは想像もできない怪力に、雪乃はただ驚くばかりだった。
「す、すっご〜い!」
「とりあえず、このままこいつを慰霊碑まで運んでいくわ。途中で他の動物がいるかもしれないし、俺とトゥーナも一緒に行かせてもらうぜ」
「わかった! それじゃトゥーナ、また後でね!」
「雪乃も頑張って。隼斗がいたら代わりに一発叩いといてあげる!」
「うん、お願いね!」
 
 
 別の場所では御凪 真人(みなぎ・まこと)が気絶させた動物を調べていた。隣ではセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がキュアポイゾンを使用していた。しばらく様子をみた後、首を振る。
「駄目だわ。効果がないみたい」
「という事は毒ではない……かといって他の地域に同様の事件がない事をふまえると感染症の類とも考えにくい……。となるとこの土地に何かがあるか、あるいは薬などによる外的要因か。全ての動物が凶暴化してない所をみる限り後者の線が強そうですね」
「つまり?」
「俺達の方針に変更はなしって事です。できるだけ動物達を捕まえて慰霊碑まで連れて行く。そこで実際に治るかどうかで今後の行動が変わってくるでしょうね」
「わかったわ。それじゃ他の動物達も捕まえて――」
 立ち上がったセルファの視線の先に一匹の狼が見えた。その狼は奥にいる人物に一直線に向かっていたが、その人物はその場から動こうともしていない。
「危ないっ!」
 セルファがバーストダッシュで追いかける。だが、追いつくにはあまりにも遠い。
(駄目っ、間に合わない!)
 彼女の追撃もむなしく、狼が飛びつく。だが、結構な勢いで飛びつかれたはずのネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)はその攻撃を平然と受け止めた。
「フフ……元気な…………子です……。でも……おいた……は…………いけま……せんよ……」
 様々な防御系のスキルを習得しているネームレスは、瞬間的にならイコンの銃撃にすら耐えられるのではないかと思えるほどの防御力を備えていた。飛びついた狼がそのまま噛み付いてくるが、その傷すらも自然と修復していく。
「では……気絶……させて…………運び……ましょう…………ククク……」
 噛み付いたままの狼を引き剥がし、素手で殴りつける。手加減してはいるが、狼を気絶させるには十分だった。その一連の様子をセルファと真人は感心しながら見ていた。
「狼に飛び掛られて傷一つ負わないなんて、凄いわね」
「えぇ。まるでエッツェルさんみたいです」
 そのつぶやきを聞き逃さず、ネームレスが反応する。狼を抱え上げながらこちらへと近づいてきた。
「そなた達…………我の……主公の……知り合い……です…………か……?」
「主公……? 君はもしかして、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)さんのパートナーですか?」
「我は……ネームレス……ミスト…………主公の……魔鎧……」
「そうでしたか。俺は御凪 真人。こちらがセルファ・オルドリンです。エッツェルさんには以前森で子供達を助ける際にお世話になりました。……ところで、エッツェルさんはどこに?」
「……………………」
 真人の質問に長い沈黙が流れる。だが、ようやく出てきた回答は逆に真人とセルファを沈黙させるものだった。
「……おそらく……迷って……いる……」
「え?」
「主公……は…………方向……音痴…………」
「…………」
 この後三人や雪乃達は事件の解決のために奔走するのだが、結局エッツェルの姿は最後まで現れる事はなかった――
 
 
「えいっ、えいっ!」
 空飛ぶ鳥に向かって雪乃が魔法を放つ。だが、相手は素早く飛び回り、魔法を次々と回避していく。
「も〜! いい加減当たってよ〜!」
 魔法によって徐々に追い詰めてはいるのだが、決定打が入らない。だが、鳥の動きを止めた瞬間を狙い、援護の手が入った。
「そこかっ!」
 やって来た男が銃を撃つ。テレキネシスによって作られた熱の塊が当たり、鳥を撃ち落した。
「ありがとー! お兄さんもお手伝いしてくれてる人?」
「ああ。俺は冴弥 永夜(さえわたり・とおや)だ。知り合いに頼まれてな。手伝いに来た」
「とーや? お兄ちゃんと同じ名前なんだ?」
「という事はお前が篁 雪乃か。篁 透矢とはこの前知り合ってな。それで彼から連絡を受けたという訳だ」
「そっか〜。手伝ってくれてありがとね、『お兄ちゃん』」
 兄と同じ名前の青年にいたずらっぽく微笑む。そんな雪乃が永夜には微笑ましく感じられた。
「ふ、その呼ばれ方は新鮮だな。では頑張って動物達を助けるとしようか、『妹』よ」
「うんっ! あ、その前にこの子を連れていかなきゃ」
 雪乃が気絶している鳥へ駆け寄る。その前に凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)が鳥を抱き上げた。
「この鳥は自分が運びましょう。永夜達は次の捕獲を」
「わかった。そいつは白影に任せよう」
「えぇ。しかしこうやって一匹一匹運ぶのは効率が悪いですね。何か手があればいいのですが」
 白影が周囲を見やる。その時、どこからともなく音が聞こえてきた。場違いとも思える音に周囲の者達も何事かと集まる。その中心では日比谷 皐月(ひびや・さつき)がギターを鳴らしていた。
「さあお前ら、痛いのとか苦しいのとか、誰だってごめんだろ? この曲を聴いて落ち着こうじゃねーか」
 皐月はそのまま幸せの歌を演奏する。その効果があったのだろうか、周囲の動物達が姿を現し、近寄ってきた。
「そうだ。そうやって集まって俺の演奏を聴きな。暴れる必要なんか、どこにもねーだろ?」
 演奏を聴きつけ集まってきた動物達は更に数を増した。それを見ていた雪乃達が驚きの表情を見せる。
「すごーい! みんな出てきたよ。これなら一気に解決できるかも!」
「そうですね。ですが……動物達の目、明らかに興奮したままですよ?」
 白影の懸念はすぐに現実の物となった。集まった動物の一匹が皐月に飛び掛る。
「うおっ!」
 回避成功。だが、それが合図となった。動物達が一斉に皐月へと襲い掛かる。
「こらっ! 大人しくしろって!」
 皐月は逃げながらも必死で演奏を続ける。まるでその音に惹かれるかのように動物達は皐月を追い続けた。
「うーん、確か真人が教えてくれた話にこんな感じのやつがあったわよね。何だったかしら?」
「もしかして、『ハーメルンの笛吹き男』ですか? セルファ」
「そうそう、そんな名前だったわね」
「ハーメルンの方はこんなにあわただしくはないはずなんですがねぇ……」
 のんきに見守る周囲をよそに、なおも逃げ続ける皐月。その彼の前に小型飛空艇に乗った長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が現れた。スピードを落とし、皐月と併走する。
「こっちに! 乗って下さい!」
「あ、ああ!」
 タイミングを合わせ、飛空艇の後部に乗り込む。淳二は素早く進路を変えると、すれ違いざまに雪乃達に叫んだ。
「俺達が広場まで動物達を誘導します! 皆さんもそっちへ!」
 雪乃達に声が届いた事を確認すると、そのまま地面スレスレを飛び続ける。目の前には多数の木々が立ちふさがっていた。
「おいおい! 高度を上げたほうがいいんじゃないのか!?」
「いえ、せっかく動物達がついて来てるんです。この高度を維持します!」
「んな事言ってもぶつかるって!」
「大丈夫です! このくらいなら……」
 皐月の心配を吹き飛ばすかのように、淳二は華麗な運転で木々の間をすり抜けて行く。空賊団の一員としての側面を持っている淳二には、小型飛空艇の運転はお手の物だった。
「すげぇ! まるで木が勝手に避けてるみたいだ!」
「このまま行きます! 動物達の引き付けはお任せしました!」
「おう! それじゃ、演奏再開だ!」