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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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種族を超えた友情 ~その心を救え~

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第5章「真相」
 
 
 最近ツァンダにオープンしたペットショップ。その近くまでやって来たトマス・ファーニナルが店の通用口を指差した。
「うん、この匂いはあそこに続いてる。やっぱりここの店の人が持ってたやつみたいだね」
 その後ろでは魯粛 子敬がここまで四つんばいを駆使して追跡してきたトマスの姿に涙を流していた。
「ああ、坊ちゃんが変な人だと思われてしまう……。うう、こんなにも坊ちゃんは真面目でお優しいのに」
 ちなみにこのペットショップ、立地としては結構良い場所に建っていた。――つまり、人通りはそれなりに多い。
 涙に暮れる魯粛はひとまず置いておいて、沢渡 真言(さわたり・まこと)がやって来た面々と相談を始めた。
「さて、まだ蒼空学園へ行っている人達からの連絡は来ていないですね。彼らが戻ってくるまで、周辺で聞き込みをしてみましょうか」
「そうでござるな。それがしは裏の情報を探ってみるでござるよ」
 提案を受け、服部 保長(はっとり・やすなが)が瞬時に消え去る。真言もペットショップを利用しそうな人達に当たりをつけ、聞き込みを開始して行った。
「お取り込み中申し訳ありません。少々お聞きしたい事が――」
 
 
「よっ、今戻ったぜ。お、こっちでは聞き込みをやってんのか」
 しばらくして、蒼空学園でインターネットを使って調べていたグループが戻って来た。マーリン・アンブロジウスは仲間達の姿を見つけると、彼らの行動を理解して自らも――綺麗な女性に――聞き込みをしようとした。
「やあ、そこ行くお姉さ――んげっ」
「どこに行くのですかマーリンさん。まずは報告をお願いします」
 襟首を真言がしっかりと掴んでいた。マーリンは仕方なく七瀬 歩達の所へ戻ると、彼女達の報告に加わる。
「とりあえず、業績は順調、株価も文句無し、広告も多数の媒体に掲載し、これだけ見ると実に優良企業だと言えるね」
「だが、金の動きに不透明な所が見られる。巧妙に隠してはいるみたいだがな」
「それに、世界の珍しい動物をそろえてはいるけど、そのせいか裏サイトなんかでは割と黒い企業だって陰口を叩かれてるみたいだぜ」
 エース・ラグランツ、閃崎 静麻、マーリンがそれぞれの情報を統合させた結果を報告する。その情報の限りでは、ペットショップの関与を否定できる要素は見つからなかった。
「あとですね、こちらのお店のホームページを見たのですが、パラミタの動物を扱う事以外は特に地球のお店と内容は変わりませんでした」
「パラミタのですか。しかしそれにしては……」
 歩の報告を真言が疑問に思いながらペットショップのショーウィンドウを見る。そこには地球にいる犬や猫の姿はあったが、一目でパラミタの生まれだとわかる種族は一匹もいなかった。
「ふむ、これは店内も見てみた方が良さそうですね。……ティー、あなたにお願いしてよろしいですか?」
「わかりましたわ、お姉さま。パラミタの動物がいるか、それを調べてくればよろしいんですのね?」
「えぇ、あなたなら不審に思われる事もないでしょう。頼みましたよ」
 ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が柔らかい微笑みを見せる。そこに歩も同行を申し出た。
「あたしも行きます! 二人の方が動きやすいと思いますから」
「わかりました。お願い致しますね、歩様」
「はいっ!」
 
 
 一方その頃、山ではテノーリオ・メイベア達が目的地へとたどり着いていた。
「この辺に匂いが留まってるな。どうやらここがカード入れの落ちてた場所みたいだぜ」
「特に変わった場所という訳ではありませんね。テノーリオ、本当にここで合っているのですか?」
 ミカエラ・ウォーレンシュタットが疑問に思うのももっともで、特に何かがあるとも思えない場所だった。
「俺の鼻に間違いはないっての。大方何かの拍子にここで落とし――ん、何だ?」
「どうしたのですか?」
「いや、人の匂いがするな……結構近いぜ」
 周囲の匂いをかぎ、一方を指差す。朝倉 千歳はこの場にいるであろう人種を考えていた。
「今この辺りに来るとなると……ハンターかもしれないな。面倒ごとは避けたい。まずは遠くから様子を見る事にしよう」
 テノーリオの先導で慎重に近づく。するとその先には一人の男がいた。何かをつぶやきながら草を掻き分けている。
「ない……ここにもない……。落としたとしたらこの辺しかないんだ。誰かに見つけられる前に回収しないと――」
「おい、そこで何をやっている?」
 ハンターではないと判断し、千歳が男の前に出る。男は突然現れた少女に驚きを見せると見るからに慌てた様子で話し始めた。
「え!? いや、私は別に……き、君こそ何者なんだい?」
「私はジャスティシアの朝倉 千歳だ。不審な行動を放っておく訳にはいかないのでな。少し職務質問をさせてもらうぞ」
 ジャスティシアという言葉を聞き、男は内心でさらに慌てる。その動揺を隠しながらも、千歳の質問に答えていった。
「――では次、あなたがここに来た目的は?」
「それはその……き、キノコ! キノコや山菜を取りに来たんです!」
「キノコ? こんな真冬にか?」
「や、やだなぁ。冬に生えるキノコだってあるんですよ」
「ふむ……本当か? イルマ」
「えぇ、確かに収穫量や大きさは秋に劣りますが、冬でも収穫のできるキノコはきちんと存在しますわ」
 千歳の質問に答えるようにイルマ・レストが姿を現す。男は突然現れたメイド服姿の女性に驚きながらも、自分の理由が通った事に安堵した。
「でも、今は収穫のメリットよりも獣が襲ってくる危険性の方が大きいですわ。ふもとの村で説明はありませんでしたか?」
「ありゃ、そうだったんですか。いやー私、この辺は初めてでして。村も立ち寄らずに来てしまったんですよ。ここまで獣達には遭わなかったのですが、運が良かったという事ですかな」
 疑念が晴れた事で安心し、饒舌になる。イルマはそんな男に合わせるように微笑んだ。
「まぁ、ご無事で良かったですわね。それでは今のうちに下山されておいた方がよろしいのではありませんか? 動物達が来ると厄介ですわよ」
「そうですなぁ。凶暴化したやつらに巻き込まれると大変です。早めに下りるとしますよ」
 男が笑いながら背を向ける。その背中に向けて、イルマがある指摘をした。
「ところで……なぜ動物達が『凶暴化』しているとご存知なんですか?」
 笑い声が止まる。その表情は見えないが、男が焦っているのは確かだった。
「イルマの言う通りだな。獣が襲ってくるとは言ったが、その原因までは説明していないはずだ」
 千歳が男の前に出る。その静謐な目で射抜くように見られた男は必死に弁明しようとしていた。
「そ、それは人に聞いて……」
「だがあなたは獣の危険性を知らなかった。凶暴化だけ聞いてそれを知らないというのは考えられんぞ」
「うっ……」
 千歳の前では全ての嘘が見破られそうだった。進退きわまった男は逃走を図る。だが――
「おっと、そこまでだ!」
 その先にはテノーリオが待ち構えていた。その腕に捕らえられ、身動きが取れなくなる。
「く、くそっ! 離せ!」
「その前にあなたの正体を見極めてからですね。失礼しますよ」
 正面からミカエラが男の身体を探る。そして上着の内ポケットからカードを取り出した。
「これは社員証ね……なるほど、やはり例のペットショップの者で間違いないようです」
「やはりか……これでほぼ確実にクロだという事だな。向こうには私が連絡しておこう」
 千歳が携帯電話を取り出す。後の調査はペットショップ組に委ねられた。
 
 
「朝倉さんから連絡がありました。向こうで店の者と接触、関与の疑いが強いので調査を進めて下さいとの事です」
 千歳から連絡を受けた真言がその場にいる者達に告げる。そこに聞き込みに行っていた保長が戻って来た。
「ただいま戻りましてござる。それがしの方でわかったのは、店の者が夜間に何かをしていたらしいという事くらいでござった」
「ご苦労だったな、半蔵。どこまで行ってたんだ?」
「裏通りの方でござるよ、静麻殿。この手の情報はそういった者達の方が詳しい故」
 そう言って派手に着飾った服を見せ付ける。保長に釣られて情報を出した男達の姿が目に浮かぶようだった。
「さて、そうなると俺達がやる事は潜入捜査になるのか?」
 話を聞いていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が尋ねる。それに対し、真言も頷いた。
「そうですね。山の動物達の対処が終わっているとは限りません。こちらを迅速に進めれば良い手が見つかる事もあるでしょう」
「わかった。それじゃ念のため教導団の詰め所に令状を発付しておこう。……まぁ後付けにはなるが、証拠が見つかれば緊急逮捕って事でごまかしも効くだろうしな」
「お願いします。それでは陽動班は店内に入って店員の引き付けを。そちらが完了し次第潜入班に行動してもらいましょう」
 真言の言葉で皆が動き出す。陽動班として店内に入った魯粛は歩、ティティナと合流して店員を引き付ける事にした。
「失礼、ちょっとお尋ねしたいのですが、よろしいですかな?」
「はい、いらっしゃいませ。どのようなご質問でしょうか」
 さらにティティナが他の店員に声をかける。
「こんにちは。可愛らしい動物がたくさんいらっしゃいますのね。何か珍しい動物はいらっしゃるのかしら?」
「珍しいですか? それでしたらこちらの地球の動物が――」
「すみませーん、あたしも聞きたい事があるんですけどー」
「は、はい、ただいま! 少々お待ち下さい!」
 ティティナと歩に同時に声をかけられ、新人らしいその店員は慌てだす。さらに詰め所への連絡を終えて店内に入ってきたダリルもそれに加わってきた。
「すまない、探している動物がいるんだが――」
「は、はーい! せ、先輩ー!?」
「何なんだ、急に!? とりあえず、倉庫にいるスタッフにも店に出てくるように言ってきてくれ!」
「わ、わかりました! お客様、少々お待ち下さいー!」
 
 
「ふむ、どうやら陽動班は上手くいったようですね。では、こちらも潜入するとしますか」
 ピッキングで外の鍵を開けたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)を先頭にして潜入班が倉庫に潜入する。エースとメシエがダークビジョンで奥を確認するが、スタッフは全員店か事務所にいるらしく、倉庫には誰もいなかった。
「私はここで見張りをさせてもらおう。あとはエース、君に任せるよ」
「わかったよメシエ。じゃあみんな、俺に続いて中へ」
 見張りをメシエと静麻の二人に任せ、残りが倉庫内の捜索を始める。少しして、トレジャーセンスで探っていた保長が壁に違和感を感じた。
「ん? ここに何かあるでござるな。この場合定番なのは……」
 壁を色々といじってみる。そうする事で隣の棚のロックが外れた。慎重に棚をどけると、その奥に隠し扉が現れる。
「やはり仕掛けでござったか。しからば早速」
 隠し扉の鍵をピッキングで開け、中に入る。そこには店頭にはいなかった動物達がケージや水槽に入れられていた。倉庫内を調べていたエースが保長に気付き、中へと入ってくる。
「これは……どれも地球にはいない、パラミタの固有種ですね。それに、この亀は……」
「どうかしたでござるか? エース殿」
「えぇ、確かこの亀はパラミタタイマイ。地球のタイマイ同様絶滅が危惧されている種族で、地球への持ち出しはおろか捕獲自体が禁じられているはずです」
 隠し倉庫の中を見た限りではパラミタタイマイ以外にも輸出や捕獲が禁じられている動物がいくつか見つかった。
「何か見つかった? エース、保長」
 続いてルカルカ・ルー(るかるか・るー)が入ってきた。エースの説明を聞き、合点がいったという顔をする。
「なるほどね。さっき向こうで運搬用のコンテナを見つけたんだけど、まるで何かを隠すみたいに二重の仕切りになってたのよね。特に輸出が禁じられてない動物の運搬に乗じて密輸でもする気だったのかしら」
「その可能性は高いでござるな。ともかく、これは有力な証拠になるでござる」
「えぇ。ちゃんと押さえておかないとね」
 ルカルカがデジカメで動物達を撮影していく。
 全ての動物を撮影し終えて倉庫に戻ると事務所の方から怒鳴り声が聞こえてきた。潜入組は素早く身を隠すが、どうやら見つかった訳ではないらしい。
 事務所の扉に近づき聞き耳をたてると、どうやら店長と思われる人物が部下を叱っている所だった。
「馬鹿者! 手配が遅れるとはどういう事だ!」
「で、ですから。急な発注では納期までに間に合わせる事は難しいと、先方が……」
「そんな物は知るか! 何としても期日までに急がせろ!」
 男がいまいましげにタバコに火をつける。
「全く、地球から持ち込んだ麻酔弾が効けばこんな苦労はなかったというのに……。眠るどころか暴れだすとは……どうなっているのだ、このパラミタの動物は」
 山での一連の凶暴化騒ぎ、その原因は彼らが動物達の捕獲を試みたからだった。その目的はパラミタ産の動物の販売と、それに隠れた――希少生物の密輸だった。
 動物を捕まえるために地球で培った方法で捕獲を行ったのだが、それが仇になった。
 地球から持ち込んだ麻酔弾は機械の使用制限の効果はなかったものの、独自の改良を行っていた成分がパラミタの生態に合わずに凶暴化を引き起こしてしまったのである。
「とにかく、あんなノロマな奴らだけではいかん。もっと大きな動物も捕まえねば私の出世が――」
「あ、あの……店長」
「何だ!」
「その、あの山の動物達は何とかしなくてよろしいのでしょうか。せっかく――」
「馬鹿を言うな! 今さらのこのこと出て行っては我が社が原因である事が知られてしまうではないか! 山の事など放っておけばよいのだ!」
「し、しかし……」
「くどいぞ! 貴様は研究だけしていればいいのだ! 全く……どいつもこいつもふざけた事を言いおって……」
「ふざけているのはあなたの方よ!」
「な、何だ!?」
 扉を開け、ルカルカ達が事務所に突入する。今までの会話はデジカメの動画撮影モードでしっかりと録音されていた。携帯電話を耳にあて、店側にいるパートナーに連絡をする。
「ダリル! 証拠は掴んだわ、そっちも店を押さえてちょうだい!」
『わかった、すぐ片付けよう』
「真っ当な店を隠れみのにしての悪事……典型的な悪党ね。教導団の権限において、逮捕するわ!」
「く、くそっ!」
 男が見苦しくも抵抗を試みようとする。だが、それは突然現れた影に阻まれた。
「おっと、そこまでだ」
「がっ!?」
 いつの間にか後方に男が現れていた。店長はその存在に気付く事もなく、一撃を喰らって気絶する。
 それ以外のスタッフもエースと保長、そしてエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)によって取り押さえられていた。
「えっと、あなた達も味方なのかしら?」
「ああ、俺は紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。真言達と同じく篁の協力者だ。万が一に備えて独自に動かせてもらってた」
「なるほど、助かるわ。それじゃ後は犯人達の連行ね」
 ルカルカが店長を連れて行こうとする。そこにエクスに取り押さえられた白衣の男が声をかけた。
「あの……あなた達は山の事件を調べられていたのでしょうか……?」
「そうよ。向こうで色々と調べてここが怪しいって絞り込んだ訳」
「そ、それではお願いがあります! あそこの薬を……」
「これか?」
 唯斗が注射器の入ったケースを取る。注射器はいくつかサイズがあり、それぞれに薬品らしき物が入っていた。
「それは凶暴化を抑える薬です。まだ試作なのでそれしか量はありませんが、効果は実験済みです。どうか、それで少しでも多くの動物を助けてやってくれませんか?」
「そいつは構わないが、いいのか?」
「はい。私は地球にいる家族にこっちの動物を見せてあげたかっただけなんです。まさか密輸に絡んでいたなんて……」
「……わかった。こいつは俺が預かろう。エクス!」
「わかっておる。ルカルカと申したな。わらわ達は山へと向かう。こちらは任せたぞ」
 言うが早いか、二人は窓を開けると空中へと飛び出した。唯斗の口笛に呼ばれるようにレッサーワイバーンが現れ、二人を乗せて山へと飛んで行く。唯斗はワイバーンに捕まりながら、ケースを落とさないようにしっかりと抱え込んだ。
「さて、こいつが役に立つか無意味になるか……できればいい意味で無意味になってもらいたい所だな」