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またゴリラが出たぞ!

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「折角ですから、私どもの診察もお願い出来ますかしら?」
 診察の噂を聞き、続いてスーパードクターの元を腹黒大和撫子風森 望(かぜもり・のぞみ)が訪ねてきた。
「どうぞ、そこの座布団にかけてリラックスしてください。お話をうかがいましょう」
「無論、診察をして頂きたいのはうちのお嬢様のことです。最近、お嬢様が凄く普通なんです……。種族:ヴァカキリーなのに馬鹿なことをしないので、何か悪い病気、はたまた道に落ちてる変なものを食べてしまったのかと心配で……」
「わたくしを何だと思ってますの!」
 勝手にあたまおかしい認定されたお嬢様ことノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)はぷんすか怒った。
「わたくし、そもそも馬鹿じゃありませんわ! フリガナを『シュヴルトライテ』と間違えて登録しましたし、『空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−』ではフリューネ様の御父上の名前を乳毛と間違え……あれ? チチゲーノであってましたわよね? それはともかく! まともなのは元々ですわ! そう言ってやってくださいまし、先生!」
「……シュヴルトライテだと!?」
「あれ……?」
 スーパードクターはカルテを確認する。マジだ。
「言われなきゃ気づかなかったが、既に登録の時点で間違えてるって、宿命的に呪われているな」
「し、失礼な……!」
「とりあえず、呪いに効きそうなものをたくさん処方しておきます」
「大きなお世話ですわ!」
 ノートは危険な目つきで相棒をにらむ。
「そもそも診察を受けるべきは望のほうです。近頃少女を襲ったりしていないではありませんか。これは異常ですわ!」
……君たちはなんなの、デフォルトでイカレとる人なの?
 スーパードクターは思わず呟いた。
 普通なのに異常、それじゃなんだか回復呪文でダメージを受けるゾンビの類いじゃないか。
「失敬な! 私は普段通りじゃないですか!」
 むむむ……と眉間にしわしわを作り、望は言い返す。
「『【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない』の6頁をよく見てください! 何も知らない機晶姫のファーシー様にブルマ勧めてみたり、同じく10頁でイチャイチャしてみたり、さらに18頁で別の美幼女さん助けたり、さらに言えば『花粉注意報!』の5頁で、アーデルハイト様のキスの為に蒼学生を全員眠らせてみたり、全く持って普段通りじゃないですか! 私は場をかき回して他人が右往左往するのを見るのが好きな、ロリコンでショタコンなんですぅ!」
 ……何を言ってるんだ、こいつは。
「『イルミンスールの大冒険〜ニーズヘッグ襲撃〜(第2回/全3回)』の5、6頁でイナテミス市防衛の為に真面目に行動してたと言われますけど、そんなことでチャラになる程度のアレじゃありません。ですよね、先生?」
 世の中にはまともであることを嫌がる奇特な人もいるものだ。
「……まあなんか、まじめな人だと思われたくないようなので、小さい頃の神木隆之介君のブロマイドを大量に処方しておきます。職質されたらちょっと面倒なことになると思うので、センター街を歩く時は気をつけてくださいね」
 こうして二組目の患者を救うと、すぐさま新たな病人がやってきた。
 メイド少女の神代 明日香(かみしろ・あすか)である。
 診察するのはやぶさかではないが……、なんだか妙に酒臭い。いくらここが居酒屋だとて未成年の飲酒は法律で固く禁じられているのだ。もしも彼女が飲んでいるのなら、場合によってはイルミンの先生に来てもらうことになる。
「ごめんなさい。その匂いは私です」
 明日香の影からちょこんとパートナーのノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が顔を出した。
 でも、ノルニルはどっからどう見ても小学校入学前の5歳である。
「そっちのほうが問題なんですけど!」
 思わず突っ込むスーパードクターだが、彼女は魔道書なので実年齢は軽く5000歳を超えてる。
「む……、子どもじゃないです。未成年と間違えられがちですが大人です。大人なのでお酒は禁止されていません」
 東シャンバラ国民証を見せると、スーパードクターしぶしぶ納得した。
「ふむ……、それで今日はどうされたんですか?」
「実は明日香さんの記憶が飛んでしまったことがありまして、それを気にされていたようですから一度診察をと……」
「記憶障害ですか……」
 カルテによれば『【2020七夕】七夜月七日のめぐりあい』の9ページ目のことのようだ。
「そうなんです。愛くるしいエリザベートちゃんの話をしていただけなんですが、アーデルハイト様は何故かさじを投げて退散していってしまいました。私の記憶ですと何ら問題のない至極当然の会話をしていました。記憶が飛んで間に何かあり、その件でさじを投げられたのかな……としか考えられません」
「……そのような記録はカルテにはない。君の話に呆れて去ったようにしか思えないが」
「それはないです」
 明日香はキッパリ言った。
「だってエリザベートちゃんが愛くるしいのは当たり前、アーデルハイト様が挙げた事例も愛くるしさを更に際立てる出来事じゃないですか。エリザベートちゃんの我侭は大好物も同然ですもの。だってエリザベートちゃんですよ〜?」
 そう言って、エリザベートの写真を見せた。
 小賢しそうな小娘である。少なくともスーパードクターの目にはそう映った。
 そして、そんな小娘を崇拝していると言うことは、あたま以前に人を見る目がイカレとるのだろうと診断した。
「これは精神科の仕事ではないようだ……。すいませーん。眼科の先生、この患者さんに目薬あげてくださーい」
「私別に目は悪くありません〜!」
 プンスカ怒るも、スーパードクターは自身の診断に絶対の自信を持ってるため、クレームは受け付けなかった。
 あまりにも見事な診察に、そばで見てたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)はぱちぱちと拍手を送った。
「素晴らしい。あなたのファンなんだ、出会えて感動している! あの……、サインをしてもらえないだろうか?」
「私のサインとは……なかなか良い趣味をしている。ほら書けたぞ、家宝にしたまえ」
「おお、ありがたい」
 サインとともにチンパンコのイラストが描かれた素敵な色紙である。
「あともののついででなんだが、彼女のあたまも診てやってもらえないだろうか?」
 そう言って紹介したのは、契約者の画家師王 アスカ(しおう・あすか)だった。
「それって私の頭がおかしいってこと? ちょっと失礼しちゃうわね〜」
「我が身を振り返れば思い当たるふしはあるだろ」
「絵に情熱を燃やしすぎってことかしら。でも芸術家でまともな人のほうがめずらしいわ。その枠で言えば、私なんてまだまだまともなほうよ〜。せいぜい『戦乱の絆 第二回』9ページ目のアレぐらいじゃない。先生もそう思うでしょ?」
「せいぜい、と言うのは控えめな表現だな」
 スーパードクターはカルテを読みながら答える。
「ただアスコルド大帝の肖像画を描かせてってお願いしたついでに思惑を探る質問しただけじゃな〜い。皆が世界の為に動くように私も芸術家として当たり前の行動を……え? よく採用されたなって? そこは『中の人』もびっくりよ〜」
「流石に絵は描かせてもらえなかったようだが……」
「でも、パラミタ一の画家になるためならなんでもするわぁ。今までマスターさんからもらった称号も『絵描き雲専属絵師』とか『出張芸術家』とか『マジカルペインター』とかだし、私は純粋に絵の修行として頑張ってるだけよ〜」
「ふむ……なるほど」
 この微妙に噛み合ない言動はおそらく間違いない。
「君の病は『雰囲気適応障害』だろう。一般的にはKYと言う名で広まっている現代病の一種だ」
「なにそれ……って言うか、それ病気!?」
「君、KYを甘く見てはいけない。絵に関することになるとまわりが見えなくなるようだが気をつけないと、戦闘中なのに絵を描き始めてひんしゅくを買ったり、歴史的建造物に良かれと思って絵を描いて国際問題に発展するやもしれん」
「し、しないわよ〜。どこぞの女子大生じゃあるまいし〜」
「病人は皆そう言う」
「むむむ……、わ、私ばっかり……、そんなこと言ったらルーツだって変よぉ〜」
 急に話の矢面に立たされて戸惑う、ルーツ。
「我は断じておかしくない。アスカみたいに脳の七割が絵だけというわけじゃないし……『Change×Change』の2ページ目のことを言ってるならそれは違うぞ。傷薬を調合してたら何故か性転換薬ができてしまっただけだ」
「……確かに問題はない。そんな薬が作れるならすごいことじゃないか」
「ええー!?」
 どことなく彼に甘いスーパードクター、とりあえずサインをねだってファンアピールは大事なようだ。
「ううう……、鴉ぅ〜」
「……んだよ、俺に頼るな」
 アスカはもうひとりのパートナー、マホロバ人の蒼灯 鴉(そうひ・からす)に助けを求めた。
 元暗殺者と言う経歴からどことなく暗い空気を纏う彼だが、アスカに頼られると弱いらしく複雑な表情を浮かべた。
「君にも私の診察が必要かな?」
 スーパードクターが訊くと横に首を振った。
「必要ない。俺はただの付き添いだ。しいて言うなら、時折赤いものが無性に見たくなるぐらいだ。例えば……血とか、な……。だがそれは元殺し屋だったせいだろう、昔の癖でこればっかりはどうしようもない。俺のいた世界じゃ普通さ」
 冷たい青眼を細め視線を投げると、スーパードクターは納得した様子でカルテにペンを走らせた。
「ああなんだ、ただの『厨二病』患者か」
「ちゅ、厨二病……!?」
「命に関わる病じゃないが、こじらせると『高二病』とかも発症するか気をつけたほうがいい」
「そ……その不名誉な病名なんだ、今すぐ取り消せ!」
「診断は必要ないんでしょ」
 スーパードクターはサクッと切り上げて他の診察希望者の元に行ってしまった。
「お、おい待て! ちゃんと診察し……いや、してください!