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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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第2章  決戦! ハイナチームvs佐保チーム

 会場設営も終わり、いよいよ雪合戦大会の開幕である。

「みな、今日は朝からご苦労であった。
 ここから思いっきりはじけて、日頃のストレスや疲れを発散するでありんす!」

 まずは、ハイナが前に出てなんとなく挨拶。
 ひっこんで……あれ、また出てきた?

「言い忘れたっ!
 房姫からのチョコレートは誰にも渡さぬからの!」

 おぉっとこれは、敵チームはおろか全参加者へ向けた宣戦布告か!?

「あ、しかし妾を優勝させてくれた者には、受けとる権利があるのだがの」

 思いきや、ちょいと小声で最後の一言。
 味方がいなくなることを心配したのだろうか、わざわざつけ足したのである。

「雪合戦楽しそうですー!
 でも、唯斗兄さん達は参加しないんですか……」

 パートナーがみな別行動をすることになってしまった、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)
 淋しそうに、きょろきょろあたりを見まわしている。
 行き着いたのは、黒子達と打ち合わせをする審判の姿だった。

「うん、でも兄さん達のためにもがんばってみましょう!」

 ぐっと両の拳を握りこみ、自分を鼓舞して。
 気づくと、参加者達が各チームに別れているところだった。

「あ、それじゃ私は佐保さんのチームに入りまきゃああぁぁぁぁ!
 なっ、なんで引っ張るんですかティファニーさん!」
「ティファニー、本人の意志を無視しちゃ駄目でござる。
 睡蓮殿は拙者らのチームに入るでござるよ!」
「む〜」

 そう、チーム分けも勝利のためには重要な要素。
 女達の血みどろの戦いが……え、血は流れてない?
 気にしないしない、対戦前から勝負は始まっているようである。

「ささ、睡蓮殿、こちらへ。
 我らがチームの勝利を目指して、一緒にがんばるでござるよ!」
「はいっ!」

 案外あっさりティファニーが諦めたこともあり、睡蓮は無事に佐保のチームへ。
 ほかのメンバーとも、勝利を誓い合うのであった。

「身体をおもいっきり動かしてあたたまるのもいいわよね。
 ハイブリッド羽突きならぬハイブリッド雪合戦……がんばります!」
「うむ、頼りにしておるぞえ!」

 続々とフィールドインする選手達のなかに、ハイナと語らう宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の姿が。

(こないだはハイナさまに甘味処でお世話になったし。
 パートナーである房姫さまのチョコレートをハイナさまがゲットできるようにがんばるとしますか)
「……こういうの抜きでもらってそうだけど、1個より2個よね」
「そうじゃな、房姫からの贈り物はどれだけあっても嬉しいものよ」

 隣にたたずむハイナとは、甘味相手に共闘したばかり。
 祥子とハイナのあいだにはすでに、強固な信頼関係が結ばれていた。

「雪合戦なあ……とりあえずあれだ。
 私は鎧になってるから祥子がんばりなよ」

 はりきる祥子とは対照的に、かったる〜い雰囲気をかもし出している那須 朱美(なす・あけみ)
 宣言どおり、魔鎧に変身しようとするが。。。

「っちょ、それは困るでありんす!
 ただでさえ少ないのに、これ以上減るのは避けねばならぬ!」

 そのとおり、ハイナが慌てるのも無理はない。
 なんたってこのチームだけ、メンバーが3人も少ないのだから。
 一応の公平を期すために、紙風船の数は同じにしている。
 だとしても、数の上で負けている状況はかんばしいものではなかった。

「朱美だけでない。
 誰かが抜けるということは、袋だたきに遭う者がそれだけ多くなるということでありんす。
 ゆえに、そのままの姿で参加してもらいたいのじゃ」
「だってさ、朱美。
 さぼろうと思ってたんでしょうけど、残念だったわね」
「ふん……そこまで言われちゃ、いるよりほかないじゃない」

 必死の訴えが功を奏し、朱美は変身を諦めたようだ。
 面白そうに微笑む祥子へ、ぶ〜っと頬をふくらませる。

「でもありがと、心配してくれたんだよね。
 私なら大丈夫だよ、【殺気看破】と【女王の加護】である程度の危険は回避できるし。
 ホントにやばくなったら【精霊の知識】と【火術】で火炎の盾を産み出しちゃうんだから!」
「分かった……私も【軽身功】でフットワークを軽くして、がんばってみるよ」

 けど、祥子は朱美の本心も分かっていた。
 頭なでなで、笑って互いを励まし合うのだった。

「雪合戦かぁー、楽しみだな……って敵チームにいるの……あれリースちゃんだよね」

 たいするハイナチームの面々を眺め、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は眉をひそめる。
 右斜め前方に、仲間と談笑するある人を発見したからだ。

「ムムム、リースちゃんに言いたいことがあるからちょうどいいのです!
 完膚なきまでに攻撃してやる……」

 審判のコールとともに、雪玉を投げたっ!

「チーム戦だし、がんばろー!
 ってなに、いきなり別方向からすごい勢いで雪玉飛んできたんだけど!?」
「リースちゃん!
 結婚おめでとう!」
「氷雨くん、なんで攻撃してくるのよ〜!」
「だが……一言、言いたい!
 嫁いだのになんでパートナーのみんなボクの家においてったのー!」
「パートナー達を置いてったって?
 新婚期間が終わったらちゃんとつれてくって!」
「それにいつのまにかボクの苦手な人と契約してるし!
 どういうことなの!
 どうしてそうなった!」
「苦手な人って誰よ!
 そんなの私が氷雨くんの好き嫌いまで知ってるわけじゃないし、仕方ないじゃない!」
「そりゃね、生活費入れてもらってるからいいけどさ!
 リースちゃんがおいていったせいで、ボクの平穏はなくなったよー!」
「だって『ボクと契約して魔法少女になろうよ』って言われたら断れないのが女の子だもん!
 私が旦那さんといちゃいちゃしなくなったら、ちゃんとつれてくから、それまで面倒見てて……ね?」
「もうー、それっていつだよー!
 リースちゃんのやるやる詐欺はもう聞き飽きたよ!」
「やるやる詐欺ってなによ!
 ちゃんとつれてくよ!」
「リースちゃんのバカー、バカー!」
「ちょ、やめっ、ちゃんと養育費送るからー!」

 開始早々、白熱した展開が繰り広げられている。
 というかもはやリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は戦闘不能、腰から下は雪のなかだった。
 ただ氷雨も、1人だけを相手にしていたため、ほかの敵からは格好の的となっていたり。
 気づかずリースへ雪を投げまくっているが、本人もすでに戦力外通告を受けていた。

「ロリ婆の古本なんてイングリットの敵じゃないにゃ〜抵抗するだけ無駄にゃん」
「ふん!
 バカ猫ごときに我が倒せるとでも……笑わせるでない」

 おっ、なにやらこちらでも骨身を削る戦いが。
 争うは、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)だ。
 呼び合うあだ名を聴くだけでも、嫌っていることがよく分かる。

「優勝してチョコゲットするにゃー!」
「それは我の台詞だー!」

 ただしこの2人、恨み辛みというよりもチョコのためにがんばっているようだ。
 しかも、双方とも負けず嫌いっぽいし。

「イングリットを甘く見てると痛い眼に遭うにゃんよ〜!」
「行け!
 クトゥグァ!
 イタクァ!」

 【超感覚】と【殺気看破】で感覚を強化したイングリットは、大量の雪玉を持って前線へ。
 数打ちゃあたる戦法に、無銘祭祀書は『使い魔』を放った。
 身を犠牲にして、かたっぱしからイングリットの投げる雪玉を破壊する……だが。
 スピードで負けたのは無銘祭祀書、紙風船を1つつぶされてしまった。

「やった〜あたったにゃ!」
「ぐっ……」
「にゃん!?」
「封印術式解放……我を怒らせたことを後悔させてやる!!」

 速攻キレた無銘祭祀書が、【紅の魔眼】を発動する。
 さらに、みずからを包む重力を【奈落の鉄鎖】でコントロールし始めた。

「うぉっ!?
 ずるいにゃ、これじゃ絶対にあたらないにゃん!」
「なにを言うか、れっきとした戦法だ!
 ルール違反ではないしな!」

 イングリットは次々と雪玉を投げるも、無銘祭祀書まで届かない。
 逆に、一方的な攻撃を許すばかりである。

「うわっ、いたいにゃ!」
「終わりだっ!」

 無銘祭祀書の完璧な防御に、これ以上は手も足も出ず。
 奮闘むなしく、イングリットはすべての紙風船を失ったのだった。

「祥子、2時の方角よ!」
「りょーかいっ、逃がさないわよ!」

 朱美が【先の先】で敵の行動を読み、祥子に伝える。
 すると祥子は、投げた雪玉を【サイコキネシス】で操作。
 かなりの高確率で、祥子と朱美のペアが佐保チームの紙風船をわっていく。

「やった!」
「残るは佐保ちゃんのみだわ!」
「させぬでござるよ!」

 なんとハイナチーム、人数が少ないにもかかわらず佐保チームを追いつめていた。
 紙風船2個ずつを残す祥子と朱美に無銘祭祀書、たいする佐保はさすがいまだ無傷である。
 無銘祭祀書は後衛から防御を固め、祥子と朱美が前衛で攻撃にあたるという布陣。
 相手が1人なれば、重力の操作次第ですべての者を無敵にできるのだ。
 タイムリミットまでは、すでに5分をきっていた。

「負けぬでござる〜!」
「我の前にはいかなる雪玉も無駄です!」
「ぐっ!」
「いっくよ〜セルフ弾幕っ!」
「わわっ、なにも視えぬでござる!」
「いまよっ!」

 佐保の雪玉を無銘祭祀書が墜落させると、間髪いれず朱美の攻撃。
 雪だるまをつくれそうなほど大きな雪玉を投げ、【遠当て】で砕いた。
 視界を奪ったうえで、祥子が標的を破壊する。
 完璧なコンボで、制限時間終了と同時に佐保チームを全滅させたのだった。

「まずは1勝!
 みな、よくやってくれたでありんす!」
「う〜悔しいでござる〜!」
「え、ホットチョコレートがもらえるにゃん!?」
「我もよいのか、ありがとうございます」
「私にもくださ〜い!」
「美味しい。
 しかしチョコもいいけど、甘酒とかお汁粉も欲しくなってきたねえ」
「ね、ハイナさま!
 みんなでお汁粉でも飲みに行きませんか?」
「それならほれ、準備されておるみたいじゃのう。
 気の利く者達がいて、妾は幸せでありんす」

 ハイナチームの勝利で、第1試合の幕が閉じた。
 参加者達は健闘をたたえ合い、飲食用のテントへと足を向ける。

「はぁはぁ……疲れたね……あ、風船ないや……いつの間に」
「あーあ……もう、雪玉で服がびしょびしょー。
 もー、氷雨君っては激しすぎるよー!」
「リースちゃん、みんな行っちゃったよ。
 ボク達もお汁粉食べいこうー」
「お汁粉?
 えっ、用意されてるんだ」
「運動のあとは甘いものだよねー」
「いいねー。
 じゃ、一緒に食べようかー。
 ……ところで、レイス兄さんとルーミィ、きてるんだって?
 どこでなにしてるのかな?
 あの2人仲悪いみたいだから、喧嘩してなきゃいいんだけど」

 ワンテンポ遅れて、氷雨とリースが歩き始める。
 ちょっと心配事が頭をよぎるも、お汁粉への欲には勝てなかった。

「ひーちゃん……」
「アイスちゃん、あたし達も行こっ!」
「っちょ、待ってってば!」

 実は、遠くからリースと氷雨のバトルを観戦していた3人。
 氷雨に気づいてもらえず、がっかり。。。
 アイス・ドロップ(あいす・どろっぷ)の手をとり、ルーミィ・アルフェイン(るーみぃ・あるふぇいん)が走り出す。
 慌てて、レイス・アズライト(れいす・あずらいと)もアイスとルーミィのあとを追った。
 思えば試合中も、ずっとこんな感じだったような。

 〜回想はじまり〜

「ひーちゃん……元気だね……」
「アイスちゃん!」

 縁側に独り座って、パートナーの奮闘を眺めていたアイス。
 背後から、いきなり抱きつかれた。

「……?
 あ、ルーミィちゃん……こんにちは……元気でしたか……?」
「元気だよ!」
 あのねあのね……リースにあいに来たけど、いないからアイスちゃんと遊ぶの!」
「じゃあ……雪で、なにかつくる……?」
「うんとね、大きい雪だるまつくりたいなー!」

 べたべた甘えてくるルーミィの頭を、アイスはなでなで。
 2人で、雪だるまをつくろうと運動場へ出ていった。

「リースに逢いたかったのに、氷雨くんともども試合中か……」
(はっ!
 これはチャンスかもしれない……今日こそ、アイスちゃんと仲よくなるためにがんばるんだ!
 って……なんだあのピンク!
 ルーミィ、来てたのか……あいつ。
 これみよがしにいちゃいちゃしやがって……)
「ちょっと、こっちに来るんだ!」
「って、なによ、ちょ……レイス。
 離してよ〜!」
「あの……レイスさま……こんにちは……」
「こんにちは、アイスちゃん。
 ごめんだけど、ちょっとこいつ借りてくね」

 いやがるルーミィを、ずるずると引きずっていくレイス。
 校舎を曲がって、アイスからは声も姿も届かない場所へやってきた。

「そりゃ、ボクがルーミィに昔ひどいことしたのは悪いと思ってるけど。
 だからってアイスちゃんといちゃいちゃするの見せつけないで……お兄さん、心折れちゃいそうだよ……」
「はぁ?
 あんた、アイスちゃんのこと好きだったの?
 普段見てても、あまりにヘタレすぎて気がつかなかったわー。
 んで、いちゃいちゃするな?
 なにいってんの?
 あれは、あんたにたいする復讐じゃなくて、私がアイスちゃんのこと好きだからやってるの。
 あんたがどう思おうと知ったことじゃないわよ」
「……えー。
 それが1番精神的にきついんですけど」
「じゃ、私はアイスちゃんと遊んでくるから」
「ちょっとっ、待ってってば!」

 ひととおり事情を説明して、思いとどまってもらおうと考えていたレイス。
 だがしかし、ルーミィは一筋縄にはいかなかった。

「ア〜イスちゃん!」
「……ぁ、おかえりなさい……レイスさまも」
「ごめんね、アイスちゃん」
「あの……レイスさまもよければ……一緒に……遊びませんか……」
「えっ、あの……いいの?」
「……はい、せっかくだし……雪でなにかつくりませんか……」
「そうだね……まずは雪だるまかな、うんと大きいの!」
「はい……大きい……雪だるま……がんばってつくりましょう……」
(ったく、このヘタレめ。
 さっさとアイスちゃんの気持ちに気づきなさいよね)

 レイスと話をするとき、アイスは恥ずかしそうに下を向く。
 けど、ルーミィにたいしてはそんなことないし、頬を赤らめたりもしない。
 そんな分かりやすすぎる反応に早く気づけと、思うけれども言ってはやらないのは最後の意地か。

 〜回想おわり〜

 寒空に昇る太陽は、雲にさえぎられて満足な熱を伝えてはくれない。
 そのぶん、温かい料理や飲み物が骨身にしみるのであった。