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大規模模擬戦

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大規模模擬戦

リアクション



1

 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は軍靴の音を高らかに鳴らしながら部屋に入ってきた。
「教導団大尉のクレアだ。よろしくたのむ」
「ボスのパートナーのエイミーだ。よろしく」
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)
 クレアは円卓に着席し、エイミーはクレアの背後に控える。
花音・アームルート(かのん・あーむるーと)です。皆様のお世話をさせていただきます」
「蒼空学園校長山葉 涼司(やまは・りょうじ)だ。今回は頼む。さて、大まかな方針だが、まずこの会議で今回の模擬戦の戦術を考案し、教官に提案する。その後戦闘中の小隊の指揮は各小隊長に、全体の指揮は教官に任せることになるようだ」
「そうだね。教官に任せたほうがいいよね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がそう言って他の教導団の生徒にやんわりと釘をさす。教導団式をゴリ押しするなと。
「うむ……戦力は同数に調整されるとのことなので、戦術的に揺さぶりをかけていきたいと思っている。AIが戦術を考えないとなると無意味だが」
「そこら辺は僕に任せてよ。事前に説明を受けた感じだとシミュレーターの敵のレベルが低い気がするから、前回強化人間部隊と戦った機体からデータを回収してAIの強化を行う。それと、教官からイコンにおける戦術を教えてもらって、AIにも戦術データをインプットする」
 榊 朝斗(さかき・あさと)がそう言ってデータの入ったディスクを見せた。
「私も戦術を考えてインプットするつもりです。朝斗のパートナーとして」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)がそう言って朝との後ろに立っている。
「ボクも微力ながら協力させてもらう。KAORIに朝斗殿のデータを計算させて、AIをシビアにした上で、同時に強化人間の行動パターンを解析した行動予測プログラムを皆に配布する」
 そう言ったのはレオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)で、
「プログラムは起動させるとカメラの画像やレーダーなどからから敵を認識し、予測される行動パターンを確率と共にモニターに表示するものだ。完璧とはいかないが、戦闘の補助にはなるだろう」
 と告げた。
「ふむ。戦闘レベルでの対処は可能なわけだ。ではやはり私は戦術レベルでの対処を提案しよう。情報撹乱で『本隊とは別の場所に教導団イコンを潜めて連携を取ろうとしている』という情報を敵に傍受させる。実際に味方を分ける必要はない。敵が信じて見当違いの方向に戦力を振り分ければよし、信じないにしても『導団イコンは他より戦闘稼働時間が長い』いうことを意識させて焦らせればいい」
「偽情報をリークするわけだな? それはおもしれえ」
 山葉 聡(やまは・さとし)がそう言って手を叩く。
「それから、敵はコームラントの射撃でこちらを分散させてから攻撃してこようと考えるだろう。したがって、分散させられて振りをして、こちらに集中してきた敵を一気に包囲・殲滅するべきではないかと上奏する。ここで意識するのがチェスでいうところの『ピン』あるいは『スキュア』。『下手に避ければ基地が危ない』いう状況に敵を追い込むことが肝要だと思う」
 クレアの言葉にルカルカも頷く。
「ごもっとも。それから、やっぱり敵1に対してこちらは複数で攻めるのを提案したいな」
「そこら辺は戦闘の基本だろうな。前回はそれをできなかったパイロットがいたから撃墜された」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がそう補足する。
「俺も同意見だ」
 そう言ったのは榊 孝明(さかき・たかあき)
「一機の味方が包囲されそうならば、それを逆用して敵を落とせばいい。味方が集中して狙われるならフォローするのも一機でいいという話になる。かえってやりやすくなるはずだ」
 孝明はそう言って全体のバランスを取るように提案した。
「私たちはイコン操縦技術の向上にと参加したので特に意見はないのですが、少しでもミレリアや設楽さんとのハンディが埋められればと思っています」
 フレイ・アスク(ふれい・あすく)がフレイヤモードでそう話す。音楽の時以外はいつも男の娘だ。
「同じくです。それから、コリマ校長からの情報なのですが、近々大型の機晶石を動力源にした空中空母の開発を行うらしいです。強襲揚陸艇も兼ねているとの話でした」
 アポロン・サン(あぽろん・さん)もアルテミスモードで話す。
「クレア大尉の旗下の水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)少尉です。私は小隊【リーデッシュ】を率いて敵地上部隊の殲滅を行う予定です。クレア大尉にも我が隊に加わっていただきたく思います」
「いいだろう。ただし戦闘指揮は貴官に任せる。私は戦術レベルで戦場を見渡すつもりだ」
「はい。それから、歩兵二個分隊(10名)をお借りしたいのですがよろしいでしょうか?」
 ゆかりは教官に尋ねる。
「ああ、かまわん。データとして入力しておく」
 教官はそう言ってゆかりの提案を快諾した。
「百合園の葦原 めい(あしわら・めい)だよ。地上型イコンだから【リーディッシュ】小隊に同行させてもらうね。それと、シミュレーターってめいのうさちゃんのコクピットも再現できるかな?」
 めいのキラーラビットは素人のめいが、アーケードゲーム感覚で簡単に操縦できるようにバイク型になっている。また、めいとパートナーの八薙 かりん(やなぎ・かりん)はバニーガール型のパイロットスーツを着ており目の毒だった。
「残念ながらコクピットまでは再現できないな。通常のイコンと同等の操縦方法になる」
 教官がそう告げる。
「そっか、残念」
 めいはそう言って残念そうに笑った。
「ところで皆様、我が国の学校には、追加装備無しで飛行できる「まともなイコン」が配備されていない所も少なくありません。そのような状況で、航空戦力のみに頼った作戦立案を多用するのは戦力の有効活用という点で問題があると思いませんか?」
 カリンがそう言うと、教官が
「敵、つまり寺院のイコンが飛行型だからな……帝国のイコンは地上用だが、敵が飛行兵器である以上航空戦力……飛行できるイコンに頼らざるをえない。まあ、対空兵器の開発を急がせるようには進言しよう。それと、低空ならスナイパーライフルやニンジンミサイルで攻撃できる。最大有効射程は1600メートル前後だ。完全なイコン用地対空ミサイルが出来上がれば最大有効射程は3000メートルは確保できる見込みだ。それから歩兵用のスティンガー、まあ携行対空ミサイルだが、これは重武装ヘリの装甲を破る程度の威力しかない。つまりイコンの装甲を破壊する程度には至っていないのでこれも開発を急がせる。
 ちなみに、実験をしたことはないがイコンは15000メートル程度までならば上昇できると計算されている。現状鏖殺寺院に配備されている短SAMがイコンに命中し破壊できる限界高度も2000メートルなので、そこまでの高高度を飛ぶ必要がないというのが実際に飛ばさない主な理由だが……現在の超高度防空システムならば35000メートルまで迎撃可能なので余計高高度を飛ぶ意味はない。なにより危険でもあるからな。余談だが戦闘機で最高上昇高度を誇るF-15の記録挑戦機で30000メートルが限度だ。従ってイコンの上昇高度限界まで高度を上げることはありえない」
 と説明した。戦史上一方の陣営で開発が進められている兵器はもう一方の陣営でも開発が行われていることが多く、学校側がイコン用地対空ミサイルを完成させる頃には、鏖殺寺院側でも同等の兵器が開発されており今後は3000メートル前後の高高度での戦闘が主流になってくるかもしれないと予測されている。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だよ。オペレーターとして情報網を築きあげて全体の連携に貢献するつもり」
天貴 彩羽(あまむち・あやは) よ。【イロドリ】で天御柱のホストコンピューターや各イコンとの情報網の中枢を担うつもりよ。私たちは教導団とは違って国軍ではないから、あくまでも情報提供者というスタンスで臨むわ」
「ふむ。なんとかその情報網をシステム化して今後の作戦でも使いたいものだな。天貴殿、あなたが今回学んだノウハウを全学校で共有させて欲しい」
「了解。国軍である教導団にそのシステムが出来るのが一番手っ取り早いしね」
 クレアの要請に彩羽は諾と答える。
「そうそう、夜間で雨天だし、迷彩もした方がいいと思うな。金色に染めてる小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さんのイコンは別にしてもさ」
 ルカルカがそう言うと皆が賛同した。
「オレはジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)(CVは大塚明夫さん希望)だ。水原少尉の指揮下で歩兵分隊を指揮する。ところで教官、手榴弾やリモコン式の爆弾を借りたいがよろしいか?」
「問題ない。こちらもデータとして用意しておく」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)よ。随伴歩兵に関するレポートを持ってきたわ。読んで頂戴」
 そう言ってローザマリアが提出したレポートは、ワスプ級やアメリカ級の強襲揚陸艦に歩兵を乗せてイコン搭載の艦艇に随伴させるべき。というものだった。 これには小型飛空艇やレッサーワイバーンなどのメンテナンスや係留用としての意味合いが強かった。それと同時に随伴飛行歩兵の戦術を確立させる意味合いも持っている。
「参考にしよう」
 教官にも決定権はないのでそう答えるのみにとどめた。
「えっと、火村 加夜(ひむら・かや)です。今回は、敵の機体の撃破、対空ミサイルの破壊、基地の無力化の三つの目的に絞ってみてはどうでしょうか?」
「対空ミサイルの破壊については【リーディッシュ】がうけもつ」
 ゆかりが加夜の言葉にそう答える。
「基地の無力化は俺達コームラント組に任せてくれ」
「聡さん言動は軽いですけどやるときはやる人ですから……」
 サクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)がボソリとフォローを入れる。意外と信頼しているらしい。
「【アルファ小隊】小隊長の天司 御空(あまつかさ・みそら)だよ。今回はステルス加工と迷彩塗装を施したイコンで戦いたいと思う。出来れば全機に行いたいね」
「【ベータ小隊】小隊長の御剣 紫音(みつるぎ・しおん)だ。戦闘をしつつ各学校の機体のデータの収集なんかもやりたいと思ってる」
 今回の作戦でメインの戦力となる二つの小隊の小隊長が挨拶をする。
 そして――
「学院の問題児こと茅野 茉莉(ちの・まつり)よ。ふふ、今回は突出するパイロットの矯正ってことだけど、突出して敵をかき回すのも必要よねぇ。ってことで、あたしの【ハロウィン小隊】はわざと突出して敵を撹乱するわ」
 本音はカノンの護衛の強化人間部隊の攻撃を突破してカノンに接触することなのだが。
「てことで、下にイーグリット4機ほどデータを頂いていいかしら、教官?」
「……許可する。ただし、突出のタイミングはこちらで指示する。それまでは他の部隊と連携をとりながら戦闘を行うこと」
「了解ぃ」
 教官は条件付きながらも茉莉の作戦を許可した。実際、単に陣形を敷いて戦っているだけでは戦線が膠着するかどちらか一方が有利になるだけだ。従って教官は【ハロウィン小隊】をいざという時の予備兵力として投入するという案を固めていた。
「……なるほど。高機動部隊の投入による戦線膠着の打破か。教官殿もなかなか考えるな。私はいいと思うぞ」
 クレアがその考えを見ぬいて賛同する。
「天御柱の桐生 理知(きりゅう・りち)だよ。聡君とサクラちゃんがいるチームに入れてもらえるかな? サクラちゃんって冷静で的確だから信頼してるんだよ! 聡君は……うん、信頼してるよ!」
「理知……今の間は何かな?」
 パートナーの北月 智緒(きげつ・ちお)がツッコミを入れる。
「ん? なんのこと?」
 しかし【天然さん】の理知は気がつかなかった。
 こうして主だったメンバーが集まって会議が進められていった。