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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   玖

  第二回戦
○第四試合
 リリィ・クロウVS.ドライア・ヴァンドレッド

「あの方、プリーストでいらっしゃるのね。どうして御前試合に出ていらっしゃるのかしら?」
 白姫がリリィを見ながら小首を傾げた。
「ご主人様ー! 治療所でとん汁配ってました! 貰ってきましたよ!」
 葉莉が器を二つ持って駆けてきた。念のためにと治療に行った帰りだ。器からは湯気が立っている。
 バシャ!
 ――コケた。

 リリィがプリーストでありながら御前試合に参加したのは、修行のためである。実戦となれば、プリーストといえども回復さえしていればいいというものではない。いつ的と遭遇し、戦うか分からない。故にこれは、修行の一環であった。
 だが、今回は些か相手が悪い。
 ドライアは初っ端、力任せにリリィの側頭部を打った。リリィの頭は大きく揺れ、世界がぐらりと回る。それでも辛うじて【ヒール】で回復しながら、ドライアの腹部を狙った。
 だがドライアは容赦ない。リリィが体勢を立て直すより速く、強力な突進攻撃を食らわせた。リリィは大きく吹っ飛んだ。
「はッ。甘いンだよ。……というつもりだったけどよ。おい、大丈夫か?」
 ふらつきながら、リリィは立ち上がった。手錫杖は見事に折れている。
「だ、大丈夫です。ありがとうございました。その……良い試合でした」
 最後の一言には、悔しさが滲み出ている。
「楽しかったぜ」
というドライアの言葉も、今のリリィには痛い。悔しい――つまり自分は満足していないのだと、彼女は理解した。
 プリーストは戦闘での最後の砦だ。決して倒れてはならない。そのためにも、もっと強くならなければとリリィは思った。


○第五試合
 氷室 カイVS.七刀 切

 切が欠伸を噛み殺すのを見て、「余裕だな」とカイは声をかけた。
「みんなそう言うけどねえ、ワイは眠いだけなんだけどなぁ」
「それが余裕というんだ」
「そうかねぇ?」
 切は首を傾げた。本気で考え込んでいる。この緊張する場でどうにも腹の立つ態度ではあるが、不思議と憎めない。
 緋雨の合図で、二人は竹刀を構えた。どちらも何か仕掛けようとしているのが分かった。動けない。
 じりじりと間合いを取りながら、隙を窺う。会場は静寂に包まれた。……どれほど経ったろうか。誰かが動き、ことりと小さな音を立てた。
 それを合図に共に足を踏み出した。二人の中央で竹刀が弾ける。
 カイのスピードの乗った攻撃に、切は若干押された。押されついでに、くるりと回転し、その勢いで再びカイの腹部を狙った。
 だが、やはりカイの方が速かった。
 カイが切の頭部を打った次の瞬間、切の竹刀はカイの腹部を薙いだ。
「氷室!」
 緋雨が勝者を告げる。
「強いねぇ」
「やはり余裕だな、お前」
「そう?」
 カイは苦笑した。戦場でなら、勝てるだろうか、とちらり考えた。


○第六試合
 四谷 大助VS.神崎 輝

 可愛らしい少女の次は、アイドルである。
 大助は嘆息した。これではまた、自分が悪人になりかねない。というより、観客席のほとんどは、大助の敗北を望んでいるだろう。
 ――それって、ちょっとズルイよな。
 だが、どうしたって負けてやるわけにはいかないのだ。
 ――だったら。
「来い、碧日!」
 大助の周囲を飛んでいた小さな虫が、溶けるように同化した。一瞬のことだった。全身に青緑色の燐光を放つ炎形の模様が浮かび上がる。客席にざわめきが広がった。それほどに奇異な姿だった。輝も顔を歪めている。
 救護所から戻ってきた瑞樹が「ルール違反じゃないんですか!?」と声を上げた。緋雨は寸の間考え込み、問題なしと判断した。宿主の身体能力を高めるという意味では、スキルの一種と考えていい。ハイナを見上げると、彼女も大きく頷いた。
「問題なし!」
 輝も言い切った。気持ちは悪いが、それとこれとは別だ。
 試合開始の合図と共に、二人は地面を蹴った。身体能力の上がった大助が、輝の腹部に拳を叩き込んだ。ブーイングが上がるが、無視する。
 痛みと衝撃に顔を歪めた輝は、しかしすぐににんまりした。手にした竹刀の柄を、大助が離れるより速く脇腹にめり込ませる。
 大助に痛みはないが、これでポイントは引き分けだ。
 バッと二人は離れ、間を置かず、再び地面を蹴った。
「【ソニックブレード】!」
無間地獄!」
 音速を超えた一撃と、鬼の如き拳がぶつかり合い、二人は地面に落ちた。
 緋雨のテンカウントが終わっても、どちらも立ち上がれず、共に三回戦進出となった。


○第七試合
 花京院 秋羽VS.神崎 瑠奈

 瑞樹に付き添われて輝が救護所に運ばれたと知り、瑠奈は気が気でなかった。いっそ試合放棄をしたいぐらいであったが、そんなことをすれば、輝が気に病む。
 一方の秋羽は迷っていた。瑠奈は前の試合を不戦勝で抜けている。彼女がどんな戦いをするか、てんで予想がつかない。
 様子見のため、試合開始と同時に秋羽は瑠奈の足元にナイフを打ち込んだ。同時にルナの姿が消えた。【隠れ身】だ。ベレッタPx4が秋羽の背中に撃ち込まれた。
 瑠奈はすぐにその場を離れた。彼女は秋羽の戦いを見ている。このパターンは、【トラッパー】に違いない。龍漸はこれに引っ掛かって身動きが取れなくなった。
「――と、考えると思った」
 突っ込んでこなければ、こちらから向かえばいい。秋羽も死角に回り、瑠奈の背中にナイフを切りつけた。――無論傷は出来ないが、痛みはある。瑠奈は前方につんのめった。
 倒れかけた瑠奈に、追い討ちをかけるよう、秋羽は襲い掛かる。
「そうはいかないにゃー!」
 倒れながら、瑠奈は引き金を絞った。
 秋羽の膝に弾が撃ち込まれ、秋羽は瑠奈の上に落ちた。
「お、重いにゃー」
「お、すまない」
 崩れそうになる膝を無理矢理伸ばし、秋羽は立ち上がった。
「今回は負けてしまったが、次に戦う時は負けないからな」
「ひょっとして、ボク勝っちゃった?」
「……そんな風に言われると、俺の立つ瀬がないんだが」
「にゃー! お兄ちゃんに教えなきゃ!」
 ぴょんぴょん跳ねながら、瑠奈は試合場を飛び出していった。
 負けた方だけ残されて、さてどうしたものかと緋雨と秋羽は顔を見合わせた。


○第八試合
 ルナ・シュヴァルツVS.クリスティー・モーガン

「思ったより忙しいな」
 銀はやれやれと呟き、肩をバキバキと鳴らした。気絶した出場者を運び、観客席と救護所を既に何往復もしている。体中の力が抜けた人間は、重いものだ。
 自称のつもりだったが、ハイナに情報が上げられていたらしく、しっかり救護班の仕事をする羽目になっている。大助と輝を運んで戻ってきたら、第七試合を見逃してしまった。なかなかの頭脳先であったと白姫に聞き、がっかりした。
「でも次の試合も面白そうじゃない? どっちも強そうだし、カッコイイし」
「そういう趣味か」
「え?」

 ルナはカイのパートナーだ。仲間のベディヴィアもカイも順調に勝ち上がっている。自分だけ負けるわけにはいかない。
 それに戌子に言われていたことが引っ掛かっていた。
 ――我が本気を出していないと?
 ならば見せてやろう。
 ルナは試合開始早々、【爆炎波】を放った。その次の瞬間、我に返る。やりすぎた。相手が怪我をする!
 だがクリスティーもまた、渾身の力を込めて槍を振るっていた。中央で大きな爆発が起き、二人の身体は吹っ飛んだ。
 濛々と立ち込める土煙の中、ルナとクリスティーは素早く相手を探し、見つけるや踏み込んだ。
 剣と槍が激しくぶつかり合う。一度、そしてもう一度。それぞれの武器が砕け散り、二人は手元を見つめた。武器なしでやり合うかどうか、迷う。
 そこで緋雨が手を上げた。
「勝者、クリスティー・モーガン!」
「なぜだ!」
 ルナは納得いかなかった。まだ戦える。自分は動ける。
 緋雨はかぶりを振って、ルナの右手を取った。
「――!!」
 手首から脳天へと走る衝撃に、顔をしかめる。
「最後の一撃で、手首が折れたんですよ。これでは戦えないでしょう?」
 くそ、とルナは小さく罵った。
「まさか我が負けるなどと。……主の顔は覚えたぞ、クリスティー・モーガン。何が何でも再戦してもらうぞ」
「ああ。いい勝負だったよ、これを糧に精進させてもらうよ」
 二人は見合わせ、フッと笑みを浮かべた。