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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   捌

「俺、出来れば一ヶ月ぐらい入院していたいんだけど」
「何を言っているんですか、もう」
 唯斗の発言に、パートナーの紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は軽く睨めつけた。
「ハイナに何を言われるかと思うと……」
「分かります。私もこんなあっさり負けて、みんなに何を言われるか……いえ、マスターはそんな性格の悪いことは言いませんけど!」
 簡易ベッドに寝かされていた瑞樹が言う。彼女は第一試合で気絶してから、一回戦が終わる今の今までこの救護所にいた。
「しかしこのベッドは結構寝心地がいいねー」
 怪我などどこにも見当たらない戌子だったが、負けたんだからと言い張って、ずっとここにいた。しかし、
「そろそろ大助の応援に行こう」
と立ち上がる。
「私も行くわ!」
 グリムが戌子に続いたが、すぐにふらりとなる。慌てて睡蓮が支えた。
「キミはそこにいたまえよ。大助の応援はボクだけで十分だ」
「パートナーが戦うのに、寝てなんかいられないわ!」
「分からない人だな。邪魔だと言っているのだ。寝ていたまえ、いっそ大会が全部終わるまで。何なら帰ってこなくてもいい」
「何ですって!?」
「うるさい!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が怒鳴ると同時に【ヒプノシス】を発動させた。戌子とグリムがくたりと倒れる。睡蓮と唯斗はそれぞれ二人の身体を支えた。
「寝てる」
「寝てますね」
 二人ともすーすーと寝息を立てている。
「わらわは忙しいのだ。……やはり、とん汁がよいかな」
「とん汁ですかっ。美味しそうですね、私も手伝いますよっ」
 ぴょこんとサクラコが飛び起きた。「私はもう平気ですよっ!」
 ぶんぶんと腕を振り回すサクラコを上から下まで睨めつけ、ふん、とエクスは言った。
「よかろう。おぬしは丈夫そうだ。――そこ!」
 ベッドを抜け出しかけていた龍漸は、びくりと立ち止まった。
「い、いや、拙者ももう平気でござる」
「足を引きずっておるではないか」
「これぐらいどうということもない! 拙者は強くなるため、こんなところで寝ている暇は――」
 最後まで言えずに、龍漸もまた意識を失った。
「材料はよいものが揃っておる。さすがハイナ。美味いのが出来るぞ」
「楽しみです!」
「――ああ、唯斗」
「えっ?」
「おぬしは戻ってよい。というより、戻れ」
「……承知」
 エクスとサクラコは、楽しげに救護所を出て行った。残された唯斗と睡蓮は、強制的に眠らされた者たちをベッドに横たわらせ、唯斗は瑞樹と共に観客席に戻っていった。


   第二回戦
 審判:水心子 緋雨

○第一試合
 白砂 司VS.ウィング・ヴォルフリート

 緋雨は右半身を前に立った。左目を眼帯で覆っているため、そうせざるを得ないのだ。それもあって直接の判定に関わるのを躊躇っていたが、「ワンオブウェポン」の製作を目指す彼女にとって、戦いを間近で見るのは何よりの勉強だと諭された。
 二回戦だけあって、どちらの参加者も落ち着いていたのは有り難かった。
 試合開始早々、共に技を仕掛けようとしたが、互いにそれに気づいてやめた。スキル同士がぶつかれば、威力は相殺されてしまい、体力の無駄になる。――そう考えられるほどに二人は冷静だった。
 面白い――。ウィングは【鬼神力】で龍瞳になった目を細めた。イルミンスールにこれほどの使い手がいるとは、思ってもみなかった。
 ウィングは二刀の手数を増やし、司の頭部を狙った。袖がバサバサと音を立てる。――神社の巫女さんたちから無理矢理に巫女装束を着せられたのだが、戦闘には不向きだったようだ。
 司はその動きにくさを狙った。緋袴の裾を、槍の一突きで狙う。
「――どうやら、ここまでのようです」
 動けなくなったウィングは、微笑んだ。
「いい腕ですね」
 司は、黙ってウィングを見返した。こういう時は、笑い返せばいいのだろうか。よく分からなかった。


○第二試合
 クリストファー・モーガンVS.東雲秋日子

「二回戦ともなると、なんかみんな強いよねー」
 誰かが差し入れてくれたたこ焼きをもぐもぐと頬張りながら、氷雨は言った。デロちゃんは、ちょっと恨めしそうな目でたこ焼きを見ている。
「でもさっきは、運としか言いようのない人も勝ってましたよ?」
「運も実力の内だよ」
「それじゃあ主様、次はどっちが勝つと思いますか?」
「そうだねー。ボクは……」

「先手必勝!」
 秋日子の【光条兵器】が発動し、クリストファーを光の弾が襲った。クリストファーは倒れそうになるのを堪え、薔薇で秋日子の視界を塞いだ。
「来た――!」
 秋日子はこの攻撃が来るのを待っていた。だが分かっていても、クリストファーの姿を見つけることは出来なかった。
 死角から、クリストファーのレイピアが襲ってくる。咄嗟に身体を捻ったが、秋日子の腕をピシリとレイピアが叩いた。
 利き手でないのは幸いだった。秋日子は打たれた腕を押さえながら、距離を取った。
「そこだ!」
 クリストファーが秋日子の腹部を突く。――だがそれより速く、秋日子は狙いをつけ、引き金を引いた。
 パン! パン!
 コルクの弾がクリストファーの膝を打つ。彼のレイピアは、目標に達する前に、地面に落ちた。
「……負けたか」
 髪をかき上げ、フッとクリストファーは笑った。
「こういう戦いなら、いけると思ったんだがなあ」
 秋日子は手を差し伸べた。クリストファーはその手を取ったが、膝の痛みは思ったより酷く、よろけてしまう。秋日子は咄嗟に彼の肩の下に入った。
「だ、大丈夫!? ゴメンナサイ……」
「いいさ。勝負なんだから、これぐらいは。ところでちょっと訊きたいんだが」
「え?」
「キミ、遊郭の場所は知ってるかい?」
 秋日子はクリストファーの下で、硬直した。


○第三試合
 駿河 北斗VS.トライブ・ロックスター

「俺は北斗、魔法剣士の駿河北斗だ。正々堂々とやろうぜ」
 差し出された手を、トライブは素直に握った。こういう直情型は嫌いではない。何より、トライブの最も得意とするタイプだ。
「いくぜ!」
 試合開始と同時に、北斗は飛び上がった。高い位置からの一撃。
 だが、トライブにとっては格好の的だ。【轟雷閃】が、切っ先から空中の北斗を襲う。
「うわぁ!」
 地面に落ちた北斗を、すかさず叩こうとしたトライブだったが、突如北斗の持つ棒が尺を伸ばし、光の刃で喉を突かれた。
「ぐえっ!」
「見た目通りのリーチかと思ったかよ、残念だったなっ!」
 トライブは派手に咳き込んだ。「うぉ〜、いてぇ。死ぬ!」
 急所への攻撃だが、緋雨は試合を続行した。痛みを訴えてはいるが、トライブの動きに翳りはない。ただのパフォーマンスと判断する。
 だが北斗はそれを好機と見た。光剣を出したまま薙ぎ払おうとし――刃を消して、遠くから柄の部分を思い切り投げつけた。
 しかしトライブは空中へ飛び上がり、それを避けた。攻撃しようにも北斗には武器はない。竹刀が北斗の額をビシリと打った。
「それまで!」
 緋雨の一声で、試合は終わった。
「強いな、あんた」
「いや、あぶなかったぜ」
 二人はがっちりと手を握った。
「まだまだ修行が足りねえってことか。また師匠に稽古つけてもらわねえと!」
 北斗は満足げに笑い、試合場を後にした。まだ身体がうずうずする。矢も立てもたまらず、走り出した。早く修行がしたかった。もっと強くなりたかった。最強の魔法剣士になるために。