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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
 その頃、ファーシーは、まだ祝福の余韻に浸っていた。穏やかな空間、皆の笑顔に包まれた空間で笑うポーリア達の姿を思い出す。
「ポーリアさん……、すごく、きれいに笑ってた。あんな笑顔見たの、初めてだわ……。スバルさんも嬉しそうだったし、何ていうのかな、輝いてるっていうか……」
 あの3人を見て純粋に感じたのは、羨ましいな、子供っていいな、という気持ちだった。
 子供を迎えて家族となった彼女達からは、溢れるほどの希望が感じられた。出産中はとっても大変そうだったけれど――
 その上で生まれてくる命は、やっぱり素敵だ。
 でも、育てるのは責任があり、大変なことだと教えて貰った。その大変さが、いまいち実感として分からない。それは、経験しないと仕方ないことなのかもしれないけど……。
「スカサハも……子供が欲しいであります!」
「え?」
 一緒にいたスカサハの言葉に、ファーシーは素早く反応した。参考として話を聞きたい、という部分と、相手は誰? という純粋な好奇心が混じっている。
「どうして? もしかして、好きな人がいるの?」
「そ、そういうわけではないではありますが……」
 スカサハはそう言って、手元に視線を落とす。そこには、青い石のついた指輪が嵌まっている。だがすぐに顔を上げ、慌てたようにスカサハは言う。
「ファーシー様は、子供が欲しくないでありますか?」
「うーん……」
 ファーシーは答えに悩み、それから、相変わらず時間を無為に過ごしているらしきラスの方を見た。てこてこと歩き、話しかける。
「ねえ、わたしが赤ちゃんが出来るかもって話が出た時、どうして反対したの? いくら考えても、分からないの」
 不意にそう訊かれ、彼はうんざりしたように振り向いた。
「またそれか……。俺の一意見なんて、どうでもいいだろ」
 どうやら、これまでに何度も何度も何度も何度も同じ質問をされてきたらしい。
「それは……、やっぱりいろんな人の話を聞いて考えたいし、未沙さんも大事なことだって言ってたから……。反対の理由は知りたいわよ。それが、わたしの思いもしないことなら……」
 真剣にそう話すファーシーに、ラスは呆れた目を向ける。
「お前には主体性ってもんはないのか」
「そ、そんな事ないわよ。ただ、わたしはまだ知らないこといっぱいあるから……。今日も、たくさん考えることあったし……。ていうか、そんなにひた隠しにされたら気になるじゃない!」
「……本音が出たな……」
「う……そ、それの何が悪いのよ!」
「俺がどう思ってようと、お前がこの数日悩んだ事の方が大事なんじゃねーのか。色々考えたんなら、その中に実のあることもあるだろ」
「…………」
 何か誤魔化されているような気もするが、反論出来ない。悔しいというか腹立たしいというか、とにかく不服だ。
「……そんなに知りたいなら話してもいいけどな、お前が自分で答えを出した後だ。その後なら、話してやるよ」
「うーーーー……」
 ファーシーはまだ納得いかないようだったが――そこで、突然宣言した。
「……分かった。それならわたし、子供作るわ!」
「は!? ちょっと待……」
 驚くラスを余所に、ファーシーはモーナの所に歩いていく。モーナは、フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)と話していて――
「んじゃ、どっちが生まれるかははっきりしねーんだな?」
「そう。で、ハーフは有り得ない。まあ、私個人としては機晶姫である可能性が強いと思うけどね。銅板からエネルギーを介してデータを得るわけだし。直接の精……いや、うん。そういうことだからさ」
「銅板からデータをってのは、生もうと思ってから生むもんなのか? それとも、いつの間にか勝手に生まれるもんなのか?」
「えーと、それは……」
 要するに、子供が出来る理由が知りたいということだろうか。彼の質問には、ファーシーにルヴィとの子供が出来るとして、それが先送り可能かという意図があったのだがそこまで把握出来るわけもなく。
「ルヴィという人のデータが、自動的に子宮に流れることはないよ。現時点で、体内のエネルギーが銅板を介している事も無い。だから、ファーシーが彼との子供を望んだ時にあたし達が施術して、初めて命を宿すことになると思う」
「ふーん……。それにしても、銅板が人間の形になって、んで子供産むってか……? ここはマジでよくわかんねー世界だな、オイ」
「フリッツ、わたしが子供作るかどうかが気になるの?」
 ファーシーが来たのは、そんな時だった。フリードリヒはその言葉に答えようとして何か引っ掛かりを覚えたが、それに首を傾げつつ彼女に言う。
「何か、機晶姫の出産ってのに興味が沸いたんだよ。で、結局オマエは、どーすんの? 決めんの? 諦めんの?」
「わたし? だから、わたしは……」
 ファーシーは少し言い淀み、それからモーナに向けてはっきりと告げた。
「モーナさん、わたし、子供作るわ! ルヴィとのデータを……」
「ま、待て待て! お前それ、明らかに売り言葉に買い言葉じゃねーか! 冷静に考えろ冷静に!」
 皆を言う前にラスがやってきて、慌ててファーシーの言葉を止める。
「何よ、自分で決めろって言ったのはそっちでしょ?」
「だからって、んな勢いで決めていいことじゃないだろ!」
「勢いじゃないわよ、後で反対の理由、聞かせてもらうからね!」
「? 何だろう、ファーシーさんの子供の話?」
 喧々囂々とした遣り取りが行われる中、和原 樹(なぎはら・いつき)が近付いてくる。フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)も一緒だ。樹は、徐々に過熱してくるファーシー達の様子が気になり話し掛けたらしい。彼女の子供については、樹としても思うところがある。
「大事なことだし、落ち着いてゆっくり考えてみようよ」
 穏やかにそう言われ、皆はお互いに顔を見合わせた。話を聞いていた朔も、彼らに言う。
「……そうだな、一度話し合った方がいいかもしれない。ファーシーが改めて、ちゃんと結論を出せるように」
「俺様も同席させてもらうぜ!」
「俺もいいですか? 少々気になることがあるので……」
 フリードリヒが言い、志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)も話に入ってくる。ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)も加わり、そして話し合いは始まった。

「ルヴィさんとファーシーさんは想い合ってるんだよね。過去と今とが繋がって、そしてそれが未来へ続いていくなんてステキなことだと思う! ルヴィさんも、きっと喜ぶよ!」
「ティエルさん……」
 目を輝かせて言うティエリーティアに、大地は困ったような笑みを見せる。これは後先を考えてないな、と。
「? 大地さんは違うんですかー?」
「そうですね、俺は賛同はできません。ラスさんもそうなんですよね?」
「ああ……、もう居ない奴の子供なんて作ったっていいことないだろ。ファーシーだけじゃなくて、そのガキにとってもな」
「私にも子供にもいいことが無い……? どういうこと?」
 話し合いの場になったらあっさりと吐いたラスに、ファーシーがここぞとばかりに踏み込んだ。鬱陶しそうにしつつ、彼は以前に言った事を繰り返した。もとより、他の男云々というのはファーシー本人にし難かっただけで、多くの者が話を聞いている。こうした話し合いの場が設けられた以上は、話に上るだろうし隠しておく意味も無い。
「コブ……? 独り身……?」
 ファーシーは眉根を寄せてその意味を考える。それって……、わたしがルヴィ以外の人を好きになって、一緒になるのを想定してるっていう事……?
 そんな事、考えたこともなかった。でも……。
 ていうか、コブって何?
「ついでに言えば、片親ってのは色々と難しいんだよ。よっぽど環境が良くねーと……って、まあ、反対する理由はいくらでもあるってことだ」
 悪い事だけでもないだろうが、前向きな意見を言ってもそれで反論されたり産むと決断する材料にされても面倒なのでそこは黙っておく。
「私も、現状を考えると反対ですね」
 スヴェンも静かにそう言い、少々間が空いたところでフォルクスが言った。
「確かに、未亡人に子供となると問題がないとは言い難いかもしれん。……そうだな、我も、もし樹と他の男との間に子がいたらと考えると……」
「変な想像するな。しかもなんで相手が男なんだ。俺の子供なら女の人との間に出来るのが普通だろ!?」
 樹は、慌てて話を遮った。素早い対応だ。それに対してフォルクスは一瞬、突っ込みの意味が判らないという顔をした。それから合点がいったように口を開く。
「……そういえばそうか。我はお前を押し倒すつもりしかないので失念していた」
「押し倒すって……」
 さらりと当然の如く言われ、樹は若干身を引いた。まさかここでセクハラをするとも思わないが、条件反射というやつだ。
「まぁ、仮にそういう事実があったとしてもお前を放すつもりなどないから安心しろ。我も過去の恋愛遍歴などは忘れた」
 そう話しつつ、フォルクスは樹を抱きしめる。
「お前が傍にいるならそれでいい」
「フォ、フォルクス……」
 まさかここでセクハラを――まあこのくらいはスキンシップの範囲内(?)だが――した彼を解くに解けず、樹は困惑して視線を彷徨わせた。そこで、セーフェルが助け舟を出す。
「フォルクス、いきなり妙な惚気かたをしないでください……。マスターも困ってますし、話が進みません」
「む、そうか?」
 そうは言うものの一向に離れようとしないフォルクスを樹はひっぺがす。あっけに取られている一同の中、大地が冷静に話を戻す。
「俺は、今回の話が出てきた流れ自体が、何か納得出来ません」
 彼が否定的なのは、現状を考えてというのもあるが、周囲の勧め方に疑問を持っていたからだ。
「上手く言えませんが……、できるんだからやろうよ、というのは許せません。どんな良い事を言っているように聞こえても、そこにファーシーさんへの愛は無いと思います。研究対象としての、というか興味本位で、というか……。
 俺は、そういうのは好きじゃありません」
 単純に『出産はすばらしい』事だからと勧める方が、賛同は出来ないが、まだいい。
 そう大地が言うと、モーナが苦笑いを浮かべた。
「研究対象としての、というのは、あたしも含まれてるっぽいねえ……にしても、愛が無い、か……」
 しかし、彼女は特に否定する気もないようで、座って話の展開を見守るのみだ。
「確かに、思いつきの部分はあったかもしれないけど……」
 沈黙をする皆の中、樹が考え考え話し始める。
「ルヴィさんの子供を産むのに反対意見があるのも、まぁ分からなくはないよ。ルヴィさんはもういない。それは、もうどうやったって変えられない現実だ。だから……、子供が生まれてもスバルさんとポーリアさんみたいに2人で喜び合うことはできないよな」
 その場面をイメージしたのか少ししんみりとした顔をして。
「ファーシーさんがそれを寂しいと思うなら……やめておいた方がいいのかもしれない」
「うん……」
 生真面目に話を聞いていたファーシーは、僅かに目を伏せる。今日のような闘いの後に、隣に誰かがいないというのがどういうことなのか、ぴんと来ない部分もあるが想像できないわけでもなく。
 彼女の様子を気にかけつつ、表情を改めて樹は続ける。
「でも、直接の子孫じゃないけどソルダさんがいたからルヴィさんの銅板のことや洞窟の封印のこと……、色々知ることができただろ。子供がいれば、それと同じようにずっと先の未来に想いやその証を残せるかもしれない。
 ……それが誰かの助けになることも、もしかしたら」
 重くなりがちな空気を払拭するように、気負いのない口調で言葉を紡ぐ。
「そういうのもあるからさ。ルヴィさんの子供が傍にいたら嬉しいって気持ちがあるなら……産んでもいいんじゃないかな」
 そして、ファーシーの方を見る。どうやら、何か考え込んでいるようだ。あまり思い詰めないように平生通りに、あくまでもアドバイスという感を樹は保つ。
「コブ付きがどうとかいうのも、そこら辺もひっくるめて相性だろうし。いつかそういう相手ができるかもしれないからって、今遠慮する必要はないと俺は思うよ」
 セーフェルも彼に続き、静かに言った。
「そうですね。子は未来を繋ぐ者ですし……新しい命にはたくさんの可能性があります。一部の可能性だけを理由に否定することはありません。確かに良いことばかりではないかもしれませんが、それ以上に幸福をもたらす存在にもなり得るんですから」
「うーん……」
 ファーシーは小さく唸った。一つ一つの言葉を受け止め、吟味しようとしているのが分かる。どれも大切で、皆の言うことはそれぞれに理由があって理解できる。だけど、そこから答えを出そうとすると、迷宮に嵌まり込んでしまうのだ。
 最後に決めるのはファーシー自身。だが、皆の意見を聞いて最善の選択をしようとする彼女は、相反するアドバイスからどうすればよいのか分からなくなってしまった。
「やっぱり、すごく難しいのね……わたしだけじゃなくて、その子が、ちゃんと幸せになれて、ちゃんと育つ環境が必要で……」
「……すぐに結論を出すこともないでしょう。悩みや迷いがあるうちは、保留にしておいてもいいと思いますよ」
「ああ……そりゃ、今じゃなくて、先延ばしって選択肢だってあるんじゃねーの?」
 セーフェルとフリードリヒの言葉に、ファーシーは驚いたように目をぱちぱちさせた。
「今、決めなくてもいいの?」
「……そうですね。今ここで無理に決めなくとも、ファーシーさんが経済的にも自立した上で考えればいいでしょう。俺個人としても、子供を作るのはそれからの方が望ましいと思っていますし」
 大地もそう発言し、考え込むファーシーにフリードリヒが言う。
「別に、一生、産めなくなるわけじゃねーだろ?」
「う、うん……そう、だけど……。そう、なの?」
「だね」
 訊ねられ、モーナは軽く頷いた。
「つーかさ、産むだ産まないだってぐだぐだ悩んで意見聞いてるけどよ、お前それで諦められんの?」
「え……?」
「5000年の時間を越えて、愛の結晶が出来るかもしれないってーのに。諦めるなんて勿体無くね? お前のルヴィへの愛情ってどの程度なのよ?」
「どの程度って……そんなの……」
 ファーシーは自分の胸に手を当てる。ここには、ルヴィが結婚の証として大切にしてくれていた銅板がある。そこに、消えてしまった彼のデータが残っているらしく――
「言葉でなんか現せないわよ。大切すぎて、大好きで……! 当たり前じゃない!」
 そこまで言って、ファーシーは俯いた。なんだか、目頭が熱い。そんな彼女を見て、フリードリヒは1つ息を吐いた。
「マジでさ、子供欲しくたって無理だったヤツもいるんだぜ」
 軽く肩を竦める彼に、ファーシーは少し驚いたように顔を上げた。基本、にぶい部分の多い彼女だが――やたらに実感のこもった台詞から、裏にある真実に気付いてしまったらしい。
「…………」
 しかし、それはそれとして。
「それは……、産みたいならさっさと産めっていうこと?」
「そーとも取れるか? ……ま、その尊ーいカラダをどーすんのか、決めんのはお前なんだけどな」
「ちょっと待ってください」
 そこで、スヴェンが割って入ってくる。
「さんざん煽るだけ煽って、後は自分で決めろ? 回復してきたとはいえ、まだ彼女は人の補助なしでは動けない体なんですよ? 生活基盤だって整っていない。だのに子供、ですか? 冗談でしょう。どうやって、一体誰が責任を負って育てるんですか。『みんなで』なんておままごとのような意見を出すつもりではないでしょうね? 流石にそんな事を言われたら、正直、呆れますよ?」
「今はこうして偶々集まっていますが、普段はそれぞれに別の場所での生活がありますからね。みんなで、というのは現実に不可能です。このままでは、ファーシーさんがハンデを負うことが目に見えていてそういった発言をするのは……、俺もどうかと思いますよ」
 スヴェンに続いて大地もそう言い、フリードリヒに厳しい目を向ける。尤も、大地の方はいささか口調が演技めいていたのだが。そして、大地はラスにも意見を求めた。
「ラスさんはどう思いますか?」
「……なんで、こっちに振るんだよ……」
 苦々しく見遣ってくる彼に、大地はにこやかに言う。
「いえ、一反対派として、今のフリッツさんの発言をどう思ったのか聞いてみたかっただけですよ」
「……まあ、少しは無責任だとも思うけどよ……」
 ガキ作れなかった経験があるなら、そう言いたくなるのもやむなしじゃないのか。
 だが、そう口に出す前にフリードリヒは立ち上がった。
「発言が無責任? 馬鹿野郎、俺様がんな事するわけねーだろ? 責任とってやるよ! ああ、そのつもりで言ってんだからな!」
『…………』
 話し合いをしていた一角だけではなく、室内にいた面々が一斉に口を閉じた。ぴたりと固まったり、思わず振り返ったりと様々だったが、同席していない彼らはすぐに自分の作業に戻り始める。
 だが、ファーシーの周囲はそうもいかず……
「……? え? え? どういうこと? え?」
『え』を連発するあたり、それなりに意味は分かっているのだろうか。ファーシーは、混乱した様子で爆弾発言をした当人を見ると、それから皆を見回した。
「それが聞きたかったんですよ、フリッツさん」
 しらじらしくもとても良い笑顔で大地が言う。先程言ったことは全て本音だし、実際、作れるから作ろうというのは馬鹿じゃないかとも思うが――、ファーシーが、この人とならいっしょにがんばれる、と思える人を見つけた場合なら話は別だ。
「それならば、俺は応援しますよ、ファーシーさん」
「え、え、応援って、何を……」
 慌てるファーシーをよそに、スヴェンは、眉を顰めてフリードリヒに確認する。
「……本気で言ってるんですか? 勢いではなく?」
「ああ、ハンデなんか、全部オレ様が代わりに背負ってやろうじゃねーか!」
 はっきりと言い切ると、フリードリヒはファーシーに向き直った。ちょうどいい感じに、座っていた位置が斜め前である。
「……あー、一応言っとくぞ? 『代打品』の件については、まだ俺様の中では継続してっからな?」
「だ、代打品? な、何? 舎弟2号のこと?」
「足がないなら代替品使え、って口論になったアレだよ! 覚えてねーのかこの銅板脳味噌が!」
「い、いたっ!」
 いつかのようにでこぴんを食らい、ファーシーは動揺したまま面食らうという何だかわけのわからない事態になっていた。目がぐるぐるするような、まあ、そんな感じだ。
「な、何よ、待ってよ。わたし……、そんな前のこと……ていうか、え、わたしと一緒にいるってこと? そ、そんな、こんなうるさいのにずっと近くに居られたら迷惑だわ! わたしの気持ちは……」
 銅板脳味噌に抗議する余裕もなく、しどろもどろになったり憎まれ口をきいたりまた勢いをなくして俯いたりと忙しいファーシーに、フリードリヒはそっぽを向いて言い放つ。
「フン。お前の都合なんざ知ったこっちゃねーよ。俺様が勝手にオマエの『いろいろ』な『代替品』になるつもりなだけだし? あ、どーでもいいけど舎弟2号より下僕1号の方が好みだな」
「そ、それって……」
 やっぱり、という言葉を飲み込んで、彼女は顔を赤くする。
「でも、わたしは、る……」
「未亡人とか既婚とか種族とか関係ねーよ、バカ。それ言ったら俺様だって既婚の一人身、人生一回転済みだっつの」
 う゛ぃ、まで言う前に畳み掛けるように言われて二の句が継げなくなり――
「まあ、俺様はお前が決めた事なら何も言わねーよ。産もうがどうしよーがな」
「う…………」
 ファーシーは、これ以上無いほどに顔を真っ赤にした。その直後。
 ぷしゅーーーーーーーーっ、という音が何処からか聞こえた。何だ? と皆がその出所を知ろうときょろきょろする。音は、ファーシーの背中から発せられていて――
「あっ! エネルギーの溜まりすぎだ!」
 ……溜まりすぎ?
 当然の疑問を抱いた一同に、モーナは立ち上がりつつ説明した。
「補助につけた好意稼動式装置が反応しすぎちゃったみたいだね。エネルギーが発生しすぎちゃったんだよ。大丈夫、こうして排出出来るように……あ」
 ファーシーは今度こそ目をぐるぐるにして、ダウンしてしまった。