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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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第4章

「確かに、こっちで合っているのですね?」
「間違いない。しばらくここで探ってたんだ、奴らのリーダーが根城にしてる場所くらい、分かってるさ」
 問いかけるのは志方 綾乃(しかた・あやの)。答えたのは天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)だ。
「言っとくが、俺はドンパチやるのは苦手なんだ。レオンのやつがしつこく頼むから、付き合ってやってるだけだぜ」
 ヒロユキが両手を挙げて言う。
「分かってます。でも、手伝ってくれるだけで助かりますわ」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が笑顔で言う。
 すでに村は包囲し、余裕のあるメンバーが沈黙を保ったままのリーダーのところまで向かっているところだ。ヒロユキは村にひとり潜入し、状況を伝えてくれた、影の功労者と言ったところだ。
 村一番の豪邸……と言っても、それほど大きくはないが……の玄関には、ひとりの男がもたれかかっていた。
「あなたが、この蛮族たちのリーダー?」
 ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)が問いかける。男は、答える代わりに大きく舌打ちした。
「てめえらがここまで来たってことは、モヒカンどもはやられちまって、人質も使えそうにないな。ったく、使えネェ奴らだ」
 異様に派手で、その上悪趣味な服装に身を包んだ男……ゲドー・ジャドウである。
「そんな言い方……!」
 リリィが思わず反論する。リリィは何も、蛮族たち憎しでこの戦いに参加した訳じゃない。無法の荒野では、血からだけが頼りだ。自分たちのために人から奪うのもそれほどおかしくはないだろう。
 おかしくはないが、良くもない、と思う。だから、蛮族たちを正し、平和を取り戻すつもりでやってきたのである。
「あなた、リーダーではないですね?」
「ほーぅ。なんで分かる?」
 綾乃が問う。ゲドーは面白げに問い返した。
「蛮族はなんだかんだで群れるものです。あなたのその性格、とても群れるのに向いているとは思えません!」
 びしっ! と指を突きつけて、綾乃が宣言する。
「だ〜ひゃっはっは! その通りだ。だがなあ、この美味しい役だけはぜひともやらせてもらおうと思って譲ってもらったのよ!」
「美味しい役……?」
 思わず首をかしげるリリィ。が、その答えはすぐに与えられた。
「出てこい、屍体ども!」
 ボゴッ!
 ゲドーの声に応えるようにして、魔力によって動く屍体……ゾンビたちが現れる。いずれも、着崩した、生活感のある服装だ。
「ううっ! でも、負けません!」
 リリィは自らのメイスに祝福を与え、ゾンビに殴りかかる。
 ゴッ!
 動きの遅いゾンビに、攻撃を与えるのは難しくない。が、打ち倒されてもすぐに起き上がり、リリィに迫ってくる。
「って、叩いちゃダメ!」
 ウィキチェリカが思わずリリィの袖を掴んで引き戻す。
「え!? ダメです? でも、戦い慣れたやり方のほうが……」
「だめ、だめだよ! だってこの人たち……」
「だ〜ひゃっはっは!」
 五芒星の刻まれた舌を覗かせ、いかにも楽しそうにゲドーが声を上げる。
「見りゃあ分かるだろうが、このゾンビどもは元々、この村の村人よ。それを鈍器でゴツンとは、ヒデェなあ、おい!」
「……っ、それが、あなたの楽しみですか。村人のゾンビを、私たちに差し向けるのが……?」
 銃を手に、綾乃が問いかける。
「いやいやいや、俺にはそんな恐ろしい事はとてもとても! 見ろよ、助けてー助けてーって必死で哀願してるみてぇじゃねえか!」
 言葉とは裏腹、ゲドーはいかにも楽しげに両手を叩いて見せた。
「……分かった、リリィちゃん? 僧侶の戦い方、しないと」
 ウィキチェリカが語りかけ、リリィは大きく頷いた。
「分かりました。屍体は村人のものでも、それを動かしているのはあなたたちの魔力でしょう!」
 リリィは指を突きつけ、勢いそのまま言葉を紡ぐ。
「命の摂理にそむいた、生ける屍よ。ここより退散していただきましょうか!」
「だひゃ?」
 リリィのかざした手から光がほとばしり、ゾンビ立ちを焼く。その光を恐れて、ゾンビがたじろいだ。
「チッ……面倒なやつが居るもんだな。俺は高見の見物とするぜ!」
 ゲドーは叫び、館の中にとって返す。リリィは次々に光を放って、ゾンビ立ちを追い詰めていく。
「その調子! あたしも行くよッ!」
 ウィキチェリカが氷の魔力を解き放ち、ゾンビ立ちを氷に包んでいく。氷に覆われたゾンビには、リリィが聖なる札を貼り付けていく。
 一体、また一体とゾンビが倒れていく。魔力が抜けた屍体は血に崩れ、まるで死んだ直後のようにすら見えた。
 その中で……
「う、っ……この子……」
 リリィは思わず、力を放とうとした手を引いた。ゾンビの中、残った一体……それはまさに、パッフェル・シャウラに助けを求めた、あの少女のものだったのだ。
「……なんてひどいことを……」
 ウィキチェリカも、思わず手が鈍る。なまじ、霊体と話しをしているのだ。そっくり同じ姿をしたゾンビが迫ってくると、はからずもゲドーの言葉が胸の内に響く。
「……志方ないね」
 声。直後に銃声。
 どん、と一撃で、少女の姿をしたゾンビは眉間を銃弾に貫かれていた。
「綾乃さんっ!?」
「……村の人たちには、恨まれるかも知れない、けど……」
 綾乃は氷付けになり、お札を貼られたゾンビにも銃を向けた。そして、その頭を銃弾で次々に撃ち抜いていく。
「相手のネクロマンサーが、また魔力を込めればこのゾンビは復活します。お札だって、相手の方が力が強かったら無意味かも知れません。だから、志方ない」
 内心では、綾乃もこんなことをしたくはなかった。だが……
「誰かがやらなきゃいけないんですよ。だったら、あなたたちがやることはありません」
 ついに、少女も、その両親も……ゾンビとなった村人たちの頭を打ち抜き、綾乃は銃を収めた。
「今の戦いで、私たちも消耗が激しいです。後は任せて、彼らを村人に返しましょう」
 苦しい内心を必死に抑えて、綾乃は村人だった……そしてゾンビだった、今や屍体となった村人たちを示した。