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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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 ついに契約者たちは蛮族のリーダー、ネクロマンサーが居る屋敷の中へとなだれ込んだ。蛮族たちが使ったためだろう。屋敷の中は汚れている。
「き、来やがった!」
 広間に陣取っていた蛮族たちが、手に手に武器を構える。
 その背後には、革のベルトを包帯のように巻き付けた男。
「オマエが蛮族のリーダーだね! よおし、勝負!」
「……って、待て待て待て、こういうとき、いきなり殴りかかっちゃダメだろ!」
 ビシッ! とリーダーを指さす霧雨 透乃に、思わず桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が制止をかける。
「……他に何か、ありますか?」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が小さく首をかしげる。
「ほら、何故こんなことをしたのか、とか、そういうことを問いたださなきゃいけないだろ、2人とも」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が透乃と陽子に言う。ネクロマンサーは、薄い唇に酷薄な笑みを浮かべて、ただそれを見ていた。
「あー、と」
「しっかりしろ、忍。ここで諦めてはならんぞ」
 思わず咳払いする忍に、織田 信長(おだ・のぶなが)が少々ずれたフォローを入れる。よしと頷き、忍はネクロマンサーに向き合った。
「蛮族共め! 人の命を何だと思っているんだ!」
「さて。俺か僕か私が興味があるのは体の方であって、命にはあまり関心がないから、考えた事がなかったな」
 ネクロマンサーが答える。ぎり、と忍が奥歯をかみしめた。
「なんでこんなことをしたんだっ!?」
 と、聞いたのは透乃である。泰宏は思わず、
(そのまま聞くなよ)
 と思ったが、口には出さなかった。
「何故と言われてもな。村人を皆殺しにして食料を奪っていたら、効率が悪いじゃないか」
「貴様、そんな手しか考えつかんのか!?」
 信長がきっと怒りに眉を吊り上げて叫ぶ。
「ああ。そうなんだ。俺か僕か私はこの魔力を得るために良心を捧げたんだ。だから、『いいこと』ができないんだよ」
 ニタァ、とネクロマンサーは笑った。それが自慢だ、とでも言うように。
「……もう我慢できない。俺は、おまえたちに今まで殺されてきた人達の無念を晴らすため、必ずおまえたちを倒す!」
 忍が叫ぶ。それが、戦いの火ぶたを切って落とした。
「ようし、行くよ!」
「ヒャッハー!」
 透乃と蛮族たちが同時に声を上げ、互いに突っ込んでいく。
「透乃ちゃん! まったく……!」
 泰宏が味方に防護の加護を与え、薙刀を手に透乃を追う。
「そのまま……行きますよ!」
 陽子が魔力を炎に変え、屋敷を焼き払わないように細心の注意を払って放つ。
「ぎいいいっ!?」
「……使えないやつらだ!」
 熱に巻かれた蛮族たちの中から、黒衣を纏った者が進み出る。銀星 七緒だ。
「邪魔をするなっ!」
 忍が吠え、大剣の光条兵器を振りかざす。
「……ふ、っ!」
 大ぶりの一撃を、七緒が体勢を低くしてかわす。さらにひと振り、ふた振り。そのたび、七緒は右に左に身をかわす。
 ルクシィ・ブライトネスとロンド・タイガーフリークスがそれに続く。透乃が繰り出す連打を、ふたりがかりで避け、あるいはいなす。
「このっ……! 私はあいつとやりたいの!」
 苛立たしげに叫ぶ透乃。
「も、もう少し待ってください」
 と、ルクシィが身をかがめながら答える。
「へ……?」
 透乃が意味を問いただそうとする。が、それよりも早く。
「そのまま押さえていろ。俺か僕か私が勝負をつける」
 七緒らが契約者たちを押さえていると見て、ネクロマンサーが呪文を唱えはじめる。そして、別の部屋に隠していたのだろう。村人たちとは違った、かなり腐食の進んだゾンビが部屋になだれ込んできた。
「……今だ」
「なに?」
 突然、忍と戦っていたはずの七緒に声をかけられて信長が驚きの声を上げる。
「……いいから、今!」
「そうか……分かったぞ、信長、やれ!」
 七緒に向けて繰り出そうとした剣の向きを変え、忍が告げる。
「う……うむ! ならば、わしの怒りを食らえ!」
 第六天魔王と化した信長から、地獄の業火にも似た炎が放たれる。赤黒い炎が一度にゾンビ立ちを巻き込んでいく。
「こっちも、負けてられませんわね!」
 陽子が炎の嵐を噴き上げ、ゾンビたちを囲む。2つの炎で左右から焼かれ、ゾンビたちは崩れ落ちた。
「何をしている、押さえていろと……」
 ネクロマンサーが言うより早く。
 一方からは忍と七緒が。
 一方からは透乃とロンドがネクロマンサーに迫っていた。
「何……っ!?」
 ゴオオオオッ!
 それぞれの剣が、拳が、あるいは至近距離からの銃撃がネクロマンサーに向けて放たれる。驚いたネクロマンサーはそれを受け、魔力による防御はしたものの、屋敷の壁をぶち抜いて外へと転がり出た。
「心の一部を魔力のために捨てたりなんかするから、周りが見えなくなるんだ」
 剣を背負い、忍が言う。
「そういうのって、あたしたちのセリフだと思うんだけど」
 どこか不満げにロンドが漏らす。
 その後ろでは、ルクシィが申し訳なさそうに、癒しの力で契約者たちの傷を回復させていた。
「すみません、敵を騙すためにはまずは味方からって、ナオ君が。もうこれっきりにしますから……」
「お……おまえたちは?」
 その手当を受けながら、信長が問う。
「通りすがりの、退魔師……。俺たちは味方だ。加勢する」
 七緒が答え、剣をネクロマンサーに向けた。
 そのとき……
「……まさか、ここまでやるとは。仕方ない。逃げて、また同じことをどこかですることにしよう」
 その声と共に、ネクロマンサーを中心に巨大な闇がふくれあがった。



 広がった闇は、触れれば精神を貪り、侵食する危険な魔法だ。追い詰めたはずの契約者たちがその中へ突っ込むのをためらっている間に、ネクロマンサーは影で編んだような翼を生み出した。
「なるほど、あまり目立つとこうやって誰かに邪魔をされるわけだな。次は、もっとうまくやるか」
 ぽつりと呟き、影の翼で浮き上がる。そうして、村を離れようとしたとき……
「まったく。あなたのような人が多いから、ネクロマンサーに悪いイメージが着くんですよね」
 上空から、声。そこには、ネクロマンサーと同様に影の翼を生み出した緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が浮かんでいた。
「戦いに巻き込まれても面倒だから、機をうかがっていた甲斐がありました。ひとりで出てきてくれるとは」
「……チッ!」
 舌打ちと共に、ネクロマンサーが手を突き出す。が、その手から魔法が放たれる前に、遙遠が魔力を解き放っていた。
 氷の嵐が吹きすさび、上空からネクロマンサーを地面へと押し返す。墜落こそしないが、頭を取られては再び飛び上がる事はできそうにない。
「終わりだな。観念したか?」
 その眼前に立つのは、樹月 刀真(きづき・とうま)。その剣に金色の尾が絡みつき、炎へと変わっていく。
「動かないで。いつでも撃てるんだから」
 隣に並んだ漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、ラスターハンドガンを向けている。
「……そう言われて、おとなしく従うと思うか?」
 ネクロマンサーが告げ、闇の魔法を放つ。月夜が身をかわそうとする間に、別の方向へ向けてネクロマンサーが走る。
「残念ねぇ。もう少しで逃げられそうな感じだったのに」
 が、その方向からは別の人影が現れる。師王 アスカ(しおう・あすか)。そして、怒りと悲しみに身を震わせるオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)だ。
「この村は、みんな優しい人ばっかりだったのに……」
「優しさと運の良さは関係がない」
 オリベールの言葉に、ネクロマンサーが告げる。
「これ以上、死者を冒涜するやつを見過ごすわけにはいかないわ〜……ここで、私が止めてあげるわねぇ」
 アスカがパレットナイフを手に、詰め寄る。
「最後に、1つだけ聞かせて」
 逃げ道を塞ぐように、三方めから朝霧 垂(あさぎり・しづり)が進み出る。ネクロマンサーは完全に囲まれた形だ。
「自分がしてきたことを、反省してるか?」
 竹箒……剣が仕込まれているそれを両手に構えながら、問う。ネクロマンサーは、肩をすくめてみせた。
「俺か僕か私は、おそらくもとから反省するような人間では、なかっただろうな」
「そう。……だったら、反省したくなるようにしてやるよ!」
「があああっ!」
 ネクロマンサーが魔力を振り絞り、体から闇を放つ。それは触れた者に頭痛や吐き気を催させ、気力を奪う魔力の闇だ。
 しかし、垂はひるまず仕込み箒を突き出した。
「力のあるものは、その力の使い道を誤らないよう、考えなくちゃいけないんだ!」
 しかし、アスカは構わず、フラワシから炎を噴き上げた。
「人は一度死ねば生き返らない、代わりすらもない! 下らない理由で人の命を奪った奴らを絶対に許すわけにはいかないのよ!」
 しかし、刀真は恐れず、炎の剣を振りかざした。
「ネックレスを、返してもらうぞ!」
「ギイイイイッ!」
 自らが生み出した闇の中で、ネクロマンサーの絶叫が響いた。