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少女の思い出を取り戻せ!

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少女の思い出を取り戻せ!

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第5章

 戦い終えて……。
 蛮族たちは、リーダーだったネクロマンサーを含め、皆拘束されていた。
 白津 竜造らは、桐生 円たちとの決着がつく前にネクロマンサーが捕らえられたため、「もう戦う理由が無い」と引いた円に対して興ざめしたらしく、
「なかなか楽しかったが、殺し合いじゃなきゃつまらねえ」
 と言い残し、去っていった。
 ゲドー・ジャドウは、追い詰められた時にネクロマンサーを見限ったらしく、決着がついた頃にゾンビと化したドラゴンに跨がり、逃げていった。いわく、
「だ〜ひゃっはっは! 次会うときには、もっと不幸にしてやるぜ!」
 とのことだった。
 さて、捕らえた蛮族たちに対して、
「殺すべきだ」
 と、如月 正悟は言った。
「捕まえて罰を与えるなんて、ぬるすぎる。全員、この場で俺が殺してやる」
 怒りに満ちた調子だ。無論、反対する者も居る。
「それは見過ごせないな。確かにこいつらは非道の限りを尽くしたのかもしれないが、だからと言って俺達がこいつらを殺戮して良い理由にはならない」
 三船 敬一はそう告げた。
「止められなければ、殺したのですけどね……」
 樹月 刀真が呟くように言う。無論、ネクロマンサーのことだ。
 が、処遇を決定づけたのはクレア・シュミットのこの言葉だった。
「シャンバラは法治国家だ。どのような理由であれ、個人的感情で殺人を是とするなら,蛮族とかわるものではない」
 それに、朝倉 千歳が大きく頷いたのだ。
「大荒野だって、シャンバラの国土だ。無法者たちにも、この世に法があることを教えてやるべきだ」
「そうは言っても、これだけの人数をどうやって運ぶつもりなんです?」
 刀真の問いには、パッフェルが彼方を指さした(ちなみに、眼帯はなんとか縫ってなおした)。
「それなら、そろそろ来るはずよ。……さすがに、こういうことの手回しは一流ね」
 その指さす先には、荒野に立つ砂煙。大きな輸送車が連れたってこちらに向かってくる。
 そしてその上には、風にたなびく金の髪。
「待たせたな! この帝王、村を救うために今戻ったぞ!」
 ヴァル・ゴライオンが、荒野に轟くような大喝をあげた。



 ヴァルの根回しは、輸送車の確保では終わらなかった。
 端的に言えば、彼は同様の事件の再発のための手を打ったのである。
 村の孤立を防ぐため、近隣の村同士が連絡を取り合うようなシステムの作成。
 冒険者ギルドへ緊急のコールが送れるような設備の設置。
 それを大荒野にあるすべての村で行おうと言うのだからめまいがするような話だが、
「しかし、失った命を嘆くよりも、次はどうすれば間に合うことができるか、考えるべきだ」
 と、ヴァルは語った。
 無論、すぐに実現するような話ではないが、村々にとっては、身を守る手段は必要だ。冒険者ギルドにしたって、収入の種になるかも知れないのである。ゆっくりとだが、計画は進み始めた。
 また、すぐに効果を現したものもある。近くの村に声をかけ、救助者を募るというものだ。これは、大きな効果を生んだ。村人にとって、契約者たちから助けられるだけでなく、同じ立場にある隣村からの助けが得られるのは、大きな勇気に繋がったのだ。



 パッフェルは、復興に努める村から早々に立ち去っていた。
「いいの?」
 そう、桐生 円は聞いた。
「ええ。……私があの村のためにしてあげられることは、終わったから……」
 パッフェルはそう答えた。歩き出そうとするその背へ、円がそっと抱きついた。
「……お疲れ様」
 ささやくような、優しい声。パッフェルは小さく震えている。
「……ええ」
 その返事も、震えていた。
「あの女の子も喜んでるよ、きっと。……そう、きっとね」
 それに、パッフェルはただ頷いて返した。
 互いに、表情は見なかった。



 そうして、村の復興は進んでいく。事件が終わってすぐ、教会の裏に死者たちの墓も作られた。
「……これを、返さないとね」
 ぽつりと、師王 アスカは呟いた。小さな、子供の首でないと回らないようなネックレス。それを、ゆっくりと墓にかけた。
 少女……ススキは、戦いが終わってすぐに成仏した。
 最後に一言、
「ありがとう」
 と告げて。
 彼女は自分のことに気づいていたのかも知れない。それとも、気づかないまま、単に遊び疲れて眠ったつもりだったのかも知れない。
「初対面でおばちゃん、なんて呼ばれたときは、ちょっと憎らしいと思ったけど……なんで、こんな小さな子が犠牲にならなくちゃいけないのかしら」
 オルベールが小さく呟いた。
 アスカは小さく頭を振って答える。
「運が悪かったから……って、あのネクロマンサーは言っていたけど、私はそんなの、信じたくないわぁ。……きっと、これが何かに繋がるわぁ。そうでないと、本当に彼女が生きて居たことが、無駄になってしまうもの」
 ふたりが去った後にも、墓を訪れる者があった。
「う、っぐ……う、うううっ……!」
 アネイリン・ゴドディンは墓の前で泣き崩れ、ぎゅうっと拳を握りしめた。
「ゴメンね……ボクがもっと強ければ、もっと早く着いてれば、こんなことにならなかったのに……!」
 武神 牙竜は、何も言わずにその背を見つめていた。
「ボクたち、友達になれたよね! ボクは、君のことを忘れないから……だから、だから……」
 それ以上は言葉にならず、ただ嗚咽が漏れるだけだ。牙竜はそっと、アネイリンの肩に手を触れた。
「アネイリン、彼女がパッフェルに助けを求めたおかげで救われた命があるんだ。お前の友達を誇りに思ってやれ」
「ひっぐ……う、ぐ、でも……!」
「それに、あまり自分を責めるな。もし、どうしても嫌だったら……」
「がりゅー、ボク……もっと、強くなりたい。こんな、悲しいことを繰り返さないために……!」
 アネイリンは涙を流しながら訴えた。必死の叫びに、牙竜は、
「……ああ。そうだな」
 と、それだけ答えた。



 数日が経ち、朝霧 垂は再び村を訪れた。
 メイドとしてがれきを片付けるのも、子供たちの世話をするのも、料理……は置いといて。そう言ったことでこそ、自分は本当に役に立つのだと、垂はそう思っていた。
 もちろん、村を訪れるたびに墓へ参っている……のだが、
「……湿っぽいやつが多いぜ」
 思わず呟いていた。たいてい、誰かしらが先に居るのである。
 その日は、大岡 永谷が彼なりの方法で死者を送っていた。
 二度礼をして二度手を打ち、再び礼。
「……なんだ、それ?」
 垂も墓の前で手をあわせてから、聞いてみた。
「あの女の子を、神として送ったんだ。この村は彼女のおかげで救われたんだから、もしかしたら彼女の魂がこの村の守護神になるかもって思ってな」
 永谷はそう答えた。
 教会の裏には、別の墓も作られている。蛮族たちのものだ。
 契約者たちは、できるだけ彼らを殺さないように戦っていたのだが、ネクロマンサーは自らの魔術の材料として、自分の部下をも殺していたのだ。セレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスは、それを哀れんで無縁墓を作り、彼らを埋葬したのである。
 村には、燦式鎮護機 ザイエンデの歌う鎮魂歌が響いていた。
「これを聞くのも、今日が最後かな」
 神野 永太がぽつりと呟く。
「ああ。……もう追悼は終わりだ。これからはもっと気合いを入れて、村を立て直していかないとな」
 ヴァル・ゴライオンが答える。
「それはいいけど、お二人さん。村を助けるために来てるんだから、さっさと手伝ってくれよ」
 垂は二人の背に回り、箒でばさばさとその背を掃いた。
「わかった、わかったよ! この歌が終わったら、手伝うから!」
 永谷が答える。ヴァルは高く笑う。



 大荒野に吹く風が、徐々に温かくなっている頃だった。

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 はじめまして。本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、まことにありがとうございます。
 あるいはシナリオに参加していなくても、リアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 はじめて見る名前のマスターの、しかも陰惨なシナリオガイドにもかかわらず、多くのプレイヤー様に参加して頂き、驚くと同時に熱意を持って書かせて頂きました。
 ひとつのシナリオガイドから、様々なキャラクターがいろいろなアクションをかけてくださり、皆様のキャラクターとアクションをにやにやと眺めるだけで一日が終わってしまった、という日もありました。

 戦闘、というジャンルで、キャラクターたちが何を考え、何を思い、そしてぶつかり合う様を描くのは、とても楽しかったです。
 熱いアクションに、少しは答えられるといいのですが……いかがだったでしょうか?

 最後になりましたが、重ねて、ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
 もし、気に入って頂ければ……そして機会があれば、またマスターを務めさせて頂ければと思います。