天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

学院のウワサの不審者さん

リアクション公開中!

学院のウワサの不審者さん

リアクション


第5章 報告書

「頭痛いですね……。この調査結果の内容もさることながら、この人数は……」
 実験棟の調査の翌日――正確には調査終了後から約6時間後だが――天御柱学院の教諭アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)、そして榊 朝斗(さかき・あさと)に手伝われ、上層部に提出するためのレポートの作成に勤しんでいた。
「えっと、先生。今回捕まった連中の主張が大体まとまったよ」
 言いながら蛇々がアルテッツァに紙束を差し出す。
「ご苦労様。聞き取り調査の方は?」
「そっちはまだまとめてるとこ。70人はいるから時間はかかりそうだね」
「まあ焦らずにやってくださいな」
 蛇々の働きを労い、アルテッツァは用紙にまとめられた不審者連中の主張に目を通す。

「落ち着いてジャーンジャーンできる場所が欲しくて、それであそこにいたんだ。あの場所を土足で踏み荒らされたくなかったから、これはもう強制排除せざるを得ないって感じで、それで連中に攻撃を仕掛けたってわけだ」

「いやいやちょっと待ってくれよ。俺はそもそもあの『噂』が出始めた頃からあの廃墟を調査してたんだよねぇ。もう随分迷惑な噂だったからさぁ、下手すると俺のパートナーの強化人間にも影響が出かねないって思って、それで解決を狙ってたんだけど……。えっ、もしかして、あのパワードスーツが理由の1つ? 不審者騒動に拍車をかけてた? ……えっと、それは……」

「だ、だってこっちは想い人の彼女が寺院に攫われてるんだよ? そんな時にあんなラブラブっぷりを見せ付けられたら、もう腹が立って腹が立って……。で、でもさ、ああすることでイコンを動かすのに重要な絆も深まるし、天学生としてはいいことばっかりじゃないか! 好奇心で好きな子を危険にさらすのダメ絶対! どうせなら守れるくらいに強くなれって伝えたかったんだよー!」

「俺は3階の実験室を『秘密基地』として、クシナダのメンテナンスに使ったり、機械いじりに使ってたりしてただけなんだが……。俺さ、昔から家の蔵で機械いじりしてたから、何というかそういう雰囲気の方が集中力が研ぎ澄まされて実力出せるんだよ。それで神無にここ紹介されて、作業してたんだけど……、えっ、未許可だった? マジで? それはさすがにダメだろ……」
「前にほら、強化人間の超能力が暴走して実験棟が破壊されたっていう事件あったでしょ? 『素養がある』とか言われて、あのクソ両親からこの学院に押し付けられて、中等部時代の望くんに出会うまで不良少女やってたけど、まあ、ここで出会った同じ強化人間で暴走しちゃった『あの子』と精神感応で共感しちゃってさ。思わずそこを壊しちゃったっていうのが経緯なのよ。その罰で生徒会やってたつもりで、……結局そのまま行方知れずの『あの子』を探すために、あそこで『あの子』の事を調べてたのよ。それがあの場にいた理由ね」

「知ってる人は知ってるだろうけど、私は芸術家なのよねぇ。色々な作品を手掛けてきたんだけど、たまには絵画以外の作品に挑戦してみたくなってさ〜。そこで目に付けたのがイコンアートなのよ〜! 整備や交換でいらなくなったパーツを使ってオブジェを作るのぉ♪ 廃棄せずのエコな作品でしょ〜? え、あそこにいた理由? 奥まった場所にあるから誰にも創作活動を邪魔されないし〜、高さも広さも申し分ないしねぇ。使用許可はもらってたはずなんだけどぉ……。え、そっちじゃなくて、夜中だから近所迷惑だったって……?」
「えっと……皆、済まない。まさかこんなことになるとは……。使用許可はもらってたんだが夜中の使用はさすがに申し訳なかった。ちなみにあの妨害は、イコンパーツを持ち去ろうとする物盗り対策のつもりだったんだ」
「……もしかして、数々の噂って、ベルたちが元になったとか……?」

「ああ、お兄さんたちはあの場所を会議室代わりに拝借していただけでさぁ」
「オレたちはいつも、蒼学、葦原、そして天学でローテーションを組んでたびたび会合を行っていたわけなんだが」
「今回、ワイらの【西シャンバラ非公式変態紳士組合】の27回目の会合の場所がたまたま天学で、それであの場所にいたってわけなんだよねぇ」
「ど〜もすみませんでした」

「強化人間や超能力の資料があるって聞いてね、色々と力が入用だからマユツバでも調べておきたかったのさ。シリウスは人体実験とか嫌いだからね。だから黙ってたワケ。力が欲しい理由? それは……話しても誰も信じちゃくれないさ」
「いやほんと、うちのパートナーがとんだ迷惑をかけちまったようで、マジにすまなかった……」

「何か面白そうなモノがあるかなと思って来ていたんだ。……っていうのは冗談だよ。いや、ホントの所は次の肝試しデートの下見だ。なんでって? そりゃあれだよ、『吊り橋効果』ってやつさ。日本人的にはこういう廃墟は肝試しにもってこいだし、季節関係なく気分が味わえるんだ。それなりに気分も出るし、人気が無い、デッドスペースも多いんで使い勝手が良いんだよ。……え、そんな噂が流れてたの? あ〜、それは多分、1階吹き抜けのイコン格納庫から倉庫にかけてナンパ成功した相手と肝試しデートしてた、アレかな……?」

「ツッコミどころが多くて困りますね、これ……。うわ、しかもスバルまで不審者として捕まったんですか……」
「おやおやゾディ、お疲れのようね」
 頭を抱えるアルテッツァの元に、パートナーであるヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)がコーヒーを持ってきた。
「ええ、本当に疲れますよ。特に精神的にね」
「あらら、それは大変。ん? これってすばるの……? ぶーっ!」
 同じくアルテッツァのパートナーである六連すばるとパピリオ・マグダレーナに関する報告を読んだレクイエムは思いっきり吹き出した。
「ち、ちょっと、何よこれ! アンタのバースディケーキを作るために、夜な夜なデコレーションの修行をしてたってぇ! 可愛らしい動機だけど、結果はえげつないわねぇ」
 まあ、彼女の家庭科の成績と、人間離れした味覚では仕方がない。しかもパピリオも一緒にいたというのでは、騒ぎが大きくなるのもうなずける。レクイエムはその報告書を読んでから、しばらくの間爆笑し続けた。
「そ、それで、これらの結果、まとめて出しちゃうの? 結果はともかくとして、ある程度は配慮してあげるべきじゃない?」
「まあ情状酌量の余地がある『不審者』は、一応いますけども……」
「逆にごく一部に関しては、むしろ刑を倍プッシュするべきでしょ」
 減刑ならぬ加刑を主張するのはテクノコンピュータを駆使してレポート作成を行っていた朝斗である。彼の言う「ごく一部」とは、冒険屋の変態3人組と月谷要の4人であり、この際いい機会だから痛い目に遭ってもらおうと考えているのである。
 また加刑を主張するのはもう1人いた。アールである。しかもこちらはさらに性質が悪く、パートナーの蛇々には「減刑の嘆願書も作る」と言っておきながら、その実こっそりと「加刑嘆願書」を作成していたのである。
「ただでさえ忙しいこの時期にあれだけの騒ぎを起こしたんだ。それ相応の刑罰が必要なのは火を見るより明らかだろうが。とにかく拷問だ、拷問にかけろ」
 これがアールの作成した嘆願書の内容である。
「刑の倍プッシュ、ですか……どこまで通るかはわかりませんが、まあやっておきましょうかね」
 半ば諦めムードで、アルテッツァはそれらの嘆願書の存在を黙認することにした。

 結果的に罰として用意されたのは、「イコンマニピュレータによるフジツボ掃除」だった。ただしこの掃除にはいくつか条件があった。
 まず全員が「単独で」作業を進めること。イコンは主に地球人とパラミタ人の2人が同時に乗り込むことで本来の力を発揮するものであり、片方だけでは通常よりも動きが悪くなる。その状態で精密動作が求められるというのは、かなり厳しいところがある。
 次に「イコン内部スピーカーからヒーリング音楽がかかる」こと。これはつまり、ヒーリング音楽を聴かせ続けることによって眠気を誘発し、集中力を削ぐというわけである。この状態のまま作業をしなければならないのだ。はっきり言って、かなりキツイ。
 特にクド・ストレイフ、七刀切、天空寺鬼羅の3人は、きっちりとパイロットスーツを着せられた上、男3人まとめて1機のイコン――イーグリットに乗せられた。普段から服を脱ぐことが喜びである(?)彼らにとって、しっかりと服を着るというのは拷問に近い上、男3人ですし詰めである。精神的ダメージは計り知れない。
 月谷要に至っては、実験棟で見せたパワードスーツを着用したままイコン操縦が求められた。パーツの構成や大きさによっては人間以上の体格を得ることができるパワードスーツの状態でイコンを動かすというのは、かなり厳しいものだった。

 中には罰を受けたものの、情状酌量がなされた人物が数人いる。
 佐野誠一については、「肝試しデート」を誰でも参加できる「肝試し大会」とすることで、自由に実験棟内を歩き回る権利を得た。ただし、実験棟に入るためには許可を得られなければならない。
 師王アスカはそもそも実験棟の使用許可を得ていたため、罰掃除の時間は短縮された1人である。今後もイコンアート作成のために倉庫は使用してもいいことになったが、夜の使用はやめるように釘を刺されたという。
 月夜見望については、1つの空き部屋を研究室として用意されることで落ち着いた。通常の研究室と比べてかなり狭いものではあったが、それなりに防音設備が整っているため、夜な夜な実験棟にて研究を進める理由が無くなった。
 また彼らだけではなく、イコン・超能力実験棟を利用したいと希望のある者は事前に使用許可を申請するように、として話は収まった。


 その翌日、早速実験棟に入りたいと願う者が現れた。蒼空学園生のテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)である。
「はぁ、鍵を、ですか……」
「今後も別な形で使うというのでしたら、やはり戸締りは必要だと思うんです」
 テスラは実験棟の正面玄関に鍵をかけるため、教官に使用許可を申し出ていた。
「でもそれならわざわざあなたが行く必要は無いと思いますが……」
「戸締りと別にやりたいことがあるんです。どっちかといえば、そっちの方がメインなんですけどね」
「……まあいいでしょ」
 このようなやり取りを経て、テスラは実験棟の鍵を借りることに成功した。
 実験棟にたどり着いたテスラは、報告にあった場所――最初の「事件」が起きた、2階研究室Cに足を進めた。
(色々考えたんですけどね。プラグコードは誰かと繋がりたいという心の現われだとか。幽霊が入るなら、先日ナラカへ行った彼女と仲良くしてくださいとか言うつもりでいましたけども……)
 テスラはこの騒動の犯人は幽霊であると当たりをつけていたのだが、残念ながら状況はその期待に応えることができなかった。幽霊でも残留思念でもなく、相手は人間だったからである。
(ですからこれは、まあ、私自身への気休めですね……)
 研究室に設置された椅子に座り、持ち込んだアコースティックギターを構えたテスラはそこで鎮魂歌を奏で始める。
 もしかしたら、万が一いるかもしれない幽霊を見送ると思い込むための、テスラだけの鎮魂歌が研究室の中に響き渡っていた……。


 こうして、奇怪な不審者騒動は幕を下ろした。
 だが完全に事件が終わったわけではない。
 もしかすると、また別な形で似たような事件が起きる、かもしれない……。


イコン・超能力実験棟――しばらくの間、取り壊されることなくそのまま放置される。時々私用で使いたい者に対し、許可制で開放されるようになった。もちろん、正面玄関はきちんと鍵がかけられるようになり、不審者騒動は一応の解決を果たした。

調査チーム編成に口を挟んだ教官――その後、「行きたくなかった」という本音が教官たちにバレて、軽く袋叩きにされる。再起可能。

久多 隆光(くた・たかみつ)――罰掃除の後、銅鑼を鳴らすなどどこでもできるという理由で教導団に送り返された。とはいえ天御柱学院への立ち入りが禁止されたわけではない。

月谷 要(つきたに・かなめ)――不審者事件が解決されたため、パワードスーツ姿で徘徊することは無くなった。

平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)――単なる嫉妬から行動を起こしたということが周囲の人間の怒りを買ったのか、その後しばらくは大人しくしていた。再起可能。

月夜見 望(つきよみ・のぞむ)――宛がわれた空き部屋にて、パートナーの須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)のメンテナンスを行っているらしい。

天原 神無(あまはら・かんな)――結局、求めている人間と会うことはできなかったが、会うことそれ自体は諦めていない。

師王 アスカ(しおう・あすか)――罰掃除をさせられたことには大いに不満があったが「近所迷惑」の点については反省。今後は昼間のみを狙ってイコンアートの作成を進めるという。

西シャンバラ非公式変態紳士組合の3人――色んな意味で精神的ダメージを受けたせいか、数日間は表に出られなかった。一応、再起可能。

藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)――当然といえば当然だが、パートナーの琳 鳳明(りん・ほうめい)にくっついて教導団へと戻っていった。

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)――その後、パートナーのシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)にこっぴどく叱られたらしい。

六連 すばる(むづら・すばる)――それからも料理の腕は上がらず、奇妙なケーキを量産しているらしい。

佐野 誠一(さの・せいいち)――罰掃除をやらされたものの、肝試しが合法的にできるようになったため喜んだ。だが肝試し「デート」の方があまりできなくなり、そこだけは不満が残った。

榊 孝明(さかき・たかあき)――その後ネット上に「噂が流れていたのは悪戯のせいだが、その犯人に罰があたったらしい」「自分は強化人間じゃないが、自分の死がそんな遊びに使われればきっと怒る。……気になるなら、今まで出た強化人間の犠牲者の供養でもするかい?」といった書き込みを残す。その後の反応は不明。

葉月 可憐(はづき・かれん)――その後も無自覚のまま夜の実験棟に炊き出しに行っているとかいないとか。

水鏡 和葉(みかがみ・かずは)の地図――結局完成しなかった。


TO BE CONTINUED…?

担当マスターより

▼担当マスター

名も無き詩人

▼マスターコメント

 参加者の皆様、お疲れ様でした。
「学院のウワサの不審者さん」のリアクション、いかがでしたでしょうか。
 先日も「遅刻しないように」と言っていたのにこの体たらくで、本当に申し訳ございません。また気をつけさせていただきます。

 さて今回のシナリオについてですが、「自分が犯人である」とのアクションを多くの方からいただいたため、犯人は一部PCの皆様方ということになりました。そのため「犯人は幽霊である」と当たりをつけてアクションをかけられた方は、ほとんどアクション失敗として扱わせていただいております。
 また、リアクションの途中から描写がやけにあっさりめになってしまっておりますが、これはアクションの問題ではなく、書いているマスターの問題です。本当に申し訳ございません。

 イコン・超能力実験棟についてですが、こちらは私が考えた施設ですので、原則として他のシナリオに設定を持ち込まないようにお願いいたします。「プラグコードが突き刺さり〜」といったネタの数々も、できましたら忘れていただければと思います(笑)

 それではまた縁がございましたら、別のシナリオでお会いいたしましょう。
 お相手は「名も無き詩人」が担当させていただきました。