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【賢者の石】マンドレイク採取

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【賢者の石】マンドレイク採取

リアクション

「やはり出遭ったら捕虜にすべきであります」
「捕まえてどうするの?」
「マンドレイクを引き抜く手伝いをさせるでありますよ。その際はソフィアが監視するであります」
「あら、それって奴らが隙を見て反乱を起こしたら、私がエロい事をされるという展開になってしまうのでは?」
 アゾート達の前に立ち先導しつつ、会話をしているのは大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)の二人。ちなみに会話内容は『もしパラ実生と出くわしたら』と言うものだ。
「……流石に死人を出すのはどうかと思うよ、ボク」
「既に何人か瀕死に陥ってるけどね」
 二人の会話を聞き、呟いたアゾートにウェルチが突っ込む。
「ははは……」
 そしてそんな彼女らを見て苦笑するのは相田 なぶら(あいだ・なぶら)。彼らはアゾートが少し奥に進むというので、護衛として着いてきたのだ。
「……ところで、彼女どうしたのかな?」
 アゾートが背後に目をやると、樹の陰に隠れたカレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)と目が合う。
「ひぃッ!?」
 そして、すぐ樹に隠れてしまう。先程から、アゾート達とは離れすぎないように後をつけてくるのだが、振り返り目が合うとさっと隠れてしまうのだ。
「ごめん、カレンはその……人見知りが酷いんだよね」
 申し訳無さそうに、自らのパートナーの代わりに詫びるなぶら。
 再度、目をやるとこちらをのぞき込んでいるカレンとまた目が合う。
「こ、こっち見るなよぉ!」
 そして、半分泣き声で怒鳴る。
「あそこまで来ると対人恐怖症の域だね」
「おっしゃるとおりで」
 ウェルチの言葉に、なぶらが苦笑する。
「……ん?」
「どうしたの?」
 アゾートが足を止めたことに、ウェルチが気づく。
「うん、あっちの方から物音が……」
「物音?」
「うん……ちょっと見てみよう。もしかしたら歩き回るマンドレイクかもしれない」
「あ、ちょっと……」
 ウェルチが止める間もなく、アゾートが歩き出す。
 生い茂る木々や草に足を取られつつ、歩いていくと段々と小さくはあるが物音に声が混じっていることに気づく。
「何か、話し声みたいなのが聞こえるね」
「話し声……でも、こっちに来ているのはボク達だけのはずじゃ……」
 ウェルチが言ったその時であった。
「危ない!」
 ソフィアの声と、マシンピストルの音がほぼ同時に響いた。
「……くっ!」
「え?」
 ウェルチに突き飛ばされたことにアゾートが気づくのは、彼女の横を弾丸が掠め、地面に尻餅をついて漸くであった。
「大丈夫かい!?」
「う、うん」
 ウェルチの手を借り、アゾートが立ち上がる。
「何者でありますか!」
 剛太郎が銃を構えた先に、ハンス・ベルンハルト(はんす・べるんはると)がマシンピストルを構え立っていた。
「おや、見つかってしまいましたか」
 その奥には東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)がいた。そして、彼らの足元には――
「あれは……マンドレイク!?」
「おや、見つかってしまいましたか……向こうも、目的は同じみたいですね」
 溜息を吐きながら雄軒が言う。
「どうするダンナァ? 退くなんて言わねぇよな」
 ウェムカの言葉に、雄軒は薄く笑う。
「まさか、先に見つけたのは私達ですよ。退く道理が無い」
「なら、やっていいんだな?」
 雄軒の言葉に、ハンスが問う。
「ええ、お願いしますよ。こっちはこっちでやりますので」
「……了解」
 そう言うなり、ハンスがマシンピストルの引き金を絞った。
「お二人とも下がって!」
 ソフィアがアゾートとウェルチの前に立ちつつ、二人を樹の陰まで誘導する。
 そんな二人を狙い、ハンスが樹へマシンピストルを向ける。弾丸が樹の幹を削り、破片が散らばる。
「二人とも、早く隠れて!」
 なぶらが前に立ち、盾で弾丸を防ぐ。その間に、アゾート達は樹の陰に隠れた。
「相手は自分であります!」
 剛太郎が小銃を向けると、ハンスは小さく舌を打ち、ターゲットを変える。
「おっと、助太刀するぜ!」
 ウェムカが【光術】により、小さな光を呼び出した。呼び出された光は剛太郎へと向かっていく。
「くっ!」
 光に剛太郎は思わず目を庇う。
 それを好機と見たか、ハンスが【魔銃モービッド・エンジェル】を構えた。
「危ない!」
 アゾートが【火術】を、ウェルチが持っているデリンジャーでハンスを狙う。
「ちっ、邪魔だな……」
 撃つのを止め、避けたハンスが呟く。
「なら俺がやってやらぁ!」
 叫んだウェムカが【六連ミサイルポッド】を放つ。
「また厄介な物を出しますわね……!」
「来るよ! 衝撃に備えて!」
 二人が隠れる樹に向かうミサイルに、なぶらが盾を構えて身構える。
「うっ……」
 一発のミサイルが盾に直撃し、衝撃に吹き飛ばされそうになるのを何とか堪える。
「な、何してんだよおまえ!」
 カレンが【火術】を唱え、ウェムカに放つ。
「うぉっと! まだ術使う奴いるのかよ!?」
 飛んできた火を避けつつ、ウェムカはカレンに目を向けた。
「ひぃっ!?」
「余所見している余裕はあるのかな!?」
 なぶらが【光術】で光を呼び出すと、ウェムカはなぶらに警戒をする。
「……」
「……」
 剛太郎とハンスはお互いを牽制しつつ、距離を取っていた。

「ふむ、こっちの準備はいいでしょう」
 雄軒が、隣に立つ【ガーゴイル】を見て呟く。
「それではそろそろこちらも取り掛かりましょうか。バルト、お願いします」
 雄軒の言葉に、バルトは頷く。そして【加速ブースター】が火を噴き、ハンス達に向かって突撃していく。
「……さて、こっちもやりますか」
 その後姿を見送った雄軒が呟いた。

 【加速ブースター】により勢いを突け、バルトは剛太郎に向かって突撃する。
「む、新手でありますか!?」
 剛太郎が銃をバルトに向けるが、速度は向こうにある。
 勢いそのままに、【疾風突き】でバルトは剛太郎に突撃した。
「……ぐぅッ!」
 攻撃をやめ、途中で身構えるも勢いに負け剛太郎は吹き飛ばされた。
「おっ、やっと来やがったか」
 バルトの姿を見たウェムカが言う。
「そっちはもういいってことか?」
 ハンスの言葉に、バルトが頷く。
「そうか、了解した」
 ハンスはそう言うと、マシンピストルを乱射する。
「おっと!」
 吹き飛ばされた剛太郎の前になぶらが立ち、弾丸を防ぐ。
 ハンスは乱射しつつ、バルトに近づいて腕に掴まる。
「よし、そんじゃ行くぜ!」
 ウェムカが【光術】で光を呼び出すと、なぶら達に放つ。
 そして、ほぼ同時にバルトの【加速ブースター】が火を噴くと、アゾート達とは反対の方向へと去っていく。同時にウェムカも駆け出していた。
「……逃げた?」
 樹の陰からアゾートが首を出して覗き込む。
「いや、まだ何か仕掛けてくるかもしれない」
 盾を構え警戒するなぶらが言った。
 その時、アゾートの目にガーゴイルが映った。
「――ッ! みんな早く逃げて! さっきの奴、マンドレイクを抜く気だ!」
 アゾートが叫ぶ。
「何!?」
 マンドレイクに目をやると、ガーゴイルが引き抜こうとしている所であった。
「くそ!」
 全員はその場から急いで逃げ出す。振り返らず、ただひたすら声が聞こえなくなる距離まで走った。
――そして暫くした後、
「……やっぱり持っていかれたか」
戻ったアゾート達が目にした物は、掘り起こされたときに出来た穴であった。

「まずは成功、といった所か」
 先程の場所から離れた地、合流したハンス達は収穫した物を確認していた。
「ええ、なかなか良さそうなものですよ」
 手にしたマンドレイクを見て、雄軒は満足げに言う。
「そうか。この調子でやっていけばいいんだな」
「いえ、今回はこの辺りにしておきましょう」
「……おいおい、どういうことだ?」
 ハンスが声を低くして言うと、雄軒は肩を竦めながら言う。
「ええ、先程の奴らもですが、今日はウチの連中もうろついているようですし少々分が悪いですね。一本でも手に入っただけでも良しとしましょう」
「……おい、報酬はどうなる?」
 今回の件で、ハンスは雄軒達の護衛を行なう代わりに報酬として得たマンドレイクを貰う、という話になっていた。
「……ふむ、困りましたね。私も手持ちが少ないもので」
 雄軒は考える仕草を見せると、何か思いついたのかぽんと手を叩いた。
「こうしましょう。コイツを売り払います。報酬はそこから、ということで」
「おいおい、いいのかダンナ?」
 驚いたようにウェムカが言う。
「まあ仕方ありませんよ。それより、奥に行かなくてもあるということがわかったのですから」
「……ま、こっちは報酬さえもらえればいい。ならばとっとと出よう」
 そう言って、ハンスが歩き出す。
「ああそうだな……ところでよ、お前素顔とか見せてくれないのか? 気になるんだがよ」
「ああ、私も興味ありますね」
「断る」
「即答かよ……ま、いいけどよ」

 先ほどの戦いで負傷した剛太郎となぶら達と別れ、アゾートとウェルチは再度周囲を探索していた。
「さっきの件もあるから、気をつけないとね」
「うん、そうだね。さっきみたいにいきなり出くわす事もあるから気をつけないと……」
 そう言ってアゾートが、茂みを掻き分ける。
「ん?」
 そこで、日笠 依子(ひりゅう・よりこ)と出くわした。
「うわっ!?」
 突然の事に、アゾートは仰け反った。
「あれ? もしかしてあんたらってマンドレイク探してる奴ら?」
「え、そうだけど……キミ達は?」
「や、俺様達も取りに来たんだ。いや、ウチでマンドレイクの話しているのを聞いてさー。食材になると思って取りに来たんだ」
「しょ、食材!?」
 アゾートが驚いて目を丸くする。
「そーそー。今アビーに取らせてる所」
 依子が指差す方へ、目をやると、
「んしょ、んしょ」
マンドレイクの周囲の土を掘り起こしているアビー・クライン(あびー・くらいん)の姿があった。土は殆ど掘り返され、何時根が顔を見せるか解らない。
 さっと、アゾート達の顔が青ざめる。
「どどどうしよう!?」
「どうしようじゃなくて逃げなきゃ!」
「で、でも間に合わないよ!?」
「依ちゃーん、もうすぐ出てきそうー」
「おーそうかー、がんばれよー」
 アビーの言葉に、アゾート達は咄嗟に耳を塞いだ。無駄だとは解っていたが。

「んしょ、んしょ……」
 アビーが土を掘り返していると、ぼろりとマンドレイクについていた土が崩れ落ち、姿を現した。
 空気に触れたマンドレイクは覚醒し、呪いの悲鳴を上げようとした瞬間、
「とーっ」
ざくり、とその身にシャベルが突き立てられた。

「……悲鳴が、聞こえない?」
 無駄だとはわかっていたが、せめてもの抵抗ということで塞いでいた耳から手を離す。
「……ボク、死んだ?」
「いや、ここはまだあの世じゃないと思うよ?」
 アゾートの言葉に、ウェルチが苦笑しつつ答える。
「取ってきたー」
 無邪気に笑うアビーが持ってきたものは、
「うわ……」
ざっくりと切られ、まるで人が顎から切断されたような、グロテスクなマンドレイクだった。
「おーしよくやった。えーっと……葉っぱと根っこはこのくらい欲しいとこだな……」
 そんなものはお構い無しと、依子はアビーの頭をくしゃくしゃ撫で回しながら得たマンドレイクを吟味する。
「こっちはこれくらいあればいいから、残りはやるよ」
 そう言って、依子はマンドレイクの残りをアゾートに渡した。
「ど、どうも……」
「さーってと、それじゃ帰って料理だー」
「依ちゃん……それ本当に食べられるの?」
「ん? 大丈夫だろ植物なんだし……ああ、出来たらアビーにも食わせてやっから」
「あ、あたいはいいよ!」
 そんな事を言いながら、依子達は去っていった。
「……とりあえずマンドレイクを手に入れた、って事でいいのかな?」
 ウェルチの言葉に、アゾートが首を横に振った。
「残念だけど……切られちゃってるから価値が下がっちゃってるんだ。必要なのは丸々一本単位だから」
「そうなんだ……後、ちょっと聞きたいんだけど」
「何かな?」
「マンドレイクって……食べられるのかい?」
「いや、毒性が強いから無理だと思うんだけど……」

――その数日後、依子が通う波羅蜜多実業高等学校にて彼女のマンドレイク料理によるちょっとしたパニックが発生するのだが、それはまた別のお話。