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リアクション
第四章
――フォレストジャイアント達が戦った場所から少し離れた場所。戦いの様子を見ているパラ実生の集団が居た。
「うぅむ……不味いな……」
集団の中で一際目立つ、波羅蜜多長ランを見に纏ったリーゼントの男が、巨人が倒れたのを見て呟く。
「どうするリーダー? さっき行った四人もやられちまったみたいだぜ?」
「うむ……さて……」
リーダーと呼ばれたリーゼントの男が、考える仕草をする。
――森に入った人間を巨人に襲わせ、倒れたり弱った所で金品を強奪する。それがこのリーダーと呼ばれた男の案であった。
巨人を上手く焚き付けられた事が功を成し、今まで何度か成功してきたこの略奪行為であるが、要の巨人が倒れてしまってはどうにもならない。
「ジャイアントがやられちまった今、こっちは不利だからな……一旦退いて他に案を出すぞ」
「その必要は無い」
「!?」
パラ実生が一斉に声のした方を向く。
そこには、白砂 司(しらすな・つかさ)とサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が立っていた。
「だ、誰だお前らは!?」
「ふっふっふ……獣人族「猫の民」のサクラコとは私のことですっ!」
「……いや、そういうのやらなくていいんじゃないか?」
自信満々なサクラコに司が突っ込むと、「えー、いいじゃないですか……」とサクラコが不満げに漏らした。
「ど、どうするリーダー?」
うろたえつつ、パラ実生が言う。
「何、相手は二人だけだ! やっちまえ!」
「お、おぉぉぉ!」
リーダーの言葉を合図に、パラ実生達が一斉に司へと襲い掛かる。
「ポチ!」
そこへ、司が合図をすると大型騎狼ポチが現れ、咆哮する。
「うぉっ……!?」
その声に、パラ実生がたじろいだ。
「ひ、ひるむな! 数では圧倒的に俺達が上だろ! 二人くらいどうってこと……」
「二人だけじゃないわよ!」
「数だけで有利だなんて思わないことね」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が飛び出し、パラ実生達に突撃する。
セレアナの言葉通り、パラ実生達は圧され出していた。
司に威圧され、サクラコに殴り倒され、セレンフィリティに撃たれ、セレアナのランスで、次々に倒されていく。
「く……不味いな……」
戦闘に混じらずその様子を離れて見ていたリーダーが、逃げようとする。この男は腕っ節に関しては他のパラ実生より劣っているのだ。
この混戦に紛れてしまえば、自分が逃げるくらい容易い。仲間をあっさりと見捨てて、逃げる事を選んだ。
「何処へ行く?」
リーダーの前を、天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が立ち塞がった。
「この期に及んで逃げようとか考えてないよな?」
「く、くそ……」
天真に詰め寄られ、じりじりと後ずさりをするリーダー。
「……ん?」
その時、気配を感じた天真が屈む。頭上を、リータニングダガーの刃が通り過ぎた。
「ほう、今のを避けるか」
戻ってきたダガーをキャッチし、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が楽しそうに笑う。
「お前は?」
「こやつに雇われた用心棒みたいなもんよ」
「そうか、邪魔するってわけだな」
「報酬分の働きはせんとなぁ……依頼主、ここはわらわに任せろ」
そう刹那が言うと、リーダーはこちらを見向きもせず逃げ出した。
「……素直に退いてくれるわけないか」
リーダーを追おうとした天真に、刹那がダガーの刃を向ける。
「悪く思うな、こちらも仕事なのでな……」
「ならお前もしょっぴかれても悪く思うなよ?」
天真が、構えた。
「……ん? あれは……」
司の目に映ったのは、なりふり構わず逃げ出すリーダーの姿だった。
「あれ、こいつらの親玉かな?」
同じように目撃したセレンフィリティが言う。
「だろうな……ここは俺に任せて、アイツを追ってくれ」
「了解、セレアナ!」
セレンフィリティが呼びかけると、セレアナは頷き二人はリーダーの後を追う。
「さて……サクラコ、一気に畳み掛けるぞ」
「わかりましたよ司君! ささ、一気にいっちゃいましょう!」
「……こ、ここまで来れば……」
息を切らしつつ、リーダーが背後を振り返る。
あるのは森の木々と植物ばかり。遠くに戦闘の音が聞こえるが、追っ手は居ないようだ。
「……はぁ……」
息を吐き、腰をかける。
「くそ……ジャイアントがやられちまったからな……その上人手も無くなっちまった……次はどうするかなぁ……」
「次なんて無いわよ」
背後からの声に驚き、リーダーが振り返るとそこには銃口をこちらに向けているセレンフィリティが居た。
「さて、今ここでキッツイ一撃を受けるのと大人しくするの、どっちがいいか選ばせてあげるわ。断ったらあんたの頭を吹っ飛ばす。ちなみに、今あたしの指は引き金をひきたくてうずうずしてるわよ?」
「セレン……脅迫に近いわよ」
「脅迫してんのよ。さあ、どっち?」
セレンフィリティの言葉に、リーダーはがっくりと項垂れた。
「……よっと、これくらいでいいか」
司が、最後のパラ実生を縛り上げた。ぐったりと項垂れたパラ実生は、何の抵抗もなく縛られていた。
「うんうん、上出来上出来」
その様子を見たサクラコが嬉しそうに言う。
「お、そっちはもう終わったのか?」
やって来た天真が、縛り上げられたパラ実生を見て言った。
「ああ、何人かには逃げられたけどな……そっちはどうした?」
「……逃げられた。『報酬分の働きはした』とか言ってな。実際死ぬかと思った……あいつ、武器に毒塗ってるとか言い出すし……」
そう言って、天真は溜息を吐いた。
「とりあえず、皆さんと合流しましょうか。収穫物もありますし」
サクラコの言葉に、二人が頷いた。
「……ボクらが来る前にそんな事があったの?」
後から追いついたアゾートが、事情を聞かされ驚いたように言った。
「あ、大きな怪我をした人は居ないから安心してねぇ」
弥十郎の言葉に、ほっとアゾートが安堵の息を吐く。
「それで、今何をしているの?」
「捕まえた奴から色々聞きだしているんだよ。かなり前からこの森に出入りしているみたいだからねぇ」
そう言った視線の先に居るのは賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ せいみんようじゅつ)だ。何やら尋問しつつ、その内容を書き取っている。
「……あれ? ウェルチ君って一緒じゃなかったっけ?」
雷華の言葉に、アゾートが辺りを見回す。
「……変だなぁ、さっきまで一緒に居たはずなんだけど」
「……ねえ、ウェルチ君って変なこと企んでないよね?」
「変なことって?」
「ああいや、悪魔だからって偏見持つのは悪い事だと思うよ? でもウェルチ君って鎧とか作ってるんだよね。マンドレイクなんて鎧の材料になるのかなぁって……」
「ボクの事呼んだ?」
「ひゃあっ!?」
背後からウェルチに話しかけられ、雷華が飛び上がる。
「あれ? 何処に行ってたの?」
「ああ、さっき逃げるパラ実生がいてね、追いかけたんだ」
逃げられちゃったけどね、とウェルチが苦笑する。
「ところで、さっきボクの名前が聞こえたと思ったんだけど呼んだかな?」
「き、気のせいじゃない? あはははは……」
気まずそうに、雷華が笑って誤魔化した。
「でも、そういう時は危ないから、一人で行動しない方がいいよ?」
「ん、そうだね……」
何処か上の空のように、ウェルチはアゾートに返事をする。
――少し時間は遡る。
「んー、こんなもんかな」
硝煙の昇るデリンジャーを手に、ウェルチが呟く。足元には、パラ実生の死体が転がっていた。
――今回、ウェルチがアゾートに同行した目的は、魔鎧作成の為に必要な魂の収集である。
森に入り、パラ実生やフォレストジャイアントと遭遇すればその魂が手に入る、と睨んだ為に提案したのであった。
「けど実際上手くいかないもんだね……あんなに人がいちゃ誤魔化しようが無いし」
その時、がさりと背後から音がした。
「――誰だ」
音がした方角に、銃口を向ける。
「いやいや、驚いた。パラ実生を探しに来たら、珍しい事もあるもんだね」
現れたのは、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)であった。その隣にはスクリミール・ミュルミドーン(すくりみーる・みゅるみどーん)もいる。
「何だキミか。何の用だい?」
「今言った通りだよ。パラ実生を探しに来たんだよ」
「ジャイアントフォレストを操ってそうな奴を探しに来たけど……当てが外れたようね」
スクリミールがつまらなそうに呟く。
「所で、キミの本当の目的はアゾートかい?」
「……何の話かな?」
「とぼけなくてもいいさ。あの娘の魂、いい魔鎧の素材になるんじゃないのかい? でもボクとしてはもっと美味しくなるまで泳がせておくべきかと思うよ?」
ブルタの言葉に、ウェルチが呆れたように溜息を吐く。
「何の話だかわからいね。ボク達は今日マンドレイクを取りに来たんだ」
「あら、ということは【賢者の石】に興味があるの?」
スクリミールの言葉に、ウェルチが首を横に振る。
「残念ながらあまり興味無いかな」
「それじゃ、何の為にマンドレイクを?」
「さあ、単なる気紛れかな? それじゃ、ボクはもう行くよ」
「あ……」
ブルタは何か言いたそうな顔をしたが、ウェルチの拒絶の態度に何も言えず、ただ後姿を見送っていた。
「……で、実際どうだと思うの?」
ウェルチが去った後、スクリミールがブルタに問いかける。
「さてね、何隠しているような感じはしないでもないけど……まあ、そのうち解るだろうね」
そう言って、ブルタがニヤリと厭らしく笑った。
「どうしたの?」
アゾートに言葉をかけられ、ウェルチは我に返った。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をね」
「ちょっといいかな……あれ、ウェルチ君もいるのね」
弥十郎がアゾート達に話しかけて来た。
「話すのは初めてだよね。よろしくねぇ……ってそうじゃなくて、話すことがあるんだよ」
そう言って弥十郎に促され、『斉民要術』が出てくる。
「ん? 何かな?」
ウェルチの事を『斉民要術』はじっと見つめたと思うと、
「よろしくね」
といいつつ、ウェルチの胸に手を置いた。
「なななななな何してんの!?」
「え? あいさつですわ?」
慌てる弥十郎に、さも平然と『斉民要術』が答える。
「……で、話したい事って?」
若干距離を取ったウェルチが言うと、『斉民要術』がぽんと手を叩いた。
「そうでしたそうでした。先ほどから尋問を行い調書を纏めたのですが、この先にマンドレイク自生地があるとのことなので、その報告ですわ」
「それ本当?」
ええ、とアゾートの言葉に『斉民要術』が頷く。
「よし、それじゃその場所に行ってみよう」
アゾートの言葉に、ウェルチが頷いた。
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