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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第2章「結界」
 
 
 遺跡の入り口。そこには救助活動に参加する多くの者達が集まっていた。
「凄い人達だな……でもさすがに義姉さんはいないか……」
 周囲にいる者達の顔を確認しながら蘇芳 秋人(すおう・あきと)が歩き回る。秋人は数年前に行方不明となった義理の姉を捜してパラミタへとやって来ていた。今回は人助けという目的も当然あるのだが、それと同時に義姉の手掛かりが掴めないかという気持ちもある。
「あそこにいる人達、ちょっと雰囲気が違う。あの人達が中心なのかな?」
 向かった先ではリネン・エルフト(りねん・えるふと)佐野 和輝(さの・かずき)、それに冴弥 永夜(さえわたり・とおや)蓮見 朱里(はすみ・しゅり)篁 透矢(たかむら・とうや)と話をしていた。
「うん……私達は教授から連絡を受けたから……」
「俺も調査メンバーの中に懇意にしている者がいる。そこから要請されたクチだ」
「なるほど、教授達も色々と対処をしているようだな」
「えぇ、早く助け出してあげないと」
「そうだな……」
 彼らは学校からの依頼では無く、直接中の研究者達から救助要請を受けた者達らしい。そう判断した秋人が手前にいる透矢へと声をかけた。
「あの、すみません。オレ、今回の依頼を受けた蘇芳 秋人って言います」
「ん? あぁ、宜しく。俺は篁 透矢だ」
「皆さん中にいる研究者の人達と知り合いみたいですけど、その中に女の人っているか知りませんか?」
「女の人?」
 透矢が振り返る。後ろの四人は首を振るだけだ。
「すまない。俺達も中にいる全員を把握してる訳じゃないからな……誰か捜してるのかい?」
「はい……オレの義姉さんを捜してるんです。パラミタのどこかにいるはずなんですけど……」
 その表現で尋ね人がちょっとした迷子では無い事を理解する。
「そうか……見つかるといいな。君の家族」
「はい。あ、でも今日の依頼もちゃんと頑張りますから、宜しくお願いします」
 
「しかしまぁ、遺跡を調べるならそれなりに危険を想定してなきゃいけねぇと思うんだがな。まぁ今更言ってもしょうがねぇけど」
 別の集団では高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が呆れた表情を見せていた。その言葉に、横にいるクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が同意する。
「そうだな。マジックアイテムを扱う以上は細心の注意を払って貰わねばならん。事が済んだら調査メンバーには釘を刺しておく必要があるな」
「確かに……ザクソン教授って、何だかんだで毎回トラブルの元になってるような……」
「ま、まぁそれだけ調査で当たりを引いてるって事じゃないかな。そういう意味では学者として凄い才能を持ってるって事だろうけど」
「その分厄介事に巻き込まれ易い、か。とは言え呆れて手抜きをするつもりは無いが」
 榊 朝斗(さかき・あさと)無限 大吾(むげん・だいご)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がそれぞれ思った事を口に出す。三人はこれまでに二回、教授とマジックアイテムが関係した出来事に遭遇していたから色々と感じる事があるのだろう。
「かなり集まったみたいだし、そろそろ入った方が良さそうだな。皆、行こう」
 大人数になった事を受けて御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が呼びかける。それに応じた者達から順に次々と遺跡内部へと進んで行った。
 
「透矢ちゃん、ちょっといいかな」
 その場にいた者達が全員中へ入って行くのを確認し、最後に進もうとした透矢を呼び止める人物がいた。
「透乃? 君も来てくれたのか」
 現れたのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)だった。彼女は笑顔を浮かべながら、透矢の前へとやって来る。
「まぁね。依頼を見て、透矢ちゃんなら来てるだろうと思ったから」
 まるで透矢自身に用があるといった風な透乃。そんな彼女に透矢が疑問を持つが、次の瞬間、強烈な殺気を感じた。
「ふっ!」
「――!」
 素早く身を捻った透矢のそばを鋭い勢いの突きが通過する。攻撃をかわされた透乃が笑みを浮かべるが、それは先ほどまでの笑顔とは違い、どこか不敵な感じだ。
「よく反応したね。さすがは格闘家ってとこかな」
「……何の真似だ? 透乃。ここで俺達がやり合う理由はどこにも無いはずだが」
「私にはあるんだよね。透矢ちゃんとは色々共通点があるでしょ、だから一度本気で戦ってみたかったんだ」
「それで今か? 状況を考えて欲しい所だけどな」
「別に透矢ちゃん一人が減ったくらいで目的を達成出来なくなる奴らじゃないんでしょ?」
 教授達がどうなろうと関係無い。それよりは自分のやりたい事をする。透乃はそう思っていた。少し離れた場所でこの戦いを撮影している月美 芽美(つきみ・めいみ)も同じ思いだ。
「勝手に遺跡に入って勝手に閉じ込められたんでしょ? そんな奴らの為に遺跡の機能を潰しに行くとは、勝手な事よねぇ」
「芽美ちゃんの言う通り。だから私だって勝手にさせて貰ってるだけだよ」
「ま、私は手を出す気は無いし、酷い怪我をしたら後で治してあげるわ。だからそれまで、せいぜい透矢君の力を見せて頂戴」
 デジタルビデオカメラを構えながら芽美が言う。そんな彼女と、正面で構える透乃に視線をやり、透矢は心の中で僅かにため息をついた。
(全く……仕方が無いな、透乃達は。とはいえ、こんな事に付き合ってる暇は無い。さてどうするか……)
 
 
 遺跡の中に入った者達は見通しの良い道を進んでいた。遺跡の中心部へと続く道。その先には半透明な結界に阻まれた場所がある。
「あれが結界か。随分な魔力を感じさせるな」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が結界の前で立ち止まり、慎重に手を触れる。幸い、触れた途端に電撃が走ったりといったトラップは無いようだ。
 こちらの足音や話し声を聞きつけたのだろうか、結界の向こうにある奥の部屋から一人の老人が出て来た。こちらへとやって来たその人物に仲山 祐(なかやま・ゆう)が話しかける。
「貴方がザクソン教授か?」
「うむ、そうじゃが。どうやら今度は依頼を受けた者達らしいの」
「今度は……? まぁいい、俺はイルミンスールから依頼を受けた仲山 祐と言う。後ろの皆も同じような形で来ている」
「えぇ。教授、貴方がたは私達が助け出して見せます。どうかご安心を」
 正義感に溢れるティアン・メイ(てぃあん・めい)がこの場にいる者達の気持ちを代表する。それを頼もしく思いながら、ザクソンは現在の状況を説明していった。
 
「――魔法生物、ですか?」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が首を傾げる。
「うむ、この結界と同時に生み出された魔力を持った存在。あれはそう呼ぶのが相応しいじゃろう」
「遺跡と、そこに生まれし物か……」
 そうつぶやくのはレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)。彼も以前は別の遺跡で眠りについていた事があった。レヴィシュタールのいた遺跡は魔物が蔓延っていただけだが、それらと似た存在ともいえる魔法生物にも若干の興味を抱いたのだろう。
「今の所、姿は見えませんね。どこかに隠れているのでしょうか?」
「まぁこんな結界を張って現れる以上、友好的な相手とも思い難いな。隠れてるというか、潜伏してると言った方がいいかも知れん」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が周囲を見回す。結界自体が魔力を放っている為、魔法生物がどこにいるか、感覚的に位置を掴むのは難しそうだった。
「ともかく、今は結界の消滅が急務か。かなり丈夫そうな結界だが……破壊する手段に心当たりは?」
 祐が尋ねる。それに対し、ザクソンは首を振るだけだった。
「こちらでも色々と調べてはいるのじゃがな。結界の中からでは中々思うようにはいかんよ。研究所の資料があれば奥に残された文献の解読も進むのじゃろうが……」
「なら、とりあえずは駄目元で直接叩いてみるしかないわね」
 集団の中からハンマーを持った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が歩み出て来た。これで思い切り物理的な衝撃を与えてみようという考えだ。
「あ、あれはまさか伝説のバックスクリーン三連発の……!」
 とある野球部に所属している月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)が祥子の構えに反応する。左打席に立つその姿、それは史上最強の助っ人と呼ばれた、あの人物にそっくりだった。
「さぁ飛んで行きなさい。西宮の空まで……!」
 祥子のフルスイング。ハンマーが唸りをあげてぶつかった瞬間、結界が強い光を放った。
「きゃっ!?」
「くっ……!」
 その場にいる者達が目を覆う。やがて光は徐々に収まっていったが、彼らが見た物は全く変化の無い結界の姿だった。
「……まさか今の一撃で穴すら開かないなんて。想像以上の堅さね」
 ある程度予想はついていたものの、実際に結界の堅牢さを目の当たりにした祥子が感心する。だが、試しに一撃を入れてみた事自体は効果があったようだ。
「今、祥子が攻撃した瞬間……五筋の光が見えたな。ありゃなんだ?」
 閃光の中、注意深く観察していた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)のつぶやきにザクソンが反応する。
「五筋の光じゃと? 詳しく話してくれんか」
「激突と同時に光が発生してたが、それに併せて五つの色をした光が結界に走っていったんだ。遺跡の奥から飛んできたような、そんな感じだった」
「ふむ……もしかすると、奥の方にこの結界を発生、或いは強化している物が存在するかも知れんの。向こうはまだ調査をしておらんのじゃ」
 無敵の結界が存在するとは考え難く、何らかの仕掛けが奥に存在するのは確かだろう。そう考えたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がその『仕掛け』を推測する。
「五色の光……考えられるのは陰陽五行というものではないかしら。異なる力が互いを増幅して結界を強化している。有り得ない話ではないわ」
「それぞれが独立した上で結界に力を供給してるという線もあるね。複数の何かがまるで魔法陣のように配置され、そこから力が生み出されてるとか。勿論、その魔法陣がお嬢さんの言う五行に関係している可能性もあるけど。五芒星みたいにね」
「おお、言い忘れておった。お主達の前にも来た者がおってな。ここからは良く見えんかったが、そ奴らも奥に向かって行ったようじゃぞ」
「先に来られた方? どのような方でしょう?」
「赤い服を着てサングラスをかけた赤髪の若い男じゃな。以前わしの研究所で起きた本の事件の時におった者じゃ」
 永倉 八重(ながくら・やえ)の疑問に答えるザクソン。その特徴を聞き、反応を見せたのは蓮見 朱里(はすみ・しゅり)四谷 大助(しや・だいすけ)だった。
「その格好の人、本の世界の火山で見たわね」
「あの炎使いと一緒にいた男か……」
 二人はとあるマジックアイテムの効果によって本の世界に巻き込まれた時、現実世界に帰る鍵を巡って火山で炎使い、イェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)火天 アグニ(かてん・あぐに)の二人組と戦った事があった。
 更に、イェガー達と戦った事があるのは他にもいる。西カナンのイズルートで対峙した風森 巽(かぜもり・たつみ)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。
「炎使いとその連れの男……どうやら我も拳を交えた事のある相手のようだな」
「何が目的かは知らんが、仮にあの者達がいるなら友好的には行かない可能性が高いだろう。奥に進むなら警戒をする必要があるな」
 
 結局、全体の約半数が奥の探索へと向かう事になった。残りは手前の調査だ。
「では、わたくし達はこちらを調べるとしましょうか。何か手がかりになる物があれば良いのですが」
「ついでに魔術研究の役に立つ物でも見つかりゃいいんだけどな」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が周囲に気を配りながら近くの部屋を覗き込もうとする。その瞬間、横に伸びた通路の奥から一羽の鳥が突撃してきた。
「――! あれはもしかして、教授のおっしゃっていた魔法生物……?」
「下がってろリリィ! こいつで!」
 カセイノが細身の槍を構え、鳥に向けて強烈な突きを放つ。その一撃は正確に鳥の胴体を捉え、上へと跳ね上げた。
「な……何だ、今のは……?」
 狙い通りに当てたはずのカセイノが驚きながら振り向く。弾き飛ばされたはずの鳥はダメージを受けたような素振りも無く、再び旋回してこちらへと襲い掛かってきた。
「ちっ、思ったよりも厄介な相手みたいだな」
「物理の耐性持ちか……? なら、これを受けてみるが良い」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)がショットガンを撃ち、レヴィシュタールが手にした杖から炎を放つ。二人の攻撃も確かに鳥へと届いたが、それによって多少怯みはしても攻撃を止める事は無い。
「銃も魔法も無効化だと? そんな奴が存在してたまるか!」
 更にグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)がナイフを構え、くちばしでの攻撃をかわしながらすれ違い様に斬りつける。だが、その攻撃すら皮膚――魔法生物相手に妥当な表現かは分からないが――を切り裂く事は出来なかった。
 この戦闘行為が呼び水になったのだろうか。通路の奥には多数の鳥の姿が見え、横の部屋からは壁から染み出るようにスライムが、そして入り口側に近い部屋からはスケルトンが出てこようとしているのが見えた。
「これじゃ囲まれちまうぜ。どうすんだ? 透矢兄ぃ――って、兄貴がいねぇ!?」
 篁 大樹(たかむら・だいき)が叫ぶ。先ほど奥に向かった者達の中に透矢はいなかった。という事は、途中ではぐれた――?
 そんな事を考えている間にも敵の数が増えているのが分かった。この場にいない長兄の代わりに、次男の篁 隼斗(たかむら・はやと)が周囲に行動を促す。
「とにかく、今は僕達であれを抑えよう……結界と同じで何らかの仕掛けがあるはずだよ。皆、特徴のある魔法生物だから自分がやり易い所を相手しよう」
 その場にいる者達が隼斗の言葉に頷き、それぞれの得物を手に魔法生物へと向かう。遺跡に現れた不思議な相手へと今、一行は立ち向かっていくのだった――