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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第3章「結界の守護者:スケルトン」
 
 
「さぁ、今度はどう来る?」
 遺跡の入り口で霧雨 透乃(きりさめ・とうの)篁 透矢(たかむら・とうや)の行く手を阻む。最初に本気の殺意を篭めた一撃を出した事を除き、後は待ち構える戦法を取っている。
「別に私はどれだけ時間を使おうが構わないけどね。透矢ちゃんはそうは行かないんじゃない?」
 あくまでも救助が目的である事を突き、嫌でも攻撃を仕掛けさせるのが透乃の狙いだ。実際、そうして透矢が攻撃を試みた所で龍鱗化などによる防御力の増加や投げでの反撃を行おうとする為、双方共に浅いダメージすら入っていない。
(さすがに無傷で抜けるのは虫が良すぎたか。なら、あれで行くしか無いな)
 透矢がダッシュで仕掛け、透乃がそれに対する構えを取る。相手の勢いが増したのを察知した透乃は、左の拳に赤い気を纏わせた。
「はっ!」
「その手は……見切ってるよ!」
 行動を読んだ透乃が透矢の左拳を押さえ、カウンターとして一撃を叩き込む。その攻撃は防御として出されている透矢の右腕に大きなダメージを与えた。
「――だろうな」
 だが、透矢はそれを承知の上で最初の一撃を出していた。右腕を犠牲にそこから蹴りを放ち、透乃の右足にそれなりのダメージを与える。
「っつ……中々やるね。でも、手応えはこっちの方が感じたよ」
「あぁ、力に関してはそっちの方が上みたいだな……で、いい加減満足したか?」
「冗談。これからが楽しいんじゃない」
「そうか。でも悪いが、後は二人だけで楽しくやってくれ」
 次の瞬間、透矢は機動力の落ちた透乃のガードを潜り抜けて後ろへと飛び出していた。そのまま月美 芽美(つきみ・めいみ)が追いすがる間も与えず遺跡へと走り出す。
「ちょっと! 逃げるの?」
「俺達の目的は芽美達も理解してるんだろ? こんな所で遊んでる暇も無ければ、わざわざ付き合う義理も無い。それだけの事さ」
 ザクソン達を助けに来たという透矢の目的を透乃達が尊重しないのなら、本気で戦いたいという透乃の目的を透矢が尊重する理由も無い。至極当たり前の事を告げ、透矢はそのまま走って行った。格闘家としてはスピードタイプに属する透矢の姿はすぐに遺跡の中に消える。
「本当に行っちゃったわね」
 芽美が透乃の足の負傷をヒールで癒す。元々彼女は万が一透乃が透矢に本気で殺しかねない一撃を与えそうになった時の制止役と、最初に宣言した通り戦いの後に透矢の傷を治す役を担っていたのだが、そのどちらも出番が来る事は無かった。
「どうする? 透乃ちゃん。後を追いかける?」
「ん〜……止めとこっか。中に入っても一対一じゃ戦え無さそうだし」
「あの足じゃすぐに他の奴らと合流しちゃうだろうから、戦おうとしても邪魔が入りそうね。それじゃもうここには用は無いし、帰りましょ」
 
 
「とっとと地獄に帰りやがれ!」
 スケルトンがひしめく部屋では強盗 ヘル(ごうとう・へる)が再びショットガンを放っていた。
「仰け反っている事から着弾は明らか……だが、それなら損傷が見られても良いはずだ。先ほどの鳥といい、何かあるな……」
 ゴム弾を受けているスケルトンの様子をダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が冷静に観察する。隣に立つ九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)も何とかして魔法生物の特性を掴もうと考えていた。
「この骨だけならアンデッド系列とも予測出来るけど、それだとさっきの鳥に違和感が残るね。カセイノ、君はあの鳥に直接攻撃しただろう? どんな感じだった?」
「どんなって言ってもな……こいつらと同じで、ちゃんと当たった手応えがあったのにその先が無かった。不思議としか言い様が無いぜ」
 カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が槍を構えながら答える。彼はここにいるスケルトン相手にもダメージを与えられないばかりか、骨格だけで突いて攻撃するには狙い難い相手の為に随分とやり辛そうだ。
「くそっ、だったらこれでどうだ!」
 痺れを切らしたカセイノが槍を振り回し、横から殴りつける形で攻撃をした。今まで同様にダメージは入らないものの、打撃によってスケルトンが勢い良く吹き飛ばされ――近くにいたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)に命中する。
「痛っ!?」
「あ、悪ぃ!」
 相当強く当たったのか、スケルトンの腕部が千切れ飛んでいた。その事実にテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が最初に気付く。
「ん……? おい、トマス! お前に当たった奴に攻撃が効いてないか?」
「え? あ、本当だ。あれを攻撃と言っていいかどうかは分からないけど……」
「そうか……こいつらに有効な武器。それは実は……『トマス』だったんだよ!」
「な、何だってー!?」
 驚愕するトマスの足を掴み、そのまま持ち上げるテノーリオ。そのまま大きな棒のようにトマスを振りかぶり、別のスケルトンへとぶち当てた。
「だっ!?」
「ほら見ろ! スケルトンが思い切り砕けたぜ!」
「僕も砕けるよ!?」
「大丈夫だトマス、お前は強い! それにそこの君、医者だろ?」
 テノーリオがローズへと顔を向ける。
「確かに私は医者というか、医学部所属ではあるけど」
「って訳だ、後の事は問題無い! お前の力を存分に揮え、トマス!」
「揮えというより振るわれてるようなぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!?」
 ジャイアントスイングの要領で次々をスケルトンを破壊して行くテノーリオ。振り回されながらもきっちり自分を強化しているあたり、トマスもお人好しと言うか何と言うか。
「ぜ、全滅させればいいんだろ!? だから、だから早く終わってぇぇぇぇえええ!!」
 
「……ふむ、見えてきたな」
 コミカルな戦いが目の前で繰り広げられている中、ダリルは冷静さを失わずに観察を続けていた。そして、先ほどまでの戦いと現在の光景からある差を見出す。
「ザカコ、君の攻撃なら通るはずだ」
「自分のですか? 分かりました、やってみましょう」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が愛用しているカタールを用いてスケルトンを攻撃する。すると、すぐそばで暴れているトマスと同じようにダメージを与える事が出来た。
「確かに手応えがありました。ダリルさん、これは一体?」
「これまでに対峙した者達とトマス、そしてザカコとの違い……それは、『地球人か否か』だ」
 カセイノはシャンバラ人であり、ヘルはゆる族だ。そして鳥に襲われた時に反撃をしたのも、吸血鬼などパラミタ側に属する者達である。
「なるほどな。って事は俺達の攻撃も普通に通るって訳だ」
「それなら様子見をする必要はありませんわね。積極的に参りましょう」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が前に出る。そして一気に駆け出すと、それぞれが武器を構えてスケルトンへと向かって行った。
「骨相手なら斬るより殴る方が効果的か。ほらよっと」
 悠司がフラワシを降霊し、スケルトンを幻惑した上で刀を逆に構えて峰で打ち砕いた。彼に並びながら、リリィはメイスを振り回してスケルトンへと叩き付る。
「フェイスフルメイスは信仰の証! 祝福の祈りと共に、骨魔を打ち砕きますわ!」
 それを見て微かにショックを受けたのがカセイノだった。彼はダリルが見切った相手の特性をまだ知らず、自身とパートナーの差に悩み始める。
「何であいつの攻撃は普通に通るんだ? 確かに最近は部屋に篭ってばっかりだったけどよ……そんなに鈍っちまってるのか? 俺」
 とはいえ悩んでばかりもいられない。前の敵に夢中になっているリリィの後ろから忍び寄るスケルトンを見つけ、急いで間へと走りこむ。
「危ねぇ! 後ろにも気を付けろ!」
 やはり攻撃が効かない事に舌打ちしつつも、槍を横薙ぎで吹き飛ばす。そのスケルトンに止めを刺す為にリリィ達を跳び越えた悠司が、上から刀の峰を振り下ろした。
「よっと。何かこいつらには地球人の攻撃しか通らないらしいぜ」
「な……!? それで俺の攻撃が効かなかったのか……!」
「そういう事だな。んじゃ、リリィっつったっけ? 援護よろしく」
「え?」
 リリィが疑問に思う間もなく悠司が近くのスケルトンを薙ぎ払う。そのまま他を引き付けるとリリィが攻撃し易い位置で跳躍し、柱を蹴って敵の包囲から離脱した。
「はいよ、後は任せた」
「え、えっと……これで!」
 唐突に敵を任され、慌てて攻撃をする。誘き寄せたスケルトンが全て倒されるのを確認すると、悠司は次の敵へと走っていった。
「中々やるね。このまま次を引っ張らせて貰いますか」
 トリッキーな戦い方をする悠司を見送りながら、次の敵に備えてメイスを握り直すリリィ。油断無く構える彼女は、心の中でこの状況に疑問を抱いていた。
(カセイノに付き合わされただけだからサポートに徹するつもりだったのに、何でわたくしがメインで戦っているのでしょう。出来ればあまり消耗しないように戦いたい所ですが……)
 残念ながらその望みは叶わない。リリィの視界には、先ほど以上のスケルトンを引き連れてくる悠司の姿があるのだった。
 
 
「さて、私もやりましょうか。私の打棒、見せてあげるわ」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がハンマーを横に構え、シャープに振り抜く。それは4代目虎の人が最高打率を記録した年のような見事なスイングで、吹き飛ばされた敵が別のスケルトンに当たって砕ける。
「3番4番と続いたら次は5番よね。見えるわ、あの濃緑色のバックスクリーンが……」
 再びフルスイング。炎を纏ったハンマーに砕かれた骨の勢いは止まらず、部屋の壁に次々と激突していった。
「凄いですね……この分ですと私達の回復は必要無いでしょうか」
「そうだね。むしろ魔法生物じゃなかったら向こうの治療に行きたくなるくらいだよ」
 後衛として控えている篁 花梨(たかむら・かりん)とローズが前衛の戦いぶりを見守る。二人は治療を得意としている為、戦いは他の者に任せる形になっていた。
「む!? 花梨殿、後ろだ!」
 その二人の後ろに突然新たなスケルトンが現れた。後衛のフォローを中心に動いていた夏侯 淵(かこう・えん)がそれを敏感に察知し、如意棒を伸ばす事で相手の奇襲を防ぐ。
「きゃっ! ……有り難うございます、淵さん」
「礼には及ばぬ。とは言え、やはり俺の攻撃では滅びぬか」
 英霊である淵の一突きはスケルトンを押し返したものの、その動きを止めるまでには至らなかった。如意棒が元の長さに戻ると同時に、再び敵が動き出す。
「そこのあんたら、巻き添えが嫌なら取り合えずしゃがめ」
 その時、スケルトンと対峙している花梨やローズの後ろから声が聞こえた。それに従って二人が素早く体勢を低くすると、花梨達を跳び越えて一人の男が光と共に蹴りを放った。その一撃はスケルトンの頭部に寸分の狂い無く決まり、相手の動きを止める。
「なるほど、地球人の攻撃しか通用しないとは聞いたが、俺が宿主サマに憑依してる分には問題無いか。こいつは幸運だね……殺せない殺人鬼なんて機晶石の入っていない小型飛空艇みたいな物だ。そんな事になったら笑い話にもならない」
「貴方は……陣さん?」
「ん? あんた、宿主サマの知り合いか?」
『そういやどこかで見た顔やな……あ、課題でテンパってた時か。刹貴、せっかくだから挨拶しとき』
「ふむ、どうやら宿主サマ……七枷 陣(ななかせ・じん)もあんたを知ってるらしい」
『いや、オレだけじゃなくてお前も自己紹介せいや!』
 身体の主導権を譲っている陣が自身に憑依している七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)に突っ込む。もっとも、その声が聞こえるのは刹貴だけだが。
「全く、お主はいつもコミュ障気味じゃのぅ」
 まるで陣の声すらも聞こえているかという感じで小柄な少女が現れる。彼女は刹貴に一度呆れた顔を見せると、そのまま花梨へと向き直った。
「こ奴の事は気にせんでいいぞ。構っても厨二病を発揮するだけじゃからのぅ。そうそう、ちなみに我はジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)じゃ」
「あ、私は篁 花梨です」
 ディライドという苗字とその外見が気になるが、それは一旦置いて名乗り返す。
「うむ、花梨よ、ここは我らに任せるがよい。あの程度の敵、たちどころに葬ってくれよう」
 どこか自信に溢れた表情でジュディが前に出る。そして手をかざすと、そこに冷気の固まりを発生させた。
「さぁ、我がブリザードで砕け散るが良い!」
 氷の嵐が吹き荒れ、敵へと襲い掛かる。だが、直撃を受けたはずのスケルトンは僅かに動きを鈍らせただけで、再び周囲の者へと襲い掛かり始めた。
「な、何じゃと!? 我が魔導が効かぬとは……ぐぬぬ、こういう無能役は他MSの時の陣の役目じゃろうに……」
 良く分からない事をつぶやきながら悔しがるジュディ。何と言うか、彼女も十分に立派な厨二病と言えた。