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リアクション
アキと雅羅と共にレジ打ちに従事していたリリィは、客が途切れたため彼女と雑談をしていた。
「そういえば、何故夜の方が時給が良いのかご存知ですか?」
「え? うーん、人が普段寝ている時間に働くから?」
「フッフッフ、こういう客足が途絶えた時間帯には、出るんですよ……。コンビニ強盗が」
「出たら、私の銃が炸裂するだけよ!」
「殺すのは無しの方向でお仕事しましょう。あ、でも撃てないモノが出ちゃうかも……」
「撃てないモノ?」
「何それ?」
雅羅とアキが不思議そうな顔でリリィを見やる。
「ええ、コンビニ強盗に殺された店員の霊です」
恨めしやーとポーズを取るリリィに、急に青い顔をした雅羅がブルッと全身を震わせる。
「や、やめてよ! オカルトは苦手なのよ!」
「大丈夫ですわ……ん?」
リリィがチラリと見ると、アポロトスがペットボトルを抱えて入り口へと向かっている。
「困りましたわね。第三の男です」
と、小声で愚痴たリリィが、スッとレジの裏に隠していたカラフルなボールに手を伸ばす。
万引きは店外へと出た瞬間に成立する。
リリィは獲物を狙う虎の如き視線で、アポロトスの動きを凝視する。
アポロトスが自動ドアを超えて外へと出る。
「万引きですッ!!」
リリィの声に素早く反応したのは、店内を再び巡回しようとしていた洋であった。
「待て!!」
問答無用とばかりに火を吹く洋のマシンピストル。
「勝手に店の物を持っていこうというのか? ええ! 1つの商品が盗まれたら3倍売らないと元取れないが薄利多売の原則なんだぞ。お前は店を潰す気か!」
人が変わったかの様に洋が叫び、ピストルを連射する。アポロトスのトーガに命中する銃弾。
「店員て、発砲OKだっけ?」
そう言うアキが洋を見るより早く、
「洋!! 殺す気!?」
雅羅が慌てて洋の腕を掴む。
パンッパンッと乾いた銃声がした後、アポロトスが低い笑い声を出す。
「まさか、防弾仕様!?」
パラパラとトーガに命中した弾が地面に転がる。
「ハハハ、蛮族どもめ!! お前たちの技など既に対策済みであるわ!!」
「盗人猛々しいとは、この事ねー」
どんな時でも大人な冷静さを忘れないアキが呟く。
そこに、事態を把握した豊和とみとが、アポロトスの足元目がけて氷術を放つ。
ガチンと地面ごと氷漬けにされるアポロトスの足。
「貴公、もうにげられませんわ!」
みとが高らかに叫ぶも、アポロトスは表情に余裕を持ったまま、
「甘いわ!! でえぇぇいいぃぃあああぁぁー!!」
アポロトスの足が膝下から切り離される。
それを見たセルシウスがハッと気づく。
「そ、そうだ! アポロトス殿は若き日の事故で足を失い、ずっと車椅子生活だったはず!!」
「設計士にとっては、足など飾りじゃよおぉぉぉぉーッ!!」
叫んだアポロトスが鉄腕ナンタラよろしく足でジェット噴射をかけ、店外へと飛び去ろうとして、その体を掴まれる。
「何奴!?」
「逃がしません!! バイトリーダーのこの私がいる限りィィ!!」
掃除をしていた早苗は、捕獲するチャンスを狙っていたのだ。
「えっと、早苗さん? 大抵のバイトマニュアルだとこういう場合はバイトは安全を第一とするように、って書かれてますよ?」
月夜の言葉に、早苗が「え?」という顔のまま、アポロトスに振りほどかれ、地面に倒れこむ。
「滅茶苦茶だ……」
「設計士とはなんと恐ろしい職業なんだ!!」
刀真と豊和が口々に感想を述べる中、リリィが素早くレジを飛び越えてアポロトスへ走りよる。
「てぃッ!!!」
リリィがアポロトスの真下の地面目がけて投げた赤いボールは、カラーボールであった。
地面に当たったカラーボールが弾け、中の液体がアポロトスのトーガにかかる。
「ぬぅ!? だが、効果などないわー、ワハハハハッ!!」
店外まで追いかけたセルシウス達は、闇夜に飛び去るアポロトスを見送るのみであった。
「ふぅ……なんとか印はつけましたわ」
と、リリィが額の汗を拭う。
セルシウスがリリィに尋ねる。
「あのボールは何だ?」
「ああ、カラーボールですわ。例え洗濯しても簡単には落ちない特殊塗料が入ってます」
「目印というわけか……だが、何故地面に?」
「犯人に直接ぶつけると、逆上されとても危険なので、床などに当て飛沫を当てるのが正解の使い方なんです。基本的に、武器を持った相手を刺激するのはNGですから」
「あいつは、全身武器みたいなものだ……」
と、洋がマシンピストルをチラリと見つつ「より強力な得物が必要か」と呟く。
店の入り口の向かって右に仁王像の様に立って警備するパワードスーツ、パワードマスク姿の警備員、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)がセルシウスに呟く。
「警備を預かる人間として申し訳ないであります。しかし、あの老人、よもや空を飛ぶとは……」
剛太郎はあっという間にアポロトスが自身の持つ装備の射程外まで逃げ去り捉えられなかった事をセルシウスに詫びた。勿論、店に来る女の子を密かに可愛いかどうかチェックしつつ、若干エッチなコトをついつい考えていた事は黙って、だ。
「いや、アポ……あの男は店長代理の私はおろか店員の皆も振り切って逃げたのだ。貴公のせいだけではない」
パワードマスクの下できっとしょげているであろう剛太郎を気遣いつつ、セルシウスがアポロトスの消え去った夜空を見上げる。
「今夜は永い夜になりそうだ……」
しみじみとそう話したセルシウスの隣で、アキが笑う。
「大丈夫だよ〜、なんとかなるって!」
「うむ……」
その時。
「きゃああぁぁぁぁぁーーっ!!!!!」
と、いう悲鳴が上がる。
皆が振り向くと、リリィのカラーボールの巻き添えを喰らった早苗が雅羅にしがみついていた。
「た、たたた、助けてェェ!! お化け、店員のお化けよぉぉッ!!」
「目、目がぁ、目がぁぁぁー」
頭から眼鏡から蛍光色の赤色の液体をまるで血の様に垂らし半分盲目となっていた早苗、そしてそんな早苗にしがみつかれ半泣きどころか全泣きしている雅羅。
その様子を見ていた店員達から自然と笑いがおこる。
だが、雅羅だけは真剣に怯えた顔で皆に助けを求める。
「私は、バイトリーダーの……」との抱きついた早苗の呟きに、「殺されたバイトリーダーの霊よ! 助けてェェ!!」と叫び続けるのであった。