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リアクション
海達が知恵子の救出に成功した頃、残った警備員の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)とレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)と柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)は、コンビニ横の警備員の控え室たる小屋でまったりとした夜を過ごしていた。
既にどっぷりと夜も更け、空京放送が終わり、ノイズだけになった暇つぶし用のテレビのスイッチをレイスが切る。
「あーあ、すっかり徹夜になっちまったな! もう、めんどくせえ!」
ふぁ〜と欠伸をするレイス。
翡翠は先ほどから窓辺に立ち、外を見つめたまま動かない。余談であるが、昼間は不幸属性の翡翠は夜になると、もう一つの人格になる。キレやすく悪運と強運が同居するのだ。
「私的には、夜の方が動きやすいですけど、ずっと気を張っていると疲れそうな感じですわ」
そう呟くのは美鈴である。
テーブルの上には彼女が入れた三人分のお茶セットが置いてある。
夜勤に入った時、顔を合わせた海や健闘、柚、ラルクは出撃中。警備員として現在店にいるのは彼ら三名と、店前に立つ剛太郎。
どうやら他にも数名いるらしいが、安全上、警備員のシフト表は公開されていないため、誰が入っているのか不明である。
冷えたお茶を見て、美鈴が溜息をつく。
「剛太郎様も、お茶を飲む時くらいパワードマスクを外せばよいものの……」
美鈴は先ほどずっと店前に立つ剛太郎に、せめてものお茶の差し入れに行った。
「お疲れ様です。そろそろ番を交代しましょうか?」
盆に載せたポットとカップを持った美鈴の問いかけに、剛太郎は「いえ、これが自分の任務でありますから」と、首を振らなかった。
「そうですか……ではお茶は如何ですか?」
「おお、ありがたいであります!! ではここに……」
と、剛太郎は腰に付いたポットの蓋を開ける。
「……マスクはお外しにならないのですか?」
「はい。ポットの中身はマスクに繋がったこのチューブで飲めますから」
「(私も随分生きていますが、こんな腰の位置にお茶を注ぐなんて初めてですわ……)」
美鈴は不思議な気持ちで剛太郎の腰にある空のポットに湯気を立てるお茶を注ぐ。
「しかし……気がかりであります」
「気がかり?」
剛太郎のマスク越しの呟きに、美鈴が眉を潜める。
「はい。パートナーのソフィアからの定時連絡が無いのであります」
「まぁ……」
「とは言うものの、実はあまり心配はしておりません。ソフィアの事ですから、いつものようにイケメンを探して巡回範囲を広げたのでしょう」
「そうですか……ああ、良い茶葉が手に入りましたのよ?」
剛太郎のポットの蓋を閉めて、ニコリと笑う美鈴。
「楽しみであります。では、早速……」
その後は、お察しがつくだろう……。
「それは酷いな。熱湯をストローで吸い込んだらどうなるか、わかるだろう?」
美鈴の話を聞いていたレイスが呆れた顔で呟く。
「まさか、あのまま飲むとは思わなかったですわ……」
と、美鈴がすっかり冷えたポットを手に立ち上がる。
「マスター? お茶をもう一杯いかがです?」
美鈴が翡翠に声をかけると、昼と夜で性格が変わる翡翠が手袋をはめながら振り返る。
「ああ、お茶は終わった後に頂こう……」
眼光を鋭くした翡翠を見て、レイスも椅子から腰を浮かす。
「めんどくせぇのが、来たようだな?」
「ああ。速攻で退いてもらうつもりだけどな」
「厄介事は早めに対処に限るな? 邪魔なんだよ」
「あらあら、今度は剛太郎様に冷たいのがお出しできると思ってましたのに?」
ポットをテーブルに置いた美鈴が傍に置いてあった愛用の鞭を手に取って妖艶な笑みを見せる。
海から「こちらは陽動だった! オレ達が戻るまで耐えてくれ!!」という電話が入ったのはその時であった。