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コンビニライフ

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コンビニライフ

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 夜更け過ぎのコンビニの周囲には、イコンが三体、歩兵と思われる盗賊が十数名展開されていた。そして、徐々にその距離が縮まってくる。
 店の前に立つ剛太郎と翡翠、レイス、美鈴の数名はじっとその進軍を見ていた。
「イコンが三体か……状況は不利……と」
 翡翠が呟くと、レイスが「口元が笑ってるぞ?」と冷やかす。
「ですが、恐らくイコンは脅しでしょう?」
 口内を火傷したためか、剛太郎がややまごついた口調で話す。
「店内の品物や金が目当てなら破壊する事は無意味、てわけだな」
 レイスが静かに呟く。

 やがて、先遣部隊と思われる四人の盗賊がバイクに乗って翡翠達の前までやってくる。
 全身黒のライダースーツと顔を見せないためのミラー仕様になっているヘルメットを被った四人と対峙する翡翠達。
「そこをどけ」
「警備員として、店内へはヘルメットを脱がないとお入れ出来ません」
と、翡翠が返す。
 暫しの沈黙の後、盗賊が口を開く。
「断る……と言ったら?」
「……もれなく、地獄へご招待だ」
 翡翠の言葉と同時に、剛太郎が89式小銃のセーフティロックを解除し、レイスと美鈴もそれぞれ後ろに隠した手に魔力を急速チャージしていく。
 
 ブラックコートを羽織った、その男が現れるまでは、である。
 

 同時刻、店内では店員の真宵がレジにて、コンビニの使い方がわからぬ客の相手に悪戦苦闘していた。
一人目の客に対しては、
「はぁ? お金で払えっつってるでしょ。種モミで支払い出来る訳無いでしょうがこの脳タリン」
二人目のお客に対しては、
「ゲームの道具屋じゃないのよ、剣や銃の買い取りなんかしてるわけ無いでしょうが! ……物々交換? 扱ってないわよ!」
三人目……。
「「その様な”おだんご”は当店では扱っておりません、お引取り下さいませ。は? じゃあ、あのイコン売れですって? あれお客様達が停めてるだけよ」
 そもそも真宵自身はお金持ちの良いとこ育ちなのに、生活費がとあるパートナーのカレー作成に費やされ、バイト三昧の日々に明け暮れるハメになっている事もあってか、真宵のお客への対応はベリーハードである。
 だが、『蓼食う虫も好き好き』という言葉の如く、そんな手厳しい言葉を頂きたい客が彼女のレジに長蛇の列をつくっていた。
 雅羅がようやく客の列を処理し終えた真宵の様子を見ていてポツンと呟く。
「あなた、すごいわね……」
「別にそんな……。あ、こら、そこ! 立ち読みの癖してなに成人向け雑誌の袋とじ開けようとしてんのよ、下半身直結パラ実生は慈悲なく焼き払うわよ!」
と、指摘した後、雅羅にニッコリ笑って振り向く。
「でも、普通のお客様には、笑顔で対応しますわ。お仕事ですからね!」
「そ……そう?」
 自動ドアが開いて、真宵が振り向き、
「いらっしゃ……」
言いかけて固まる。

 盗賊と警備員達が睨み合う中をかき分ける様に店内へと威風堂々入ってくる客。真宵のパートナー、土方 歳三(ひじかた・としぞう)である。
「おい……あいつ」
「ん?」
 立ち読みしていた客が『週刊少年シャンバラ』のとあるページをめくり、写真を指差す。
「あ! 漫画家の土方歳三だ!!」
「週刊少年シャンバラで、『徐々に奇妙な探検』を書いている土方だ!!」
 客達のざわめきが響く。
 周囲を見渡し、「ふむ。流石にオーラだけでバレてしまったようだな」と呟く歳三。
「あなた。何しにきたの?」
 真宵がレジから出てくる。
「漫画家がやってくるのだ。取材に決まっている!」
「取材……?」
「愉快なコンビニの使い方もろくに知らない連中が無理矢理使おうとして発生する有様は非常にレアだからな。いずれはパラミタ全土で当たり前にコンビニが使われるようになるだろうから今取材しておくしかない!! 漫画家とは文化を先取る事も考えねばな!!」
と宣言するや否や、描画のフラワシを降霊させた歳三が、漫画用紙にスケッチをしていく。
「す、すげぇ早さだ!!」
 みるみる歳三のラフスケッチが完成していく。
「ハハハ、震えるぞハート!! 燃え尽きるほどヒートォォ!!」
「……」
 真宵がハァと溜息を漏らす中、客の一人が買ったばかりのノートを持って歳三に近づく。
「あ、あの!」
「なんだ?」
「スケブお願いします!!」
「お安い御用だ!!!」
 先ほどまで原稿用紙に向かっていた歳三のペンがノートに向かう。
「あ、俺も!」
「私も!!」
「やれやれ。人気漫画家となると取材も大変だぜ」
 忙しなくペンを走らせつつも、どことなく嬉しそうな歳三。
「まぁ、いいわ。放っておいても害はなさそう」と考えていた真宵は、歳三に群がる客達を見て、この整理をしなければいけなくなったわ、と頭を抱えるのであった。
 ドンッ!! と軽い地響きが起こる。歳三が外を見て、目を輝かせる。
「おお、派手な戦闘の参考までも取材出来るのか!」
 店の前では、ガンマンの決闘の如き激しい魔法戦が火蓋が切って落とされていたのであった。