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暴走の眠り姫―アリスリモート-

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暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 レン・オズワルド(れん・おずわるど)メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)の【テクノコンピューター】の通信で、ダリルからアリサに携わる情報を聞いた。
「なるほど、軍事利用か。俺の思ったとおりだ」
 レンはアリスの能力について、独自に考えを出していた。
 例えば、イコン操縦者を同時に操る戦場のネットワーク構想。
 イコン操作には一定の修練が必要であり、パイロットの教育が大きな問題になる。そこで、アリサの《精神感応》能力を使い、一定の技能や知識を操縦者に並列化し、先人の技術をトレースさせる。これにより、訓練もパイロットも必要なくなる。効率的ではある。
 だがそれは、人間を消耗品として見た行為だ。代用品を幾つも用意できるのと同じだ。
 そういった考えをする。極東新大陸研究所にアリサを渡すわけにはいかない。
「レン。アリサの向かっている場所がわかりました。途中から、街中の監視カメラに彼女の姿を見ることが出来ました。いま誰かと、そこへと向かっているようです」
 《防衛計画》と《ユビキタス》のスキルから、メティスがアリサの居場所を割り出した。この情報を他の捜索者へと分散メールで伝える。
「わかった。行くぞ。彼女を助けに」








 ――海京、天沼矛付近

「ここでよかったのか?」
 ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)がアリスに尋ねた。彼の予想ではもっと別の場所だと思っていた。
「「ああ、ここでいいぜ……くぅ!」」
 今までになく頭痛が酷い。この状態だと、ブラックや八重の無意識に干渉する事は出来ないだろう。機晶姫と剣の花嫁も最低限のプロセスしか命令出来ない。しかし、それだけでも十分な戦力に成る。
 「大丈夫?」と八重が心配する。しかし、コレばかりはアリスにもどう仕様も無い。
「――ほーんと、大丈夫? 大丈夫じゃないなら私がその頭潰して、どうにかしてあげようか?」
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が心配しているはずがない言葉を持って、近づいてくる。緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も彼女が活き活きとしているのを見て嬉しそうだ。
 他にも、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が彼女と共に歩み寄ってきた。
 「この子が騒動の原因ですか」とマクスウェル。「みたいだな」とレリウスも頷く。
「俺にはガキにし見えないぜ」
とハイラルが言う。「確かに、何もしなければそうですね」と陽子が賛同する。
「でも、なにもしないわけないよね? アリス」
 透乃は今の人格がアリスだと見抜く。
「「テメェら何しにきやがった。特にそこの女は天御柱とも関係ないだろう」」
「うん。そうだよ。私と陽子ちゃんはお寿司を食べに来ただけです。でも、あなたが騒ぎを起こすからさー。殺したくなちゃった」
「まあ、透乃ちゃんたら素敵ですわ……」
 透乃は本気である。そんな透乃に陽子がうっとりとする。
「「本気みてーだな……、じゃあこっちも殺すべく、相手しねえーとな!!」」
 アリスの《カタクリズム》が吹き荒れる。突然のことで、八重と、ブラックが吹き飛ばされた。八重が「辞めて!」言ったが、その声はアリスに届かなかった。
 隠していた機晶姫と剣の花嫁に命令を下す。眼前の敵を倒せ。ではなく殺せと。更に遠くに居る学院の機晶姫や剣の花嫁にも、こっちに来るように要請する。
 まずは陽子が動いた。取り巻きである、機晶姫に対して、《絶対闇黒領域》を使う。光属性の耐久低下を図る。耐久が減ったことを利用し、ハイラルより受け取った《光条兵器》でレリウスが仕掛ける。狙いはコアだ。光属性が弱点となった機晶姫のコアは《ソニックブレード》の一撃で壊れた。《パワーブレス》が上乗せされていたこともある。
 続いては、マクスウェルと陽子だ。陽子が《紅の魔眼》で魔法力を強化し、《ブリザード》を放つ。アリスも巻き込もうとしたが、それは《サイコキネシス》で攻撃範囲を操られて失敗した。しかし、剣の花嫁は四肢を凍らせた。
 そこに、マクスウェルの《魔弾の射手》が剣の花嫁の持つ光条兵器を弾き、凍った足と、手を撃ちぬいて動けなくした。
 先に打ち合わせをした故の連携だった。
「「クソが! 欠陥品じゃダメか! なら――!!」」
 アリスは《精神感応》による、精神攻撃を試す。しかし――、
「残念。それ私たちには聞かないわ」
 不発する精神攻撃に動揺するアリスに向かって、透乃はそう答えた。
「自分たちの中には《精神感応》を持つものはいない。天御柱の生徒から聞いたぞ。その精神攻撃は《精神感応》を持つ奴にしか効かないってな」
 マクスウェルの言うとおりだ。
 この攻撃はアリスが聞いている《精神感応》での複数の会話と意識を《精神感応》を持つ相手に増幅して流すことにある。故に、攻撃対象が《精神感応》を持っている事が、攻撃条件となっている。
 そして、何よりもこの攻撃はアリス自身に負担を強いる諸刃の攻撃でもある。アリスの頭痛がひどくなる。
「こらぁーへたばらないでよね」
 透乃が動きの鈍ったアリスに《疾風突き》を叩き込む。腹にめり込んだ拳の衝撃でアリスは吐血した。透乃はそれを見て落胆した。
「あれ? アリサちゃんの本体は超人的じゃないのかな?」
 残念ながらそうではない。
 確かにサイオニックとしての能力にはずば抜けているが、問題は彼女が今日の今日までカプセルで眠っていたことだ。アリサの体は最低でも一年以上も寝たきりだった。そんなアリサの体が、超人的であるはずがない。その筋肉や身体的能力は、衰えているゆえに、脆い。
「まあ、残念だけど、おまえじゃスリルを味わえないか……、アリサちゃんには悪いけど」
 透乃が弓引くように拳を後ろへと。
「死んでアリス」
 そして放った。忠告通り頭狙いの《チャージブレイク》――、
の筈だった。
 動けないアリスをかばって、氷室 カイ(ひむろ・かい)が攻撃を《肉体の完成》と《ヒロイックアサルト》で受け切った。
「なんとか間に合ったな……」
 カイがアリスの無事をみて安心する。そんなカイを見てアリスは目を丸くする。
「「テメーナンデ……」」
「私がお願いしたの。あなたを助けるように」
 そう言って、雨宮 渚(あまみや・なぎさ)がアリスに近づき、己の過去を語った。
「私も彼に助けられたわ。あなたと同じよ。私も力を疎まれてずっと監禁されたわ。それに、あなたを心配してくれる人は未だいるのよ」
 渚はアリサの顔を右に向かせる。そこには彼女を説得しに、そして助けにきた多くの人達が居た。十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)草薙 武尊(くさなぎ・たける)天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)蘇芳 秋人(すおう・あきと)蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)火村 加夜(ひむら・かや)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)、そしてレオとメティス。
 その中には前にアリスと戦ったモノも居る。彼女の精神攻撃を受けて、ひどい目にあった物も居る。それでも、彼女の境遇を思い、アリサ、そしてアリスを共に、助けに来た。
「アリス、アナタは復讐誰かにをしたいのかもしれない。あなたの人生を狂わせた人たちに。でも復讐だけに君の人生を費やすつもりなのかい? せっかく自由に動けるようになたんじゃない」 
 リオの言葉にフェルクレールトが無言で頷く。
 リオがの言う言葉は、緑郎がアリスに掛けた言葉とは真逆だった。どっちが自分の心かはわかるが、リオの言葉の方が優しかった。
「アリス、君は本当は何が望みなのだ。我が助けられることなら、なんでもしてやる。その代わり、今暴走させている剣の花嫁や機晶姫を止めて欲しい」
 武尊が諭す。それは要求ではなく、アリスが騒動を止める自発を促す物だ。
「アリスちょっといい」
 彩羽がアリスの額に自分の額を当てた。《テレパシー》で、彩羽は自分の心を直接彼女に見せた。
 アリスが見たのは彩羽の強化人間化への憎悪。それは、アリスが持っている憎悪と、それ以上の物だった。なのに彩羽は復讐をしようとはしていない。
 彩羽は姉の彩華をアリスに紹介した。
「私の双子の姉の彩華よ。アナタと同じように、パラミタ化を受けてコワレテしまったわ。アナタたちは、精神を分離してしまったけど、私の姉は、思考が幼稚化してしまったの」
 彩羽は唇を噛み切りそうな思いで、語る。それを彩華はお菓子を貪りつつ、不思議そうに見た。
「だから、アリスあなたもこうなってほしくないの……私は、彩華と同じ犠牲者を救いたいの……」
 今にも泣きそうな彩羽の頭を人形をあやす様に彩華が撫でる。
 そして、秋人が小さい体で、座り込むアリスに抱きついた。冷たい体が暖かくなっていく。
「もう大丈夫だから、怖がらなくていい。もう皆君を攻撃したりはしないよ。研究所の奴らに、君を利用する奴らに、君を渡したりするもんか!」
「秋人様……、それは……口説いているようにも……見えます……よ?」
 蕾がすこし、不満そうに言ったが、それでも彼女は《歴戦の回復術》をアリスに掛けて、先程の痛みを癒やしてあげる。
「アリス。これ……」
 加夜がアリスに、本を渡す。それは天御柱に押収された日記だった。
「これはアリサちゃん……うんうん、アリスちゃんの日記なんだよね。アナタはずっと、アリサを守るために、彼女の痛みを引き受けていたんだね。でも……」
 加夜は、日記を《サイコメトリー》した時の感情を思い出して泣いた。
「でも、それは好きな人にまた合うために。戦役に行ったパラミタ人の役に立とうと、強化人間になって実験に耐えたんだよね。それは、アリサも、アリスちゃんも同じだった。でも、嫌だよね……報われないのって。女の子だし……」
 泣きながら、加夜はアリスを抱きしめた。彼女も恋人と離れ離れになって会えなくなると思うと、心が痛い。
「前にも言ったな……俺たちは味方だって」
 レンがアリスに近づく。その途中で持っている武器を捨てた。攻撃しないと言う意思表示だ。
「それはアリサにだけ言った言葉じゃな。あの時は、お前をアリサに止めて欲しかったから、そうした。別人格だろうと、アリサもアリスも苦しんだんだ……。だから、もう楽になっていいんだ。誰かに頼っていいんだ。わかるだろう。ここに居る奴はお前を裏切ったりはしない。――お前の味方だ」

(アリス。……これだけの人にわたしもあなたも、味方になってもらっている。これだけの人がわたしたちを助けようとしてくれている。嬉しいわよね? あなたもわたし何だから。それに、わたしはあなたに感謝しているの。あなたが、わたしの代わりに多くの苦痛に、実験に耐えてくれたこと。わたしはあなたと代わってあげることはできなかったけど……、あなたの受けた痛みはわかるわ。ありがとう。
 そして、わかるでしょう? 皆あなたの痛みを共有してくれていることに――)

「「……ナンデだよ」」
「「なんで、ワタシはテメーらを殺そうとしてたのに、ワタシを助けようとするんだよ」」
「「よりによって、テメーらがワタシの痛みを理解しちまうんだよ」」「「そんなこと」」
「「「今まで、誰もしてくれなかったのに!」」」

 クソ! 糞!! くそ!!! と汚い言葉をなんども吐きつつ、アリスは泣いた。今まで、押しとどめていた、憎悪を悲しみと混ぜて一緒に涙として。
 そして、彼女と一緒に泣いてくれる人が居た。

 もう、彼女は復讐に心をかられることはない。
 アリサもアリスも実験されないよう、皆が働きかけてくれる。

 皆、アリスを説得し、救うことができた。

 これにて、一件落着