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暴走の眠り姫―アリスリモート-

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暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 ――天御柱学院 図書館内電算室

 PCを完備した個室の中。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がキーボードに対してものすごい勢いで入力をしていく。
 それを見てメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が「流石は教導団屈指の電算機」と褒める。
 彼は今、ツァンダの研究所から押収したHDDのデータの修復作業。消去データのサルベージを行っている。アリサの研究に関して、誰しもが一定以上の成果を出せないため、恐らくは、重要なデータは消去されていたのだと考えて、この作業に掛けることにした。
 勿論、引き続き、紙媒体からの情報検証はルカルカ・ルー(るかるか・るー)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、そしてメシエが行っている。
 検証するのは、アリサの能力秘密についてだ。
「どうもねー。アリサの《精神感応》て普通じゃないわよね」
 ルカルカが疑問に思ったこと口にする。
「確かに、他の連中からの情報だと『無意識』に鑑賞する能力で、機晶姫を動かしているらしいけどさ。てか、そもそも、なんで暴れてるんだ?」
 更にエースが疑問を広げる。それにメシエが解答を出す。
「一番は復讐でしょう。属派が違ったとは言え、極東新大陸研究所は彼女に多くの実験を強いていたようですからね」
「まあな、おまけに、なんか好きな人と契約しようとしてたのを、パラミタ化でそれができなくなっちまった訳だしさ。騙されて改造されたら復讐したくもなるか……」
 なるほどと、エースが納得する。しかし、ルカルカが更なる疑問を抱いた。
「あれ? でも、強化人間って普通の人間と契約できないのは周知の事実じゃない? アリサが知らなかったなんて変よ? 天御柱が極東新大陸研究所と提携したのが2018年。そのころに手術を受けていたとしても、騙されたは情弱過ぎるとは思わない?」
「それは、これのせいだろう」
 とダリルの解析が終わったようだ。皆、モニターに貼りつく。
「パラミタ化に伴う、多種族との契約実験。だそうだ。どうやら、強化人間とパラミタ種族で契約出来ないかと、研究していたらしいな。アリサもその実験に組み込まれていたようだ。結果は失敗だったようだがな」
「なるほど、それは一応の解決としましょう。では、アリサの能力の秘密について何かわかりましたか?」
 メシエがそう尋ねるとダリルは、「これだ」と言って新たなファイルを開いた。

 『《精神感応》による精神ネットワークの有用性について』

 被験体αの《精神感応》能力のポテンシャルはネットのサーバーのようなものである。
 他の《精神感応》所持者とつながることで、情報を並列化し、更に別の他者と並列化することで、多くの情報を瞬時に行き渡すことが可能である。これは既存のネットワークよりも素早い。なおかつ、被験体αのような能力者を媒介とすることで、あらゆる学習プロセスを一瞬で複数の人間に収得させる事が可能だと考えられる。
 更に、これを軍事利用するよう検討していく必要がある。

「なんかすごいサイバーな話だな」
 エースの感想。
「だが、これよりも問題はここからだ」
 ダリルが次のファイルを開く。


 『被験体αの《精神感応》能力について』
 
 彼女の能力はまず、タダの《精神感応》ではないことに注目する。
 通常の《精神感応》は《精神感応》を持つもの同士にしか有用ではない。面識も必要となる。
 しかし、彼女の場合、《精神感応》の所持者を複数経由し、面識のない他者でも通信が可能である。
 更に《精神感応》で繋がった者を媒介として、他の能力を使用できる点だ。
 ただし、彼女の場合は《テレパシー》と《テクノパシー》のみの使用を可能とした。
 そして、これは彼女の『無意識に干渉する能力』と結びつけることで、未覚醒の機晶姫、剣の花嫁の強制操作をさせることに成功した。
 ただ、他の種族を十分に操れたことはない。覚醒した二種族の操作も同様出来なかった。
 できるのは、せいぜい、彼女が直接《テレパシー》を飛ばした相手の少しの感情や意識を変えることだけだ。

 以後、ほかの開発も進めていく。

「からくりがようやくわかったわね。軍事利用の点はコリマ校長に話して、彼女の能力の事を捜索班に伝えないとね」
 ルカルカの言葉に皆頷いた。


 一方―― 校長室では――、
 
 イコナがビクビクするような空気の中での会話が繰り広げられていた。
 
「なるほど、あなた方はアリサの身柄を引き取りたいと?」
 A太郎が学院の要求を聞き、反論する。
「ですが、彼女は私どもの所有物です。確かに、あなた方には彼女を無事回収してくれた恩義があります。ですが、彼女は貴重だ。他の研究者に渡したくはないのです」
「校長、僕からも質問していいですか?」
 レオが手を上げて言う。コリマはそれを許した。もとより、この件を生徒たちでどうにかさせるためだ。
「貴方がたにアリサを引き渡したあと、彼女をどうするおつもりですか? 彼女は解離性同一性障害を患っており、大変危険な精神状態と言っていいでしょう。 その治療はなさるおつもりですか?」
「たしかに、その治療はすべきでしょう。カウンセリングと抗うつ剤での長期治療をへてそれを治すことは可能です。しかし、それはあくまで通常ならです」
「通常? それはどうしてです? それはアリサを処分出来なかった理由となにか関係がありますか」
 孝明は自分の質問も混ぜて、詳細を聞くことにする。
「彼女の別人格。あれは人為的に作られたモノなのです。急進派が彼女に課す実験による苦痛を軽減させる為に、解離性同一性障害と同じように『痛みを引き受ける人格』を作りだしたのです。その役目を果たしたのは彼女に施された脳埋込チップであり、彼女の能力を助長させているのもそれです。
 処分できなかった理由については、こちらの事情がありますので、解答を控えさせてもらいます。内部事情を解決するのに時間を要して、彼女の回収が遅れたのです。それに、彼女の研究をしていた急進派は我々の内部にはもうおりませんので」
 確かに内部抗争を表に出すわけにはいかないかと、孝明は納得した。回収をしなかったのではなく。遅れたとあらば、一応の理由には成っている。
「じゃあ、アリサはアリスの人格が会ってこそ、能力を開発できたってわけか」
 椿の言葉に「そういう事です」とA太郎が頷く。
「俺は部外者なんだが、回収に一応携わっている身として、質問してもいいですか?」
 鉄心に気になることがあるらしい。
(よかろう、話すといい)
 校長に「ありがとうございます」と礼を言い、鉄心は質問した。
「かなり、答えづらい質問かもしれませんが――、一口A太郎さん。あなた。ツァンダの研究所に務めていましたよね? あなたの名前の書かれたレポートが向こうで発見されております。『α計画』にも携わっていたみたいですね。どうなんですか?」
 この質問で室内の空気が一気に下がった。イコナがこの空気に耐えられなくなったらしく、動物ビスケットを取り出して「これはチキンですか? ……いいえ、これはひよこですわ、ぴよぴよ」と言い始めた。顔の一番怖いコリマに対して。コリマは無言でイコナの頭を撫でた。
「――、おっしゃるとおり、私はあの研究所にいました」
 一呼吸おいて、A太郎は答えた。
「しかし、私は急進派の人間だったわけではないです。いわいる別派閥からの潜入捜査と言う奴です。ああ本部から遠いところで研究を行っている故に、本部に情報が入り辛くありました。そこで、私が直接彼らの研究所に派遣されたのです。当時私は弊社の所属ではなく、この学校の研究所の所属でしたから」
 ティーがその言葉を《嘘感知》で真偽を確かめていた。「嘘では無いみたいです」と鉄心に耳打ちした。
「あなたが読んだと思われるレポートは、恐らく私が本部宛に書いた報告書でしょう」
 だから、あの研究所に天御柱の研究員が居たのだと、鉄心は納得した。
「なら俺からも、もう一つ」
 孝明が一番重要な質問をする。
「既に、アリサによって学院に被害が及んでいるのは周知して居るでしょうけど、彼女を止める方法は無いんですか? 今の彼女の能力はあまりにも危険です。彼女の能力を抑える方法があれば、お聞きしたい!」
 アリサを何としても止めないといけない。既に、彼女は学院の外に出たと言う。海京全体、更にはもっと広くに被害が拡大するおそれがある。それは、学院と彼ら研究者にも逃れられない責任問題になる。
「もし、それをなされたら、私どもは彼女を回収しにきた意味はなくなります……ですが、事は急を要しますね。いいでしょう、お答えします――」
 A太郎はこの騒動を解決する二つの方法を答えた。

 1つは、彼女を殺害すること。もう一つは……