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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

リアクション

「久しぶりに遊びに来たんだし、ハイナ達とのんびりしよう。
 こんちは〜っ!」

 午後も早い時間に、入れ替わって新たな訪問者が。
 とんとんとん……校長室の扉をたたくのは、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)だ。
 だが、なかからは返事がない。

「おかしいのう、おらぬのか?」
「ふむ、どちらかへおでかけされたんどすかなぁ?」
「ハイナさ〜んっ!
 房姫さ〜んっ!」

 再度、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が、扉をたたく。
 しかしやはり、なんの反応も見られない。
 首をかしげる綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)に、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は2人の名を呼んだ。
 すると。。。

「おっ、こっちへ来やれ!」
「すみません、貼り紙くらいしておけばよかったですね」

 少し離れた茶室の窓から、ハイナと房姫が顔を覗かせている。
 昼食後こちらへ移動したらしく、紫音達も茶室へと足を踏み入れた。

「ここへ入るのは初めてじゃのう」
「素敵な茶室やわぁ、手入れが行き届いてはる」
「畳の香り、落ち着きますえ」
「ちょうど『抹茶』と『茶道具』を持ってきたんだ。
 俺に点てさせてくれるか!?」
「えぇ、よろしくお願いいたします」
「どんなお茶が出てくるか、楽しみでありんす」

 アルス、アストレイア、風花は、茶室の内装にうっとり。
 一方、紫音はお茶を点てる準備を始めていた。

「あ、これは俺が昨日つくったお茶菓子だ。
 どうぞ」

 まず出されたのは、紫音作『錦玉紫陽花と水無月の和菓子』である。
 花びらの細かいところまでこだわってつくってあり、食べるのがもったいないくらい。
 そして、お茶も皆の前へと並べられた。

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 作法はもちろん知っているが、そこはもう無礼講。
 楽しくわいわい、お茶とお菓子を口に運ぶ。

「あの〜すみません、俺達も仲間に入れてもらえませんか?」
「構わぬぞ、入れ入れ」
「適当な場所へお座りください」
「お、こりゃもういっぺん腕を振るいますか!」

 出入り口の扉を開けておいたので、にぎやかな声が聞こえたのだとか。
 佐野 和輝(さの・かずき)とパートナー達が、ずらずらと入室してくる。
 紫音はお茶菓子を配り、追加でお茶を点てた。

「どうぞ」
「ありがとうございます。
 すみません、飛び入りで来ちゃって」
「お茶までいただき、感謝ですわ」
「よいよい、妾達も休憩しておったところじゃて」
「一緒にゆっくりいたしましょう」

 和輝とスノー・クライム(すのー・くらいむ)の丁寧な礼をうけ、みなは微笑む。
 ともに茶を飲む仲間が増え、嬉しいかぎりだ。

「ほら、アニスも突っ立ってないで、早く座ってください」
「無理だよ、足が痛いんだもん」
「仕方ないですね……すみません、みなさん。
 アニス、俺の膝に座りなさい」
「えっ、あ、ありがとう」

 和輝に促され、アニス・パラス(あにす・ぱらす)もゆっくりと腰を下ろした。
 誰もいない方へ向けて、その細い脚を伸ばす。

「行儀の悪い感じなって、本当にすみません」
「今朝のこと、アニスったら足首を捻挫してしまったのよ」
「アニス、遠足すっごい楽しみにしてたんだよ!?
 スノーが【ヒール】で治せば行けたのにっ……意地悪っ!!」
「成長期のアニスには、外部的治癒は逆効果だと思うの。
 ひどいようだけど、緊急でないかぎりは自然治癒で治さないとね」
「ぶ〜っ!」
「それに、和輝に甘やかされて嬉しいんでしょう?」
「ふっ、ふんっ!
 そんなことないもん!」

 からかわれ、わかりやすい反応を返すアニス。
 和輝の行為を弁明する意味もこめて、スノーが事情を説明する。
 みなも理解を示してくれたので、このまま膝に座っていられることになった。

「落ちないでくださいよ、アニス」
(和輝ったら、お腹に手までまわしてくれて……うしろから抱きしめられてるみたい。
 もしなにも知らない人から見たら、恋人同士に見えるかな?
 ……どうしよう、そう思ったら恥ずかしくなってきちゃったよ)
「総奉行さまは、日本文化が好きだそうですね」
(ひゃう!?
 和輝の息が、首筋にあたるよ!)
(アニス、自分の言ったわがままに翻弄されてるわね……まぁ面白い)
「和輝、そこにあるふきんをとってもらえないかしら?」
「へ、あぁ、ちょっと待って……」
(ひゃあ!?
 和輝の唇が、すぐ横に!)

 ブラックスノー発動!
 和輝にわざととらせた体勢は、そうなるように狙ったものだ。
 赤面するアニスに、心中でますます笑う……けど。

(……別に、羨ましいとは思ってないわよ?
 ほ、本当よ!!)

 なにか、ほかの気持ちも芽生えてきて、内心複雑なスノーである。

「総奉行さま、そんな日本文化はありませんよ!?」
「なぬっ!?」
「いやいや、変だと思わなかったのですか!?」
「うむ、そんなこともアリとはあっぱれじゃと思うておった!」
(あれ?
 俺はなんで総奉行さまへのツッコミをしているんだ?
 おかしい……遠足に参加してないのに、この疲労感はなんだ?)

 なにも知らぬ和輝はというと、いつのまにかハイナと漫才めいた会話をしていた。
 というか、脳をフル回転させても、ハイナの話は理解不能。
 つっこみどころが満載すぎてもう……その頃、外には男女の姿があった。

「葦原明倫館の真のツンデレは未散くんですぞ!」
「え、なに言ってんのこいつ。
 そもそもツンデレってなに?」

 どうにもかみ合わない言葉を交わしつつ、茶室へと歩いてくる2人。
 ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)と、若松 未散(わかまつ・みちる)である。
 その手には、菓子折りが提げられていた。

「ツンデレというのは、好きな人の前でツンツンした態度とデレっとした態度をとってしまう人のことでございます」
「ふ〜ん」
「好きな人の前では照れてしまうため、照れを隠そうと、基本的には素直でないツンツンした態度をとってしまうのです。
 ですが好意はあるので、ときどきだだ漏れてしまうという、それがデレでございますね」
「なるほど……」
「つまりは、未散のわたくしにたいする態度がツンデレでございますよ」
「へぇ……ってそれじゃあ私がハルのことが好きみたいじゃないか!
 ふざけんな!
 認めないぞ!」

 ハルの発言に、猛反発する未散。
 そう、まさにこれこそ『ツン』の状態なのだ。

「たのも〜っ!」
「っおいっ!」

 抗議なんてまったく無視して、ハルは校長室の扉を開く。
 なかには、まったりお茶をしに集まった面々が。

「なんじゃ、騒がしいのぅ」
「ほんに」
「房姫さまのはツンデレとは言いませんぞ!」
「おい、落ち着けって!」
「というかわたくしの周りに、ツンデレは2人もいらないんですよ!」
「なんだよ、それ……」
「つんでれ?」
「誰がじゃ?」

 菓子を差し出すかたわら、房姫につっかかった。
 しかし、ここでもまた? 

「ですから、ツンデレというのはですね……」
「もういい、知らん……ここ座ってもいいですか?」

 きょとん顔のハイナと房姫に、解説をし始めるハル。
 なんだか、とても嬉しそうだ。
 あきれた未散は、すでに始まっていた茶話会に参加すべく、腰を下ろした。

「房姫さま!
 ツンデレの座をかけて、未散と勝負をしていただきたいのでございます!」
「なっ、わたくしはツンデレではございません!」
「いやいや、妾にたいする態度、そのものでありんす」
「そうですよね、そう思われますよね!?」
「違いますから!」
「うむ、これがツンの状態なのじゃな?」
「そのとおりですよ、ハイナさま。
 さて、ここで出したるはメイド服〜!」
「なにをっ……」
「可愛いのう」
「これでわたくし達にご奉仕してください!
 恥ずかしがらずにできた方がツンデレではないと証明されるのではないでしょうか!」
「証明など不要です。
 わたくしはツンデレではございませんので……」
「否定せずともよい、房姫。
 じゃが、妾もその勝負は受けかねるのう。
 房姫の着物を脱がせてもよいのは、妾だけでありんす」
「はっ、ハイナっ!?」
「ま、これを着ずとも、いつもどおりの房姫がツンデレじゃからのう」
「そうですか……これは残念」

 ハルの持ちかけた勝負は、ハイナの許可が下りずに頓挫。
 ただし。。。

「周りの者が見て、どちらか判断すればよいのではないかのう?
 自然な状態でのツンデレ度を競わねば、そのような勝負は無意味であろう」

 ハイナの一声で、別のかたちでの勝負が実現したのだった。