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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

リアクション

「しかしまぁ、今回も面倒ごとを押しつけられましたね」
「日頃のおこないが悪いからですよ」
「おい、俺のせいかよ!?」

 校門からほど近く、奥まった場所にある茶屋にて。
 お茶を飲み、まったりしている紫月 睡蓮(しづき・すいれん)
 視線を横にずらせば、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)がようかんをほおばっている。
 向かいに座る紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だけが、なぜか戦々恐々とした表情。

「ハイナの頼みとあっちゃ、断るわけにもいかんだろう?」
「ふん、いくじなしです」
「どうせ金につられたのでしょうし」
「うっ……そりゃ『バレずにすむか逃げ切れば予算アップ』って条件は美味しいさ」
「本音が出ましたね」
「でも、自分のお金になるわけじゃないのに……人がいいよね」
「みんな、食券かかると本気だもんなぁ。
 陰陽科のためにも、がんばらないとな」

 実は、唯斗は4人目の芋判持ちに任命されていたのだ。
 スタンプカードに『ゆ』の判子があれば、商品の食券が5枚追加される。
 ちなみに、追加分のお金は陰陽科の予算からさっぴかれるのだとか。

「まぁいいさ、活気づけのための予算をゲットだ!
 それに、俺も食券欲しいしな」

 このことを知っているのは、ハイナと房姫のみ。
 ほかの芋判持ち達にも伝わっていない、いわゆるトップシークレットというやつだ。
 唯斗の正体をばらさず、かつ芋判も集めようと決めて、茶屋をあとにした……瞬間。

「あ!
 あの人もしかして忍者のお兄ちゃんかもしれないよー!?」
「ちぃ〜す♪」

 背後から、聴いたことのある声が。

「あれ、ちがったや」
「やっほ〜!
 自分、唯斗はん、やったよな?
 そっちはどうやった?
 佐保ちゃん達おったか?」
「いや、いなかったよ」
「そっかぁ残念、ありがとう!」
「あぁ……」
「せや、せっかくやし、一緒に探さへん?」
「お姉ちゃん達も行こう!」
「そうですね」
「唯斗さん、ここは協力させていただきましょう」
「え、あぁ……よろしくな」
「わ〜いっ!」
「よっしゃ、そうと決まりゃ早よ行こか!」
「ちーちゃん、お弁当つくってきたんだ!
 あとでみんなと食べるー♪」

 プラチナムは、下手にこそこそするより、どうどうと行動する方が怪しまれないと思ったのだ。
 それに芋判も集まることを考えれば、一石二鳥。
 睡蓮の勧めもあり、唯斗はためらいながらも共闘を了承する。
 嬉しそうな千尋を見やり、社も自然と笑みをこぼした。

「3つもスタンプを集めるのか〜結構大変そう……でもがんばっちゃうよ!
 楽しんだもの勝ちだよね♪」

 さっと隠れたと思ったら、華麗に衣装チェンジして出てきた秋月 葵(あきづき・あおい)

「どんな事件も素早く解決!
 まじかる判事・リリカルあおいにお任せだよ☆」

 箒を手に、びしっとポーズを決めた。
 隣には、大きな犬が控えている。 

「こんなこともあろうかと、秘密兵器を用意してたんだよ♪
 ジャーン!
 パラミタセントバーナードのアッサムちゃんだよ☆」

 犬も元気に、わんっと一声。

「まずは、1番見つけにくそうなゲイルちゃんかな?
 真面目に変装とかしてそうだから……アッサムちゃん、ハイナちゃんから借りたゲイルちゃんのハンカチだよ〜」
(匡壱ちゃんはすぐ見つかりそうな気がするからあとまわしでいいや♪)
「アッサムちゃん、準備OK?
 それじゃーれっつごー☆」

 駆け出す犬を追いかけ、葵も出発!
 【空飛ぶ魔法↑↑】で宙に浮き、陸と空の両方から探す策戦だ。
 刹那、とある心配事が頭をよぎった。

(そういえば……城下町へ走っていったグリちゃん、どうしてるかな。
 グリちゃんのことだから今頃、この前の甘味所辺りで油売ってる気が……」
「まぁいつものことかぁ〜」
(でも、あとで回収しなきゃ……代金)

 パートナーのことを想い出し、大きなため息を吐く葵である。

(親友の命令では仕方ないが……いつもどおり、今回も面倒事か)

 独り、城下町を急ぐ神条 和麻(しんじょう・かずま)
 一緒に来たわけではない親友に、食券をもらってこいと命令されて、ここにいたる。

「まったく、俺は留学中だっていうのにな」
(それに、こんな年齢になって遠足っていうのもどうかと思うが……)
「遠足とは、学生らしくてよいのではないか?
 お前は旅暮らしの癖が抜けないからな。
 たまにはこうして学生らしい行事に参加して、純粋に楽しむがいい」
「そう、だな。
 葦原はあんまり行ったことがないし、なんとなく楽しそうだから参加しとくぜ」

 そんな和麻の前に、葦原明倫館の生徒が現れた、
 見れば、スタンプカードには朱く『さ』の文字が。

「あ、あのっ!」
「「ん?」」
「そのスタンプ、どちらで?」
「あぁ、あの角を曲がったところにあるたこ焼き屋でもらったんだ!」
「そうか、ありがとうな!」

 それだけ訊くと、和麻は猛スピートで走り去ってしまった。

「あの者も、遠足の参加者なのだな」
「ふ〜ん……だが、えらく焦っていたな」
「そりゃそうだ、もたもたしていてはいなくなってしまうであろう?
 スタンプラリーというのは地球でよくやるレクリエーションの1つだが、普通は置いてあるスタンプを集めるのだ。
 こんな風に、動いている対象を探すということはやらないよ」
「そうなのか?」
「ま、ほとんどパラミタ育ちのお前にとってはこれが初めてのスタンプラリーだから、知らなくても仕方ないか」
「スタンプラリーに遠足、どちらも地球ではよく行われるんだったな」
「あぁ」
「あちこち動きまわっている3人を探すのは、骨が折れそうだ」
 
 和麻に佐保の居場所を教えたのは、ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)
 パートナーのレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)に促され、遠足へ参加していた。

「けど俺、どっちかというと葦原見物の方がやりたいんだよな」
「よいのではないか?
 興味があるなら参加しろとは言ったが、強制ではないのだから」
「そうか?
 じゃあ、のんびり行くか。
 食堂のタダ券は魅力的だが、せっかくの機会だし」
「うむ」
「のんびりと、そこらの茶屋や甘味処にでもよりながら探そう」
「そうしろ……って早っ!?」
「すみませ〜ん、これ、持ち帰りとかできるのか?」
「ふふふ……」
(まぁ、ロアが純粋に楽しんでくれれば、それで構わぬ)

 レヴィシュタールの賛同を受け、ロアは焼き鳥屋ののれんをくぐる。
 ロアの笑顔を微笑ましく思い、ゆっくりと、レヴィシュタールも店へと消えていった。
 そのとき。

「貧乳が好きでたまらないと噂の丹羽匡壱さま〜、丹羽匡壱さま〜」

 これはたいへん!
 城下町中に響き渡るほどの大音量で、へんな放送が流れている。

「甘味の栄養が胸にいかないかとお悩みと噂の真田佐保さま〜、 真田佐保さま〜」

 しかも放送は、ほかの人達にもおよんでいく。。。

「房姫さまが新たな犠牲者を出さないか心配と噂のゲイル・フォードさま〜、ゲイル・フォードさま〜」

 あれ?
 これだけは本当かも。

「早くスタンプ持ってこないとあることないこと噂にしちまうぞ〜」

 う〜む、こりゃ完全に迷子センターのノリだ。
 しかも内容が最悪である。

「さぁて、暇な時間は甘味どころでゆっくりさせてもらいましょうかねぇ」

 好き勝手言いまくってから、放送室を出た切。
 意気揚々と、城下町へ足を運ぶ。

「もぐもぐもぐ……このお団子、美味しいなぁ」
「こやつでござるな?」
「いかにも」
「嘘ばっかり流してくれやがって」

 ばれた。
 そりゃ当然である。
 たとえ放送器具をとおしての声だとしても、面識のある切の声を聞き間違えるわけがない。

「さて、覚悟はよろしいですね?」
「どうしてくれようでござるか」
「ふん、スタンプぜってぇ渡さねぇ!」
「が〜んっ!」

 それでも、普段パートナーからされている仕打ちよりは軽い、絶対に。

「こうなったら城下町の甘味食い倒れだぁ〜っ!」

 若干ヤケになった切は、団子の串をくわえたままで歩いていく。

「とりあえず……行事は……参加しないと……ん?」

 やさぐれ切とすれ違ったのは、テンサ・トランブル(てんさ・とらんぶる)だ。
 軽く振り返るが、そのまま、歩を進める。

「学校の行事……受けないと。
 でも……故郷と違って……変わったもの……多いな」

 フードを目深にかぶって、周囲をきょろきょろ。
 実はテンサ、葦原島にかんする知識はほぼゼロに等しいのだ。

「あっ……これ……可愛い」

 そんなテンサの眼に止まったのは、店先に展示された花柄の着物。
 カラフルな刺繍がほどこされた、繊細な一品である。

「模様……メモ」

 見たことのない花を見つけ、ペンとノートをとりだした。
 なにやら必死に、色までつけて、描き記している。

「生地……どんな……かな」

 ためらうことなく、触れてみるテンサ。
 すそをめくってみたり、刺繍糸をなぞってみたり。

「なんか……気持ちいい」

 店先でにやけるテンサは、なかなかに不思議がられていた。

「次……土産物屋……行こう」

 夢中になったら、スタンプラリーそっちのけ。
 ウインドウショッピングめいたお散歩を、楽しむテンサだった。