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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

リアクション

「葵〜なに、ぐずぐずしてるにゃ!
 タダ券がイングリットを待ってるにゃ!」

 開会式が終わると同時に、即行で校門を抜けるイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)
 特徴は、飽きっぽい性格と燃費の悪さかな。
 遠足自体は面倒くさいと思いつつも、食券という餌につられて参加を決めた経緯がある。

「うにゅー、いないにゃー」

 ゆえに、ほかに興味が移ってしまえば、それまでだ。
 パートナーを見失い、周囲をきょろきょろ。

「腹が減っては戦ができにゃいっていうにゃー」
(いまのイングリットには、あんみつ分が不足しているにゃー)

 そうして、甘味処へと導かれていく。。。

「これ食べたら再開するにゃ……ジィ〜」

 お品書きを、ものっすごい近距離で見つめたら?

「おねぇさん!
 白玉あんみつ大盛にゃー」

 店外にも聞こえるくらい大きな声で、イングリットは注文を叫んだ。
 と思ったら、またもやメニュー表に視線を落とす。

「おねぇさん!
 わらびもち大盛追加にゃー」
(お財布の中身なんて気にしないにゃー)

 こんな調子で注文を繰り返していたもんだから、机の上は甘味でいっぱいになってしまった。
 だが食べるのも早くて、すぐに器は空っぽっぽ〜♪
 お店としては、嬉しい反面てんてこまいになっていた。

「葦原にはなかなか来る機会がありませんので、ゆっくり見てまわりたいですわ。
 想い起こしてみれば、これまでも用事を済ませるだけでしたものね」
「マホロバ出身の私にとって、それほど目新しいものはありませんが……それでも、この空気は懐かしいですね」

 学校から続く大通りを、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は満面の笑みで歩いている。
 幸田 恋(こうだ・れん)も、セシルにつられて笑顔を浮かべた。

「セシル殿の出身は『あめりか』という国でしたよね。
 やはり、葦原のものは珍しいのですか?」
「えぇ、そうですね。
 洋食や洋菓子は得意ですが、和風の物はあまり詳しくありませんので……和風の料理やお菓子も楽しみたいですわ」
 恋さんはマホロバ人ですから、こちらの文化にも詳しいですわよね?」

 育った環境が違えば、知っていることも当然異なるわけで。

「少なくとも、セシル殿よりは、ですね。
 いつもお世話になっていますので、ここは私が案内とか解説を……」
「本当ですか、嬉しいですわ!」
「がんばりたいと思います」
「よろしくお願いしますわ」
「あ、茶店がある……おいしそう……」
「れっ、恋さんっ!?」
「セシル殿、早くおいでください!」

 店外のショーウィンドウを覗きこみ、ぱぁっと明るくなる恋。
 嬉しそうに、セシルの手をひき駆け出した。

(ふふふふっ……恋さんも、和食の方が馴染み深いのでしょう。
 ここで学んで、今度つくってさしあげたいですわね)

 恋を想い、心中で笑むセシルである。

「あのー、ゲイルって人、知らない?」
「え、ごめんなさい、わからないわ」
「お役に立てず、すみません」
「いえ、ありがとう」

 入ろうとした茶店から出てきたのは、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)
 すれ違いざま、セシルと恋に探し人の行方を問うた。

「ふう……エッツェルのやつがいろんな人に迷惑かけるから、たいへんだよ」

 休日であるうえ遠足ということで、城下町はいつも以上に人の往来が激しくなっている。
 しかも探し人は、簡単には見つかりそうにないときた。

「ったく、ゲイルって人も、どこにいるんだか……」

 これまで数十人に訊ねたが、誰も知らない。
 遠足の主旨を聴いたかぎりでは、たとえば変装した本人に声をかけたとしても、真実は明かさないだろう。

「あの馬鹿め……少しはあたしの苦労を知れよな!」

 義理の親子のような関係だとはいえ、ともすれば腹も立つ。
 輝夜が、パートナーに文句を言っている頃。

「へくしゅっ……風邪か?」

 自宅にて、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がくしゃみをする。
 エッツェルは本日も、怪しげな研究にいそしんでいた。

「ごめん、ゲイルって人、知らない?」

 それでも輝夜は、質問を繰り返す。
 なんとか見つけ出してきちんと謝らなければ、今日は帰れない。
 しかし、やはり知らないと言われてしまった。

「ふぅ、また駄目か。
 お菓子を手土産につくってきたけど、甘いものって好きなんだろうか?」

 包みを膝に乗せ、輝夜は公園のベンチへと座り込む。
 中身は、お手製の『芋ようかん』だ。

「ま、とりあえず本人を見つけないとねw」

 見つからないのも、なんだか少し楽しくなってきた輝夜。
 焦らずゆっくり捜索しようと、次に声をかける対象へ近づいていった。

「ふぅ〜美味しかったぁ」
「そうね♪
 このあんみつっていう食べ物、初めて食べたわ!」

 甘味処にこだまする、元気な女性達の声。
 正体は、ルクセン・レアム(るくせん・れあむ)リリアン・ネイル(りりあん・ねいる)である。
 葦原島のパンフレットを片手に、城下町を散策していた。

「お友達から聞いていたとおり、ここには珍しいものが多いわね」
「うん、うきうきしちゃう!
 それに2人でこういうことするのも久しぶりだもんね!」
「そういえばそうかも。
 最近、いろいろと忙しかったもんねぇ」

 器に残った蜜を綺麗にすくいとって、2人はスプーンを置く。
 向かい合って、笑った。

「さ、次はどこへ行く?」
「そうだなぁ……あ!」
「もしかしていま私達、同じこと考えてるかも?」
「せ〜のっ!」
「「学校!」」
「だよね!」
「うんっ!」

 そう、2人にとって珍しいのは、城下町だけではない。
 支払いをすませたら、葦原明倫館を目指して歩き始めるのであった。

「……葦原に来たからには団子を食わずには帰れん」

 腕を組んだまま、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)はどすんと腰を下ろす。
 団子屋の前に置かれている長椅子が、ちょっときしんだ。

「主人、団子をよりどり30人前注文だ!」

 注文数を聴き、慌てて店内へと駆け込む主人。
 たいして、氷藍は余裕をぶっこいている。

「……ふぅ……やはりこういう場所は落ち着く……」
(ツァンダにも、もっと和風文化があってもいいと思うんだがな)

 ゆったり流れる雲を眺めて、しみじみそんなことを感じた。
 葦原島の文化が、島外へ進出する日も近いかも?
 そして、椅子の端に団子の山。

「ん、やっぱ神社たてよ。
 そんでそこに住もう……もちもち…………主人、おかわり」

 数人前ずつ出される団子を、出されたそばから食べ尽くす。
 皿を返すごと口癖のように発してしまうので、いったい何人前を頼んだのかよくわからなくなっていた。

「にゅふ〜♪
 ボク、いまとっても幸せだな〜!
 家康とお茶できて!」
「……なんじゃ、遠足には向かぬ天候じゃの……」

 氷藍の横では、なにやらかみ合わない会話が。
 黒崎 椿(くろさき・つばき)徳川 家康(とくがわ・いえやす)の2人だ。
 椿が話しかけるのを、家康は必死に躱しているようにみえる。
 ちなみに天候は、午後から少し下り坂になっていた。

「ねぇねぇ、家康?」
「ん?」
「正直に言ってね?」
「あ、あぁ……」
「ボクのこと……好き?」
「それはつまり……嫁にしろということか!?」
「うんっ!」
「わっ、わしは、貴様の昔の恋人とは違う!
 ……貴様が望むような恋人にはなれぬ……ましてや、伴侶になど……」
「もちもち……」
(家康のやつ、まだ煮え切らんのか……。
 ……こいつ、変なところで自己嫌悪したりするしな……。
 おおかた、椿の想う『恋人』像を壊したくないんだろう)

 団子をほおばりながら、気になるのはパートナー達のこと。
 いい雰囲気になりながらも、あと一歩が出ないよう。

(ちょっと脅してみるか……)
「いいか家康!」
「なっ!?」
「こいつはお前のことを想って、牛乳ガブ飲み人体改造までしたんだぞ!?
 そんな覚悟も受け入れられん懐の小さい御仁じゃあないだろうが」
「っ……わしは、そのような器の小さき男ではない!」

 椿と家康の関係を進展させるため、氷藍は家康を脅しにかかる。
 そして、まんまとのってきた。

「……よいか、正直なことを話す。
 わしは己の妨げになるのなら、妻も息子も殺すような者じゃ。
 それでも構わぬというのなら……わしのそばにいろ。
 貴様が我が妻にふさわしいか否か、この眼で見定めてやるわ!」
「本当!?
 本当の本当!?
 それって好きってことだよね!?
 ボク、嬉しくて泣いちゃいそうだよ……!」
「……かっ、勘違いするな!
 そばにいろと言っただけじゃ!」
(……お、言えた言えた)
「これでお前らは結婚を前提としたお付き合いの仲ってことだな」
「氷藍、貴様も話を飛躍させるなっ!!」
「家康?」
「なんじゃ?」
「手、繋いでいい?」
「う……まぁ、よいぞ」
「家康、ありがとう。
 そしてこれから恋人としてよろしくね。
 にゅふ♪」

 また1つ、恋が実った瞬間である。