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リアクション
第5章(3)
「あ、あの……敵さん、来ました、けど……」
白き虎の間の奥に位置する扉。そこから覗き込んでいたアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)が調査メンバーを発見し、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)に伝える。
「来やがったか。どんな奴だ?」
「えっと、男の人が一人と……女の人が三人、です。男の人は銀色の髪に赤い眼で……ちょ、ちょっと怖いです」
「銀髪に赤眼だぁ……? おい、その男、でかい剣を持ってねぇか?」
「は、はい……持ってました……けど」
アユナの報告を受け、笑みを浮かべる竜造。銀髪赤眼の大剣士。その特徴を持つ男の中に一人、自分が剣を交える事を楽しみにしている人物がいた。
「ククク……こんな神殿くんだりまで来やがるんだ、間違いねぇ。こいつはどうやら愉しい殺し合いが出来そうだぜ……!」
長ドスを手に立ち上がる竜造。いざ戦いとなればアユナは基本的に竜造に従うだけだ。白い外套、魔鎧となった彼女を竜造が羽織り、戦場へと繋がる扉を開ける――
「玉藻さん、雷が止みましたね」
「うむ、向こうで戦っている者達が何かしたようだな。これで少しは楽になるか」
部屋の奥側を探索していた封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)と玉藻 前(たまもの・まえ)がそんな会話を交わす。
「あ、決着がついたみたいだね。もう敵はいないかな?」
同じく遠くの戦いを見ていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が一安心する。が、隣の樹月 刀真(きづき・とうま)は表情を硬くしたままだ。
「どうしたの刀真?」
「気を付けろ。まだ……いる」
その言葉に導かれたのか、正面にある扉が開く。中から出て来たのは白き外套を纏った男――竜造。
「よぉ。てめぇ、巷でご活躍のロイガ様だろ? ちょいと殺り合わねぇか?」
「お前は……」
「別に俺の事なんざどうでもいい。ただ、てめぇと愉しい時間を過ごせりゃいいんだよ」
「そうか。俺もお前の事に興味は無い。殺されたいのなら……かかって来い」
両者が剣を抜き、構える。だが、どちらもまだ動かない。互いに百戦錬磨の経験を持つ者同士、相手に斬り込むタイミングを窺っていた。
「刀真!」
その後ろ、味方の陰になった場所から月夜がラスターハンドガンで狙撃をした。強化型光条兵器であるこの武器は刀真をすり抜け、その先にいる竜造を直接狙う。
「ちっ」
竜造は興醒めとばかりにそれを回避すると、勇士の薬を取り出して一気に飲み干した。そうして素早さを上げた肉体で一気に刀真へと肉薄する。
「甘いな……速くても隠し切れない殺気が明確に語っている」
「へっ、隠すなんて下らねぇ真似なんかするかよ。さぁ、殺り合おうぜ!」
竜造の突きをスウェーでかわし、刀真の反撃もまたスウェーでかわされる。互いに相手の手を読んで進む戦いは、三度目の斬り合いで鍔迫り合いの状態に持ち込まれた。
「このままでは埒があかんな。月夜、我らで刀真を助けるぞ」
「うん! 玉ちゃん」
玉藻には得意の炎があり、月夜は先ほどの射撃がある。刀真自体地力では竜造以上なのだ。二人が手助けすれば負ける道理は無い。
だが、それを妨害する者が現れた。アユナが魔鎧状態を解除し、二人の前にアシッドミストを放って視界を塞ぐ。
「駄目、です。大切なひと時を邪魔したら。私だってトモちゃんとの時間を邪魔されたら……その人、殺します」
そうしてる間にも二人の鍔迫り合いは続いている。ただ冷静に相手を殺す事を考えている刀真に対し、竜造はどこか愉しそうだ。
「さすがロイガ様だぜ。力も速さも期待以上だ。ククッ、それに人望もありやがるなぁ?」
「それがどうした」
あくまで目の前の敵を排除するだけの刀真にとって相手の主義主張は――いや、むしろ自身の行動が他人に善悪でどう判断されるかすら興味は無かった。ただ自分が納得する強さを手に入れる、それだけを求めて。
「褒めてるのさ。てめぇの後ろにはあの女共がいて、互いを護ってやがる。眩しいぜ? ――その絆が切れた時の絶望した表情を見たくなるくらいになぁ」
「――!」
刀真がかつて護ろうとした女性。それはこのパラミタではあまりにも有名過ぎる人物だった。
そして護りきれず、敵討ちすら果たせなかった過去。自身の弱さに絶望したあの傷を抉られたような気がした刀真の表情が険しくなり、言葉にも荒々しさが見え隠れする。
「貴様……いい度胸だ。俺が殺してやるよ。月夜、玉藻、お前達は手を出すな」
「刀真……」
二人は心配そうな顔で刀真を見るが、立ち込める殺気に説得を諦め、白花の護衛に回る。アユナも月夜達が邪魔しないのであれば場をかき乱す必要も無いので、竜造の一騎打ちをただ見守っていた。
「感謝しろ……貴様の息の根、すぐに止めてやる」
「ククク、そうこなくっちゃなぁ。くだらねぇ殺り合いよりは一瞬だろうと最高の斬り合いがあった方が愉しめるぜ」
二人の間にこれまで以上の殺気が発せられる。宣言通り、これが勝負を決める一撃となりそうだった。
「はぁぁぁ!」
「オラァァッ!!」
刀真と竜造の武器が激突する。両者共に金剛力で強化された攻撃は武器を軋ませるほどだ。
「ハハハッ! 最高だぜ、こいつはよぉ!!」
武術にも長けた竜造が刀真の武器を蹴り上げる。そのまま無防備となった刀真を一刀両断にする。それで終わり――のはずだった。
「顕現せよ『黒の剣』」
突如黒い刀身の片刃剣が現れる。月夜との契約によって生まれし光条兵器だ。この奥の手によって逆に竜造の胸元に横一文字の傷を付け返す。竜造がとっさに龍鱗化を使った為に致命傷とはなっていないが、それでも勝負が決まったと言って良い一撃だろう。
「チッ。首を狙ったつもりが、外したか」
「……ハッ、いいぜ、その殺気」
「安心しろ。すぐに貴様にくれてやる」
先ほど弾き飛ばされたトライアンフを拾い直し、再び構える。
「そうかい。なら最後にいい事を教えてやるぜ。てめぇが護る相手、そいつはそこの女共だけか?」
「何?」
「てめぇは何の為にここに来てるのかって事さ」
「――まさか、貴様」
「ククッ……さて、何の事だかな」
「チッ……」
既に抵抗出来ない竜造に背を向け、白花達の下に戻る。二人の会話が聞こえていなかった彼女達は突然の事に疑問符を浮かべるだけだ。
「三人共、戻るぞ」
「宜しいのですか? 刀真さん。あちらの方は放っておいて」
「それどころじゃ無い……教授が狙われている可能性がある」
その一言で三人とも状況を理解した。駆け出す刀真の後に続き、急いで入り口へと引き返す。そんな四人を見送り、アユナはおずおずと竜造へと近づいた。
「あ、あの……傷、大丈夫ですか?」
「へっ、この程度の傷なんざすぐに治る。それよりも……これからもまた、愉しい殺し合いが出来そうだな」
刀真達が戻って行った方を見て笑みを浮かべる竜造。その満足そうな表情を崩さぬまま、二人は扉の向こうへと去って行った。
「ねぇ麻羅。あともう一つ部屋があるけど――」
「行かぬわ! これ以上残機を減らすのは沢山じゃ!」
ザクソン教授達調査班が待機している地下一階の階段前。三部屋の探索を終えた水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)と天津 麻羅(あまつ・まら)はここに戻って来たのだが、行く先々で酷い目にあった麻羅は戻るなり隅っこで膝を抱えていた。二人の会話に、ここでザクソンの護衛を行っていた源 鉄心(みなもと・てっしん)も加わる。
「残機?」
「そう。何か致命傷を受けて倒れる割にはすぐ復活するのよね、麻羅は。えっと――」
手持ちのテクノコンピューターからユビキタスで外部に接続する。
「スペランカーはクラスレベル÷10回、力尽きても蘇る事が出来るんですって。麻羅は40だから4回、つまりあと1回は倒れても復活出来るって事ね」
「クラス? レベル? キミは一体どこにアクセスしたんだい?」
「『蒼空のフロンティア』マニュアルのワールドガイド」
「メタな話は止めんか!!」
思わず麻羅が突っ込む。『お前が言うな』という逆突っ込みはこの際無視だ。
「ともかく、わしはもう下には行かんからな。残機2で残り一部屋とかどんなフラグじゃ」
「でも『わしはここから出ないぞ』っていうのも結構フラグらしいわよ?」
「不吉な事を言うでない! そういう事を言うと本当に――」
「――しっ、二人共静かに」
突然鉄心の空気が張り詰めた物に変わる。次の瞬間、彼が嵌めているリングからシールドが発生し、ザクソンを狙った短刀を防いで見せた。
(皆が分散した今が手薄だと思ったけど、まさか護衛で残っている奴がいたとはね)
攻撃を仕掛けた松岡 徹雄(まつおか・てつお)が素早く陰に隠れる。鉄心さえ上手くかわせば付け入る隙はありそうだ。
「念の為とは思ったけど、教授の護衛に残っていて正解だったみたいだね。キミ達も気を付けて」
鉄心が警戒を強める。だが、ザクソンを始めとした調査班全員をカバーするのはさすがに厳しい。相手もそれを分かっているらしく、徹雄が再び姿を現したのは鉄心と真逆の方向だった。
「やらせないわ! ――麻羅!」
「え?」
緋雨がとっさに麻羅をぶん投げる。サイコキネシスで修正された軌道は徹雄の真正面へと――
「人殺しー」
麻羅の断末魔が響く。さざれ石の短刀を突き刺された麻羅は倒れ、ぴくりとも動かなくなった。
【天津 麻羅】残機:1/5
(いやー、さすがのおじさんもこれは予想外だったな)
刺した当人もびっくりする麻羅の身体を張った(張らされた)防御。幸いそれは無駄死ににはならず、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が戻って来るまでの時間稼ぎとなってくれた。
「見つけました! 無駄な抵抗は止めて、大人しくして下さい!」
鉄心だけでなくティーまでもがザクソンを護るように立ちはだかり、徹雄の依頼遂行を困難にする。特にティーは手錠を用意して、捕らえる気満々だ。
(前回に続いて依頼失敗となると雇い主が怒りそうだけど、仕方無いかねぇ。出来れば護衛がいた事とこうして向こうに調査続行の危険性を知らしめた事で帳消しにして欲しい所だけど……無理かな)
ガスマスク越しの表情は変える事無く、心の中でため息をつく。ともかくこれ以上の長居は無用なので、徹雄はしびれ粉を混ぜた煙幕ファンデーションを使用して視界を奪うと、それに乗じて地上側へと撤退して行った。
「教授は大丈夫か!?」
煙幕が晴れて少しした頃、地下二階から刀真達が上がって来た。被害状況を確認していた鉄心が彼の所にやって来る。
「もしかして、敵が来る情報を掴んできたのかい? それなら今さっき襲撃があったばかりだよ。幸い――と言っていいかは分からないけど教授は無事だよ。ただ――」
鉄心の視線が横に向く。そこには残機1の状態で復活を果たしている麻羅の姿があった。もっとも、さざれ石の短刀を刺された為に石化しているが。
「あらあら大変。治してさしあげないと」
治療手段を持っている白花が石化を解除する。そんな中、刀真は教授が無事だった事による安堵とそれが結果に過ぎないという悔やむ気持ち、二つの心に悩んでいた。
「やはり俺は弱いままなのか。護るべき者を護れず、ただ見ているしか出来ないだけの……」
「それは違います、刀真さん」
いつの間にか治療を終えていた白花が隣に立っていた。そのまま彼女は刀真の左腕を取り、自身の腕を絡める。
「人には限界があります。ですが樹月 刀真、貴方は私を救ってくれました。忘れないで……あの花畑で影龍を封印し続けていた私が今ここに居るのは、貴方のお陰なんですから」
「そうだよ刀真」
今度は月夜が反対側に立ち、右腕に絡んできた。
「私は刀真の剣で刀真のモノ。だから刀真がどんな道を歩んでもずっと隣にいるよ。刀真が護りたい人……その人を私にも護らせて」
二人が来たとなれば玉藻が来ない訳が無い。彼女は負ぶさるようにして背中に抱きつくと、刀真の耳元でささやいた。
「刀真、お前は一人では無い。我との約束を忘れるなよ? お前が死ぬ時、我を再び封印する……その為にはお前のそばに居続けるし、お前が何かに迷うようなら何度でもその闇から手を引いて連れ出してやる。覚悟しておけ? 我ら三人、お前をウジウジと悩ませておくほど甘くは無いぞ」
三人の抱く力が強くなる。刀真は軽い頷きで返し、口に出すにはちょっと照れくさい気持ちを心の中で自覚していた。
(全く……護るつもりが護られているな、三人に。でも……ありがとう)
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